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『戦わねばならぬとすれば、もっともすぐれた者と戦うのだ。

遣わされた者ではなく、遣わせた者と戦うことこそ、もっとも誉れ高きことなのだ』



   ミルトン「失楽園」   





















The Theater


In case of Pacificocean Battlefield
(shinji&asuka)



第1部第1幕「砲火の下の舞踊曲」




















帝国軍艦「綾瀬」

ソロモン諸島、中央水路、ガダルカナル島西北西40マイル

1942年8月8日2200











シンジ達を乗せた防空軽巡洋艦「綾瀬」は、20ノットの速力でガダルカナルへ向かっていた。

既に戦闘準備は完了、艦内には緊張した空気が漂っていた。

「電探室、敵艦はいないのか?」

「綾瀬」艦長、碇シンジ中佐が高声電話を使って電探(レーダー)室とやりとりをしている。

《はい。この付近にはまったく反応はありません》

「・・・・わかった、引き続き警戒してくれ。艦長以上」

シンジは電話を置くと、溜息をつく。

「どないしたんでっか?艦長?」トウジが怪訝そうに尋ねる。

「いや、ね・・・・前衛警戒がまったくいないってのが気になってね・・・・」

「可能性は三つ」トウジが指を3本立ててそう言う。

「?」

「一つ目は、敵が完全に油断しとる」

「それは無いね。敵さんもあそこに手を出したら我々が黙ってないのはよくわかってるよ」

「二つ目は、前衛警戒が行えるほど艦艇に余裕が無い」

「うーん・・・・それはありそうな話だけど・・・・」

「三つ目、これが本命です・・・・敵は罠を張り巡らしてこちらの到着を今や遅しと待ち受けとる・・・」

「・・・・・・・・その可能性が一番大きいね・・・・」

「艦長、そうすると我々は敵の罠に頭からはまる事になりまっせ」

「それはそれで結構。罠があれば正面から噛み破るだけさ」

「そうでんな・・・・」トウジは少し笑みを浮かべる。

「副長、確認したいことがあるんだ」

「?・・・なんでっか?」

「艦隊司令部からは特に指示事項は無かったけど、我が前衛部隊は突撃が下令されたら全速で泊地を目指す。敵戦闘艦とはとりあえずの砲戦は行っても深追いはしない。僕らの標的は泊地にいるはずの敵輸送船団だよ」

「了解です」

「僕らがここまで何しに来たのか忘れちゃいけないからね」

「後続の駆逐隊にも伝えまっか?」

「うん、伝えておいて・・・・それと敵戦闘艦に対する魚雷の使用を禁ずるともね」

「駆逐艦の連中、ぶーたれるかもしれまへんで」

「・・・・・かもね。でも、これは守ってもらうよ」

「了解」

「突入予定時刻までどれくらい?」

「あと1時間です」





















USS「ベッドフォード」

ガダルカナル島、上陸海岸から3マイル

8月8日、2200











同じ頃、アスカは「ベッドフォード」のブリッジで漆黒の闇を睨み付けていた。

アスカの視線の先には、炎上する輸送船がある。

「まったく・・・・まだ消火できないの?」

日中にラバウルから飛来した敵爆撃機に撃破されそれからずっと炎上しているのだ。

「あいつはガソリンと弾薬をたっぷり積み込んでます。二次災害を恐れて手を出さないんですよ、艦長」

カヲルがすかさず答える。

「ふん・・・・それならもう少し距離をとりましょう・・・・前進半速、面舵」

「アイ・サー、前進半速、面舵」

操舵士の下士官が復唱する。

「もし仮に爆発してもここなら大丈夫ですよ?」

「違うわよ・・・・あんなに煌々と明かりを灯されてちゃあ、ここにいますよって言ってるようなモンでしょ?」

「そうですね」

ちなみに連合軍(アメリカ・オーストラリア)は、艦隊を四つに分けている。

南方部隊(重巡3,駆逐艦3)

北方部隊(重巡3,駆逐艦2)

東方部隊(軽巡2,駆逐艦2)

レーダー哨戒隊(駆逐艦2)

と、この様な形で構成されている。

アスカの「ベッドフォード」は南方部隊に配備されている。

一時は「ベッドフォード」はレーダー哨戒隊に配備される予定だった。

単艦で動き回り、レーダーで敵の襲来を警戒する危険な任務だ。

北方部隊指揮官のキャラハン少将が、女性士官であるアスカを嫌ったゆえの事なのだが、意外なところから反対が出た。

南方部隊指揮官のクラッチレー豪海軍少将が、

『「ベッドフォード」は艦隊でもっとも強力な駆逐艦である。哨戒隊にはウチから回すから「ベッドフォード」をウチにくれ』

と言ったのだ。

この話を噂で聞いたアスカは、顔も見たことのないオーストラリア海軍少将に敬意を払うと同時に、自分の所属する海軍にいささかの幻滅を感じていた。

そんなわけでアスカは、クラッチレー少将座乗の重巡「シカゴ」、同じく重巡「キャンベラ」、「オーストラリア」、駆逐艦「パターソン」、「バークレー」と共に警戒についている。

「旗艦の位置は?」アスカが尋ねる

「サヴォ島とガダルカナル島のちょうど中間です」

「さすがクラッチレー少将。敵が通らなきゃならないとこを塞いでるわね・・・・それに比べてあのスカタンは!!」

「だから艦長・・・・皆がいる前ではあまり・・・・」

カヲルの心配は実は無用のものだった。

乗員は、着任以来任務に厳しく、それ以外の時はざっくばらんなこの美しい艦長を大いに気に入っていた。

だから、艦長の気に入らない事は乗員達にとっても気に入らないのだ。

そして、今度のアスカの口撃のマトはもちろん北方部隊指揮官キャラハン少将である。

「だから!?あーんな泊地に引っ込んだまま出てこない臆病者なんてアタシは怖くないわよ!」

「いやだから・・・・」

実際、キャラハン少将の率いる北方部隊は『輸送船団を護衛する』といってガダルカナルの泊地から一歩も外に出ようとしない。

「ふん!・・・・まあいいわ。もし日本軍が来て痛い目に遭うのはあっちだからね・・・・」

その時、スピーカーから報告が入る。

《艦長、レーダーエコーを確認しました》

「日本艦隊なの!?」

アスカはマイクを握り、レーダー室に聞き返す。

《いえ、対空レーダーの反応です。数は1、ここから少し離れた所を旋回してます》

「航空機ぃ??・・・・しょーがないわねえ・・・・「シカゴ」を通して海兵隊に問い合わせて。この真夜中に飛ばしてるかって」

「アイ・サー・・・・でも、海兵隊の機体でなかったら?」

「間違いなく、日本人でしょうね」























帝国軍艦「鳥海」

「綾瀬」の後方1マイル

8月8日、2200











突入直前の「鳥海」では、第8艦隊司令部が一通の電報を受け取っていた。

「長官、ラバウルから暗号電文です」参謀の一人が報告する。

「で、なんと?」

「『付近150まいるニ敵空母ノ姿ヲ認メズ』です」

ゲンドウはニヤリと顔を歪める。

「冬月・・・・意見は?」

「好機だな。おそらくこれ以上の機会は二度とあるまい」冬月がぼそりと呟く。

指令部の他の参謀も、長官と参謀長がこの様に会話するのに慣れてしまっていた。

(確かに、冬月の方が司令官っぽく見えるという事もあるだろうが)

「私も同感だ・・・・よし、艦隊各艦に命令。作戦通り突入せよ」

「了解です」

「さて・・・・とうとう始まってしまったな・・・・」

「ああ・・・・もうこの後はあまり我々の出番は無い・・・・各艦の艦長、乗員の力量次第だ・・・・」

「勝てるか?」

それを聞くとゲンドウは苦笑する。

「軍人にする質問ではないな・・・・それは」

「確かな・・・・・」

「だが、”この戦場”では勝てるだろう」

ゲンドウは「この戦場」に少し力を込める。

冬月はゲンドウの言いたいことがよくわかる。

要するに、

『戦場では勝てても、戦争には勝てない』

そう言いたいのだ。

「この戦争がどうなろうと、私は最後まで悪あがきをする。諦めが悪いんだよ・・・・」

ゲンドウはそう言うと笑みを浮かべる。純粋な笑みを。

「では私もそれにおつき合いするとしよう・・・・腐れ縁だからな」と言うと、冬月も笑う。

「長官、上空の水偵から連絡です。『当該海域ニ敵艦多数見ユ、警戒ヲ要ス』です」

「前衛部隊、速力を上げました!」

命令を出した途端、次々と報告が入ってくる。

「さて、シンジ君も派手にやるつもりらしいな」

「無論だ。アイツははそのために俸給を貰っている」

冬月は少し大きく笑うと、

「お前は息子の事に関しては本当に素直ではないな・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

これから地獄に飛び込もうとしている艦隊司令部には、悲壮感はカケラもなかった。



















帝国軍艦「綾瀬」

サヴォ島北西2マイル

8月8日、2333










《艦長!電探で敵艦を確認!右舷45度、6000メートル、数は5!!》

「見張所から艦長!視認しました!重巡3,駆逐艦2です!」

30ノットで突っ走る「綾瀬」の艦橋に次々と情報が入ってくる。

「右砲戦用意!!」シンジが先程までとは別人のような顔つきになり命令する。

「艦長から(射撃)指揮所!電探射撃いけるか?」

「いつでもいけます!」ケンスケの自信に満ちた声が高声電話から帰ってくる。

「よし・・・少し待て・・・・通信!後続各艦に伝達!『本艦ノ射撃ヲ合図ニ攻撃開始』だ」

「了解!」

通信士官が頷いて通信室に駆ける。

「よし!目標、敵重巡!打ち方始め!!」

シンジが命令を言い終わらない内に、ケンスケは主砲を放つ。

途端、漆黒の闇を光と轟音が引き裂く。

といっても、戦艦のような射撃ではない。

「綾瀬」の備える98式10p高角砲は一昔前の機関砲のようなペースで射撃が出来る。

敵艦に指向できる12基の砲、すべてが火を吹いている。

「初弾・・・・弾着・・・・・今!!」

敵艦の周囲に少し小さめの水柱がいくつも立つ。それと共に敵艦上で砲火とは異なる光が発生する。

「初弾命中!!続けて撃ちます!」ケンスケの声は喜色をかなり含んでいる。

砲術士官にとって、初弾が命中したということは、ただ単に弾が命中したという以上の意味がある。

初弾はどうしても射撃のデータが不正確になる。

基本的に射撃とは撃った弾の弾着をみて、それを修正していくものだからだ。

そして、その不正確な初弾が命中したということは、それを操る男達が並大抵の技量ではないことを示している。

もっとも、「綾瀬」の場合は電探照準の射撃指揮装置のお陰、という側面も多分にあるが。

「よし!そのまま続行せよ!・・・・・・操舵、このまま敵艦の間を突っ切れるか?」

舵を持つ下士官はシンジに不敵な笑みを向けると、

「お安いご用です、艦長」

「よし、じゃあやってくれ!」

そしてシンジは顔を上げる。

「艦隊司令部に連絡!『前衛部隊ハ泊地ニ突撃ス、敵艦ノ後始末ハオ任セスル』以上だ!」

そして、軽巡1隻、駆逐艦5隻が敵艦隊の隊列を引きちぎり通り過ぎた後には、炎上し傾斜する敵艦が残された。





















USS「ベッドフォード」

サヴォ島の東2マイル

8月8日、2333










「ベッドフォード」が南方部隊の本隊と離れたのは訳がある。

レーダー警戒隊の一艦がエンジントラブルを起こして洋上に停止してしまったのだ。

そしてその様子を見てくるように命令されたのだ。

「ふー・・・こんな時にエンコなんかしないでよねー・・・」

アスカが溜息混じりに愚痴る。

「艦長、さっきの航空機ですが、海兵隊には該当機はないそうですが、南に避退した「ワスプ」の搭載機かもしれないとのことで、今そちらに照会中だそうです」

「まったく・・・・横の連絡が悪いわねえ・・・・我が軍は・・・・」

そしてその時、サヴォ島の陰から強い光と轟音が響いてきた。

「!!!・・・・・・・最大戦速!取舵一杯!!砲雷撃戦用意!」

アスカは即座に反応する。

「アイ、最大戦速、」

「取舵一杯!」

機関担当と、操舵担当の下士官がそれぞれ復唱する。

「ベッドフォード」は右に傾きながら回頭する。スピードも徐々に上がってくる。

「「シカゴ」に状況を聞きなさい!」

「ダメです艦長!連絡が取れません!!」

「考えうる限り、最悪ってやつ?・・・・・・カヲル、意見は?」

「・・・・レーダー警戒隊の監視をすり抜けてきたんだね・・・・おそらく南方部隊はもう・・・・」

「ふん・・・・考えるのも忌々しいけど・・・・多分そうでしょうね・・・・」

確かに、その時「シカゴ」以下の南方部隊は第8艦隊本隊に襲われ、バラバラになっていた。

「でも、逃げるわけにはいかないね」

「当たり前でしょ!泊地にはまだ揚陸を済ませてない輸送船が群れてんのよ?」

「艦長、主砲準備よし」

「魚雷発射管準備よし」

「ダメコン準備よし」

艦内の各部署から準備完了の報告が上がる。

「了解!サヴォ島を回り込んで敵の後ろに回るわよ」

「泊地の輸送船団は?」

「あそこにいる北方部隊に任せておきなさい!そう簡単にやられはしないでしょ!」

アスカのこの予想は見事に覆される事になる。




















帝国軍艦「綾瀬」

ガダルカナル島、沖合2000メートル

8月9日、0020











「艦長!右舷30度、敵船団、泊地を埋めています!!」

夜間見張員の声は半分裏返っていた。

第8艦隊はこの情景を作り出すために1000キロの波濤を乗り越えてきたのだ。

「船団の中に重巡・・・・いや、駆逐艦もいます!」

「2番艦、「雪風」に連絡!『駆逐隊ヲ指揮シ、敵船団ニ対シ、統制魚雷戦ヲ開始セヨ』だ!」

「綾瀬」に水雷装備はない。

防空を第一に考えられた為だ。

「指揮所!弾が無くなるまで打ちまくれ!!」

《了解!!》

「綾瀬」から伸びる火線は確実に目標を捉える。

「艦長、「雪風」から連絡!『了解。1分後ニ魚雷発射スル』です!」

「了解!」シンジは叩きつけるように答える。

「指揮所!駆逐隊の援護だ!連中に敵を近づけるな!」

《了解!見せ場ですね!》

「そうだ。ここが一番の見せ場だ!」

「艦長!本隊より連絡です。『本隊ノ後方ニ敵駆逐艦出現ス。「夕凪」ガ小破』です!」

「チッ・・・・敵サンもやるもんだ・・・・後部艦橋、副長!」

《こちら後部艦橋》トウジの声が高声電話から聞こえてくる。

副長の戦闘時の配置は後部艦橋なのだ。艦橋が被弾し、艦長が負傷した場合に備えて。

「本艦の損害は?」

《機銃座が二つ潰されました。それと4番砲塔が故障で射撃不能です》

副長は応急指揮官を兼ねている。

「修理は?」

《やっていますが、はかばかしくありません・・・・どうやら敵弾がかすって、砲座が歪んだようです》

「クソッ!・・・・了解した。そちらで最善の行動をとってくれ」

《了解!》

「「雪風」から連絡!『魚雷発射シタ。命中予定ハ80秒後』です!」

「了解!・・・・・指揮所!状況は!?」

するとケンスケの少し焦ったような声が聞こえてくる。

《輸送船多数、炎上中です!しかし重巡と駆逐艦が動き始めました!》





















USS「ヴィンセンス」

ガダルカナル島、泊地

8月9日、0020











北方部隊旗艦、重巡「ヴィンセンス」のブリッジは大混乱だった。

砲声が聞こえ、閃光が走る。

「南方部隊との連絡はまだとれんのか!!」

「ダメです!まったく応答ありません!!」
  ちくしょうめ
「BASTARD!!・・・・東方部隊を呼び戻せ!大至急だ!!」

北方部隊指揮官、ダニエル・J・キャラハン少将。

大統領付き武官をつとめたこともあるエリート士官である。

それゆえにこの海域に配備された四隊の統括を任されている。

だが、エリートであるのと、実戦部隊指揮官として有能であるというのはまったく次元の違う話なのだ。

第62任務部隊のターナー中将は、彼の実戦経験の無さから、この人事を渋っていたのだが、南太平洋軍司令官の肝いりとあっては仕方がない。

そして、事態はターナー中将の懸念通りになりつつある。

「中将!東方部隊はガダルカナル島の反対側にいます!到着は遅れるそうです!!」
  クソッ
「FUCK!!・・・・忙しいときにのんびりしやがって・・・・」

そののんびりしたところに東方部隊を配置したのが自分だという事を綺麗さっぱり忘れている。

東方部隊指揮官のスコット少将が、

『ジャップがやって来るのなら必ず北から来る。南にフネを置く必要はない』

と、主張したにもかかわらず、この辺りの海を知り尽くしたスコット少将に手柄をとられる事を恐れたキャラハンが東方部隊を南に配置したのだ。

彼は日本人が来ても、南方部隊と北方部隊で片が付くと考えていたのだ。

もし、南方部隊が敵を潰しても、その指揮官は豪海軍のクラッチレー少将であるから、その手柄は自然と自分に転がり込んでくる、という小狡い計算があったのだ。

だが、彼の姑息な考えが艦隊崩壊の危機を招いている。

「「ベッドフォード」より入電!『ワレ、後方ヨリ敵艦隊ニ突撃スル』以上!」

「ふん・・・・あのクソ生意気な女艦長か・・・・返信しろ!『ドノヨウナ手段ヲ用イテモ敵艦隊ヲ阻止セヨ』とな!」

そんな中、見張員からの報告がブリッジに響く。

「敵艦こちらに突っ込んできます!重巡1、駆逐艦5!!・・・・・・・・・撃ってきました!!」

「綾瀬」を重巡に見間違えるのは無理もない。

なにしろ排水量14000トンの”軽巡洋艦”なのだ。

そして、最後の報告は不必要だった。

「ヴィンセンス」の周囲に水柱がいくつも立ち、ブリッジには砲弾が命中した衝撃が伝わってくる。

そして「ヴィンセンス」のブリッジから電気が消える。

「どうした!!」艦長がどなる。

「電路を断ち切られました!現在応急作業中!!」
     クソッタレめ
「Son of the bich!!!・・・・・電路はどこまで切られてるんだ!?」

「正、副両方が切られました!機関は無事です、舵も応急操舵でなんとかなります」

「主砲は!?」

「しばらく無理です!!」

混乱の極みにあるブリッジに、さらなる   そして最後の   報告が入る。

「左舷90度!雷跡多数接近!!!」

キャラハンは顔面を蒼ざめさせる。

      神よ
「・・・・・・Jesus・・・・・・」





















帝国軍艦「綾瀬」

ガダルカナル島、泊地

8月9日、0035









発射された一艦あたり8本、合計40本の魚雷が目標に到達する時間がやってきた。



《命中!命中!命中!!!》射撃指揮所につながるスピーカーからは、ケンスケの感極まった声が聞こえている。

確かに、感極まる情景ではあった。

重巡の内1隻は、船体に閃光がはしると大爆発を起こし、次の瞬間その姿は消えていた。

あとの2隻はいずれも複数の魚雷を受けたらしく、炎上して大傾斜している。

駆逐艦も1隻は魚雷の直撃を受けて沈みつつある。

もう1隻の駆逐艦は幸運にも当たらなかったらしい。

そして、それ以外にも輸送船が転覆したり、油漕船が爆発を起こしたりしている。

「すごい・・・・・・」

シンジがそう呟くのもムリは無かった。

これこそ、日本海軍が艦隊決戦における劣勢を覆す為に補助艦用の主戦兵器として開発した93式61p酸素魚雷の成果である。

欧米の魚雷がだいたい雷速36ノットで7000メートル到達距離だったのに対し、93式は雷速40ノットで30000メートルの性能を誇る。

炸薬重量は500s、これも欧米の魚雷に比して格段に強力である。

北方部隊と輸送船団はこれを手当たり次第撃ち込まれたのだからたまらない。

北方部隊は駆逐艦1隻を残し壊滅。

輸送船団も半数以上が何らかの損害を受けていた。

「この場はもらったな・・・・」

シンジが続けてそう呟く。

「駆逐艦1、こちらに向かってきます!」

見張所からの報告が入る。

「指揮所!相手は1隻だ、叩きつぶせ!!・・・・通信!駆逐隊に連絡!『次発装填ヲ行イ、再度襲撃セヨ』以上!」

《《了解!》》射撃指揮所、通信室双方が間髪入れずに返してくる。

「綾瀬」は、故障している4番砲、それに敵を射界におさめられない4基をのぞいて、全ての火力を敵駆逐艦に向ける。

後続の駆逐隊は「綾瀬」から離れる。

距離と時間を稼ぎ、発射管に再度魚雷を装填するのだ。

実は、これも日本海軍独自のモノである。

次発装填装置。

文字通り、魚雷を撃ってカラになった発射管に再び魚雷を詰める装置だが、欧米の駆逐艦には装備されていない。

駆逐艦による水雷夜襲を金科玉条としてきた日本海軍ならではの装備といえる。

だが、欠点もある。

なにせ駆逐艦は狭い。予備の魚雷を格納出来るようなスペースは艦内には無い。

予備魚雷は甲板上に専用の容器に入れて格納してあるのだが、ここに敵弾を被弾して誘爆したら一巻の終わりである。

実際、そのような事例も報告されている。

良くも悪くも日本らしい、と言えない事もない。

そして駆逐隊が魚雷を再装填している間に、「綾瀬」は駆逐艦と死闘を繰り広げていた。

敵艦は「綾瀬」の10p砲弾が霰のごとく降り注ぎ、スクラップ5分前という感じなのだが、機関は生きているらしく、かなりのスピードでこちらに向かってくる。

「大したものだ・・・・あれだけ叩かれながらそれでも前に進もうとするとは・・・・」

シンジが敵ながら天晴れといった感で言う。

だが彼らはシンジの敵である。

「指揮所!敵艦の艦首に砲撃を集中しろ!!」

《了解!》ケンスケもなかなか仕留められず焦っているようだ。

そして、艦首に砲弾が集まり始め、敵艦は急速に速度を落とす。どうやら浸水が激しくなったのだろう。

『もうすぐに沈むな・・・・』シンジがそう考え、視線を敵艦から外した途端!

Don!!

「うわっ!!!」

強烈な爆音と共にシンジは薙ぎ倒された・・・・・・・




















帝国軍艦「鳥海」

サヴォ島の南、5000メートル

8月9日、0035











「鳥海」以下の第8艦隊本隊は、南方部隊を片づけると泊地に向かおうとしたが、駆逐艦1隻に足止めを食い、その間にさらにスコット少将率いる東方部隊に噛みつかれていた。

「「夕凪」被雷!!沈みます!!!」

「「加古」より連絡!『ワレ、敵弾ニヨリ舵機故障ス。戦場離脱ノ許可ヲ願ウ』です!」

ゲンドウはそれを聞き、少し表情を渋くすると、

「・・・・「加古」に返信しろ・・・・『了解。らばうるマデ自力デ帰還セヨ。無事ヲ祈ル』・・・・以上だ」

「ふむ、敵もなかなかやるな・・・・」

冬月が感心したように漏らす。

「ああ・・・・特に、我々の後ろから食いついてきた駆逐艦だな・・・・ヤンキー魂といったところだろう・・・・」

「だがどうする?このままでは泊地に突入できんぞ?」

「・・・・かまわん・・・・そのための前衛部隊だ」

冬月は微笑しながら、

「ふふ・・・・なんだかんだ言いながら信頼してるのだな」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「そうなると・・・・引き際も考えておかねばな」

「ああ・・・・夜が明けたら敵の航空機が襲ってくるだろう・・・・それまでには避退せんとな・・・・いくら「綾瀬」がいるとはいえ、防ぎ切れまい・・・・」

「敵軽巡、脱落します!!」

見張員の報告を聞き外に目を向けた二人は、1隻の軽巡が炎上して速度を落としているのがわかった。

「よし・・・・ここの戦いは勝ちだ・・・・引き上げるぞ、隊形を整えさせろ・・・・前衛部隊にも連絡しろ」

それを聞き、通信参謀が答える。

「了解しました」

だが、そうする間にも後方から襲ってきた駆逐艦は縦横に駆け抜け、本隊に打撃を与え続けている。

「「青葉」、被弾しました!」

「感心ばかりもしておれんな・・・・よし、全艦に伝達『撤収開始。損害ノ激シイ艦カラ後方ニ退却セヨ』・・・・以上」

そしてその命令が各艦に伝わる前に、「鳥海」にとんでもない電文が飛び込んでくる・・・・・・




「前衛部隊より入電!!『旗艦「綾瀬」ノ艦橋上部ニ被弾。損害不明』!!!」





















USS「ベッドフォード」

日本帝国海軍第8艦隊本隊から1500メートル

8月9日、0035











「ベッドフォード」は孤軍奮闘していた。

日本人の後ろから奇襲し、駆逐艦1隻を沈めている。

ゆえに、「ベッドフォード」のブリッジは意気軒昂だった。

「面舵30度!右にいる重巡に食らいつくわよ!」アスカが目を爛々と輝かせながら命令する。

「面舵30度!」

「目標、敵重巡。撃ちます!」

カヲルがそう答えると(彼は副長と砲術帳を兼任している)敵を射界におさめている前部2基の主砲が発砲する。

「敵艦発砲!!」

命中の煌めきとは別種の閃光が敵の重巡にはしる。

途端に「ベッドフォード」を衝撃がつらぬく。

「被害を報告しろ!」カヲルがどなる。

すると、スピーカーから応急班の返答が返ってくる。

《3番砲全損!砲員全滅です!・・・・それと水線下に1発食らいました!機関室で浸水しています!!》

「浸水は食い止められるか?」

《やっていますが、穴が大きすぎます!第1機関室はすぐに使用不能になると思われます!!》

「クソッ!!」報告を聞いてカヲルが毒づく。

「・・・・・・・・今回はここまでね・・・・・・・・カヲル、どう思う?」

                                                  
「・・・・悔しいですが、同感です。このまま戦っていたら、いずれ速力が落ちて・・・・殺られるでしょう」

駆逐艦は、別名「ブリキ缶」とも呼ばれている。

装甲が無きに等しいという意味だ。

だから、駆逐艦の安全を保つ要素はその高速だけなのである。

そのスピードが落ちるということは駆逐艦にとって”死”と同義なのだ。

「・・・・よし・・・・決まりね・・・・通信室、スコット少将に連絡して。『ワレ被弾ス。泊地方面ニ避退ス』」

「了解!」

「取舵30度・・・・泊地に向かうわよ・・・・」

「アイ・アイ・サー」

敵の重巡は、なおも「ベッドフォード」を砲撃するが、至近弾はあっても命中弾は無かった。

「東方部隊より返信!『了解。東方部隊モ損害激シク、コレ以上ノ戦闘行動ハ不可能。撤収スル』です!」

「・・・・負け・・・・ね・・・・」

「ああ・・・・どうやらそうみたいですね・・・・」

「敵艦隊、後退していきます!!」

外を見ると、確かに敵艦隊は少しずつ後退していた。

だが、損害のひどいフネをかばうためだろう、重巡が1隻踏みとどまって東方部隊に砲撃を加えている。

「敵ながら、やるもんね・・・・」

「あれは・・・・タカオ・クラスの重巡ですね・・・・偵察情報だと、連中が保有するタカオ・クラスは1隻・・・・「チョウカイ」だったと思います」

「!?・・・・ってことは連中の旗艦?・・・・・日本人も『指揮官先頭』か・・・・」

アスカはそう言うと少し苦笑する。

「アタシ達は負けるべくして負けたのかもね・・・・」

「?」

「敵が来るのがわかっていながら、こうして大敗している・・・・比べて敵は劣勢なのを承知で戦い、勝利したわ・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「でも!この次はこうはいかない!・・・・・絶対にこの借りは返すわよ!!」
   ファイティング・スピリット
「・・・・・・・・敢闘精神・・・・・・・・」

「ん?なに?カヲル?」

「いや・・・・海軍軍人にとって、何が一番必要かと思って・・・・」

「そうよ・・・・我々に必要なのは必勝の信念よ・・・・今回は敵がそれを上回っていたってわけね」

「・・・・・・・・・・・・」

「まあ、いいわ・・・・泊地で応急修理を受けましょう。でないと沈んじゃうわ」

アスカが微笑みながら言うと、ブリッジの空気は”負けた”という沈んだものから、少しは脱する。

「アイ・サー」

そのブリッジに、再び悲鳴のような報告が入る。




《見張所から艦長!!泊地が・・・・泊地が燃えています!!!!!》




第1部終幕へ・・・

あ・と・が・き

みなさんこんにちは。

P−31です。

さて、第1幕お届けします。

・・・・・・鬼のようなヒキですね(笑)

さあ、シンジはどうなったのか!?

そこへ向かうアスカは?

次で終われるんだろうなあ・・・・(爆)

まあいいや。

次回、

第1部、終幕

「海の上の輪舞」

お楽しみに。

読んで頂いた感想をお待ちしております。

メールはこちら






では、おまけをどうぞー!



children+αによるコ(メ)ント



「コロス・・・・・・」

「!?何、アスカ?いきなり物騒だなあ・・・・」

「シンジ・・・・上のやつ見てないの?」

「ん?見たけど・・・・どうかしたの?」

「どうかしたのって・・・・シンジ死んじゃったのかもしれないんだよ!?」

「んー・・・・大丈夫じゃないかな・・・・ここで僕が死んじゃったら洒落にならないと思うし」

   シンジ君、鋭い(笑)   

「・・・・また空耳かあ・・・・」

「シンジがそう言うんなら・・・・でも、なーんか信用出来ないのよねえ・・・・」

「まあまあ・・・・」

「だって聞いてよ!コイツ次は「終幕」なんて言っておきながら、

『第2部の構想出来てます』

なーんて言ってるのよ!?」

   出来ちまったモンはしょうがないですな(爆)   

「ん?・・・・なんか空耳が・・・・」

「じゃあ、この次で終わっても続ける気なのかなあ?」

「たぶんね」

「はあ・・・・『めぞんEVA』の方も連載抱えてるのに・・・・どうするつもりだろ?」

「さあ?なんにも考えてないんじゃないの?」

   心配ご無用。仕事に行ってる間に書き貯めておきますから(笑)   

「おかしいなあ・・・・なんか空耳がするなあ・・・・」

「え?シンジも?・・・・アタシもだよ?」

「・・・・おかしい・・・・今度リツコさんに言って調べてもらおう・・・・でも今は家に帰って休もうか」

「うん・・・・そうね・・・・・ねえ、シンジ?」

「ん?」

「・・・・・・いっぱいシようね?

「んもう・・・・アスカはえっちだなあ・・・・でも、えっちなアスカも大好きだよ

「じゃあ、早く帰ろ?」

「そだね、アスカ。帰ろうか」





   おあとがよろしいようで   



children+αによるコ(メ)ント      fin





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