Horace Silver The art of small combo jazz playing, composing and arranging

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Published by Hal Leonard

翻訳 横浜モダンジャズクラブ

 

<ジャズの物理的様相>

ダンスをするためのジャズもあり、厳密に鑑賞するためのジャズもあります。鑑賞するためのジャズであっても踊り出したくなるように脚に訴えかけるものもあります。これは身体にとって健康的な運動で気晴らしとなるものです。魂と心に幸福をもたらし、今度はそれをそのまま身体に反映するというようなジャズがあります。

素晴らしいジャズを演奏するためには霊的、精神的、身体的エネルギーをその音楽に込めなければなりませんし、私たちの愛、知性、体力を真心こめて音楽の中に表現しなければなりません。そのために、自分のすべてを出し尽くしなさい!手の内には何も残さないこと。自分のミュージシャン魂にかけて、あるいは一緒に演奏するミュージシャン仲間の中にも中途半端を許容しないことです。BあるいはBプラスのジャズミュージシャンに甘んじないこと。AあるいはAプラスのミュージシャン仲間と一緒にプレイできるようAあるいはAプラスのジャズミュージシャンになれるよう努力して下さい。それは霊的、精神的、身体的訓練を発達させるという意味でもあります。

 自分の音楽に愛をこめて、ジャズに対する愛情を失わないこと。自分のパフォーマンスにおいて知性を鈍らせないこと。持てる体力、エネルギーを音楽に注いで表現することを怠らないこと。自分の芸術に対する自己満足を許さないこと。常により良いことをする努力をすること。より多くを経験し、より多くを学び、より多くを与えることを追求することです。

 

4−2 自己本位な音楽

自己本位な音楽とは聴衆を喜ばせることに迎合しないものです。作曲家あるいは演奏家、時には両者の自己満足感だけを満たす音であるように聴こえます。自己本位ではない作曲家や演奏家は意識するにせよ無意識であるにせよ聴衆を喜ばす構成要素をその曲に表現します。

自己本位な演奏家がそうではない作曲家の曲を採り上げて、その演奏家の解釈によっては聴衆を喜ばせる自己本位ではない作曲家の力を拝借することができます。また、自己本位ではない演奏家が自己本位な作曲家の曲を採り上げて、演奏家の解釈によって聴衆を喜ばす構成要素をその曲に表現することができます。

みんなを喜ばすことができる、世界に分かち合うべき才能を持っているのですから自分の作曲と演奏パフォーマンスに自己本位性を蔓延させないような努力をして下さい。大いなる才能があったとして、あなたの自尊心の所為で聴衆の喜びを考えることができないとしたら経歴に汚点を残し、自分の宿願を果たせなくなります。望みを果たせない作曲家や演奏家は厳しい精神的苦痛に悩まされます。

 うぬぼれから解放されて、聴衆を楽しませるという望みを自覚して作曲を、そして自分の音楽を演奏して下さい。こうした望みの自覚はそのうちに潜在意識となり無意識の内、自然に出て来るようになります。

 牧師が人を向上させようと腐心するように、喜びの橋渡しとしての自分を考えてごらんなさい。何と恵まれた、何と名誉なことではありませんか。自分の才能を生かして行える良いことに気づいて下さい。それに気づき、自分の責任を受容れることで自己本位な考えの生じる余地はなくなります。そのような考え方は聴衆を喜ばせ高揚させることに広がり、あなたの宿命の完全な実行に通じることでしょう。ほかの人が喜び、自分は成就を実感できるような方法で作曲、演奏をするよう努力することです。

 

4−3 ジャズと薬物や酒に関する誤謬

 酒やドラッグでミュージシャンがうまく演奏できるようになるということを信じるひとがいるかも知れません。私は酒やドラッグを使用していた偉大なミュージシャンたちと光栄にも一緒に仕事をすることがありました。彼らの演奏が素晴らしいのは酒やドラッグのせいではなく、それらを使用したためのハンディキャップがあるにも関わらず素晴らしかったと私は考えます。酒やドラッグで才能や難しい仕事、練習に代えられるものではありません。

 ジャズミュージシャンはみんな薬物依存症かアルコール中毒だという古い固定観念をいまだに信じている人がいます。過去にそういうミュージシャンがたくさん居たのも事実ですが時代は変わりました。今日の若いジャズミュージシャンの大多数は酒やドラッグに関する誤った考えを理解しています。酒やドラッグがいかに彼らの音楽上のヒーローあるいはアイドルたちの精神をゆがめ、身体を壊し、人生を奪ったかを彼らは理解し、そうはなりたくないと思っています。酒やドラッグは、人生のとある状況に対処するための支えに過ぎません。神に対する信仰を持ち続け、すべての状況にうまく対処できるよう学ぶことで酒やドラッグは必要無くなります。

 

4−4 音楽と訓練

 音楽には集中力が必要です。でも、訓練を伴わない場合にはせっかくの集中力が無駄なものになります。一流のミュージシャンになる望みを持ち熱く燃えて練習に時間を費やしたとします。しかし、自分のこれまでの訓練の習慣を改善しないと進歩は遅々としたものになります。

 あなたにとって退屈でつまらなく思える項目であるにもかかわらず、ミュージシャンとしての素養を強化するいくつかの項目を訓練するように自分を仕向けなければなりません。すなわち、ロングトーン、運指法、正しい指位置、音階(長音階、短音階)、息継ぎ法、アンブシュール、譜読みの訓練など、特にシンコペーションは大切です。自分の楽器の音質と演奏技術を高めることに取り組んでください。以上のことはあなたの音楽的発展において大変重要なことで訓練スケジュールを組んで練習することが必要です。

 ジャズとインプロヴィゼーションの創作を自分の売りとして選択した以上、生涯にわたるハーモニーの学習に費やす訓練を続けなければなりません。ハーモニーの学習に終わりはありません。その課題を大変うまく習得したと思ったその時、学ぶことはまだたくさんあるよとばかりに新たな状況が生じます。

 「わー、何あれ?」「ちょっと、チェックさせて!」と言わせるような耳慣れないハーモニーを構成する音符の積み重ねが常にあります。一流のソロプレーヤーになりたいと願う者にとって正しい和音に関する知識は絶対必要です。演奏スタイル、音質、演奏技術、フィーリングなど、どれもみんな大変大切なものですが、正しい和音の知識なくして一流のソロプレーヤーになるのは覚束ません。

 毎日ハーモニーを勉強してアドリブを練習しなさい。勉強と練習の習慣をつける訓練をしなさい。つまり、練習スケジュールがないとエネルギーが分散されて成果が乏しくなるからです。練習スケジュールがあればより多くのものを習得でき、その進歩も早いことに気づくでしょう。自分の進歩に喜ぶだけでなく訓練がどんなに重要なものかということに気づきます。さらに、その成果を人生のほかの部分にも適用するようになります。

 

5.演奏編

 

5−1 グループの統一と訓練

<情熱、集中力、エネルギー、フィーリング>

 一流のジャズミュージシャンになりたいと望むのであれば多大な情熱、集中力、エネルギー、感情を自分の演奏に注がなければなりません。それは偶然に起こるものではなく、たゆまぬ努力によって可能なことなのです。情熱、集中力、エネルギー、フィーリングを欠いたジャズは愛情の無い生活のようなものでまったく中途半端なものです。それらを欠くことは聴衆そして一緒に演奏する、音楽に真剣に取り組むミュージシャンにとっても中途半端なものです。「へぼ!まじめに演れよ!」と怒鳴られかねません。音楽は真剣に取り組むべき仕事であり、情熱、集中力、エネルギー、フィーリング、その他多くの資質を合わせたものが要求されます。

<周囲への傾聴と音のブレンド>

 グループで演奏するときは周りの音を聴き、自分の音を周りの音に合わせてつりあいを図らなければなりません。周りのミュージシャンの音とのつりあいを忘れるほど自分の演奏に興奮しては絶対いけません。コンボというものは単に何人かのミュージシャンが一緒に演奏をしているだけということではなくひとつのチームなのです。ですから個々のミュージシャンは全体のことを考えて演奏しなければならないのです。チームの全員がそれぞれ周りの音に傾聴してそれに自分を合わせようと努力するとき、そのハーモニーは大変美しいものになります。そこには利己主義が歩き回る時間的な余裕はありません。これはチームワークそのもののゲームなのです。

<管楽器のブレンド>

 管楽器を編成しようとする場合、抑揚、フレーズ、エネルギー、強弱、アタックなどあらゆる状況を考慮して作業しないとなりません。リーダーの支持のもとであなたの楽器セクションの仲間とこれを創りあげて行きます。これはバンドの統一性を生み出すものであり、並みのバンドであるか一流のバンドであるかの相違を際立たせます。

<リズムセクションのブレンドとソロプレーヤーへの刺激>

 リズムセクションのメンバーは常に周りで何が起きているか耳を傾けていないといけません。バンド全体の音を聴いてそこから出ているものに自分の音を合わせます。お互いの音を聴き合い調節します。チームの一員であることを忘れ、興奮したり自分の演奏だけに気をとられたりしてはいけません。このルールでただひとつの例外はリズムセクションのメンバーがソロをとる時です。その時には最高のソロを演奏できるように自分のプレイに没頭します。

 バンドあるいはソロプレーヤーのバックアップをしている間、リズムセクションのプレーヤーが自分のソロの出番を待ってそのエネルギーを蓄えようと熱のこもらない、こそこそしたプレイをしてはいけません。リズムセクションはバンドそしてソロプレーヤーを最高の高みへ押し上げる大切なエネルギー源であり土台なのです。

 バンドのメンバーはお互いに刺激をし合い、バンドの進歩を目指して努力すべきなのです。管楽器プレーヤーがリズムセクションを奮起させ、リズムセクションが管楽器プレーヤーを奮起させる。リズムセクションは余裕のアルスゥイングを心がけないといけません。良いリズムセクションは真に周到であればソロプレーヤーがもうひとつ上に手を伸ばして到達できる能力を備えていたとして、彼を最上の高みにまで拍車をかけて奮起させることが出来ます。それぞれのソロプレーヤーに対すると同じように、リズムセクションはバンド全体に対して大きな責任があります。リズムセクションはバンドにとっての主電源なのです。管楽器プレーヤーもまたバンドの電源であり、管楽器、リズムセクションともにスゥイッチの入ったときステージに照明が点るのです。

 

5−2 イントネーション(抑揚)

<グループイントネーション>

 グループイントネーションに取り組んでください。ロングトーン、アンブシュール、ブレスも同様です。ベーシストはリズム、ソロ、書き譜の練習では音程に注意して演奏すること。ドラムスは引き締まった音が出るようなチューニングが必要です。ピアノの調律もされていなければなりません。

<ソロイントネーション>

 マウスピース、ブレス、ロングトーンの練習。ベーシストは正確な音程で弾くために標準的な運指と代替の運指位置の弾き易いほうを選ぶことができます。良い音色を習得し保持することが必要不可欠です。個人的なアドリブやフレーズへのアプローチを変えることにより、その人特有の音あるいは音色を習得し維持することは優れたジャズスタイルを創りあげていく上で大きな割合を占めています。

 

5−3 フレージング

<グループフレージング>

 お互いに相手を良く聴き、一緒にフレーズを演奏しなさい。ひとつにまとまったフレーズとなるまで練習を続けます。

<セクションフレージング>

 管楽器、リズムセクションそれぞれ別にセクション練習をした後で一緒に合わせます。

<ソロフレージング>

 自分の好きなソロイストのフレーズを研究して自分自身のソロを評価してみてください。「モダンであるか、古臭いか」あるいはその中間か?さあ、やってみてください。

 

5−4 アクセントと区切り

<グループアクセントと区切り>

 グループアクセントやフレーズの区切りについても、同様にみんなの力を合わせて正確になされなければなりません。

<ソロアクセントと区切り>

 ソロアクセントとフレーズの区切りは厳密にはソロプレーヤーの分別によるものであり、ソロに味わいと力強さを加えるためになされなければなりません。

<リズムセクションのアクセントと区切り>

 センスの良さを養ってください。区切るべきときとそうでないときを知ること。やり過ぎないでソロプレーヤーの方法に合わせます。ソロプレーヤー各自のソロが終わった後にはバンドが次のソロプレーヤーのために準備をしていることを聴衆に知らせるためにドラムスは区切りを表現するべきです。

 

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