Horace Silver The art of small combo jazz playing, composing and arranging

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Published by Hal Leonard

翻訳 横浜モダンジャズクラブ

 

5−12 リーダーから導かれるもの

サイドメンとして、自分の持てる最上の才能で参加するバンドの音楽を演奏すること、そしてリーダーの指示に従って演奏することがあなたの目標であることを常に忘れてはなりません。バンドの方向性を理解できない人にはミュージシャンとしての仕事はありません。ほとんどのジャズバンドリーダーが各自のソロは曲のアレンジに合わせて自由にさせて、アレンジパートをいかに演奏するかについて指示を与えるだけです。

ソロはバンドの演奏する曲と同じ雰囲気で演奏されるべきです。バンドが「ファンキーなブルース」をやっているときは「ヒップ・スリック」なものではなく、「ファンキー」なソロでなくてはなりません。「ヒップ・スリック」な曲を演奏しているのであれば「ヒップ・スリック」なアイディアでソロをとります。バンドが上品なバラードを演奏している場合は感情豊かに上品なソロをとるべきです。また、ラテンナンバーを演奏している場合は、自分のソロにもラテンの雰囲気を取り入れます。

ソロを組み立てる熱心なミュージシャンに役立つ、作業のコツを知り覚えられるような昔のプロたちに利用されたヘルプがこの教本にはあります。

ある程度音楽業界で仕事をこなし、たくさん信用があるリーダーならあなたに指示を与え、才能を磨く手助けをして守ってくれるはずなので感謝することです。彼の与えてくれる助言を聞き入れて、言われたことは何でも完璧にできるようにして下さい。この類の助言は大いに役立つものですが常にあることではありません。仕事のコツを飲み込んでいるほかの誰かを雇いあなたをクビにするリーダーもいるでしょう。しかし、時間を割いてこのような助言をくれるリーダーだとしたら、あなたの可能性を理解し、余すところ無く才能を発揮するのを助けたいと望んでいるということなのです。セッション、リハーサル、旅の手配には遅れないこと。遅刻の常習者は罰金を払わされたり、クビになったりすることもあります。

 

5−13 個人練習とグループの努力

グループ全体の成果を確実なものとするために個人練習をしなければなりません。ある曲を通じて作曲者や編曲者が望む雰囲気あるいは一定のフィーリングを確立するためには単調に陥りやすい繰り返し部を何回も練習しないといけないことがしばしばあります。これにより創造的能力が抑圧されると考えてはいけません。

曲のムードが設定されている場合、モードあるいはそのほかの演奏スタイルで見られるように、ひとりまたは複数の演奏者の繰り返し部がその単調さ故に他の演奏者の創造的自由を広げることがよくあります。優秀な作曲家やアレンジャーはこの手法を特別な理由のために使用します。作曲家、アレンジャー、あるいはリーダーから与えられた曲には何が書かれていて何を要求されているのか、あるいは何が必要で不可欠なのかを自分で演奏して練習してください。訓練された演奏が創作力を阻害するということはありません。むしろ、ある適当な時期に解き放てるよう創作力を蓄えるためになります。

演奏の実践方法の訓練を欠いたプレーヤーは完璧なミュージシャンにはなれませんし、そのためにバンドを追い出される羽目になることがあります。自分自身がバンドリーダーなるまでは今のリーダーが方向性を示し、バンドのミュージシャン及び音楽に関するコントロールをしているということを覚えておいてください。自分が有名なソロプレーヤーになろうと努力している間はリーダーが指示し、コントロールすることを受け入れて、バンドの成功のためにリーダーを助けて一生懸命仕事に励んでください。そうすることによりサイドメンとしての名が立ち、望めば自分がリーダーになる際の助けとなります。

 

5−14 グループの努力と個人の決断

グループで演奏をする場合、グループを最も好ましいかたちで表現するためにグループ及び全員の努力に自分を一体化させ調和を図らなければなりません。また、自分自身を最も好ましいかたちで表現することについても考えなければなりません。もしグループ全員の、あるいは誰か一人のプレーヤーの欠点のために集中力が欠けてしまっているとしたら、その欠陥の克服に最善を尽くして、グループのためという事だけでなく自分自身の最高のかたちを表現するためにも全力を投入してください。

聴衆はグループの演奏と同様にソロ演奏を熱心に聴いています。いかなる限界があろうとそれを乗り越えて、一流のソロプレーヤーとしての名声を作り上げなければなりません。自分の表現不足ゆえにグループのほかの者を責めてはいけません。一流のソロプレーヤーなら何の限界もありませんし、自分の表現不足で他人を責めるようなことはありません。なぜなら、自分を表現して名声を作り上げるためにあらゆる障害を克服して乗り越えようと堅く決心しているからです。

この信念を受容れて活用することがアマチュアからプロに、二流から一流に、サイドメンからリーダーへと変わってゆくために役立ちます。自分の表現不足をグループの誰か他のメンバーの所為にしてはいけません。個人的な問題は仕事場に持ち込まないで家に残しておくこと。仕事場に入ったら一流の音楽を創り上げるという今ある仕事に打ち込む準備をしなさい。

自分がなりたいと思う一流のソロプレーヤーになって下さい。色々な限界を乗り越えて注目を浴びるソロプレーヤーとしての表現をする決心をすれば、あなたの立派な決心を中傷する者は誰も居ません。心構えを変えて下さい。グループ内の一流プレーヤーに奮起されるのを待っているような「音楽の寄生虫」にならないこと。自分を励まして、他のプレーヤーを奮起させられるような表現を追求して下さい。自分の欠陥のために他人を責めることはやめなさい。さあ、気合を入れて自分自身を表現して下さい。

 

5−15 メロディ、ハーモニー、リズムと演奏の関係

<メロディ>

演奏するメロディをいつでも尊重して処理してください。いい加減な演奏に満足してはいけません。感情豊かに、敬意を払い、叙情的感覚で演奏すること。自分のやり方で、あるいはリーダーの望むように解釈するのは構いませんが自分流の演奏のし易さに任せての書き直しはいけません。

 

<ハーモニー>

正確なハーモニーを演奏することは絶対に不可欠です。間違ったハーモニーで演奏されるのを聴くほど悲惨なことはありません。それは作曲家への侮辱であり、聴く人の耳に対する暴力であり、下手なミュージシャンシップの現われです。そのようなミュージシャンは音痴であるか、大変怠け者で正確なハーモニーを学ぶ時間を費やしていないかでしょう。即興演奏においては自分のアドリブのアイディアをひとつのコードから他のコードへとつなげる能力を発展させる必要があります。基礎的なハーモニーを教えるのはこの本の役目では有りませんが、この本を学ぶ人は誰でも既に基礎知識を持っているはずです。

 

<リズム>

 タイムキープをすること。安定したビートがいかに大切かは誰もが知っています。メトロノームのようにこわばった堅苦しいビートはいただけません。自由に流れるようなもので無ければなりません。このことはドラマーだけでなくリズムセクション全員に当てはまることです。ビートは解放的で自由にスゥイングするもので無ければなりません。ジャズミュージシャンが普通にはやらないような拍子記号やキーに変えてチャレンジしてみるのも面白いと思います。これはあなたの能力の範囲を広げるためです。

 リズムはどんなバンドでも屋台骨であり土台です。そして、「難攻不落の地の岩石」のように強固でなくてはなりません。洗練されたリズムセクションの役割を担うのはとても楽しいことです。更にその上を目指すとすれば、すべての点で洗練されたバンドのメンバーになることでしょう。

 

5−16 音楽に必要な感情、知的、肉体的エネルギー

内にある最上の音楽を引き出すために感情、知性、そして肉体的エネルギーのバランスをとらなければなりません。感情のない音楽は聴衆の魂を落ち着かせることが出来ません。知性に欠ける音楽は聴衆の心を刺激することが出来ません。そして、肉体的エネルギーを欠く音楽は聴衆の身体を活気付けることが出来ません。聴く側としても演奏する側としても、この三つのエネルギーの均衡が保たれているのが良いと思いますが、感情と肉体的エネルギーが強い場合には知性を欠いた音楽であっても大いに楽しんでいる自分に気づくことがあります。一方、感情と肉体的資質の無い音楽に私は冷たさを感じます。テクニックは驚くほど演奏内容を高めますが、見境無く使って、感情、知性、肉体的バランスに頼らないものであった場合はうんざりすることがあります。

どんな楽器を演奏する場合にもクラシックあるいは正式なトレーニングが必要です。一流のミュージシャンになるためには感情、知性そして肉体的エネルギーの個人的資質を蓄えなければなりません。演奏をするとき、とりわけアドリブをしているときはそれに自分の心、魂そして精神を込めなければなりません。新鮮でユニークなメロディ・ハーモニー・リズムの手法に対して開かれた心を持つ努力をすること。他人と違ったことをするのを恐れてはなりません。チャンスを逃さないこと。時には冒険も必要です。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という古いことわざもあります。やり過ぎて深みに嵌まることの無いように自分の想像力を豊かにする努力をすること。感情に走り過ぎた音楽作品を私は聴いたことはがありませんが、毒にも薬にもならない、冷たく知性に走り過ぎた音楽作品はたくさん聴いたことがあります。肉体的に勝ちすぎた音楽を聴くこともありますが、大きくて騒々しくてこれにも私は耳を背けてしまいます。

聴衆あるいは他のメンバーに対して、楽器に必要な肉体的エネルギーというものは自分の音量を増幅することによって与えられるものではありません。それは内なる肉体から来るものであり、楽器を操る方法によります。自分の演奏をどう表現するかという決断が、音楽を最も力強く明確な方法で表現するために必要な肉体的エネルギーあるいは生気をもたらすのです。

クラシック音楽でのテクニックは有効ですので学んで採り入れるべきです。いったん習得したらそれ以外の個人的なテクニックも追加してクラシック音楽のテクニックと関連付けて使用して下さい。一流のソロプレーヤーになろうと努力する者は自分の感情、知性、肉体的エネルギーをバランス良く培わないとなりません。たとえ知性を欠いた音楽であったとしても感情、そして肉体的エネルギーのある音楽は多くの人々に称賛されます。しかし、感情そして肉体的エネルギーの無い音楽は、たとえそれが知性の高いものであってもほとんどの人に訴えるものを持ちません。世界の人々を高揚させるために、あなたの音楽を通してより多くの救いをもたらす一流のミュージシャンになれるようにこの3つのエネルギーのバランスをうまくとるように努力してください。

 

5−17 一貫性

真の芸術家としてその名をとどめるためには音楽家、作家、詩人、俳優、画家、彫刻家いずれに限らず高いレベルの一貫性を維持しなければなりません。それは感単に成し遂げられるものではありません。不断の学習、たゆまぬ練習そして多くの場合、自分の芸術を常に最高のレベルに維持できる不変の意志を持つことにあります。

自分の表現が、自分で定めた一貫性の最高レベルを超えるときが稀にあります。そのような時には大いなる自己満足感を経験することができます。しかしいつまでもこの充足感に頼ってはいけません。思い上がったり、その感動が自分を介してというよりむしろ自分から生じたものであると考えたりしないことです。

また、その表現が、自分で決めた一貫性のレベルよりかなり落ち込むことが稀にあります。このような場合には大きな絶望を経験するでしょうが、この絶望に長くこだわらないことです。さもないと、抜け出すことが難しいスランプに陥ってしまいます。

スランプを抜け出し、自分が到達し維持したい高度な一貫性のレベルにまで戻る方法を探すために、自分を問い質して気持ちのバランスを整えてください。芸術家としてのあなたはそのレベルに到達し、それを維持しなければなりません。そうすれば、愛、美しさ、慰めが現れ人間性に通じる水路を光り輝かせることができるのです。

 

5−18 ソロの一貫性

一流のジャズミュージシャンになろうと思うなら時たま素晴らしいソロを演奏したからといって満足してはいけません。演奏する時はいつでも一流のソロを演奏できるように努力をしなければなりません。ハーモニー、コード進行、異なった転回によるコード進行を学び、アドリブの練習を毎日してください。自分の好きな曲を選んでその曲のアドリブを練習してください。アドリブを練習するときは、正しいコード進行であることを確認してください。良くも悪くも無いような、平凡なソロをしないように心がけてください。独創的なハーモニーとメロディアスなアイディアの詰まった、刺激的でエネルギッシュでユニークなソロを求めて努力してください。できる限りたくさんの感情を自分の演奏に込めてください。音色、テクニック、スタイルも大切なことなので取り組んでください。ソロプレーヤーはソロ演奏の高度な一貫性により聴衆の目と耳に一流ソロプレーヤーとしての訴えをすることができます。つまり、一流ソロプレーヤーはいつでも立派な演奏を創り出し、与えると信頼されているからです。

アドリブしている時は自分の演奏する作品にあるハーモニーという肉を簡単につまみ上げてかじりつくだけで満足しては絶対にいけません。その曲のハーモニーを内からも外からも追求してください。その曲を学び、吸収し、記憶し、正しいハーモニーで練習してください。自分のソロが面白く、流暢で、和音的に正確であることを求めてください。

音色、テクニック、スタイル、メロディ概念そしてリズム概念はみんなすべて重要な要素ですが一流ソロプレーヤーにハーモニーの要素は欠かせません。画家が絵の具で描くように、一流ソロプレーヤーはハーモニーで色付けをするのです。もちろん、真に偉大な演奏を導き出すためにソロプレーヤーの感覚、感情、魂をその他の要素と混ぜ合わせなければなりません。

テクニックも重要ですが、最も大切な要素は与えられた時間内にいくつの音符を演奏するかではなく、いかに有効で正確な音符を演奏するかそしてどれだけの感情をその演奏に込められるかということです。この本で与えられるその他の要求も含め、これらの要求をうまく組み合わせることが出来たならどんなバンドのオーディションにも準備が整ったことになります。

 

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