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「われ来たり、見たり、勝てり」



ジュリアス・シーザー
(ローマ帝国将軍)
























The Theater


In case of Europe


第2部第7幕「有能な俳優、無能なる演出家」
























USS、「アラバマ」

ジブラルタル

1942年11月20日、1200














「ただいま」

「おかえりなさい、艦長」

ブリッジに上がってきたアスカをカヲルが出迎える。

「はあ、疲れたわよ」

「お疲れ様でした・・・・で、どうでした?」

「決定よ・・・もう一度、マルタ行き」

「雪辱戦、というわけですか」

「そんなにカッコイイもんじゃないわ・・・・やらないとマルタが干上がる、それだけのコトよ」

「作戦名は?」

「”ペデスタル”作戦・・・・今回は上の方も本腰入れてるわよ」

「というと?」

「輸送船は高速のタンカーや貨物船ばかり14隻」

「それはまた・・・」

「驚くのはまだ早いわよ・・・護衛は戦艦3隻、空母が3隻、巡洋艦7隻、駆逐艦12隻」

「!・・・・随分張り込んだもんですね」

「敵がこちらのアクションに合わせて戦力を増強してるって情報があるのよ・・・・地中海方面に航空機を1000機ばかり集めてるってね」

「イタリア空軍は抜きにしてですか?」

「まさか勘定には入れてないでしょ」

「・・・・・例の”アレ”については?」

「だーれも信じてなかったわ・・・・イギリスの情報部でも「ビスマルク」クラスの3番艦なんて情報はまったくないって」

「電文は?」

「偽電、以上終わり」

「それだけですか!?」

「・・・目撃したのが商船乗員ってのが司令部の判断の元だと思うわ・・・・」

「ですか・・・・」

「最終的に、シルエットが似ていないこともない「コンテ・デ・カブール」クラスか、「カイオ・デュイリオ」クラスだろうってことよ」

「英仏海峡を突破したのは亡霊だ、とでもいうんですかね?」

「それについても論拠はあるみたいよ」

「聞かせてもらえますか」

「簡単よ、日中に北上した「プリンツ・オイゲン」が南下したんだろうって」

「・・・・・整合性を欠く説明ですね」

「そうやって自分で辻褄を合わせて安心したいのよ」

「?」

「「ビスマルク」1隻にあれだけ手こずったのよ?それと同じクラスのフネが既に地中海に潜り込んでるなんて考えたくもないでしょうね」

英国海軍は、「ビスマルク」を最終的に沈めたものの、緒戦で巡洋戦艦「フッド」を轟沈させられ、新鋭戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」も大破させられている。

「気持ちは分かりますがね・・・・」

「だ・か・ら、司令部の意向はともかく、「アラバマ」はこの地中海のどこかに「ビスマルク」クラスの3番艦がいる、と考えて行動します・・・・もし出てきても驚かないようにね」

アスカはウィンクしながらいう。

「アイ・サー」

「後で各科の長を集めて頂戴、今回の作戦の基本説明をするから」

「アイ・サー・キャプテン」








彼女達にとって不幸だったのは・・・・・・・




意図的に過大評価していると考えた敵戦力が、過小評価になっていたことだろう。













































大日本帝国軍艦、「敷島」

東地中海

1942年11月20日、1200


















「敷島」は長大な航続力を生かし、東地中海を徘徊していた。

タラントに居座っていれば連合軍の航空攻撃を受けるからである。

シンジは「敷島」を連合軍の哨戒範囲外でフラフラさせていた。

誰に見られるかわかったものではないので、イタリアの沿岸にもあまり近づかない。

燃料補給にタラントに入港するときも夜間に限っていた。

「艦長、電文が来とりまっせ」

トウジが電文綴りを持って艦橋に現れる。

「なんだって?」

「敵さん、性懲りもなくまたマルタに突っ込むつもりでっせ」

「まあ、当然だろうけどね」

「ジブラルタルにエライ数の艦船が集結中、警戒を要す・・・・まとめてしまえばこんなモンですわ」

「りょーかい・・・」

「あと1通」

「まだあるの?」

「コイツは艦長個人宛にきとりまっせ」

「ぼく宛??」

シンジは艦長用座席から立ち上がって電文を受け取る。

「・・・・・・・・ああ、カナリス提督からだ」

「知り合いでっか?」

「僕が海大時代にドイツに留学してたのは知ってるよね?」

「へえ」

「その時色々お世話になったんだよ」

「やっぱ海軍でっか?」

「うん、一応海軍軍人だけどね」

「一応?」

「カナリス提督の専門は情報戦、ドイツの情報機関の親玉だよ」

「はぁー・・・」

わかったような、わからないようなトウジ。

電文を読み進めるシンジ。

「・・・・・・・・・・・なんてこった」

「?」

これはシンジ個人宛の電文のため翻訳されていない。

シンジはドイツ文の上に日本語で訳したものを記入する。

「・・・・読んでみて」

そしてシンジは電文を渡す。

「えーなになに・・・・・





”地中海ニオケル連合軍ノ反攻作戦ガ迫ッテイル模様。

総統府ハ反攻ヲだかーるト断定シタガ、小官個人ノ意見トシテハもろっこモシクハあるじぇりあト推測シテイル。

昨今ノ連合軍ノ戦力状態カラ見テ、作戦ハ成功スルト思ワレル。


貴官モ早期ノ地中海離脱ヲ考エラレタシ”




・・・・・・・・・」

『カナリス提督も苦労してるみたいだな・・・・』

確かに、カナリス率いる国防軍情報部の提出する情報は軽視されがちだった。

同じように、前線からの情報も黙殺される事が多かった。

「・・・・つまりこれは?」

トウジがいまいちわかってないようでたずねる。

「つまり、北アフリカにいるドイツ軍が東西から挟撃されるってこと」

「そ、そいつはまた・・・・」

「うん・・・北アフリカ全域が制圧されたら・・・・僕らは袋の鼠だね」

「か、艦長!」

「わかってるよ・・・・次の作戦が終われば、十分義理は果たしたことになるだろうし・・・・」

「いよいよ、でっか」

「うん」
















彼らが祖国への旅路につくには、まだいくつかの困難が立ちはだかっている・・・・・・・・・・








































”狼の巣”

ドイツ第三帝国

1942年11月20日、1200


















「ロンメルを呼び戻せ」

総統大本営の地下に設けられた会議室で第三帝国総統兼宰相はそう言い放った。

「は?」

居合わせた陸軍関係者は咄嗟に言葉が出てこなかった。

現状でDAK(ドイツ・アフリカ軍団)からロンメル将軍を呼び戻すとはどういうつもりか?

「ロンメルを呼び戻し、もっと重要な戦線で指揮を執ってもらう」

『そんな無茶な・・・・』

北アフリカの現状を知る者の正直な意見だった。

補給は滞りがち、装備は旧式、共に戦うはずのイタリア軍は戦意ゼロ・・・・

今やDAKはロンメル将軍の手腕・・・・というよりその声望で戦線を保っている状態だ。

「よいな、余にはわかるのだ・・・・」

先頃唐突に北アフリカ重視の姿勢になった人物の言葉とは思えない。

だが、この場にはそれを抑えられる人間がいなかった。

グデーリアンも、マンシュタインも、モーデルも東部戦線に張り付いている。

「総統閣下、マルタ攻略用の2個降下猟兵師団はそのまま投入してもよろしいでしょうか?」

「モスクワ前面に回せ、向こうから増援要請が来ている」

「し、しかし!」

「余にはわかるのだ!」

こうなったら誰も彼を止められない。

「マルタの英軍は放っておいても自滅する!それよりも今はモスクワを攻略することが先だ!」












彼のこの叫びによって、北アフリカ・・・・いや、地中海の喪失が決定的になった。








































USS、「アラバマ」

ジブラルタル

1942年11月20日、2100

















「みんな集まったわね」

「アラバマ」の艦長室。

そこに副長をはじめとして、航海長、機関長、砲術長・・・・「アラバマ」首脳陣が集まっていた。

「次の仕事が決まったから、皆にも知らせようと思ってね」

アスカがそう告げる。

「・・・・マルタですか?」

彼女よりもかなり年輩の砲術長がたずねる。

「御明察・・・・まあ、状況を推察すればそれしかないんだけどね」

前回の輸送船団壊滅のあおりを食って、マルタのRAF(英国王立空軍)は稼働率が極端に落ちている。

イタリア本土から北アフリカへの枢軸軍輸送船団もロクに妨害できない有様だ。

「しかし・・・前と同じようにやっても・・・」

航海長が言葉を濁す。

前回の二の舞はごめんだという彼なりの意志表示だ。

「ま、その点については上もバカじゃないみたいね」

「「というと?」

「ナンバーワンにはもう話したんだけど・・・・船団の方は高速なものばかり14隻」

「そんだけあれば最悪でも2〜3隻はマルタに辿り着けるでしょうな」

これは機関長。

「護衛は・・・・小さい方から、駆逐艦が12隻、巡洋艦が軽と防空、合わせて7隻」

「張り込んだモンだ」

「空母が「イーグル」「インドミタブル」「ヴィクトリアス」」

「ハナから出しておけば余計な損害を受けなかったものを・・・・」

「戦艦は、「ネルソン」「ロドネイ」・・・・そして、「アラバマ」よ」

「大盤振る舞いですな」

「確かにね・・・・・それをふまえた上で、これをみて頂戴」

そういうとアスカはテーブルの上に海図を広げる。

それ員は彼女自身による書き込みが随所にあった。







「赤いラインが船団の予定航路、青が予想される敵の航空攻撃よ」

「つまり・・・・航路のほぼ全域に渡って攻撃を受けると・・・」

「そういうこと・・・前回の作戦失敗が響いて、マルタの近海でも航空支援はあまり望めないわよ」

「その替わりの空母なんでしょう?」

「まあそうなんだけどね・・・・でも、正規空母が3隻もいて搭載機数が100機チョイってんだから泣けてくるわね」

「イギリス人は小さい空母が好きなんですよ」

「その”小さい空母”に守られる身になって考えなさいよ・・・」

「今回は敵航空機の攻撃だけ考えとけばいいんですかね?」

「油断は出来ないけどね・・・・水上戦力なら、確かにこっちが有利よね」

「16インチ砲搭載艦が3隻ですからね」

砲術長が嬉しそうに言う。









「まあ概要はこんなところ・・・・みんなに伝えておいて、次も失敗したらアタシ達はお払い箱になるってね」











































首相官邸

ダウニング街10番地、ロンドン、大英帝国

1942年11月20日、1200

















「で、ベルリンは欺瞞情報に引っかかったのか?」

葉巻を吸う太めの老人がたずねる。

眼光だけが老人という印象を裏切っている。

英国宰相、ウィンストン・チャーチル、その人である。

「はい、北アフリカに向けた連中の暗号電文を解読しましたところ、”ダカール”という地名が頻繁に出てきます。これは確率論の見地から見ても偶然ではありません」

GCHQ(政府通信本部)から来た男が説明する。

「ふむ、我らがアドルフは騙されつつある、ということか」

「はい、MI6からの報告でもそれは裏付けられます」

「・・・わかった、ありがとう」

報告をおこなった男は一礼して執務室から出る。

と、入れ替わりにチャーチルと同じような老人が入室する。

チャーチルと違うところは、彼が海軍軍人の制服を身につけていることだろう。

「ダド、話は聞いたか?」

「ええ、大まかなところは」

サー・ダドリー・パウンド第一海軍卿は勧められもしないのに応接用のソファーに腰掛ける。

彼も若くはないのだ。

「成功するか?」

パウンド提督は少し肩をすくめる。

「この作戦が成功しなければ私は辞職した上で国王陛下へのお詫びに首をくくりますよ」

「大した自信だ」

チャーチルは煙を吐き出しながら凄みのある笑みを浮かべる。

「”トーチ”作戦・・・・失敗してもらっては困るがな」

「兵力は整え、敵の目は逸らし、あとは時を待つだけです」

「兵力規模はどのくらいになるんだ?」

「アメリカが本腰を入れてくれたお陰で随分助かっています。連中は陸軍10万を揚げるつもりのようです」

「”砂漠の狐”もこれまでか」

”砂漠の狐”DAKを率いるロンメル将軍の異名である。

「モンティーは焦るでしょうな・・・・ロンメルとケリをつけるためにアフリカに戻ったようなものですから」

「仕方があるまい、我が国の力だけではロンメルをアフリカから追い落とすのにどのくらいの時間がかかるかわからん」

「確かに」

「で、君の所の話だ」

「順調です・・・・「テレメーア」と「ライオン」は進水を終えて艤装しながら訓練を行っています」

「手早く訓練を終えて地中海に送り込んでくれよ」

「わかっております」

「まったく・・・MI6にもいささか失望するよ!・・・・「ビスマルク」クラスの3番艦を見逃していたとはな」

「やはり前線には?」

「まだ知らせない方がいいだろう・・・対応できる戦力を整えた後にしよう」

「それならば、次のマルタへの輸送船団に2隻を参加させてはいかがですか?」

「できるのか?」

「ビスマルクに立ち向かった「プリンス・オブ・ウェールズ」も、あの時造船所の職工を乗せて戦いましたよ」

「ではそうしよう」

「そのかわり、参加予定だった「ネルソン」と「ロドネイ」を引き抜いて別方面に転用します」

「大丈夫なのか?」

「船団にはもう1隻、アメリカの「アラバマ」をつけます」

「しかし・・・・悪夢だな!・・・・地中海を日本軍艦が走り回るとは」

「そう勝手は許しません」

「頼むよ」

















彼らもまた現状を的確に分析しているとは言い難かった。





























国家間戦争とは巨大な劇場にたとえられるかもしれない。














演出家は国家元首。













演ずるは将兵。













観客は各国国民と、後世の史家。













これは最低の演出家の元で、懸命に演技を続ける将兵と、1隻の戦艦の物語である。






















第8幕へ・・・


あ・と・が・き

みなさんこんにちは。

P−31です。

第7幕をお届けします。

今回は閑話休題みたいなものでしたね。

次回からドンパチ・・・・になるかどうかは私の胸先三寸(笑)

いよいよイギリスも最新鋭戦艦「ライオン」級を投入してきます。

シンジ達は無事に地中海から逃げ出すことが出来るか?


・・・わたしにもわかりません(笑)

次回、「The Theater」第8幕

 

「技量と意欲」

 

お楽しみに。

 

 

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