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「人間は努力する限り迷うものだ」
 
 
ゲーテ「ファウスト」より

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

The Theater
 
In case of Europe
 
第2部第8幕「技量と意欲」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

USS、「アラバマ」

 アルジェ沖合450マイル

1942年12月11日、1330
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「随分とまあ・・・張り込んだものねぇ・・・」

ブリッジ横の見張用ウィング(張りだし部)に立つアスカが感嘆とも取れる呟きをもらす。

「ムリもないですかね」

傍らに立つカヲルもそれに同意する。

確かに感嘆すべき情景かもしれない。

マルタへの救援作戦   輸送作戦の中でも今回は最大規模だ。

素人には理由のわからない陣形を組んで航行する船団は、海軍のあるべき一つの姿をイヤでも思いおこさせる。
 
 
 
 

 
 
 

「旗艦は「ライオン」・・・・16インチ砲3連装3基9門、そして同型艦の「テレメーア」・・・・」

「戦力的には参加予定だった「ネルソン」クラスとそう変わりはないんですがね」

ロイヤル・ネイヴィーが誇る最新鋭戦艦、「ライオン」クラス。

排水量40,550トン。

全長239.26メートル。

全幅31.7メートル。

主砲、40.6サンチ砲3連装3基9門。

その他13.3p連装両用砲8基16門。

速力30ノット。

言うなれば、”本来建造されるべきだった「キング・ジョージX世」クラス”であろう。

「確かにそうなんだけど、ね・・・・・」

「?」

「「テレメーア」は3週間前に、「ライオン」に至ってはキャメルレアードを出たのが5日前だって言うじゃない」

「ええ、聞いた話では」

「艦の性能と乗員の技量が釣り合ってればいいんだけどね・・・」

「ああ、そういうことですか」

「これが「ネルソン」「ロドネィ」だったらこんな心配はしなかったんだろうけど」

アスカはそういって少し肩をすくめる。

「あの2隻は歴戦ですからね」

「船団護衛の経験も豊富だし」

そう考えると急に不安になってくる。

自分の「アラバマ」は、最悪の状況になっても100%の力を出し切る自信がある。

彼女がそのように仕立て上げた。

だが、戦意が高くとも技量   練度が伴わなければ浮いているだけ邪魔なだけだ。

「ま、カタログデータだけで考えれば16インチ砲27門プラス空母の艦載機、それに巡洋艦・駆逐艦・・・・」

「大した物ではありますね」

「カムおじさんも性根を据えたってトコでしょ」

地中海艦隊司令長官、”闘将”アンドリュー・B・カニンガム大将を”おじさん”呼ばわりするのは彼女くらいだろう。

と、そんな時通信士がブリッジに上がってきて彼女に駆け寄ってくる。

「艦長、至急電です!」

アスカはクリップボードに挟まれた電文を一瞥して天を見上げる。

「艦長?」

カヲルの問いかけにアスカは黙ってクリップボードを差し出す。

それを受け取って読んだカヲルは簡潔な一文に思わず目を剥いてしまった。
 
 
 








”空母「いーぐる」、敵潜ニヨリ撃沈サル。各艦、対潜警戒ヲ怠ルベカラズ”
 
 
 




 
 
 
 
 
 
 

「試練はまだ始まってもいないってワケね」

 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

誰も気付いていなかった。

そこで行われているのが”決戦”の一変形だということに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

発端は地中海に関する事柄がほとんどそうであるように、イタリアだった。
            ドゥーチェ
より正確に言えば、”総領”ヴェニト・ムソリーニだ。

彼の個人的な虚栄心から立案された北アフリカ制圧作戦は、その初動で頓挫する。

そして彼はいつもの様にドイツに   アドルフ・ヒトラーに救援を求めた。

ヒトラーはそれを快諾。

ドイツ・アフリカ軍団を新設し、ロンメルにその指揮権を与えた。
 
 

ロンメル率いるDAKは、順調に進撃するものと思われた。

当初はその通りだった。

イギリス軍を打ち破り、前に進むDAKとロンメルはドイツ本国でも高い評価を与えられていた。
 

しかし、
 

進撃路が伸びるということは補給線もまた伸びるということに、その時は誰も気がついていなかった。

陸揚げされた燃料油は、それが前線に運ばれるまでに大半が消費されてしまう。

それでも燃料油は、敵から鹵獲するという手が使えた。

問題は弾薬や車両の予備部品だった。

これに関してははるばる本国から取り寄せるしか手はない。

そしてそれらを運ぶトラックにも燃料油は必要で、故障すれば予備部品が必要になる。
 
 

悪循環だった。
 
 

ロンメルは本国に対し大規模な補給の実施を求めた。

しかし、全てを空輸することは輸送機の絶対的な不足が足枷になっていた。

そこでドイツと北アフリカを隔てる地中海を押し渡る輸送船団が必要になった。

ここでマルタ島が登場する。

マルタ島は最短の補給ルートであるイタリア本土と北アフリカの間にどっかりと腰を据えているのだ。

ここを制圧しなければ輸送船団は安全に航行できない。
 
 
 

後の史家は言う。
 
 
 
 

ドイツが地中海に手を伸ばさなければ、あと2年は戦えただろう、と。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

一方の連合国側。

こちらは明らかに敵手よりも劣勢だった。

なにしろ北アフリカはイギリスにとっての生命線。

例えば北アフリカ全域が敵の手に渡ると、スエズ運河の使用が不可能になる。

インドや中東からの資源をスエズ経由で輸送しているイギリスとしては、スエズが使えなければ喜望峰航路を使うほかなくなる。

北アフリカのドイツ軍への補給を妨害するマルタ島は、なにがなんでも保持しなければならないのだ。

しかし、戦力的に見てかなり難しいと言わざるを得ない。

陸上兵力についてはロンメルに押されっぱなしで、その戦力は疲弊している。

航空兵力は、制空権の大部分をドイツ空軍に握られたまま。

海上兵力・・・言わずと知れた「ティルピッツ」のお陰でもっとも強大な本国艦隊を地中海に投入できない。
 
 
 

だが、連合国も手をこまねいていたわけではない。
 
 

この”ペデスタル”作戦が成功すれば、間を空けずに北アフリカ反攻作戦・・・・”トーチ”作戦の発動が予定されている。

ようやくのことでアメリカとの合意に達し、彼らの陸軍が大挙してくるのだ。

アメリカ陸軍は総計10万になるこの兵力で、西からドイツ・アフリカ軍団を圧迫するのだ。

航空兵力も増強が始まっている。

もっとも、こちらもアメリカ軍が主体だが。

海上兵力は”トーチ”作戦の開始と共に増強される。

イギリスとしては作戦前から増強して欲しかったが、侵攻船団にも護衛が必要なことを考えると致し方ない。

それにしても、アメリカの巨大な生産力が振り向けられるのだ。

戦争の帰趨は見えたと言ってもいいかもしれない。 

 







 
 
 
 
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

イタリア海軍タラント工廠

イタリア半島南部、タラント

1942年12月8日、1200
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

シンジは「敷島」を降りていた。

艦長としてフネからひとときも離れたくはなかったがドイツ、イタリア双方からの要請とあっては致し方なかった。

そんなわけでシンジは「敷島」をトウジに預け、自分はタラントから出航する「敷島」を見送って今ここにいる。

厳密に言えば妙な会議と言えた。

参加する人間は3人のみ。

しかも将官級は1人しかいない。

だがこの会議が地中海の行方を決するはずだ。

ドイツからは空軍の地中海方面担当である第5航空艦隊司令長官、アルベルト・ケッセルリンク大将。

陸軍から空軍に移った人物で、そうであるがゆえにいわれのない偏見と戦いながらここまで上り詰めてきた。

一見柔和そうに見えるが、戦闘指揮になれば勇猛果敢。

その能力と人格は総統ですら認める、ドイツ空軍でも得がたい人材である。
 
 

イタリアからは前「レオナルド・ダ・ヴィンチ」艦長、ジュリアーノ・マランツァーノ大佐。

彼については細かく述べる必要はないだろう。

その戦い振りからもわかるように、イタリアの軍事組織に不足しがちな勇気を多分に持った男だ。

彼は損傷を受けた「レオナルド・ダ・ヴィンチ」をドック入りさせると職を解かれ、新たなフネを与えられた。

彼が勝ち得た戦果に狂喜したムッソリーニが海軍の人事機構をすっ飛ばして彼を最新鋭艦の艦長に任命したのだ。

ただ、その人事すらも彼は「今のフネの乗員をそのまま使えるなら」という条件付きで受けたのだが。
 
 

そして日本海軍を代表して「敷島」艦長、碇シンジ大佐。

マランツァーノ大佐もその階級と比して年齢は若いが、彼はそのさらに上を行く。

抜擢人事で知られるドイツ空軍よりも上かもしれない。

彼はただの艦長としてではなく、欧州最強・・・・いや、史上最強の戦艦を率いる者としてこの場にいる。
 
 
 
 

「さて、イタリアと日本の勇士を迎えることが出来て光栄だ・・・・おっと、イタリアの土を踏んでいてこんなことを言うのはマランツァーノ大佐に失礼だったかな?」

ケッセルリンクが口を開いた。

ユーモアも交えて佐官二人の緊張を解きほぐす。

ちなみにマランツァーノはドイツ語が出来ないのでシンジが通訳がわりになっている。

タラントに頻繁に入港するようになって、かたことのイタリア語は使えるようになったのだ。
 
 

「構いませんよ、現実にイタリアを守っているのが誰かということをわかっているつもりですから」

マランツァーノはほがらかな笑みを浮かべて切りかえす。

国を守る軍人としては屈辱かもしれないが・・・・現実だ。

「ふむ、マランツァーノ大佐はリアリストかね?・・・・まあ冗談はこれぐらいにして本題に入ろう」

そういうとケッセルリンクは少し身を乗り出すようにする。

「なぜ私が君達を呼んだかわかるかね?」

それを聞いてマランツァーノとシンジは顔を見合わせる。

そしてシンジが口を開く。

「地中海で我が方が戦力に数えられる大型艦艇・・・・と考えてよろしいでしょうか?」

「その通りだ、イカリ大佐」

「皆は私のことをシンジと呼びます」

「聞いているよ、カナリスがよろしく伝えてくれと言っておったぞ」

それを聞いたシンジは嬉しそうにする。

「ベルリンではお会いする機会がありませんでした。私の方からもよろしくお伝えください」

「ああ、伝えておくよ」

「なんだ、シンジはドイツの知り合いがいるのか?」

マランツァーノがファーストネームでシンジを呼ぶ。

タラントに入港したシンジがまずやったことは、「レオナルド・ダ・ヴィンチ」を訪れて、艦長とその乗員の勇戦を称えたことだった。

それ以来マランツァーノはこの年下の大佐をファーストネームで呼んでいる。

「少しだけですよ」

「ふーん・・・」

「そして敵が来る」

ケッセルリンクが何気なくつぶやく。

さっと緊張するふたり。

「スペインからの情報だ・・・ジブラルタルにおびただしい数の艦船が集結中らしい」

「マルタ、ですか?」

シンジが先を読んで言う。

「集結中の艦船には輸送船なども多数含まれているらしい・・・・おそらく間違いあるまい」

「懲りないな!敵さんも」

マランツァーノが吐き捨てるようにつぶやく。

「仕方がないんでしょう。マルタは敵にとっては北アフリカの生命線ですからね」

「それは我が方にとっても同じことだがな」

「確かに」

「既にベルリンへ増援要請は出してある・・・降下猟兵師団を2個寄越せと言っておいたのだが」

「一気に占領ですか?」

「そうしたいとワシは思っている」

その知性に相応しい素早さでマランツァーノが口を挟む。

「だったら是が非でも今度の船団は・・・」

「そう、是が非でも阻止しなければならない・・・・だが、空軍だけで輸送船団は叩ききれない。必ず艦艇が必要な場面が出てくる・・・それで君達を呼んだわけだ。既に敵船団には約3隻の戦艦級が護衛ついていることが確認されている」

「私の「ローマ」はあと3日もすれば出撃準備が整います」

「リットリオ」級戦艦3番艦「ローマ」

起工したものの、工事が遅れに遅れて当初の竣工予定を大幅に過ぎてしまったといういわくつきのフネだ。

ちなみに4番艦の「インペロ」はいまだに竣工のメドすら立っていない。

だが、戦闘力は「レオナルド・ダ・ヴィンチ」と比べ物にならないほどだ。

イタリアが新時代の海軍を象徴するものとして建造した「リットリオ」級。

基準排水量40,724トン。

全長237,76メートル。

全幅32,82メートル。

主兵装、38,1サンチ砲3連装3基9門。

副砲、15,2サンチ砲。

乗員1,830名。

装甲が比較的薄いことを除けば、連合国の新型戦艦にも対抗しうる有力なフネといってよかった。

そして「ローマ」は装甲の薄さも幾分改善されている。

同級の1番艦と2番艦、「リットリオ」「ヴィットリオ・ベネト」が就役した時に内外から装甲の薄さを指摘され、イタリア海軍当局は建造中だった「ローマ」に可能な限りの改正を加えたのだ(そしてそれが建造工事を遅らせた理由のひとつになった)。

「シンジ   ワシもこう呼ばせてもらうよ!   の方はどうだ?」

「私がフネに戻れば「敷島」は即時戦闘可能です」

躊躇なく言い放つシンジ。

その顔には自信が表れている。

「それは良かった・・・ワシの方も仕事はまあまあだ」

ケッセルリンクは大きくうなずいてそうつぶやく。

「というと?」

「他方面からの兵力の転用もスムーズにいっている。戦闘機が240機、攻撃機・爆撃機が360機の計600機・・・イタリア空軍を含めれば1000機に達するだろうな」

「かき集めたんですか」

「ああ、お陰で他の航空艦隊からは文句が来ておるよ」
 
ケッセルリンクは意味ありげに微笑む。

どうやら他にも何かありそうだ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

USS、「アラバマ」
 
チュニジア沖、300マイル

1942年12月12日、1840
 
 
 
 
 
 
 
 

「右30度!爆撃機4!来ます!」

「対空射撃はじめぇ!」

アスカの声に答え、右舷の両用砲、機関砲が火を吹く。

「面舵いっぱい!」

「アラバマ」は最初くずっていたが、徐々に頭を右に回しはじめる。

頭上から急降下してくる爆撃機は、そう簡単に射点を変えられるものではない。

その証拠に、対空砲火を突破したJu88はやむをえずそのまま爆弾を投下、「アラバマ」の左舷に盛大な水柱を立てる。
 
 
 

「ふう・・・・」

避けられるとわかっていても、気持ちのいいものではない。

当然のことだが。

そしてそれきり、敵は「アラバマ」に見向きもしなくなった。

輸送船、そして空母を狙っている。

「山は越したかしらね・・・・」

アスカはそう呟くと、後部艦橋に繋がる電話を取り上げる。

「ナンバーワン?」

《アイ・サー》すぐさま返事が返る。

「なにか被害はある?」

《至近弾の弾片で兵員が何名か負傷したほかは特にありません》

「ま、幸いってトコかしらね」

《では私は機銃座の様子を見てきます》

「お願いね」

そしてアスカは受話器をフックに戻す。

「届きそうなところに敵機がいたら許可はいらないから構わず撃ちなさい」

「アイ・サー」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

この攻撃にはドイツ空軍だけでなく、イタリア空軍も混じっていた。

そして、この日の攻撃は今までの彼らの行動とは思えないほど積極的だった。
 
 
 
 
 
 
 

「イギリスの空母って、あんなに戦闘機積んでたっけか??」

見張員がそう不思議そうに言うのが聞こえ、アスカがその方向を見ると、「ヴィクトリアス」と「インドミタブル」に着艦しようとして後方を乱舞しているハリケーンらしき戦闘機がいるが・・・・確かに少し多いような気がする。

「あれ・・・・ハリケーンよねぇ?」

アスカも不思議そうな声を出す。

2隻の重装空母姉妹は、直援機の交代を大急ぎでやっている。

発艦と着艦を同時に行うという離れ業さえ行っている。

そして後方に待機していたハリケーンも着艦態勢に入る・・・・

が、

そのハリケーンはいきなりスピードを上げたかと思うと、ぶら下げていたものを投下。
 

「!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

そう、イタリア空軍はレッジョーネ2000戦闘機をハリケーンそっくりに偽装し、直援戦闘機隊に紛れ込ませていたのだ。

「ヴィクトリアス」は、投下された爆弾の信管が作動せず助かったが、「インドミタブル」に落とされた爆弾は見事に飛行甲板で炸裂。

甲板に装甲を張ってあったため、沈没こそ免れたが当然作戦不能。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「なんてこと・・・・」

煙を吐く「インドミタブル」を眺めながら唇を噛みしめるアスカ。
 
これで、使える空母は「ヴィクトリアス」ただ1隻になってしまった。

ただでさえイギリス空母は排水量に比して搭載機が少ない。

「イラストリアス」クラスは、それに加えて飛行甲板に分厚い装甲を施している。

排水量を見れば大型空母といっても間違いではない「イラストリアス」クラスが、軽空母程度の搭載機数なのはそのためだ。
 
そして「ヴィクトリアス」「インドミタブル」は共に「イラストリアス」クラス前期型。

正規空母が2隻いて、搭載機が100機をはるかに下回っている。
 

それが半分に減った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「これから・・・・厳しくなりそうね・・・・」
 
 
 
 
 
 
 

彼女は自分のつぶやきが”ペデスタル”作戦全体を要約しているとは夢にも思わなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

HMS、「ライオン」
 
アルジェリア沖、300マイル

1942年11月20日、1200

 
 
 
 
 
 
 
 
 

「クソッタレが!」

戦艦「ライオン」の司令部艦橋で吼える一人の男。

大英帝国海軍、E・N・シーフリット中将。

”ペデスタル”船団の司令官だ。

「中将、損害集計が出ました」

そこへ参謀がクリップボード片手に現れた。

「聞きたくはないが・・・・聞かねばならんだろうな」

参謀はそれには答えず、各艦の損害を読み上げていく。

「「カイロ」及び「フォーサイト」が沈没、「ナイジェリア」が大破・・・・そして「インドミタブル」が中破、・・・・タンカー「オハイオ」が小破、「ヴィクトリアス」に落とされた爆弾は不発でした」

「・・・・「インドミタブル」はどうなんだ?搭載機は上げられるのか?」

「・・・飛行甲板が破られましたから・・・・おそらく不可能かと・・・」

それを聞いたシーフリットは一瞬黙り込む。

「この世はなんと汚く、残酷で、容赦なく・・・・それでいて美しいものか」

「・・・・・・・・」

「他の損傷艦艇を「インドミタブル」に付けてジブラルタルまで回航させてくれ」

「はい」

「それと、「インドミタブル」の搭載機は可能な限り「ヴィクトリアス」に収容させてくれ・・・・露天係止でもなんでもやってな」

「了解です」

シーフリットは大きくため息をつく。

「出鼻に「イーグル」・・・そして今「インドミタブル」もだ・・・・これも神の試練かな」

「輸送船団の被害が比較的軽かったのが不幸中の幸いですが」

「まあ、な・・・・それと、ホワイトホール(海軍省)から命令の変更は来てないのか?」

「はい、敵戦艦の存在が確認されるまではボン岬から先へ進むことまかりならず、です」

「確認できた後じゃ遅いんだがな・・・・」



事ここに至っても、イギリス海軍は主力艦を決定的水域に乗り込ませようとはしなかった。




航空攻撃で主力艦を失うのが極端に怖いのだ。




 
 





































アメリカ籍大型タンカー、「オハイオ」

チュニジア沖、300マイル

1942年12月12日、1840









「船長!なんとか浸水は食い止めました!」

「よし!よくやった!」

”ペデスタル”作戦のためにイギリス軍事輸送省がチャーターした大型タンカー「オハイオ」。

マルタで決定的に不足している各種燃料油11500トンを飲み込んでいるその船体は一際大きく、敵機の標的になりやすかった。

「オハイオ」の運行を任されたイーグル石油海運のメイスン船長以下、イギリス人クルーは11日深夜のイタリア潜水艦の雷撃を皮切りに始まった枢軸軍の激しい攻撃に耐えつつ進んでいる。

「マルタじゃあ俺達が運ぶ油がどうしても必要なんだ。ここでフネを沈めたらナチ野郎共を喜ばせるだけだぞ!」

ジブラルタル出港以来、メイスン船長はそう言ってクルーを叱咤激励している。

既に「オハイオ」は、最初に食らった魚雷の衝撃でコンパスは狂い、舵もまともに動かない状態だった。

「船長!これじゃ船団から取り残されますぜ!」

舵を握る船員がうめく。

「気にするな、どうせ目的地は同じだ・・・・護衛も残ってくれてるじゃないか」

メイスン船長も、それが気休めにしかならないことは十分わかっている。

「オハイオ」に付いているのは駆潜艇や、旧式の駆逐艦だけだ。

戦艦や防空巡洋艦は船団主力を護衛している。

貴重とはいえ、タンカー1隻のために船団全体を危険にさらすことは出来ない。

船長はフックから電話を持ち上げて機関室に繋ぐ。

「機関長、いるか?」

《はい》

「どんな感じだ?」

「オハイオ」は雷撃を食らってからエンジンの調子がおかしくなっている。

それを聞いているのだ。

《部下達を褒めてやって下さい・・・・今のところは完調です》

「よし、生きて帰れたら皆におれが一杯おごるさ」

《楽しみにしてますよ》

「よし、このあとも頼む」







メイスン船長以下、クルーはこの仕事を完遂させるべく邁進していた。












この戦争、戦っているのは軍人だけではないのだ。











否、かえってそこらの軍人達よりも勇敢な”民間人”がそこかしこに溢れていた。












国家間戦争・・・・”総力戦”とはこういうものだと言ってしまえばそれまでだが・・・・・










古いタイプの軍人には辛い戦争かもしれない。









彼らは自分が戦うことで後ろにあるものを守ろうとした。









しかし、現状はお互いが前線ではなく、後方に向けて火力を投げつけている。








その結果がどうなるのか?
















それももうすぐわかる。














シンジと「敷島」の行く末も・・・・・・・・











第9幕へ・・・

あ・と・が・き

みなさんこんにちは。

P−31です。

第8幕をお届けします。

今回も閑話休題になってしまった(笑)

次こそは!(爆)

いよいよ欧州編、クライマックスでございます。

太平洋に戻れるか、戻ってどうするかなんてこれっぽっちも考えてません!(←バカ)

行き当たりばったりな連載ですが、なにとぞお見捨て無きよう・・・・・ 

次回、「The Theater」第9幕(第2部最終話)

 

「決戦」

 

お楽しみに。

 

 

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