"Face/Off"

 久々のビデオ批評。別に観てなかったわけじゃないんですが、あんまり書きたくなるほどのビデオが無かったもんで。で、久々に書きたい気にさせるビデオがこれです。ジョン・ウー監督のアクション大作。

 まず、ストーリーからしてなかなか面白いです。ジョン・トラボルタ演じる捜査官は、かつて殺し屋に狙われて巻き添えに息子を失ったという設定。彼はニコラス・ケイジ演じるところの殺し屋を爆弾事件に絡んで追い詰めるものの、爆弾のありかがわからぬまま殺し屋は事故死。トラボルタは潜入捜査をすべく、最新技術でケイジの顔を移植されて共犯者のいる刑務所へと送り込まれます。ところがケイジの方は完全に死んでいたわけではなく、奇跡的に意識を回復。自分の顔を奪われた怒りに燃えて、トラボルタの顔を自分に移植、脅迫した移植医や潜入捜査の事実を知る関係者をすべて惨殺してしまいます。ここにおいて、ケイジの顔を持つ捜査官は逃げ場を完全に失うわけで、ここからどうやって脱出して殺し屋(トラボルタの顔になり、まんまと捜査官の座に居座っている)を再び追い詰めるのか、という手に汗握るストーリーが展開されます。

 さて、ここまでの展開も面白いですし、ここから先のストーリーもスピーディーかつ重厚なもので、脚本のうまさを感じます。しかし、この映画をさらにすばらしいものにしているのが、ジョン・ウーお得意のアクションシーン。アメリカ的な大雑把なアクションも面白いときは面白いんですが、ジョン・ウーのそれは実に緻密というか、様式美が感じられます。京劇を見ているような感じ、とでも言いましょうか。かといって、決してどこかで観たようなパターンというものでもありません。顔が入れ替わったことを象徴するような、鏡をはさんだ銃撃シーンや、ニコラス・ケイジが二挺拳銃を抜くスローモーションなどは、くどさやあざとさの一歩手前での美しさを醸し出しています。

 ところが、この映画の唯一にして最大の欠点がラストにあります。恐らく米国での興行的要請があるのでしょうけど、「家族愛」みたいなものが実に不自然に入ってくるのです。家族愛が悪いってわけじゃないんですけど、これだけハードボイルドとケレン味たっぷりな映画に家族愛を持ち込まれると、エスプレッソにアンコを入れられたようですごーく気持ち悪いです。おまけに、この展開なら(そしてジョン・ウーならば)どうやったってラストは相打ちとか「殺し屋はやっつけたが、俺ももう元の生活には戻れない」といったような渋いラストにいくはずなのに、ハッピーエンドなんですよこれが!「フィフス・エレメント」でリュック・ベッソンが失敗したのと同様、これがハリウッドの限界という奴なんでしょうか。まさしく、画竜点睛を欠くといったところです。


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