交わる世界 Faile 1 「身辺整理余談」

古希を迎える人、古希を過ぎた人、まさにシアエージであるわたしの身辺では、最近俄かに身辺整理をする人が多くなりました。

別に先を急ぐわけではありませんが、そろそろそういったことをしてもいい年齢になったかなと思います。

とても昔ではそんなことは考えられないことでしたし、迂闊にそんなことを口に出すことは出来ませんでした。それこそ身辺整理などということは、御当主がこの世を去った後でしかできないものでした。しかし時代は変わってきました。

新たな人生を楽しむためにも、これまで積み重ねてきた生活にまつわる記録を、整理して見るのもいいのではありませんか。

かなり無駄なものまで、大事に保存しているのではないでしょうか。いつかいつかと思いながら、つい手つかずのままになってしまって、

「そろそろ整理したらどう?」

奥さんにせっつかれて、やっと整理をしてみようかと腰を上げた人が、かなりいらっしゃいます。

何をそんなに集めたのか知りませんが、捨てるには惜しくて、ついつい仕舞っておいたものの、ほとんど仕舞いっぱなしであったものが、かなりあるようです。

わたしの場合はと言いますと、ちょっと他の方とは事情が違っていまして、仕事で大学へ行くということがきっかけになりました。

実はこれまで作家、脚本家として活動していた頃に、作品の発想、執筆に役立てようという気持ちもあって、新聞などの切抜きをして、ダンボールへ仕舞っていたのです。それが未整理のまま10箱もあったのですが、仕事の忙しさにかまけて、これまで整理もせずにきたのです。

もちろんそれらの膨大な切り抜きを、なかなか利用することもできなかったのですが、それでもいつか役に立つ時もやってくるだろうという気持ちで、今日まで来てしまったわけです。

「思い切って、やったら」

家内にせかされて、今年は年明けからぼちぼちと作業を開始したわけです。

わたしはやるとなると熱中型なので、とにかくせっせと整理いたしました。必要なもの、不必要なものを判断しながらより分けていったのですが、ダンボール箱の前に胡坐をかいての作業というものは、かなり腰に負担をかけるようで、大夫堪えました。それでも何とか初志貫徹いたしましたが、実は今日の日記の趣旨は、その身辺整理のことではないのです。

ほぼ40〜50年近くの間の新聞の切り抜きですが、それは家内の協力もあってやってきたのですが、こうして整理をしてみて、当時の各新聞社は、かなり大きな連載をしていたことがはっきとしました。歴史、文化、科学、天文、絵画など、読み物としてもかなりコクのある読み物が、いくつもあることに気がついたのです。

こうした連載物を確認できただけでも、整理の収穫があったというものなのですが、それをきっかけに、現代の新聞はどうなんだろうかということも、考えてみる機会になったわけです。今、残念ながら、あれほど楽しめて、知識欲を満足させてくれ、コクがあって執拗な連載は、ほとんど皆無といってもいいのではないだろうか。

素材の軽重はあっても、当時はそれなりに楽しめるものがかなりあったのですが、もうそいった素材がなくなってしまったのでしょうか・・・。結局、読者がそういった重量感のある連載を、好まなくなったということが大きな要因になっているのですと、新聞社は釈明するかもしれませんが、本当はそういった力の入った企画には、取材にかなりの予算と日数がかかるところから、できるだけそういったものは避けてきているのではないでしょうか。

昨今は、読んだらそのままそれで終わりといったものが多いし、連載が終わると直ちに出版されてしまうので、新聞が配達されるのが待ち遠しくて読み耽ってしまうほどのものはなくなりました。読み忘れても、本が刊行されるのを待っていればいいのです。

昔は出版されないものでも、かなり読み応えのあるものが連載されていました。それに比べて昨今のものは、かけた予算はすぐに回収してしまおうという魂胆なのでしょうか、連載が終了するとただちに出版されてしまいます。

これでは新聞で、連載を必死に読もうなどということはしなくなってしまいます。

小説の世界でもそうですが、連載小説は歓迎されなくなっています。ほとんどが読み切りになっています。連載といっても、つづきものは駄目で、一話完結連続という、その回その回で結論が出る作品がもっぱらです。

読者がせっかちになってきているのでしょうね。

しかし社会の木鐸としての使命感を持った新聞社としては、楽しむ人が少ないからといって、そういった連載をほとんどやらなくなってしまうとういうのは、いささか頷けません。

身辺整理の大きな負担であった、新聞の切抜きを取捨選択しながら、思わぬ発見をしたなと、悦に入っているのです。 こうして日記の材料にすることが出来ただけでも収穫と言わざるをえませんが、本来なら、こんなことを素材として取り上げられること自体、本末転倒しているかもしれません。

余計なことをしないで、身辺整理をせっせとしなくてはならないと、言い聞かせているところです。

後に残る家族に迷惑をかけないように、身軽になっておく必要のある方が、かなりいらっしゃるのではありませんか☆