復活の世界 Faile(22)「読者と共に成長する」

作家はものを書いて、本にして出版します。

実に当たり前なことです。

それはどんな種類のものであろうと、見知らぬ読者に対して 、自分の考えること、提案したいことなどを公にするわけですが、その結果読者は、書き手の訴えに賛成したり、共感したり、物語に感動したりしていきます。もちろんその書き手に対して 、反発する者もいるし、拒否する者もいます。無関心な者もいます。そんな中で幸運にも多くの読者から支持された時に、いわゆるベストセラーといわれるものになるのですが、特にフィクションを書く作家は、ベストセラーを生み出すと、それを支持する読者がついて、その作家が次はどんな作品を発表するだろうかと、待ってくれるようになります。そしてその作家が作品を発表する度に、その本を購入して読んでくれることになるのですが、わたしのように若い世代の読者から支持を得た者は、時間がたつに従って、それだけこちらも年齢を重ねていくわけです。従っていつまでも若々しい感性でいることが難しくなっていかざるを得ません。当然のことですが、読者も年齢を重ねていくわけです。

わたしは幸いにも、「宇宙皇子」という大ベストセラーを生み出すことが出来ましたが、その頃、作家には珍しいFCなどというものまで結成されて、圧倒的な数の読者たちが、出版される作品を後押ししてくれるようになりました。

そんなある日のことです。わたしは、ふとある不安に駆られてしまったことがあったのです。

わたしが年を重ねた時、一体、どのような作品を書いて読者の支持を獲得すればいいのかということでした。ベストセラーを生み出した時と変らない感性でいられないとしたら、どうすればいいのだろうか。かつてとまるで違った作品を書いたら、果たして今ついてきている読者が、ついてきてくれるのだろうか。むしろみな作家は彼らの重いとはぜんぜん違った方向へ行ってしまったといって、さっさと離れていってしまうのではないであろうか・・・。

そんな告白を聞いたベテラン編集者は、即座にこう答えました。

「作家と読者は、一緒に年を取って行けばいいんですよ。つまり一緒に成長していくということです」

つまり特別なことを考える必要はないということだったのです。

お陰さまで、わたしは胸のつかえがおりました。

出版界では、作家は読者と共に年をとり、成長していくものだということが言われていたようです。

「言われていました」と敢えてお断りしたのは、それまで長いこと映像の世界にいて仕事をしてきましたから、そんなことが言われているとはしりませんでした。

しかし・・・昨今の出版界の様子を見ていると、かつての出版界と現代のそれとの間には大きな隔たりがあって、これまで長いこと言われてきたことが、必ずしも正解とは言えない要素が多くなってきているからなのです。

時代の風潮というものでしょう。

面白いと思って読んだりしても、共感しても、それはその本に限ってであって、同じ作家が違ったものを書いても、自分にあまり興味がない素材を扱っていたり、テーマを追っていたりすると、まったく関心を持たなかったり、興味を示さないわけで、がなくなってしまいます。特に駄目なのは、かつてよくあったケースですが、「あとがき」などで、その作品に対する作家の思いを書くのに、俺に黙ってついて来いという高飛車な作家がありました。しかも内容が難しくて理解できないような作品などの場合、時には「俺の作品が判らない奴は馬鹿だ」と言わんばかりのことを書いている、傲慢無礼な人がいました。しかしそんな押し付けを書くような作家の作品などは、まったく振り向かなくなってしまいました。前の時代のように、それでも作家についていくなどということは、まったくなくなってしまいました。

作家と読者の関係も大変乾いた関係になってしまって、考えようによっては、実に温かみのない冷たい関係になってしまっているわけです。

これでは作家は読者と共に年をとっていくという考え方は、成立しなくなってしまいます。それだけ昨今の作家には、困難がつきまとっているということになります。

たまたま感性が、価値観が一致すればいいけれども、もしそれが叶わないと、容赦なく捨て去ってしまうといった風潮です。ある意味で厳しさのある時代だということが言えるのですが、その作家を見守るという余裕はないということにもなります。その回その回が勝負ということになります。

作家と読者との間には、緊張感が漂っているといったほうが 、いいのかもしれません。たとえある本に共感したとしても、その後の著作については、まったく関係がないわけで、その作家にずっと付き添っていって、どう変化をしていくのかといったことを楽しみにするといった気分はまったくなくなりました 。

そんなことを考えると、わたしは実に恵まれていると思うし、それだけに責任も感じているのです。もう、何十年も前に出会った読者との交流は、今でもかなりつづいています。

わたしもかなり年をとりましたが、読者もかなりの年齢に達しておりますが、しかしこうしてHPを通して発信するわたしと、読者との間には、目に見えない絆があって、温かな交流がつづいているわけで、かつてあのベテラン編集者の言ったように、読者と共に年齢を重ね、成長して来たのかも知れません。

特別なことを考える必要はなくて、そのまま書きつづけていくことが大事だと言うことだったのでしょう。そのまま真っ直ぐに進めということだったに違いありません。果たして現代では、こんなことが生きているのだろうか・・・。そんなことを考えながらお話しました☆



この原稿は旧HPに掲載したものです