読む世界 Faile 1 「古代史の楽しみ方」

しばらく小説を書かずにいたところ、すっかり時代の様相が変ってしまって、古代などという昔々の時代のことなどはまったく興味のない世界になってしまったのか、昨今はほとんどそのあたりを扱った小説は見かけません。

わたしが「宇宙皇子」を発表した頃も、もちろん古代などというものは、あまり関心がなくて、ひっそりとしていたものですが、この小説に若者たちがのってくれたこともあって、一気に流れができて、それからは何年も古代史ブームがつづくようなことがありました。

それに追い討ちをかけたのが、飛鳥地方での発掘がつづいたこともあって、関心が一気に古代に向けられ、各出版社は競うように古代を素材にした小説、読み物を出版しましたから、それこそ大騒ぎでした。それまで古代はもちろんのこと歴史物など、ほとんど書いたことのなかった人まで、古代を書くような現象がありました。

ところが昨今は、あまりにも現代とは遠くなりすぎているように思えるのか、ほとんど出版物の中に古代史物は登場してきません。本当はちょっと視点を変えて読むと、かなり意味があるのですが、残念でなりません。

一つは書き手に、読ませる工夫がないとも言えるのです。

かつて拙作の「宇宙皇子」のように、さまざまな仕掛けをしてあったものでした。その中で古代を生きる若者生き方を追っていったのです。

昨今では、あまりにも真実をという主張が強すぎて、楽しませる要素が希薄になりすぎているのです。

そうした古代史の衰退と入れ替わって登場したのが、時代小説の全盛という現象です。

ここで勘違いをなさらないようにして頂きたいのは、時代小説は古代史を扱った歴史物ではないということです。

時代小説は主に江戸時代を素材にした小説のことですが、 現代と近いせいか、いろいろな形でテレビに取り上げることが多いので、興味を持っている人も多いし、ファンも多いのです。しかしそれだからと言って、出版界を制覇するほどの勢いがあるとは言えないのです。現在は何といっても圧倒的なのは推理小説でしょう。それだけ現代は生々しく動いていて、目が離せない時代だということなのかもしれません。しかしそれにしても、テレビのあちこちで、殺人ものが氾濫しているのはどういうことなのでしょうか・・・。

それでは推理小説全盛の時代ということになるのかというと、かなり長い間勢いを持ってきたことは間違いがないのですが、昨今はかつてほどの勢いはなく、読者の関心度は薄れていきつつあります。

昨今は、ごく日常的なことを素材とした小説が、勢いを得てきています。

現代は物語よりも、実話を尊重する時代です。 もうかなりの年数がたちますが、現代の出版状況を見ていると、まさに実話全盛の時代ということもできます。

時の流れがそうするのでしょう。 作られた世界を楽しむ気分になれないほど、切羽詰った状況が、われわれにのしかかってきます。人々はどうしても、物語性を楽しむ気分にはならないのです。

その結果、作家が想像力を必要とする物語というものが、ますます衰退していってしまいます。 時代の中心となる世代が、そういった思潮を作り上げてきたはずですから、その世代の人々が次の世代に交代しない限り、そうした風潮は消え去らないと思っています。しかしこうした流行というものは、世代交代と同時に、次第に消えていくもので、またこれまでとは違った思潮が生まれて、その色合いで染められていくことになるだろうと思います。その時代になれば、発表される小説、テレビの内容も、その時代に合ったものに変わっていくことでしょう。 しかしわたしは、今でも古代という世界が好きなんです。 すべてが粗野で、荒々しくて、さまざまなことで現代とはまったく比較することができませんが、身分の上下を問わず、自分たちは何を目標にして、どんな方法で、自分たちの国を造っていこうとするのか、真剣に考え、苦闘していました。その目指す方向の、方法の違いから、激しくぶつかり合うこともありました。

古代は何もかもまっさらです。荒削りのままです。 次第に政治も、経済も、文化も、それぞれの暮らしも進化していく過程が、実にはっきりと読み取ることができます。 そこでお勧めしたいのは、もし、古代という時代を楽しもうとするなら、現代の価値観で分析したり、批判したりすることは、止めるべきです。いや、むしろまったく意味のないことだと言うしかありません。現代のように、超科学の時代と言われる時代の価値観で古代を分析、判断したら、とても馬鹿らしくて、話にもならないでしょう。我慢できないようなことが多すぎて、面白さはまったく失われてしまうでしょう。しかしそんな判断をして、無視をしてしまうことが、どれだけ意味があるでしょうか。むしろ現代の価値観を持った者が、その時代へ行って、古代の人々と共に生きてみませんか。きっとそうすることによって、その時代の真の意味を知ることにもなるし、人々と喜怒哀楽を共有することにもなるし、庶民と共に、さまざまなことで苦闘することにもなるのです。 古代の楽しみ方には、こんな捉え方があるのだということを、そろそろ思い出して頂きたいと思うのですが・・・。 新たなHPのスタートにあたって、古代の楽しみ方について書くことにしました☆