楽しむ世界 Faile(19)「ひとくち古代史考」(一つ目小僧)

少年時代に友達同士の雑談とか、少年雑誌などの読み物の中には、昔々の不可思議なものが、怪談風に面白い読み物として紹介されていました。そんな中の一つに、傘のお化けである一つ目小僧や一本足のお化け・・・妖怪というものがありました。

しかし当時は、そんなものがどうして登場したのかなどということには、まったく興味もありませんでしたし、追及してみようという気持ちもないし、それについての解説もありませんでした。きっと昔の人の想像力が生み出したお化けなのだろうと思っていました。

ところが、わたくしが古代を背景にした小説を書くようになり、いろいろと資料を紐解くようになってから、思わず少年時代を思い出してしまうようなものに出会ってしまったのです。

たしかあれは「新説 桃太郎伝」という新聞小説を執筆していた時のことです。その歴史の背景を探っていくうちに突き当たったのですが、桃太郎伝説については、すでにシニア・バイ・シニアのHPの(芸術一般)で書きましたので、くどくどと書くことはいたしません。お話の関係上、必要なところだけ取り出してお話しておくことにしておきます。

つまり桃太郎のモデルに違いないと思われる、大和朝廷の皇子であるイサセリヒコが、退治しなくてはならなかった鬼が島の鬼たちとは、一体、何者なのかということなのです。

その鬼が島というものは、どこにあったのかということが問題ですが、それは今の岡山県、古い表記で言う吉備国なのです。今ではほとんど田園地帯に見えるので、想像がつかないでしょうが、超古代の頃、太平洋沿岸あたりは田園ではなく、海が内陸にまで広がっていて、入り江には小島がかなりあったといいます。その中の一つに、ちょっと大きな島があったのです。そこには、朝鮮半島あたりから日本へ渡って来た、鉄の精錬技術を持った人々が、中国山脈を越えて移り住み、やがてその作業を始めたわけでした。

吉備国には、ここの他にも、美作(みまさか)という、いい鉄を生み出すところがあって、古代では目立った国でしたし、かなりの強国でした。

大和朝廷のある飛鳥地方の周辺では、琵琶湖畔に沢山タタラ(製鉄所)があるにはあったのですが、あまり質が良くなくて、優れた武器も出来なかったのです。それに対して吉備国の鉄は優秀で、武具もかなり大和のそれを凌駕しておりました。朝廷としてはそれを許しておくわけにはいきませんし、やがて九州までも支配を広げていこうとしているのに、その足元に、それを妨げるような強力な武器を持った国があっては困るわけです。何とか吉備国を支配下に置きたいという野望を持ちました。

とにかく温羅(うら)という棟梁に率いられた、鬼の集団による製鉄力の優秀さは、朝廷にとって憎々しい存在でした。

朝廷はそれを手に入れたくて、崇神天皇の皇子であるイサセリヒコを送り出したのです。

目標は吉備国の入り江に浮かぶ小島です。

その山の上では、製鉄が行われるようになってから。毎晩夜になると火の手が上がって、その麓の村民たちを怖がらせていました。そして更に、夜になると村を襲って娘を犯すといったことをしていたために、この山奥の得体の知れない集団は、鬼のように恐れられていたわけです。

大和朝廷では彼らを鬼と決めて、彼らの住む島を鬼が島と呼んだわけですが、今回はそれが中心の話題ではありません。

実は、彼らの作業がどんなものだったのかということを調べていくうちに出てきたことなのです。

タタラによる製鉄の作業中には、火の粉が飛ぶし、ドロドロに溶けた鉄を扱っている最中に、その飛沫が飛んで、作業をする人々を傷つけることが多かったのです。その結果目を失う者、腕を失い、足を失うものも現れるのです。

恐らくそんな者が、闇を利用して里へ下りて行ったりすれば、鬼が、妖怪が現れたと恐怖しても、止むを得ないことかも知れません。

「一つ目小僧」という妖怪の原型は、こんなところにあったのです。関西では、そうした作業を想像させるように、「一本タタラ」などという言葉がありました。きっと作業中に片足を失ってしまった人を見て、一本足の妖怪だと思ったに違いありません。

意外に、昔、話題として取り上げられていた妖怪の中には、その原型を訪ねてみると、古代の生活の一端が、にわかに浮かび上がってくるようなものが多いように思えてなりません☆