人体のテコ化。


テコは、とても原始的な技術ですが、実に多芸多才で、威力抜群です。
たぶん柔術にも、テコ的な技術がたくさん利用されています。柔よく剛を制すの基本でしょう。
この便利な技術を、自分の体でふんだんに活用しようというのも、楽体です。

たいていは均体と破衡の合わせ技で実現できます。

1.重い物を持ち上げる。

重い物を持ち上げる時。手の内とテコを利用すると、けっこう楽できます。
床に置かれた荷物を持ち上げるなら、中腰になり、腕をスッと伸ばし、腕で挟むようにします。持ち手がある場合は、そこに手を差しこむ。腕で抱えこむようにしない。抱えこむのは、手でつかむのと同じこと。腕はなるべく働かせず、伸ばす意識にします。
次には肘肩の関節をしっかり固定して、ある1点を支点として体を落とし、手先が上がるようにする。全身でテコの作用を使うのですが、支点をどうするか?(浮動支点になったりするようです)は、ちょっと難しいですが。力学的にはテコの作用でしょう。
数キロ程度の物なら、体を落とすまでもなく、肩胛骨を下げるようにして、同時に肘から先にテコを働かせるように意識すると、意外に楽に持ち上がるはず。
ただし、力は不要ではありません。腕の状態を維持する力は、かなり必要です。
テコ的に体を起こす動きで、ものを持ち上げる。
2.扉を開ける。

格別珍しい技術ではなく、誰もが無意識に利用しているテコ的作用があります。
それは、扉を開ける動作。
わかりやすくするために洋式開閉扉を例にします。
普通は、ノブに手をかけ、腕で引き開けますが、これが映画館などの重い扉だと、腕だけでは辛かったりするもの。それでも、中に入れないのはしゃくに障るので、全身の体重をかけて引き開けたり。
この全身の体重をかけて引き開ける、という技術も一種のテコ。全身を後に倒す重さを、扉にかけた手に伝えているわけです。体重の落下をテコの力点にのせ、体のある点を支点に、手先を作用点にしている。単純な構造ではなく、もっと複合的なメカニズムになっているはずですが、基本的な理屈はテコ的なもの。綱引きで頑張る状態みたいなものです。
このテコは、いろんな扉の開閉に利用できます。ほとんどすべての扉は、力無用で、体重で開けられることでしょう。もちろん、タンスの引出などもこれで開けられます。

3.重さは常に落下する。

質量をもつ物体はすべて重力に引かれ、何もかも落下する宿命にある。
車のアクセルを踏むにも、足の力ではなく、重さを利用して踏みこめれば楽です。破衡で触れたように、歩くのも階段を上るのも、重さを利用すると楽になります。
この利用は、ほぼ無限でしょう。
もっとも、人間の動作にはそんなにバリエーションはありませんから、体を使うたいていのことには、重さが利用可能なはず。せっかく体重を持ってるのだから、利用しない手はない。
自転車を漕ぐにも重さ、併せて骨盤始動を使うと楽なはず。座るにも、落ちれば良い。立つのですら、重さのバランスを揺らしつつ利用すると、楽に立ち上がれる。まとめ買いした重い買い物袋を手にしても、筋肉があまり緊張しなければ楽。

テコを活かす支点、力点を「どこに、どのように設定するか?」が、かなり難易度の高い問題になるけれど、簡単に利用できることはたくさんあります。重さをエネルギーに転換すれば、省エネであり、素朴なエコ生活にもなるのでは。

4.テコを活かすのは、骨と関節、やがて筋?

筋肉の弛緩を実現し、楽な体になれば、テコを作用させるための柱は、骨。
骨は、関節で結ばれているから、これを固定したり解除したりして、上手にテコを利用する必要があります。この技術は状況によって千変万化するためいちいち記述していられませんが、関節には自由に動くものと、あまり自由に動かないものがあり、よく考えるべきなのは、肘のように自由に動く関節の使い方でしょう。
肘関節はグルグル回せるほど自由に動きますが、合気道の関節技をやっていると、この自由が奪われる状況になることもあります。これは、前腕にある尺骨と橈骨と肘関節と上腕骨の関係から生じる現象だと思います。たぶん、尺骨という可動性の低い骨と上腕骨の関係が強く影響していると考えていますが。
こういう骨と関節の相対的関係を体で感じ取ることで、関節もある程度、自由に固定解除できるようになるはずです。
もうひとつ重要、というか合気的な技には、「筋」を利用することが多いかも知れません。これはまだ謎ですが、骨や筋群は筋で連結しているので、関係大ありでしょう。
テコの作用を大きく使いたい時は、天秤棒は長い方が良いかもしれません。あるいは、筋をしなやかなベルトのように使った方が良い場合もあるでしょう。テコの効率を高めるには、私的には、まず骨と関節を感じることだと思います。この点は、何万語を費やしても伝わるものではなく、自分の体で感じ取るより他にないことです。

5.オマケ、雑踏を歩く。

これはテコとは違いますが、紛れ込ませます。
都会の雑踏を歩くのは、けっこうストレスがあるものです。
道は狭く人が多いのですから、しかたありません。歩道いっぱいに広がって歩くマナー知らずの集団は論外だけど、そういう人たちともすれ違わなければならないので、そういう状況での楽体も記しておきます。
重さで横移動
体は常に重力に引かれているから、膝を緩めると、そちらに傾く。傾いたその先に、体を支える足があれば、倒れることはありません。これは、前後だけではなく、左右も可能です。
おしゃべりに夢中で、前から他人が来ていることに気づかない鈍感な人を、とっさに避けるには、この左右の移動が便利。これには色々応用技がありますが、ちょっと挙動不審に見えそうなので、後は想像してください。

日常生活の中で、楽体が貢献できるシーンは無限にあるはずですが、その基本を要約すると、ここに記した基礎編の骨にのって筋肉が弛緩できる姿勢(全身の状態)になることと、手の内、テコ。この3つの組み合わせで、ほぼすべて楽にできると思われます。もちろん細部には色々あります。できることなら、腰と脊柱、肩胛骨も強く意識して利用したいところですが、こちらはけっこう難しいでしょう。興味がある方は、武術関係の楽体を見てください。私はまだ低レベルと思いますが、書き得ることは書いておくつもりです。
とにかく、第一は「楽に立つ」こと。これがすべての礎であり、これなしに手の内やテコを工夫しても、体への負担を増すばかり。どうぞ、ご自愛を。

過去の楽体録


■楽体前夜

平成12年頃〜平成16年頃の稽古雑感録。現在は変わっていますが、楽体という考えに至る過程。


■旧楽的型考

「型」を素材に、人体の性質を考えようと始めた試み。途中で頓挫しましたが、いずれ再開予定。


お奨め参考サイト


◆野口体操

「原初生命体としての人間」に圧倒されました。

◆肥田式強健術

神秘的フィルターを外して見つめましょう。

◆野口整体

おなじみですね。「整体入門」は必読では。

◆飛龍会

天才的眼力を示された伊藤昇氏が起こした道場。

◆日野武道研究所

信がおける武道家の一人だと、個人的に感じます。