観る世界 Faile 15 「(エースを狙え!)の舞台」

映像作品を制作するには、先ず脚本家がストーリーを書いて、プロデゥーサーに提出しますが、それを関係者が読んで、これでいこうということになったら、特に実写のドラマ番組では、脚本を書く前にシナリオ・ハンティングということをしました。脚本を書く上での参考にするために、あらかじめ脚本家が想定したイメージに近い場を探して見ておきます。

それと同時に、準備の都合上監督は、メイン・スタッフと共に、時には脚本家も同行して、ストーリーから想定される場所を見て歩きながら、実際にこんなところで撮影しようというプランを練っていきます。脚本を書くために行うシナリオ・ハンティングに対して、ロケ・ハンティングということをしたわけです。しかしこういったことが、丁寧に行われていたのは、まさによき時代の映像づくりが行われていた時代でのことです。ところが時代が大きく変化して来て、予算が厳しくなってくると、とてもそうした準備に出費するわけにはいかなくなってしまいました。その頃から脚本家には、写真が渡されて場のイメージづくりに役立てるようにということが指示されることが多くなっていきました。脚本家を一々現場へ派遣して、舞台となるところを想定して歩くなどという余裕がなくなってしまったのです。そんな手間は省いて、写真の中から舞台になりそうなところを選んで書くようになってしまいました。そんな作業の仕方が盛んに行われるようになってからは、脚本家にかかる費用を省いて撮影のほうに回して、海外ロケを行う作品が随分作られるようになりました。その分監督が現地へ行ってその時、その時に判断しながら撮影していきますから、彼らにかかる負担は大きくなってしまったといってもいいでしょう。

時代の変化に伴って、映像作品を制作するにも、この他にもいろいろな点で変化が伴って、工夫を余儀なくされてしまうのですが、予算上の変化はあっても、実写の作品にはつきものであった、上述のようなことは、アニメーションはありません。何と言っても絵で表現するメディアですから、主人公が活躍する場もすべて絵で書けばいいということになるわけです。たとえ脚本家がどんなところを指定しても、実写ではここまでは行けないからとか、ここはとてもロケできないからとか、さまざまな障害があって、もっと撮影し易いような状態に書き直すことになりますが、アニメーションの場合は描けないところは何一つありません。どんなことでも、どんなところでも、描こうと思えば描けるわけです。それならアニメーションは無敵なメディアなのかというと、それが必ずしもそうとは言えない問題もあるのです。

つまり絵を描くスペシャリストには、大きな負担がかかるということです。と言うことは、別の言い方をすると、そのスペシャリスト・・・美術監督、作画監督、アニメーターという人々の、能力次第ということになるわけです。総合芸術という点では、その作品にかかわるあらゆる分野のスタッフの能力が、揃って発揮されないと、なかなかバランスが取れた作品にはなりません。それだけに能力が優れたスタッフを集めるには、かなりの予算を伴うことになるので、大型予算で制作される映画のような作品では許されるようなことでも、テレビのように毎週放送していかなくてはならない、予算規模も小さな、しかも制作時間が限られたものでは、とてもスタッフを厳選するわけにもいきませんから、かなり作品の出来にはバラつきが出てしまいます。

現代のテレビ・アニメーションでは、とても贅沢なことは言えないのですが、かつては大変珍しいことが行われたことがあるので、そのお話をしたいと思います。

最近、実写のドラマとして、「エースを狙え!」という作品が放映されましたが、ちょっと前に戻って、アニメーションの「新エースを狙え!」を思い出してみて下さい。岡ひろみ、麗華、藤堂を中心に、宗方コーチがからんで進む、青春スポーツ物語と言った作品です。 この作品では制作が決定した後で、実に画期的なことが行われたことがあるのです。

メイン・スタッフ10数名で、シナリオ・ハンティングと、作画ハンティングを兼ねた取材をしたことがありました。場所は横浜の「港が見える丘公園」の周辺・・・つまり外人墓地、フェリス女学院、丘の上から見た元町の市街地などなどでした。

しかしこれまでも、これ以後も、これほど大々的にシナリオ、作画ハンティングが行われるようなことはありませんから、実にユニークな試みをしたものだなと思います。大体アニメーションの場合は、絵ですべて表現されるわけなのですから、あのように大袈裟に舞台となるところを、実際に見てこなくてもいいはずなのですから・・・。

意味があるとかないとかといった議論よりも、アニメだから適当に絵にしてしまえばいいという姿勢にならずに、メイン・スタッフだけでも、実際に舞台を見て、共通のイメージを持っていようとした発案者に敬意を表したいし、それを許してくれたプロダクションの姿勢にも感謝と敬意を表したいと思っているんです。このTプロダクション・・・現在はTMSと名称が変わっていますが、画期的なことをすることでは、まだ他にもありました。もちろんこの「エースを狙え!」を制作中でのことですが、スタッフの中にはまったくテニスを知らない人も多かったので、青山学院の体育館で行われた女子プロ・・・対戦相手は失念してしまいましたが、ナブラチロアの試合をかなりの人数で見に行ったりしました。スタッフが共通のイメージを持って作業をしようという目的だったと思いますが、アニメ・プロダクションとしては、実に画期的な試みを次々と生み出していったもので、他のプロダクションでは考えられないほどの、ユニークな面を打ち出した番組でもあったわけです。

現代ではとても考えられない制作姿勢でしたが、その甲斐もあってテニスというスポーツを扱いながら、学園での青春ドラマになって、大変人気を獲得した、思い出のある番組でした☆



これは旧HPで公開したものに加筆、訂正したものです

「エースを狙え・麗華」の画像
「エースを狙え・藤堂」の画像
「エースを狙え・岡」の画像