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「悲劇の極致は喜劇」

    チャーリー・チャップリン(喜劇俳優)   





























The Theater

In case of Pacificocean Battlefield
(shinji&asuka)


第1部、第0幕「開幕ベルの鳴る前」










USS「アーゴーン」

ニューカレドニア、首府ヌーメア

1942年7月21日1300








日本軍がガダルカナルに飛行場を建設しているのを確認したアメリカ軍は反攻作戦を発動した。

1942年8月7日、アメリカ第1海兵師団がガダルカナル島に上陸し、完成したばかりの飛行場を奪取した。

これに対し、日本軍もただちに海空からの反撃を開始する。

これから行われる戦いを、後の人間は

『太平洋戦争最大の激戦』と呼ぶ・・・・・・・・









ニューカレドニア。

後の世で”天国に一番近い島”と称されるこの島は・・・・何もない島だった。

しかし、普段であれば現地の人間が漁をするぐらいしか見れない港の方はアメリカ人であふれていた。

何故かと言えば、ガダルカナルと言う今まで誰も知らなかった島に海兵隊が上陸。日本人が飛行場を建設していたその島を奪取したからだった。

日本人は激怒して、奪還を・・・最悪でも襲撃は試みるだろう。

そのために弱体だった南太平洋軍が増強されているのだ。

だが、たかがこんな小島に合衆国海軍南太平洋軍司令部を置ける建物があるはずもない。

一時はニューギニアのポートモレスビーに移す、という話もあったが、

「あそこは敵に近すぎる」

という司令官の鶴の一声で、ヌーメア残留が決まった。

そんなわけで司令部は、港に停泊している指揮艦「アーゴーン」にある。

どんなフネかと言うと・・・・

貨物船にやたらとアンテナが立っているのを想像してもらえばいい。

そして、その「アーゴーン」に一組の男女が乗船する・・・・

「暑い・・・・・」

合衆国海軍の純白の制服を着た長い髪の美女がいかにもけだるそうにしている。

他の士官と同じ制服なのだが、彼女にはよく似合っている。

アスカ・ラングレー少佐。

駆逐艦「ベッドフォード」艦長として着任の報告に来たのだ。

「当たり前だね。ここは赤道直下だよ?これで涼しいようなら異常気象だね」

それに答えるのはやはり制服姿の美男子。色が白く、髪は銀髪。

カヲル・ナギサ大尉。

「ベッドフォード」副長として、艦長の付き添いに来た。

と言えば聞こえはいいが、要するに堪忍袋の緒が切れやすいアスカのストッパー役だ。

「んなこと解ってるわよ・・・・言いたくなるのよ・・・」

長い髪もいささかうっとうしいようだ。後ろで束ねると、ゴムでくくる。

「さて、我らが司令官にご対面だね」

カヲルがいかにも楽しげに言う。

「アタシは知らないんだけど・・・・どんな人なの?」

カヲルはニヤリと笑う。

「会えば解るよ」

アスカはちょっと拍子抜けしたように、

「ま、そりゃそうね」

そう言うと、二人はタラップを上がり、「アーゴーン」の中に消えていった。





















帝国軍艦「大和」

カロリン諸島、トラック環礁

7月21日、1600







アスカとカヲルがそんな漫才にも似た会話をしていたヌーメアから約2000マイル。

南太平洋におけるGF(聯合艦隊)最大の根拠地があった。

トラック島。

本来は環礁全体を指すのだが、いつの間にかこの呼び名が定着してしまった。

その環礁の中には鋼鉄の番犬たちが群れていた。

そんな中でも一際目立つ番犬が、ちょうど環礁の中央に鎮座していた。

GF旗艦「大和」。

排水量64000トン、世界最大の番犬である。

その「大和」に、一人の士官が乗り込もうとしていた。

舷梯を昇る彼は防暑服に身を固めているが、表情は穏和そのもの。

繊細そうな、女性のような顔立ちの青年だ。

「やっぱり大きいなあ・・・・」

そして彼は下士官が一人いる舷門にたどり着くと、姓名を申告する。

「碇シンジ中佐、GF司令部に呼び出されました」

彼は、相手が下のものでも敬語を使うようだ。

下士官は、こんな青年が中佐なのかという驚きと、士官から敬語で話しかけられたという驚きを表には出さなかった。

「わかりました・・・碇中佐ですね?・・・・「大和」は初めてですか?」

「ええ・・・・今まで前線しかいなかったもので。一度見たいとは思ってましたけどね」

「それでは案内の兵をつけます・・・・でないと迷子になりますからね」

そう言うと下士官は笑みを向ける。

シンジも笑みを返す。

「ありがとう」

そしてシンジは兵の案内で迷路のような艦内を抜けて目的地へ到達する。

シンジは案内してくれた兵に丁重に礼を述べると(兵もやはり面食らっていた)ドアをノックする。

「誰だ?」

部屋の中から少し太い男の声が聞こえる。

「碇シンジ、艦共々本日到着しましたのでご報告にまいりました」

「おお!碇か!入れ入れ!」

「失礼します」

シンジがドアを開けるとそこは少し狭い個室だった。

「久しぶりだな、碇少佐・・・・あ、いや中佐になったんだな」

部屋の主はシンジを懐かしそうに見つめる。

「二人の時はシンジと呼ぶぞと言ったのはどちらでしたっけ?加持大佐?」

シンジはいたずらっぽく尋ねる。

「はは、そうだったな」

部屋の主   聯合艦隊主任戦務参謀、加持リョウジ大佐   は無精髭をなでながら笑う。

二人は江田島   海軍兵学校   の先輩、後輩なのだ。

「そうだ・・・・祝いを言ってなかったな、昇進おめでとう。最年少の中佐らしいな」

「大したことしたわけじゃないんですが・・・・」

シンジは照れながら答える。

「敵艦を4隻も沈めて大したことじゃない?」

加持がお返しとばかりにシンジをからかう。

「そんな・・・あの時だって僕は何もしてませんよ。突撃した後は泡食ってましたし」

「まあ、みんなそんなもんだ・・・・ところで仕事の話だが・・・・」

とたんに加持は真面目な顔になる。シンジも真剣な表情になる。

「お前のフネは第8艦隊に配属になる」

「8艦隊ですか・・・・」

「敵電を傍受して解ったらしいんだが・・・・どうやら連中、なにか企んでるらしい」

加持は一息つくと机の上に置いてあった茶をすする。

「それで、第8艦隊の司令長官が戦力の増強を求めてきたってわけだ」

後をシンジが引き取る。

「ウチのフネもその増強の一環ですか」

「察しがいいな、その通りだ・・・・これは俺の勘なんだが・・・・ヤツらが狙っているのはおそらくガダルカナルだと思う」

「ガダルカナル・・・・」

「ヤツらの勢力圏に最も近く、飛行場が完成するまでは丸裸に近いからな。あそこは」

「そうですね・・・・僕もそう思います」

「そこですぐにでもここを発ってラバウルに向かってほしい・・・・強行軍になってしまうが頼む」

「解りました。燃料と糧食を積み込み次第出航します」

「すまんな、慌ただしくて」

「いいんですよ。それにこんなところでのんびりしていて肝心のいくさに間に合わなかったら洒落になりませんからね」

「そうだな・・・・そういえばシンジ、お前8艦隊の司令長官、誰だか知ってるのか?」

「いえ、内地を出てから無線封止してましたから」

「そうか・・・じゃあ教えといてやるが、8艦隊は今碇ゲンドウ中将が掌握している」

「ええ!?」

「そう、お前の親父さんだ」





















USS「ベッドフォード」

珊瑚海

8月2日、0900






「しかし・・・・我が軍も思い切ったことするわねえ・・・・」

航行中の「ベッドフォード」のブリッジではアスカが独り言を呟いていた。

「そうですね・・・・でも、ウチの”御中将”が言い出したんじゃない事は確かですね」流石に他の部下のいる前では敬語を使うカヲル。

”御中将”もちろん彼女達の直属上官、南太平洋軍司令官である。

「当たり前ね。あの臆病者にそんな気概あるわけないでしょ・・・・大方、ニミッツ大将とターナー中将がグルになったんでしょ」

アスカが言っているのはこういうことだ。

10日ほどまえに訪れた「アーゴーン」で、ガダルカナルへの侵攻作戦「ウォッチタワー作戦」の発動と、それへの参加を命じられた。

だが、命令した本人が作戦に懐疑的で、

『ジャップはあなどれない』や、

『この作戦は絶対失敗する』だのといった文句を並べ立てるのだ。

そんな指揮官のもとで部下の士気が上がるわけがない。

だが命令は命令。いったんそれが下ったら従うほか無い。

そんな訳でアスカの「ベッドフォード」も、ターナー中将率いる第62任務部隊の一艦としてガダルカナルへ向かっているのだ。

艦隊はバンデクリフト少将の第1海兵師団を輸送している。

つまり、彼らが対日戦反撃の一番槍、ということだ。

「まあ、こうやって出てきたんですし、文句は無いのでは?」

「んー・・・まあそうなんだけどね・・・・アタシ達が攻めたら日本人は出てくるかしら?」

「十中八九、来るだろうね・・・・ラバウルには連中の艦隊が常駐してるらしいから」

「ふん・・・・そうなったらそれがアタシと「ベッドフォード」にとっての初陣ってわけね」

アスカにはまだ実戦経験は無い。

それを危惧する声もあったが、合衆国海軍初の女性艦長という”ニュース性”が重視された。

もっとも、アスカはそんなことは気にもとめていないが。

「ベッドフォード」もこれが初めての戦闘になる。

元々このフネはフレッチャー級の2番艦、DD−446「ラドフォード」として完成する筈だったが、竣工直前に予定艦名が変更された。

全長114メートル。

排水量2,110トン。

兵装は12.7p単装両用砲5基5門、5連装魚雷発射管2基、機銃等多数。

速力38ノット。

つまり、この型の駆逐艦は今、アメリカが望みうる最良の駆逐艦なのだ。

「で、揚陸作業の開始予定は?」

「スケジュール通りにいけば・・・・・・・・7日の0600・・・・」





















帝国軍艦「鳥海」

ニューブリテン島、ラバウル

8月7日、1230






元オーストラリア領、ラバウル。

開戦後、日本軍が占領してからここは海軍最大の航空基地になっている。

そして同時に最強の航空基地でもある。

ここに第8艦隊司令部が臨時に指令部を置いている。

といっても陸上にあるわけではない。

敵手と同じような理由から、沖合に錨を沈める重巡洋艦「鳥海」に指令部はある。

シンジは今日の朝、ラバウルに到着し、今はその「鳥海」に来ている。

第8艦隊司令部に着任の報告をするためだ。

シンジは「鳥海」の奥まったところにある長官室をノックする。

「入れ」

シンジにとって久しぶりの(開戦以来、会話すらしていない)父親の声が聞こえる。

ドアを開けると、髭のオヤジが部屋の真ん中のテーブルに居座り、その傍らに好々爺のような初老の男性が控えている。

シンジはテーブルの前まで歩くと、敬礼する。

「碇シンジ中佐、軽巡「綾瀬」共々ただいま着任いたしました」

ゲンドウは肉親の情などカケラも見せずに、

「よく来てくれた、中佐。状況は切迫している。私は忙しいので席を外すが、作戦の詳細は参謀長と話してくれ」

そう言うとゲンドウは席を立ち、部屋から出ていってしまう。

「ふふ・・・・あいつめ、相変わらずだな・・・・久しぶりだな、シンジ君」

「お久しぶりです、冬月少将」

「おいおい、他人がいる前ならともかく、ここで”少将”はやめてくれ。」

冬月は微笑みを絶やさない。

「はい、冬月さん」

「あいつも本当は色々話したいんだろうが、照れているんだよ」

シンジは笑いをこぼす。

「ふふふ・・・・ええ、父さんがガンコなのは今に始まった事じゃないですからね・・・・一番苦労してるのは冬月さんでしょ?」

「ああ・・・・まったくだ。それでいて些事は私に押しつけおる・・・・まあ、それなりに楽しくやってるよ」

「で、こちらの状況はどうなんです?」シンジは表情を堅くして聞く。

冬月も顔を引き締めると、

「今日の未明、ガダルカナルに敵が上陸した・・・・やられたよ・・・・完璧な奇襲だ・・・・」

「上陸されたんですか!」

「あそこには元々設営大隊しかいない・・・・防備用の陸戦隊もいない」

「で、指令部の方針は?」

「無論、攻撃する。既にここ(ラバウル)の航空隊が襲撃をかけているが、なにせ片道560海里(1040q)だ。なかなかうまくいかんらしい・・・・」

「往復したら零戦でもやっとの距離ですね・・・・」

「その通りだ。それでも台南空の零戦隊は頑張ってるらしいが、陸攻の被害がバカにならんらしい。そこで、我々の出番だ」

「夜襲ですか?」

「うむ、今のところ連中が制空権を握っている。しかも付近には空母がいるかもしれんのだ」

「で、僕の役割は?」

「うむ・・・・駆逐艦数隻を率いて前衛をつとめてもらいたい・・・・臨時の水雷戦隊だな」

「あとの戦力は?」

「第8艦隊の総力をつぎ込む。重巡5・軽巡3・駆逐艦6だ」

「・・・・解りました・・・・全力を尽くします」シンジは改めて敬礼する。

冬月も答礼する。

「健闘を祈る」





















USS「ベッドフォード」

ソロモン諸島、ガダルカナル島

8月8日、0600






「ベッドフォード」は上陸部隊の護衛を終え、付近で警戒に当たっていた。

いつ日本人が攻めてくるか解らないからだ。

ゆえに「ベッドフォード」は、この海域に進入したときから戦闘配置を解いていない。

アスカとカヲルは艦長室でコーヒーをすすっていた。

他の乗員と違い、今まで48時間ぶっ通しであれこれしていたのだ。これぐらいの休息は許されてしかるべきだろう。

「しっかし、やけにスムーズな上陸だったわねえ・・・・」

アスカは昨日と同じように疑問を口にする。

「どうやら、島には工兵しかいなかったみたいだね・・・・その連中も島の奥に逃げたらしいし」

これもまた昨日と同じようにカヲルがその疑問を解消する。

「んで、飛行場の方はどうなの?」

「もうほとんど使える状態らしいよ・・・・現に航空隊の一部が進出して敵と渡り合ったって話だからね・・・・日本海軍に感謝しないと」

カヲルはそう言うと皮肉っぽい笑みを浮かべる。

「なんかコソ泥みたいね」

アスカもつられて苦笑する。

「重巡6、軽巡2、駆逐艦9・・・・さて、これで防ぎ切れるかしらね・・・・」

「・・・・・・どうかな・・・・こと夜襲に関しては相当な技量らしいよ。我らがインペリアル・ジャパニーズ・ネイヴィは」

「まあ、やれることをやる。それしかないわね・・・・」

「そうだね・・・・」

《コンコン》

艦長室のドアがノックされる。

「入れ!」カヲルがアスカに替わって答える。

「失礼します!」入ってきたのは当直の少尉だ。

「どうした少尉、何かあったのか?」カヲルが尋ねる。

「ハッ、陸上の任務部隊指令部から連絡があり、”日本軍ノ接近ノ可能性大ナリ、警戒ヲ密ニセヨ”とのことです」

「まあ、言われなくてもわかってるけど・・・・わかりました、少尉。ごくろうさま」

「ハッ、失礼しました」少尉はそう言うと慌ただしく艦長室から出ていった。彼にもやることが待ち受けているのだ。

「さて、戦争ってワケね・・・・カヲル、レーダー室に目を離すなと言っておいて・・・・先手をとられるのはイヤだからね」

「アイ・アイ・サー」




これから彼女達が立ち向かうのはまぎれもない”戦場”・・・・・・・・





















帝国軍艦「綾瀬」

ソロモン諸島、中央水路(ザ・スロット)

8月8日、0600






シンジを乗せた軽巡「綾瀬」はガダルカナルへ向かう第8艦隊、その先陣をつとめていた。

理由は簡単。

「綾瀬」が第8艦隊では・・・・いや、GF全体においても最も電探(レーダー)装備の進んだフネだからだ。

シンジはこの他に駆逐艦5隻を任されている。

駆逐艦は「綾瀬」の後方を数珠つなぎで航行している。

古典的な単縦陣というわけだ。

その「綾瀬」の艦橋でシンジは夕暮れの海を見つめていた。

「艦長、どないしたんや。辛気くさい顔して」

後ろから声をかけられる。

シンジと同じ防暑服を着た青年だ。

「なんでもないよ、副長・・・・ただ、これからの事を考えてたんだよ」

副長   海軍少佐、鈴原トウジは薄く笑うと、

「艦長、もっと前向きに生きなあきまへんで」

シンジは思いを振り払うように頭を一度振ると、トウジに微笑み、

「そうだね・・・・まずは目の前のことを片づけないとね・・・・」

「ワシはこんなとこでは死ねんのです・・・・約束したんです・・・・」

「・・・・この戦争が終わったら祝言をあげるんだろ?・・・・その時は呼んでくれよ?」

トウジは故郷に許嫁を待たせている。

戦争が始まり、祝言を早めようかという話もあったらしいが、彼自身が反対したらしい。

絶対に生きて帰る、と言って・・・・

「そりゃもちろん。上官に出て頂くのは当たり前でっからな」

ちなみにシンジとトウジ、それにもう一人は江田島の同期だ。

階級に差がついたのは、緒戦におけるシンジの活躍が抜群のモノだったからだ。

トウジは元気よく答えるが、反対にシンジはちょっと沈み、

「それまで海軍があればいいんだけどね・・・・」

「ほれ!またそうやって抱え込む!それはワシらが考えても詮無いことですわ・・・・上の連中に任せましょうで」

「・・・・・・・・わかった、もう今は言わないよ・・・・じゃあ、話を変えよう・・・・戦闘準備の方は?」

シンジは途端にそれまでの柔和な表情から一変して厳しい、男の顔になる。

「なんも問題ナシ。主機、兵装、電探、すべて絶好調です」

「そう・・・・このフネもあと何時間かしたら真価が試されるんだね・・・・」

「今更こないな事言うのも気が引けますが・・・・このフネを水上夜戦なんかに投入するのはどうも・・・・正直言って解せんのですわ」

シンジは顔を引き締めたまま、

「しょうがないんだよ・・・・このフネが守るべき空母は我が海軍にはもはや無いんだから・・・・」

二人の乗る「綾瀬」は、本来空母直衛用に建造された。

攻め寄せる敵の艦載機から空母を守るため、これまでにない強力な武装を備えていた。

まず排水量。これは14000トンある。

多数の防空火器や、それに関係する装備品を積み込むためこの大きさになったのだが、

なにせGFの保有するどの重巡洋艦よりも大きい。

主兵装は98式65口径10p連装高角砲16基。4基づつ背負い式に前後に振り分け、あとの8基を4基づつ左右舷においている。

そしてそれを管制する1式射撃指揮装置8基。これは指揮装置1基で2基の砲を管制する。

速力は最大で33ノット。

このように強力は強力なのだが、欠点もある。

要するに、建造するのに金と手間がかかり過ぎるのだ。

実際、「綾瀬」に同級艦はいない。

艦政本部は「綾瀬」級に替えて防空駆逐艦の「秋月」級を量産させる積もりらしい。

それすら、開戦以後うまくいっていないらしいが。

そんな「綾瀬」なのだが、ここに来て問題が出た。

なんのことはない。この6月にミッドウェーにおいて主力の正規空母4隻が沈められたからだ。

番犬は守るべき家を失ったのだ。

「・・・・・・・・・・・・・・」

シンジは表情をゆるめ、ちょっと笑うと、

「でも、僕も元々は砲術士官だからね・・・・空母のお付きをやるよりはこっちの方が性に合ってるね」

「でも・・・・どれ程の戦力なんですかねえ・・・・敵さんは」

「わからないけど・・・・嫌がらせに来たのでない限り、かなりの戦力だろうね・・・・そうだ、ケンスケは?」

シンジはもう一人の同期生の名を口にする。

「ああ、砲術長でっか?アイツなら射撃指揮所でなんかやっとりますわ」

「最後の調整かな?」

「まあ、そんなとこでしょ・・・・まあアイツは好きでやってるだけですよ」

「だれが好きでやってるって?」

艦橋に新しい声が響く。

眼鏡をかけた少し不健康そうな印象を与える青年だ。

「違うんか?」

「いや・・・・違わないな」

軽巡洋艦「綾瀬」砲術長、相田ケンスケ少佐は顎に手をやって少し考えるとそう呟く。

「ほらみい・・・・お前はドンパチがしたくて海軍に入ったんやろ?」

トウジがここぞとばかりにからかう。

「うーん・・・・否定はできないな・・・・」

やりとりを聞いていたシンジはくすくす笑うと、

「で、どう?順調かな?」

「まあ、今のところは。なにせ日本の工業水準を大きく飛び越えてますからね、本艦の装備は」

「電探射撃(レーダー管制射撃)はうまくいきそう?」

それを聞くとケンスケは胸を突きだして、

「それができなきゃ私が乗り組んでる意味がありませんよ。艦長」

「そうだったね・・・・・・・・スラバヤの方で戦ってたときはこんなに面倒じゃなかったんだけどなあ・・・・」

「まあ、これが戦争ですわ」

締めくくるようにトウジが言う。

「・・・・・・・そうだね・・・・どんな装備であれ、僕達は戦うことしかできないんだよね・・・・」

「「・・・・・・・・・・・・・」」




そんな三人が、スクリューと蒸気タービンで向かう先も、やはり戦場。





















USS「アーゴーン」

ニューカレドニア、ヌーメア

8月8日、0600






艦艇の出払ったヌーメアはまことに閑散としていた。

これがここ本来の姿なのだ。

そんな中で、「アーゴーン」だけがその船体を動かしていない。

こんな商船に毛が生えたようなフネを戦場に連れていっても足手まといになるだけだからだ。

「司令官、揚陸作業は順調に進んでいます。戦闘艦は全て付近の警戒に当たっています。

「アーゴーン」の指令部区画で、そんな報告がなされた。

「よろしい・・・・ジャップは必ず撃滅せねばならん・・・・どんな犠牲を払ってもだ」

サングラスをかけた太めの(いや、かなり太った)男が誰ともなく呟く。

南太平洋軍司令官、キール・ローレンツ合衆国海軍中将。

それを聞いて報告をおこなった参謀は、

『こんな人が一軍を束ねる司令官とは・・・・』と、内心で嘆いていた。

だが、言うべき事は言わねばならない。

「司令官、今回の作戦は急場でこしらえたものです。戦力も十分とは言えません」

「そんな事はわかっておる!それを何とかするのが君達の仕事だ!!」

キールはその太った体を揺らせて声を荒げる。

『せめて”私達”と言ってくれんかな・・・・・・・』

参謀はもっともな感想を抱く。

「日本軍の第8艦隊は重巡を多数保有しています。これは暗号解読によるもので確かなモノです。それに加え、クラス不明の新型艦も増派したようです」

「ふん!知ったことか!元々この作戦は私の本意ではない!仮に失敗しても私の責任ではない!!」

『司令官は責任をとる為にいるんだろうが・・・・』

参謀が溜息をつく。

実際、キールは”最低の軍人”の見本のような男だった。

着任から司令官の肩書きを大げさに誇示し、

『ジャップなどものの数ではない』と、大言壮語し、

部下には威張り散らし、

日本の艦隊が思ったよりも強力だと解った途端、太平洋艦隊司令部に泣きついたが、返事はにべもなかった。

『太平洋艦隊に艦艇の余裕ナシ。現有兵力で善処されたし』要するに”無い袖は振れない”という事だ。

だが、そのようにして貯まりに貯まったツケを払うことになるのはキールではない。

各艦の艦長や乗員達なのだ。

それを思うと参謀には猛烈な後悔が襲ってくる。

「まあいい、私は現場の人間を信用することにしている。お手並み拝見といこうではないか」

『アンタも”現場の人間”なんだよ!』

参謀はキールに軽蔑の(もしかすると憎悪の)視線を向ける。

だが、キールは明後日の方向を向いて薄ら笑いを浮かべるだけだった。




こんな彼らがいる場所も、歴史の手にかかれば”戦場”になってしまう・・・・・・・・・





















帝国軍艦「鳥海」

軽巡洋艦「綾瀬」の後方10マイル

8月8日、0600






シンジ達の臨時の水雷戦隊から少し離れたところに第8艦隊の本隊がいた。

高雄級重巡洋艦「鳥海」を旗艦とした有力な水上打撃部隊だ。

とは言っても、艦隊の大半は旧式艦で占められている。

今も後続している筈の軽巡「天龍」など、1919年建造。GFでもっとも古い軽巡ときている。

旗艦の「鳥海」にしても建造から10年が経過している(もっとも、「鳥海」はまだマシな方だが)。

他のフネも似たり寄ったりだ。

8艦隊で掛け値なしに新鋭艦と言えるのはシンジの「綾瀬」ぐらいなものだろう。

要するにGFは旧式艦だけでソロモンの戦いを勝ち抜こうとしているのだ。

ムシがいいにも程がある。

そしてその10年選手、ヴェテラン巡洋艦の夜戦艦橋に第8艦隊司令部の面々が詰めていた。

「やれやれ・・・・寄せ集めの艦隊を指揮するのがこんなに苦労するとはな・・・・」

第8艦隊司令長官、言わずとしれた碇ゲンドウがこぼす。

「珍しいな、碇。愚痴か?」

参謀長、冬月コウゾウがからかうように聞く。

夜戦艦橋には今二人しかいない。

だからこそこんなざっくばらんに話しているのだが。

「冬月・・・・考えてもみろ・・・・なんとか艦隊運動が出来るようになったら即実戦だぞ?・・・・あと3日は欲しかったな・・・・」

「まあ、仕方あるまい。短期間でここまで仕上げれば大抵のことはこなせるだろう」

「まあ、な・・・・・」

「それより、シンジ君は凄いな。「綾瀬」を手足のように使いこなしていたぞ・・・・指揮下にさせた駆逐艦の使い方もうまいものだ」

「ふむ・・・・・・」

ゲンドウは低く呟くだけだった。

「まったく・・・・少しは父親らしい事はしてるのか?」

「・・・・そんな暇があるわけがないだろう?開戦以来あちこちを転々としていたからな」

「まあ、それはそうだが・・・・」

「それにアイツも開戦から南方の前線につきっきりだ・・・・妻が寂しがっているよ」

「まったく・・・・」

冬月は何度目かわからぬ溜め息を漏らす。

「私もアイツも海軍士官だ・・・・戦場に出たら戦うしかあるまい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」




彼らが身を投げ出すのも、やはり”戦場”・・・・・・・・・
























”戦場”という名の舞台は、今まさに開幕ベルを鳴らそうとしていた。








演じるのは戦うべき将兵。








入場料は彼らの命。








観客は後世で語られる”歴史”・・・・・・








これは”悲劇”だろうか?








あるいは”喜劇”かもしれない。








人間同士が殺しあう”戦争”とは、








”勇気”や”忠節”を見せる替わりに、








人間とはかくも愚かな生物だということを実証しているからだ。








やはり、”喜劇”と呼ぶのがふさわしいのだろう・・・・








これから語られるのは、








人間が二本足で立ってから止むこと無く繰り返されてきた”喜劇”の一つ。








そこで”義務”と呼ばれるものを果たそうとする男女の物語である。








愚かな彼らが戦いの先に光を見いださんことを・・・・・







第2幕へ・・・



あ・と・が・き






・・・・とうとうおっぱじめてしまいました(笑)

いかがだったでしょうか?

「専門用語が多すぎてわからん!!」とか、

「ここはなんか違うんじゃないか?」という疑問等は、

わたし宛にメールをいただくか、乗員休憩所(BBS)に書いていただければお返事いたします。

んでは、ちょっとだけ言い訳。

「綾瀬」は架空のフネです。

要目等もすべて創作ですが・・・・

史実の日本海軍にも、このような計画(あくまで計画だけ)があったことは事実です。

御理解のほどを(爆)

かたや「ベッドフォード」ですが、『フレッチャー級』は実在の駆逐艦です。

要目等も史実通りです。

名前だけ創作です(笑)。

本文に書いてあるとおり、2番艦はDD−446「ラドフォード」として完成し、戦場に赴いています。

何故この時期に女性艦長が?という疑問。

・・・・それは聞かないで(笑)。

そうしないと話が進まないんです。一歩も(爆)。

その他の質問、疑問、感想、罵詈雑言(笑)は、随時受け付けます。

さて、次回はいよいよドンパチです。

うまく書けるかなあ・・・・ちょっち、不安。

読んで頂いた感想をお待ちしております。

メールはこちら




では、おまけの方もどうぞー!





children’s+αによるコメント(コメントから”メ”をとると?(笑))





「・・・・・・・・・・なによ、コレ・・・・」

「なにが?アスカ?」

「ぬわーんでアタシがこんな事しなきゃなんないのよお!!!」

「こんな事って・・・・ああ、上のアレね・・・・」

「シンジ!!アンタは怒ってないの!?」

「うん・・・僕はなんだか格好いいみたいだし」

「なんでわかるのよ・・・・」

「ほら、ここの『第1書庫』ってトコ見てよ」

「ふーん・・・どれどれ・・・なにコイツ、”あの”「めぞんEVA」に部屋貰ってんの?・・・・神をも恐れぬ所行ね・・・・」

   わたしに神様云々言っても効きません。悪魔ですから(笑)   

「ん?・・・シンジ、なんか言った?」

「いや?」

「ふん・・・・まあいいわ・・・・それにしても、コイツの書いてるSSってみんなシンジが格好いいじゃない!どうなってんのよ?」

「うん・・・僕もそう思ってるんだけど・・・・TVや映画が”アレ”だったから、その反動じゃない?」

   その通りです(爆)   

「あれ?・・・・アスカ、なにか言った?」

「え?何も言ってないわよ?」

「あれえ?おかしいなあ・・・空耳かなあ」

「でも、なんか戦争物だと、バッドエンドが待ってるんじゃないの?」

「あ、それは心配ないみたい。作者がしょっちゅう出入りさせてもらってるチャットで断言したらしいよ」

「なんて?」

『痛いモノは書けない!』って。

「本当かしら、信用できないわね・・・・」

「なんかさらに僕とアスカをどうやってくっつけるかで悩んでるらしいよ」

「ふん!そんな文才あんの?コイツに」

   たぶん無いです(笑)   

「おっかしいわねえ・・・・さっきから空耳が聞こえるのよねえ・・・・」

「あれ?アスカも?・・・・僕もなんだ」

「じゃあ、二人とも具合悪いみたいだから早く帰っておねんねしようか!(はあと)」

「うん・・・・そうしようか・・・・アスカ・・・・今夜は寝かせないからね

「んもう・・・・シンジのえっち!

「じゃあ、帰ろうよ」

「うん・・・・(真っ赤)」






   おあとがよろしいようで   




children’s+αによるコ(メ)ント       fin










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