復活の世界 Faile(21)「看板づくりということ」

町を歩いていると、さまざまな店が並び、その店にはさまざまな看板が掲げられています。そんな風景は、多少色や形は違っても、昔からまったく変わらない風景です。

わたしが育った時代の商店と言えば、どのお店にも、その店その店の特徴をあらわした看板が掲げられていました。そしてその看板を見ると、その店は何屋で、どんなものを扱っているのかも、幼い者にもおおむね見当がついたものです 。そして更にその商店の中でも、こういうものだったら○○屋、こういうものだったらXX屋といったような、大人たちの間で交わされる世間話が、いやでも耳に入ってきたものでした。

商いをする者にとって、欠かすことのできないもの・・・それが看板というものだと言うことなんです。

今回は作家にとっても、絶対に不可欠なものは「看板」であり、やがてはその何でもないような看板を、「金看板」にしなくてはならないという努力目標を掲げなくてはなりません。

わたしは映像の世界から活字の世界へ活動の場を移して 、創作の場を広げていったのですが、それまで活字の仕事はしてきたとはいっても、本格的に小説を書くなどということは、まったく未知の世界のことです。右も左も判らないまま、夢中で動くしかありませんでした。

そのはじめての作品が「宇宙皇子」(うつのみこ)であったことは、HPの冒頭でお話したとおりだったのですが、とにかく幸運だったのは、異世界へ転向してはじめての作品だと言うのに、大ベストセラーになってしまったことでした。通常は苦節何年とか、何十年とかと言われる世界です。それでもチャンスに恵まれないまま終わってしまう人も多い世界なのです。それなのに、デビューしていきなり大幸運に恵まれてしまったわけで、幸せというしかありません。そんなことがあって、わたしは第一巻を発売した後は、だらだらとせずに、必死で書きまくりました。締め切りがきても原稿を取りに来ない編集者を、怒鳴りつけてしまったほどでした 。つまりそれだけ真剣だったということです。おおむねそれまでの作家は、一作書いたら、次はぐずぐずと書いていたようで、せっかく一作目はヒットしても、二作目が出る頃には、読者の興味が薄れていて、大して売れないまま終わってしまったということが多かったということを聞いていましたから、余計にそんなことにはなるまいと決心したものでした。  業界の厳しさについては、映像の世界も同じようなもので、すでにそこでは三十年近くも生活していたわけですから、充分に承知していましたし、その中でヒット作品を生むためには、どんな努力をしなくてはならなかったかは、充分に体験済みだったので、そういう点ではまったく戸惑うこともなかったし、第一作が売れたからといっても、それで息を抜いてサボってしまうという気持にはならないですみました。

それで「宇宙皇子」と藤川桂介という作家は、間違いなく活字の世界で、読者に認知されたわけです。

そんなある日のことでした。

編集部部長以下編集部員など、わたしの出版にかかわるスタッフが、料理屋で執筆の慰労会を開いてくれた時のこと 、あまり公にはできない作家たちの現状についての話が出てきましたが、その中で何と言っても一番多かったのは、なかなか作家の筆が進まずに、結局読者の評価を受けながら、次第にしぼんでいってしまうという例についての話が、かなりな生な情報として語られたものです。そんな中から出た話ですが、作家は結局看板作りをする作業だということなのです 。それはわたしを激励する意味も含めてのことだったのですが、活字の世界では古くから言い伝えられてきたことだったのでしょう。わたしはなるほどと、つくづく感心して聞きました。映像の世界にいた時は、とてもそんな話は聞きませんでしたが、やはり活字の世界には、違ったことが言われているものだと思ったものです。

確かに映像の世界は共同作業で、特に個人個人が目立つ必要はないわけです。場合によっては、それが却って邪魔になってしまいます。それに対して活字の世界・・・特に作家の世界は個人作業です。何とか目立たなくては勝負にならないということです。看板づくりということは、その特徴が出た譬えだと思いました。つまり作家と言う仕事は、個人商店を開くようなもので、作家としてスタートする時は、どんなものを商う店なのか、どんな人が主なのかということを、看板にして店の前に掲げなくてはなりません。

昔は町へ出れば、どのお店にも必ずそれぞれその店らしい看板を掲げていたものです。そんな中からお客の信用を得て、評判になり、賑わっていくお店が現れてきたものです。

作家で生計を立てる者は、どれだけいるか判りませんが、相当数存在していることは違いないでしょう。それらの人々が、それぞれ看板を掲げているわけです。それでもその中から突出して目立ち、賑わう店が出てくるわけです。つまり店が輝くということは、その看板の名・・・店の名を聞いただけで、お客が安心して、安心した商品を買うことができるということになるわけです。

先ず「藤川桂介」というのは、何を商う商店・・・作家なのかというと、「宇宙皇子」を主力商品としていました。お陰さまでその看板商品が、発売と同時に圧倒的にお客・・・読者の信用を得ることができたわけです。

担当者たちは他の作家たちが長年かけて為し遂げることを、あっという間に達成してしまったわたしを、激賞してくれました。看板作りにしても、ただ看板を掲げたということではなくて、いきなりそれを金看板にしてしまったと、持ち上げてくれたものです。確かにそれぞれの作家は、その掲げたごく普通の看板を、やがては金看板にしていかなくてはなりません。志を立てて作家になった以上、売れず、注目も去れずにいてもいいという作家は、一人もいないはずです。そういう意味では、確かにわたしは幸運だったと思います。とにかくわたしは最初に発売した商品・・・小説で、いきなり金看板にしてしまったわけですから・・・。担当者たちは、それを盛んに激賞してくれたのでした。

お陰さまでその後わたしは、大変順調に仕事をさせてもらいました。

「作家は看板作りをする作業だ」

実に実感として、それを味わいました。

しかしこれは決して、作家だけの問題でもないのではありませんか。

どんな仕事をしていたとしても、人から信用されるような仕事をしない限り、成功することはできません。

あの人は何をする人なのかということを、より広く知ってもらわなくてはならないし、如何に素晴らしい仕事をする人かということを、知らしめなくてはならないでしょう。

わたしは今、金看板に味が出てくるような努力を積み重ねていこうとしているところです。どうかご支援下さい☆



この原稿は、旧HPに掲載した原稿です