交わる世界 Faile 10 「文房具への郷愁」

最近はあらゆるものが新しくなってきています。

日用品も日進月歩で変わっていきます。

すべてのものが模様替えをしていって、前の姿のままというものは、ほとんどありません。もちろん時代の進化に伴って、内容的にも、その機能も、まったく前のもとは比較にならないものに変化してきていますし、そのバリエーションも限りなく発売されるようになっていますので、かえってその選択に困るほどです 。

そんな中の一つに、文房具というものがあるのではないでしょうか。

どんな文房具店へ出かけて行っても、目的は同じものでも、かつてのものとは、まったくデザインも違うし、機能も違うし、材質も違ってきています。しかしそれらを見ても、「ああ、懐かしいな」という気持ちを起こさせるようなものが、あるかというとノウというしかありません。親しみを持って、手にしたくなるようなものが、ほとんどないのではないでしょうか。

わたしたち旧世代の者にとっては、文房具というものは、その時、その時の、思い出につながるほどの、愛着を持った存在でした。それを見た時には、その時代の空気も手繰り寄せられるし、その時の担任の先生、友達のことも思い出せます。文房具の貸し借りのことも思い出の一つでした。

たかが文房具と思うのですがされど文房具です。その一つ一つには、切っても切れない思いというものがしみ込んでいました。それだからこそ、捨てがたいものがあって、いつまでも大事にしていたのではありませんか。

現代のように、ただの消耗品扱いになってしまって、思い出が込められるほど大事にして使用するものでなくなってしまうと、いつも新しい、見栄えのいいものに変えていってしまうしかなくなります。

わたしたちの時代では、まだ文房具の機能もそれほど進化してはいませんから、それぞれの使うものが工夫して利用しなくてはなりませんでした。

現代では、これでもか、これでもかと、相手が使い方を提起してくれるし、使い手は何も苦心しなくても利用できるようになっています。だから・・・、文房具を使いこなす喜びなどというものなどが、生まれるわけもありませんし、そのために愛着が生まれるということもないのです。

現代では使いこなすという問題など、まったく取り上げられることはありません。もし、あるとしたら、その文具の製造会社ぐらいでしょう。その良否で売り上げが左右されてしまうのですから・・・。

端的な例を上げるとしたら、ナイフの使い方です。それで鉛筆を削るということなども、現代では危険だという理由で、ほとんど使われないでしょうが、それを使いこなすには、それぞれ工夫していました。器用に削る者がいれば、不器用な者もいて、削られた鉛筆の芯の先には、それぞれ個性があったものです。

セルロイドの下敷きをこすって起きる静電気を利用して、紙を切って作った人形を動かしてみたりして楽しむといった、素朴な科学する心を刺激したりして、そんなことを得意にしている者もいました。

現代では、みな同じようなものを使い、同じように出来るので、それぞれの特徴などというものは現れないでしょう。

こんなことでは、自分の工夫で、自分流に細工をして使い易くして使い、友達から羨ましがられたり、尊敬されたりすることもないでしょうから、とても文具への愛着も生まれないでしょうね。

世代の関係でしょうか、わたしなどは、文具に愛着があって、用事がなくても、ちょっと寄ってみたいところの一つが文房具店でした。そこで、さまざまな工夫された、素朴な文具を見たり買ったりすることが、楽しみでもあったのです。

ところが昨今は、町に文房具店が減っていってしまって、いわゆる事務用品店としてしか残っていなくなりました。

もちろん少子化という問題もあるでしょう。しかし文房具の類であったものが、アクセサリーのように扱われるようになったこともあって、いわゆる文具店で扱われなくなったものもでてきました。

そんな時代の影響でしょうか、都会の中心地にあった大きな文具店などは、イベントホールに変身してしまって、その工場さえもなくなってしまったと聞きました。

中心地の商店は、ほとんど外国のファッション系のブランドの店で埋ってしまっています。

かつては、大きな文房具店へ行ったりすると、何時間いても飽きなかったし、気に入って買ったものには特別の親しみを感じて、いつまでも大事にしておきたくなるものでしたが、わたしの青春時代には欠かせなかった文房具店は、いつの間にか消滅してしまっていました。これからもこうした勢いは止まらないでしょう。そしてやがては、無味乾燥な事務用品店が残っていくしかないのでしょう。

わたしの文房具への愛着は、楽しかった学校時代の思い出と共に、心の中で生きつづけていくしかなくなるのでしょうか。若い人はその少年、少女時代の思い出につながる文房具を、学校の楽しい思い出と共に持っていて欲しいと思うのですが☆