7.当たりはずれ武勇伝(2)
(99.03.15)

どんな競馬ファンでも、ある程度ファン歴が長くなると、特に記憶に
残るレースというのがあると思う。それはいろいろな意味であるはず
だが、馬自身に思い入れがある場合はともかく、多くは馬券がらみで
あるのではなかろうか。先週のマーチSが来るたび、あの記憶が甦っ
てくる。忌まわしいとしか形容のしようがない、苦々しい記憶だ。本
人にとってだけの話だが…。

ナリタブライアンとマヤノトップガン、いまだ競馬ファンの間で語り
継がれる伝説のマッチレースだった阪神大賞典。テレビではあるが、
確かにこの目で観戦した。だが、その内容はほとんど記憶にない。な
ぜなら、全く上の空で見ていたからである。ほんの数分前に起きた出
来事を、自分が受け容れることができぬまま、発走したレースだった
からだ。数分前にあったこと。それはマーチSの結果である。

この当たりはずれ武勇伝(1)に出てきたアミサイクロン。自分にと
って、この馬はいわゆる「お手馬」であった。騎手にとってのお手馬
とは違い、自分の中でレース内容や特徴がほとんどインプットされて
いて、走りごろがつかめるような馬、それがファンにとってのお手馬
である。もっとも、お手馬というより「悪女の深情け」に近いくらい
のストーカー的な追っかけ馬という方が正しいかもしれない。

あの日、自分は何の用事があったか覚えていないが、池袋に行く必要
があった。それも時間に追われて。そんなわけで、レースが見られる
かどうかギリギリの時間に、池袋に到着したのである。馬券はウイン
ズで前売りで購入していた。マーチS、軸はもちろんアミサイクロン
である。しかし、池袋駅に到着した時にはすでにほぼ発走時間。走っ
てホームから駆け下り、東口のゲームセンターに向かった。

そこは以前、土日の競馬中継を放映していた記憶があり、いちはやく
池袋で結果を知るには、そこしかないと思っていたのである。残念な
がら、レースはすでに終了していた。まあ、単勝万馬券の大穴馬から
買っているのだから、普通に考えれば息せき切って駆け込む必要はな
さそうなものなのだが。ちなみにこのレース、断トツ人気はアイオー
ユーだった。どう見ても、負けそうにないと思っていたし、アミサイ
クロンが勝てる相手だとも思っていなかった。しかし、結果はご記憶
の方もあろうが、ああいう形になったのである。

ゲームセンターに駆け込んだ瞬間、この目に映ったテレビの画像は、
まさに想像を絶するものであった。さすがに言い過ぎだろうか。言い
替えよう。信じられない画像だった。それは、アミサイクロンの馬上
で満面の笑みを浮かべる平目孝志騎手(当時)のどアップだったので
ある。言うまでもない。勝ち馬にのみ許される、どアップだ。

自分の馬券を確認する。アイオーユーとの1000円本線を筆頭に、
8点の流し馬券があった。もちろん、小銭だが、それでも大金に化け
るのは間違いない。なんだ、いったい2着はなんだ?リプレイが見た
い。早く教えてくれ。普通はアイオーユーだよな。それでも万馬券に
はなるはずだ。さあ、映せよテレビ東京!心の中で矢継ぎ早に催促の
言葉をつぶやいていた。悲しいことに。

まあ、賢明な方ならお分かりだろうが(こんなんばっか)、次の画面
に映ったのは電光掲示板の映像だった。2着に点灯していたのは、ま
るで眼中になかった馬番である。プレミアムプリンス…?なんだそり
ゃ?最初はボケーッとした。そしてすぐに事の重大さに気づく。単勝
万馬券の馬から8点流して抜けたのである!そう、1年1ヵ月前に、
アミサイクロンを買った時には総流ししていたにもかかわらず、この
おバカさんはまるで教訓を忘れていたのであった。

点滅しながら点灯する馬番を確認した直後に、阪神大賞典のスタート
は切られた。こんな時に世紀のレースがあっても、とてもじゃないが
まともに見ていられない。そんなわけで、あの伝説のマッチレースは
忌まわしい記憶とセットになっているのである。

別に、ネタに困って再びアミサイクロンを書いたわけではないのだ。
一昨日のマーチS、勝ったタヤスケーポイントは関西馬。鞍上は加藤
和宏Jだ。関西馬に加藤J。あのプレミアムプリンスと同じ組み合わ
せであることに、レース直後に気づいたのである。やっぱり万馬券だ
った…。こうして学習していけばいいのだが、そういう学習能力が備
わっていれば、今ごろ自慢話でHPは埋め尽くされているのだろうと
思う。ま、いいか。こういう話の方が喜ばれるんだろうし。

また来年、マーチSが来たら思い出すであろう、鮮烈な記憶の思い出
ばなしでありました。

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