クライトン若かりし頃のノンフィクション。人気テレビドラマ『ER』の原案ともなったという話を聞いて読んでみたのですが、ドラマ的要素はほとんどありません。
本文は5つの章からなり、それぞれ実在した患者とその症例、治療の過程を示して、その中から見出だされる現代(ただし1960年代)の医療トピックや問題を考察する、という構成になっています。小説だと思って読み始めた人はおそらく途中でかなり戸惑うことでしょう。というかふじもとは戸惑いました(笑)。ただ、ノンフィクションだと思って改めて読んでみると、非常に理系的なはっきりとした切り口で様々な問題を批判し、また難解な医学的トピックスを丁寧に解説したりしていて、理系なふじもととしては結構読める内容であるなあと思えます。
クライトンは元々医師を志望し、ハーヴァード大学を卒業後にメディカル・スクールへ進学、小説はその学費稼ぎのために書いていたのだそうです。さすがに理学的な知識は抜群、加えて現場での経験が随所に生かされていて、たとえばビデオモニタを用いた遠隔医療に関する話題では、将来(早い話が今)の医療技術に関する示唆に富んだ考察が読めます。クライトンが医師の道を捨てて物書きをやるきっかけになった『緊急の場合は』も医療サスペンスですし、その後ベストセラーとなり映画にもなった『アンドロメダ病原体』は疫学などの知識が使われているようです。最近の『ジュラシック・パーク』のような遺伝子工学関連の小説を書けるのも、若い頃に理学的知識を得る訓練をしていたからでしょうね。
理工学的というか技術屋的な文章が苦手な人にはややとっつきづらい本ですが、あまり古さを感じさせない内容はお勧め。
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