フランス日記

(7)

23日(日)
 いよいよイスパーン賞当日。エルコンドルパサーの戦い振りを
克明に記し、その勇姿をカメラに収めることこそ、今回の出張の
最大の仕事だ。気合が入る。
 ところが、出発前からその気合が空気のように抜けていく事態
が発生した。実は、前日の段階で、てっきり国際電話で買えると
思っていた日本の馬券が買えないことが判明。その段階で日曜日
分の鉄砲を撃っていた(金を渡さずに馬券を頼むことを専門用語
でこのように言います)のだが、これが悲惨な結果に終わったの
である。9Rはウイニングワールドの単勝と連を3点。シルシは
連で5頭に流す予定だったのに、2頭削ったらそのうちの1頭ア
ラビックスターが単まで突き抜け、ウイニングワールドが2着。
測ったようなハズレっぷりだ。さらに高松宮記念はアグネスワー
ルドから買ったものの、離れた5着。まあここまでは、よくある
ことだから許すとしよう。しかし、オレ自身が日本にいれば必ず
買うシルシどおりの目が、あろうことか4万馬券になっていたの
だ。10Rのレオダンガンがその元凶(失礼だが)で、ここまで
人気がないとは思わず本命にしていたら、テレホンサービスで悲
しい女性の声(そう聞こえる)が4万円台の配当を告げていた。
これがロンシャンへの出発1時間前。意気消沈とはこのことだ。
 さて、なんだかっだ行ってるうちに、競馬場に到着。ロンシャ
ン競馬場の周りは自転車がたくさん周回中。めいめいプロチーム
のジャージに身を包み、テンポよく周回している。自転車人口も
さすがだな、と微笑んでいたが、後で競馬会パリ事務所のO野さ
んに聞いたら、ホントにプロの練習だった。よく見ておくんだっ
た〜
 で、中に入ったが、到着は11時半過ぎで、1レースのスター
トが午後2時半。まだ係員もあまり来てないという状況だった。
とりあえず読者プレゼント用のお土産を購入に走る。ところが、
土産もの屋というのがとんだ食わせ者で、場内の案内所におまけ
程度に置いてあるだけなのだ。木曜日に来た時に傘を買ったあの
場所しかなかったのである。マグカップに、ライターに、Tシャ
ツ…。これらを少しずつ買っただけだ。というか、それしかない
のである。おそらく、1レースに間に合うように来た日本の方々
にはほとんど残っていなかったかもしれない。ボクのせいです。
申し訳ありませんでした。
 それでも、ジャンケンの弱いWやTに「少し分けろ」と脅かさ
れ、ごく少数の読者プレゼントを手に記者席へ。その記者席は、
何でもサクラローレルが走った時と同じ場所だそうで、どうにも
「監獄」をイメージさせる。室内の、何となくジメッとした感じ
がするスペースだ。もちろん、特に湿り気を感じるわけではなく
少し動けば広々としたコースが見渡せるのだが、普段使用してい
ない場所らしく、そんな感じを受けた。まあ、普段の行いを考え
れば、多少はブタ箱にブチ込まれた感覚になるのも仕方ねえか、
という気がしてくる。ともかくも、また新たな場所なので通信手
段のチェックをしたら、全くつながらない。初日のホテルの時と
同じだ。何一つ悪いところはないはずなのに、つながらない。ち
なみに、初日の時は後刻、解決した。何のことはない。他の先輩
(仮に、仮にの話だが、ボッたくられたNさんとする)の部屋で
借りたらアッサリと通じたのだ。ふざけんな、ってもんである。
しかし、この競馬場では、みんなが同じ条件のはずだ。にもかか
わらず通じない。わらにも縋る思いでTの電話線を借りたら(装
備はすべてこちらのもの。電話の線だけ変えた)、またアッサリ
と通じやがった…。どーなってんだ。教訓。海外で通信を行おう
とする場合、モデムの相性は一筋縄ではいかない。これホントに
ホントなのである。
 さて、準備万端整い、レースを待つ。言うまでもないことだが
この間にまたしても馬券で手ひどい目に遭っていることはヒミツ
だ。かくして、いよいよイスパーン賞。もう、皆さんも結果はご
存知だろうから、それについては触れない。ただひと言、パドッ
クで出会った佐々木調教助手(こーじさん)が、「あの帽子、見
ましたか? 今ごろ美浦村じゅう大笑いですよ」とつぶやいてい
たことが印象に残っている。根来厩務員の帽子は、確かにステキ
だった。「日本円で7000円くらいだよ」(根来さん)という
ことだが、ある意味、それ以上の効果があっただろう。惜しむら
くは、あの姿が勝者を称える場で見られなかったことである。エ
ルコンドルを引いて帰って行く2人に、「次ですね」と声をかけ
ると、2人はうなずいてくれた。あの内容なら誰もがそう感じた
はずだし、決して悲観的な表情でなかったことがうれしい。
 問題は馬券である。単勝は、勝負したかったが全く妙味がなか
ったので、あえて3連複にした。力量上位の馬が4頭いたので、
それらとエルコンドルを絡めた6通りを均等に、日本円にして約
5000円の勝負。大きく出た部類と言えるだろう。結果は知っ
てのとおり、実力馬3頭による決着だった。負けた事実にはショ
ックを受けたものの、馬券の収支がせめてもの救い…と思ってい
たら、これがえれえ甘かった諱@なんと、3連複ともあろう馬券
が、たったの5・1倍…。日本円にしておよそ4000円の取り
ガミである。場内に3連複のオッズなんて出ていたかどうか知ら
ない。でも、3連複でこんなオッズ、あるんだなぁ。このフラン
ス遠征、馬券だけで、日本円にして4万円以上の負け。お土産選
びにおいて、緊縮財政が敷かれたのは言うまでもないことだ。
 かくして、イスパーン賞は終わり、翌日の旅立ちを残すのみと
なったのである。


わざわざ買ったスーツなので、
お披露目させて下さい。真ん前
にブラ下がっているのは記者証
でございます。

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