フランス日記

(6)

22日(土)
 いよいよレースは明日である。前日調整に励むエルコンドルパ
サーの写真も何とか撮れた。夕刊紙TスポのKカメラマンの指導
による「カメラを動かしながら撮る」という方法が徐々に分かり
つつある感じだ(どうやら世間では常識らしい。そんなもんなの
かな)。ホントに状態もよく、これなら好勝負は間違いないだろ
う。その確信を得て、パリに戻る。
 実は、この日の午後こそ最大のオフ。本来ならば、最終日の月
曜が夜8時の帰国便までヒマという1日になるのだが、何とその
日はフランスでは祝日で、お土産屋などはすべて休みになってし
まうという。要は、きょう、すべてお土産を買っておけというこ
となのである。
 モンマルトルでひどい目に遭ったT京C日スポーツのNさんは
「会社には事情を説明して納得してもらう」とか独り言をつぶや
きながら、土産品を厳選していた。一応、記者連はみんなで百貨
店に出向いたが、時間を決めて別行動。オレは真っ先にスポーツ
ショップに出向いた。言うまでもなく、ツールドフランスグッズ
を買い求めるためである。ところが、スポーツショップというの
が見当たらない。あるのはナイキだけ。とはいえ、ツールのジャ
ージを作っているのはナイキなのでなにがしかの製品はあるだろ
うと物色したのだが、見つからない。どーなってんだ、と思って
いたら、おもむろに店員が3色のジャージを持ってやってきた。
それはまさしく、チャンピオンの証しであるマイヨジョーヌ(黄
色)、山岳王の名誉であるマイヨブランアポワルージュ(白地に
赤の水玉=日本ではマイヨグランぺールというが、この言い方は
フランスではしない)、スプリンターの勲章であるマイヨベール
(緑)にほかならない。店員は店の奥から持ってきて、老夫婦に
見せていた。ジジイの方が恥ずかしげにマイヨベールを体に合わ
せてから、買い求める。どうやらもうすぐ今年仕様が出るため、
昨年ものは、奥の倉庫にしまわれているらしい。あわててその店
員を呼びとめ、カタコトの英語で交渉した。が、なかなか通じな
い。いちいち相手が戸惑う。どうも「ジャージ」という単語は使
われていないらしい。その都度「Tシャツか?」と聞き返してく
る。仕方なく「マイヨジョーヌをくれ」と交渉したが、これもな
ぜか理解してもらえない。ひ弱そうで得体の知れない東洋人なん
ぞに売れるかバカタレ、とでも思っているのだろうか。そう思っ
て悲しくなっていたら、老夫婦のご婦人の方が助け船を出してく
れて、「これがほしいのね?」みたいに言ってくれた。コクリ。
あとはそちらが交渉してくれて、無事購入。ありがとうバアちゃ
ん。
 もっとも、マイヨジョーヌを着て街を歩くバカはいない。フラ
ンスでも、レプリカのTシャツはともかく、これを着て歩く人は
自信家ということになるらしい。ちなみにマイヨベールはともか
く、マイヨブランアポワルージュの方もよほど山登りに自信がな
い限り、着にくいもののようだ。マイヨジョーヌは帰国後、我が
部屋のオブジェとなっている。
 続いて出向いたのは「アラン・フィガレ」というブランド店。
ブランドにうといオレは知らなかったが、行きがけに見掛けた時
に、「感じのいいシャツが多いし、値段も安い」と言ったら、N
さんもそう感じたらしい。Nさんによると少しは知られたブラン
ドだそうだが、まあ、別にどうでもいいってものだ。ちなみにN
さんも「後で買いに行く」と言っていたが、緊縮財政のため断念
している。
 ここに入ってキョロキョロしていたら、外国人の女性店員が
おもむろに奥に駆け込み、何事かと思ったら日本人店員を連れて
きた。すげえぞパリ。日本人まで常備してんのか。で、このおば
ちゃん店員が勧め上手なのだ。「お似合いですぅ」「合いますね
ぇ」「これなんか素晴らしいですよぉ」。まあ、元来お世辞に弱
いタイプなのだろうが、シャツ2枚にネクタイ2本買うハメにな
ってしまった。最初は1枚1本の予定だったのに…。
 で、この後、記者連と合流したが、やはり別行動になることと
なり、ディズニーショップに向かう。希望のお土産があったから
なのだが、店に入るや、見覚えのある日本人女性に遭遇した。競
馬ファンならご存知のT橋直子さんである。挨拶のつもりが30
分の立ち話。相変わらずパワフルな人である。グッズを買ってホ
テルに帰還。夕飯をソツなく食べおわり(ぼったくられることも
なく)、あとはレースを待つばかりである。

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