Horace Silver The art of small combo jazz playing, composing and arranging

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Published by Hal Leonard

翻訳 横浜モダンジャズクラブ

 

5−5 ダイナミクス(強弱法)

<グループダイナミクス>

 グループダイナミクスについてはバンドリーダー、演奏する曲のアレンジャーあるいは作曲者と一緒にリハーサルをします。

<ソロダイナミクス>

 ソロは気楽にスタートしてクライマックスに向けて組み立てて行くべきです。最初にピークから始めてしまうと行き場を失ってしまいます。

 余り長く演奏し過ぎないようにして、ソロのクライマックスはやり過ぎないようにします。そうしてしまうと、退屈な演奏になり影響力が失われてしまいます。

 ソロの終曲部に向けてまとめようとするとき、ソロの終わりを提示しているのかどうかあるいは確信をもって演奏しているのかどうか、というような疑念を聴衆に抱かせたまま和声的に中途半端だったり、曖昧に終わったりしないこと。

 以上のガイドラインは管楽器ソロプレーヤーと同様ベーシストやドラムスにも当てはまることです。

 

5−6 名声を求めるジャズミュージシャンの練習とは

 毎日の練習では譜読み、ブレス(ロングトーン)、スケール、ハーモニー、運指練習(テクニック)などの基本的な練習手順に時間を費やすべきであると私は考えます。より高度なハーモニーの知識と即興能力の習得にも毎日時間を費やすことが必要です。出来る限り多くの曲を勉強してその曲の正確なメロディ、ハーモニー、リズムを学んでください。曲のコード進行に注意してアドリブの練習をしてください。アドリブ練習の内容を録音してどこに間違いがあるかを探すように聴いて見て下さい。

 ジャムセッションに出かけアドリブに参加する機会があるときはいつでも、どこでもやって下さい。参加できるジャムセッションが見つけられなければ自分でジャムセッションを主催しなさい。あなたと同じように家で練習したことを試してみたいと思うミュージシャンが他にもいるはずです。そういう人たちと一緒にジャムセッションをやるのに何も問題は無いでしょう。マイナス1CDなどでアドリブを練習するのも大いに役立ちます。

 あなたの音楽の先生が基礎的な面では良い先生であるけれど、ハーモニーのことを教えてくれないのであれば基礎的な形式の勉強はそのまま続けて、さらにハーモニーを教えてくれる先生をもう一人見つけるのです。基礎的な音楽形式を教えてくれる先生がハーモニーについても教えてくれるのであればこれに越したことはありません。音楽学校に通えば基礎もハーモニーの勉強も受けられます。ジャズスクールに入れば基礎的音楽形式、ハーモニーとさらに多くのものを学ぶことが出来るでしょう。

 ジャズスクールから若い素晴らしいミュージシャンが生まれているのは事実ですが、「立派な芸術であるインプロビゼーション」にもっと重きを置いたものであるべきだと思っています。こういうジャズスクールを出た若いミュージシャンたちは男性、女性に限らずビッグバンドやコンボでかなりのセクションプレーヤーであり、良いアレンジャー、時には良い作曲家が居たりもしますが、多くはアドリブの能力において欠けるものがあります。ハーモニーの知識も限られていることがよくあります。

 セクションプレーヤーか、違った楽器もこなすプレーヤーか、金銭的に恵まれたスタジオプレーヤーかあるいは一流ジャズソロプレーヤーの内どれをあなたは目指しますか?後者の方がより勇気の要ることで音楽的にはやりがいのある仕事だと私は思います。一流のジャズソロプレーヤーになることを熱望する者は、インプロビゼーションを自分の武器として創りあげているのだということを決して忘れずにリハーサルバンドに在籍したり、たくさんの譜読みが要求される仕事に出演したり、譜読み能力を高め続けるべきです。そして自分の望みに向かって進歩を続けます。

 

5−7 リズムセクションプレーヤー

ソロイストのバックで演奏する時、リズムセクションおよびソロプレーヤーに基音あるいは最低音部を提示するために、ベーシストは主に低音域を演奏すべきであり、あまり音が多すぎることの無いようにすべきです。ソロを取れるのは一時に一人だけです。フロントラインの誰かがソロを取るとき、ソロプレーヤーが最も気持ちよく演奏できるように堅実なリズムサポートと伴奏を提示することが大事です。リズムセクションの他のメンバーと一緒にソロプレーヤーを奮起、高揚させてソロプレーヤーのベストプレイを引き出すようにします。リズム奏者、タイムキーパーとしてベストを尽くしなさい。そうすればリズムセクションのメンバーとしてソロプレーヤーを高度な水準にまで発奮させることが出来ます。

スゥイングする洗練されたリズムセクションの一翼を担うのはとても楽しいことです。テクニックを駆使する楽しみは自分のソロまで自制して、リズムセクションでソロプレーヤーのバッキングを演奏する時はシンプルに、スゥイングと低音域を保持して下さい。

ソロプレーヤーの伴奏をしている間はドラマーとピアニストもテクニックに走り過ぎないようにするべきです。テクニックの披露は自分のソロまで残しておきなさい。ソロプレーヤーに信頼されるリズムセクションであることに喜びを見出すことを覚えてください。バッキングの際にはスゥイングを心がけて、たくさんの音を使い過ぎないようにします。音楽に余裕を持たせて、ソロプレーヤーのベストプレイの助けになる、自分に出来る最上のリズムとハーモニーを彼に提供する努力に集中しなさい。これらのことをすれば全体の仕上がりを喜ぶことが出来て、あなた、そしてリズムセクションのみんなにソロプレーヤーも大喜びすることでしょう。

 

5−8 演奏に対する正しい態度

聴衆の前で演奏する時は常にあなたのもてる100%を出すようにします。実際、聴衆のまえであれ、録音セッションであれ、リハーサルあるいは家での練習であれ楽器を演奏する時はそれにあなたのすべてを注ぎます。いつでも全力で演奏する習慣がつくようになると、より堅実なレベルの演奏ができるようになります。

もちろん、あなたと一緒に演奏する人はあなたの演奏レベルにある程度のものを付け足したり、あなたの演奏レベルから引き出したりします。常に自分を一流ミュージシャンの中に置いておかなければならないのはこのような理由からですが、いつでもできることではありません。あなたの最上の音を出すように心がけて、自分が一緒に演奏するミュージシャンの能力がどうあろうと常に自分の才能と全力を出すように努めなさい。

一流ジャズプレーヤーとして名を上げたいと思ったらムラの無い一貫性が絶対に必要です。今夜の演奏は熱っぽく、明晩の演奏は冷めたものに、この曲はシャカリキに、次の曲は適当にという訳には行きません。いつでも、どこでもそれが出来るジャズミュージシャンを真に一流であると呼ぶことができます。彼らにいつも仕事があり、必要とされる所以はそういうことです。有名なソロプレーヤーになるために努力をするならば、一貫性のあるソロの習得に努めなければなりません。人間ですから演奏のたびごとに毎回絶対的ピークでということはあり得ませんが自分の標準を高く掲げ、その標準から遠くかけ離れた低い水準に落ちないようにしなければなりません。高度で一貫性のある演奏が一流ソロプレーヤーを造り上げ、彼をスターダムに押し上げるのです。

 

5−9 ジャズコンボプレーヤーの責任

<品行>

願わくは、音楽の世界で何年もの経験のある人、その人から多くのことを学ぶことが出来ミュージシャンとしてもリーダーとしても尊敬の出来る人に雇われたいものです。そうでない場合にしても、あなたの品行によって所属するグループの評判が高まるようにするべきです。あなた、それにグループの他のメンバーは音楽ファミリーとして自分のグループに敬意を払い、チームワークと緊密な関係を目指して努力します。

<時間厳守>

音楽業界で時間厳守は欠くことのできない事柄です。あなたの遅刻により雇い主が余分な出費を強いられます。他のバンドのメンバーも同様です。ナイトクラブのオーナーは顔をしかめて遅刻の罰金を課すでしょう。録音あるいはリハーサルスタジオは時間貸しです。飛行機、列車、バス、タクシーは遅刻する者を待ってはくれません。遅刻常習ミュージシャンは遅刻のたびに罰金を払わされ、時にはクビになることがあります。

<信頼>

リーダーは本当の一流バンドにするためにメンバーの良い品行、時間厳守、ミュージシャン精神を期待しています。いつの夜もどこのショーでも一流のパフォーマンスを創りだし提供してくれことを当てにしています。彼は、バンドの誰もがチームの一員として仕事をしてくれることを期待しています。ソロプレーヤーとしていつでも最高の演奏をし、持てるものすべてをその曲と聴衆に与えてくれるのを当てにしています。あなたのミュージシャンとしての評判はリーダー、他のメンバー、一般世間によって左右されるのです。色々なことがあり過ぎてウンザリするかも知れませんが、落ち込まないで下さい。

 

5−10 ステージマナー

ステージでの立居振舞いに関するルールや規則はリーダーによって規定され、保たれるべきです。どのリーダーも自身のバンドがいかに振舞うかということについては彼自身の考えがあります。バンドリーダーはバンドをその最も好ましい姿に見せるように努力していますのでバンドに所属するミュージシャンはリーダーが規定したルールや規則に従わなければなりません。私はバンドリーダーとして、ステージでタバコを吸ったりアルコールを飲んだりするのは聴衆に対して不謹慎であると思っていますので認めません。聴衆は結構なお金を払って演奏を聴きに来ているのであって、ステージでタバコを吸ったり酒を飲んだりするのを見に来ている訳ではありません。そのような  ことをする時間は休憩時間にいくらでもあるのです。

リーダーはバンドの衣装についても規定すべきで、それに従いミュージシャンはセッションに参加します。他のバンドと比較されたときにユニークな特徴を目立たせるような全体像をバンドは示すべきです。もちろん、バンドの独自性は本来バンドが演奏する音楽のオリジナリティと質、その音楽を演奏するミュージシャンの能力によって決まるものですがステージマナーはバンドの独自性にとって重要な部分ではあります。

この点を見落としてはなりません。聴衆がプロとアマチュアを区別するのに役立つことなのです。音楽の仕事ではいかなる場面においても自分のプロフェッショナリズムの水準を引き上げるために弛まぬ努力をすることです。

 

5−11 スモールジャズコンボでのリーダーの責任

ジャズコンボのリーダーにはたくさんの仕事と責任があります。リーダーでありミュージシャン、作曲家、アレンジャー、マネージャー(ホテルの予約、旅の手配、給料や税金の計算)でもあり、演奏の手配をするエージェントとの交渉さえすることがあります。「キッチリやりたいなら自分でやる。」というモットーでこのような細かい仕事を好んでやるリーダーも居ます。

リーダーは、バンドのメンバーは家族であり自分はその家族の父親であるとみなすべきでしょう。ミュージックファミリーの愛情、連帯感、チームワークを父親として育む努力が必要であり演奏する音楽の質の高さ、やりがいのある音楽に家族の心を惹きつけておかなければなりません。彼らの金銭的な要求にも理解を示す必要があります。バンドのミュージシャンが望めば、リーダーに成長して行けるよう育て上げることも必要です。このミュージックファミリーに自己満足が決して忍び込むことがないように、より良いミュージシャンシップ、より良い音楽、より良いバンドを目指して努力すべきです。

リーダーは、父親、友人、ボス、先生、忠告者、カウンセラー、心理学者などの役割を請け負うことがしばしばあります。この役割を果たすには、リーダー誰もが持つべきあるいは培い学ぶべき、思いやりと共感できる心が必要となります。新たにリーダーとしてスタートしたばかりであれば良い評判を作り上げること、そのためにはサイドメンの助けも借りなければなりません。リーダーになってある程度の期間が経っているのであれば、既にある良い評判を維持し、それを凌ぐ努力をしなければなりません。リーダー自身の評判を良くするためにサイドメンの助けを借り、それでリーダーの評判が良くなればサイドメン自らの評判も上がることになります。

協力、チームワーク、家族的雰囲気は私たちが持つ才能のたゆまぬ訓練と向上に欠かすことができません。リーダーには彼のメンバー、聴衆、音楽に対してたくさんの責任がありますがこれら責任のすべては真のバンドリーダーとなるため、聴衆を喜ばせるため、そして自分の愛する、自分の人生を捧げた音楽に邁進するために光栄なこととして捉えられるべきです。

 

 

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