フランス日記

(5)

21日(金)
 朝からいきなり衝撃のモンマルトル事件の告白があって、その
動揺と同情と失笑が大半を占めた1日だった。
 まあ、それに対するリアクションは前日の日記に書いたので、
きょうはフランスに対する印象を書いてみたい。
 この国で最も感銘を受けたというか、驚いたというか、ふざけ
ていると感じたのは交通事情である。良く言えば素晴らしいテク
ニックの持ち主ばかりなのだが、悪く言えば全くの無法地帯にほ
かならない。アメリカあたりでもこういうことはあるようなのだ
が、特に縦列駐車で目撃した光景は忘れられないものだ。ホテル
の前でとある車が縦列駐車を試みているのだが、どうみても入る
間隔はなく、一同、首をかしげていたところ、何とその車は自ら
の車の後部を後ろの軽自動車の前部に当て、おもむろにバック。
後ろの車をさらに後ろに押し下げるという暴挙に出たのである。
あ然とする我々だったが、競馬会フランス事務所のO野さんによ
ると「バンパーは消耗物だという意識」が浸透しているそうで、
日常茶飯事らしい。確かに、よくよく見てみれば、どう考えても
駐車できるはずがないスペースに車が停まっているケースが目立
つ。前後5センチあれば十分、そんな意識のようだ。恐ろしい。
 さらに恐ろしいのは、車道に車線がないケースが多いことだ。
日本ならば3車線かな、というスペースに、平気で4台の車が突
っ込み、割り込み合戦が続く。整然としていればなんてことはね
えのに、コイツらときたら、てめえのことしか考えていねえんだ
から驚くってもんだ。にもかかわらず、そんな車線の前の方で青
信号なのに平気で街頭窓ガラス洗いの兄ちゃんにガラスを洗わせ
ている車もあったりする。すげえ、すげえぞフランス人。
 さすがに高速には車線があるものの、140キロで走っていれ
ば安全走行、160キロで速いかな、と感じるくらい。首都高み
たいにビュンビュン追い抜いていく車もいるが、不思議と危険に
思わない。それ以上の危険がたくさん渦巻いているからだろう。
その典型で、最も恐ろしかったのは凱旋門だ。皆さんも凱旋門は
分かるだろうが、あの凱旋門には、周辺8方向から道路が入り込
んでいる。8方から入り乱れてくる車が、おのおの好きな出口か
ら出ていくわけだが、素晴らしいことに信号は1つもない。果た
して文章で書いてこの恐ろしさが伝わるかどうか分からないが、
門の周りをぐるぐると右回りで回り続ける車に、さらに外から入
る車、外に出ていく車が8方から来るあの光景。ショックは縦列
駐車ほどではなかったが、恐怖はその数倍のものがあった。
 これらの車の恐怖を一身に背負っていたのが、DスポーツのW
記者である。レンタカーを借りることが経済的に得であるため、
免許所有者の中で最も若い彼がドライバーに指名されたのだ。し
かし、初日は異常な車の動きに「怖いよ〜」を連発していた彼も
(もちろん車中の我々も言っていたが)、3日目くらいからはす
っかりフランスドライバー。ところどころで怪しい動きは見せる
ものの、元来のふてぶてしさが奏功したのか、割り込みっぷりも
なかなかサマになっていた。凱旋門をタダでのぼらせてもらった
恩もあるが、本当に大したものだったと思う。たぶんアレを日本
でやったら彼も即、犯罪者の仲間入りが可能だ。
 もう1つ、フランスでメチャメチャ驚いたのは、町中のいたる
ところにある売店だ。いわゆるキオスクなのだが、この全てでエ
ロ本が売られているのである。もちろん、日本ではないから無修
正(見たのかって? 見てなきゃ言えねえじゃんかよ。まあ、気
にしないでくれ)。よくよく見てみると、町のいたるところに女
性下着の広告はあるし、映画の広告だか何だか分からないが、ど
う考えてもフランスの今後を担うであろう少年少女たちに好影響
を与えるとは思えないものが氾濫している。全く何という国だ。
いや、違う。何といういい国だ!

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