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「けっして誤ることのないのは何事もなさない者ばかりである」
 ロマン・ロラン「ジャン・クリストフ」
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

The Theater
 
In case of Europe
 
第2部第10幕「決戦」
(後編)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アメリカ籍大型タンカー、「オハイオ」

パンテレリーア島北西、70マイル

1942年12月12日、1640
 
 
 
 
 
 
 

「オハイオ」はもがいていた。

「船長!やっぱ駆逐艦1隻じゃコイツを曳航するのは無理ですよ!」

その「オハイオ」のブリッジ。

先ほど終わった空襲で、直撃弾こそなかったものの、6発もの至近弾を浴びた。

その結果、主機関があろうことか停止してしまった。

護衛隊は駆逐艦「ペン」を差し向けて「オハイオ」を曳航するよう指示したが、1万トンを軽く越える大型タンカーを曳くには駆逐艦1隻はあまりにも非力だ。

「畜生め!」

メイスン船長が毒づく。

ここで脚が止まるというのは致命的なのだから無理もない。

このままでは「オハイオ」は敵の集中攻撃を浴びてしまう。

「船長!海軍からです!」

メイスン船長が誰彼と無く当り散らしたいと思っていたところへ通信士が電文を持って駆け込んできた。

「あんだって?」

「駆逐艦をもう1隻、それにモーターランチ2隻を寄越すそうです!」

「ったく・・・決めるのが遅すぎる!」

通信士に当たっても仕方がない。

船長もそのことに気付くと、通信士をねぎらってから持ち場に戻した。

なにしろ彼の部下達、乗員は最初の攻撃を受けた時から一睡もしていない。

手すきの人間総出で浸水を防ぐのに必死になっている。

「船長!駆逐艦から発光信号!・・・・”敵機接近中、標的ハ貴船ト思ワレル。至急退避サレタシ”

「どこへ退避しろっていうんだ!?」

船長がそんな悲鳴を上げると、それに答えるように駆逐艦がかなり速い速力で突っ込んできて、ぶつかるかと思われるところで急転舵して「オハイオ」に接舷する。

つまり、駆逐艦に移乗しろということらしい。

「呆れるほどの腕だな、あっちの操舵手は・・・だが感心してばかりもいられんな。総員上甲板!一時退避だ!」

船長の命令に答え、駆逐艦に乗り移る為に上甲板へ向けて走る乗員達。

だが、その顔はどれも悔しそうなもの。

「勘違いするな!」

彼自身も走りながら、船長が叱咤する。

「俺達はいっとき留守にするだけだ!ドイツ野郎の無粋な訪問を避けたらすぐに戻ってくるぞ!」

船長の声を耳にし、乗員達は足を速めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

そして攻撃が始まった。
 
 
 
 
 
 
 

爆撃を右に左に回避する駆逐艦のブリッジから、自分のフネをメイスン船長は唇をかみ締めて見つめていた。

「敵機4!「オハイオ」に向かう!」

ハッとなって空を見上げると、四つのけしつぶが見え、それが段々と急降下爆撃機だとわかるまで大きくなってくる。

駆逐艦は備えられている少ない防空火器で爆撃機を狙うが、うまく命中してくれない。

降下爆撃をするには、身動きの出来ない「オハイオ」は、大きく狙いやすい標的なのだ。

だが、敵機はあまり燃料が無いのか、1機づつではなく、4機一斉に攻撃を仕掛けるつもりらしい。

雁行隊形のまま、突っ込んでいく。

急降下爆撃機は搭載していた爆弾を振り落とすと、急上昇をかけてそのまま戦場から避退していく。

4発のけしつぶが「オハイオ」目掛けて落ちていく。

目を瞑りそうになった船長だが、自らを奮い立たせて目を見開いたたまま「オハイオ」を注視する。

おそらく、他の乗員達も同じだろう。

そして、「オハイオ」の周りに水柱が立ち、彼女の姿を覆い隠してしまう。

船長にとっては身を切られるような瞬間だった。
 
 
 
 
 
 
 
 

そして、「オハイオ」が瀑布の中から爆撃前と変わらぬ姿を見せた時は、海軍軍人・商船乗員の別を問わない大歓声が上がっていた。
 
 
 
 
 
 
 

メイスン船長はただちに「オハイオ」に戻り、駆逐艦2隻にモーターランチ2隻を駆使して、大きい鉄の塊と化した「オハイオ」をマルタに辿り着かせるべく死力を振り絞るのだった。 

































USS、「アラバマ」

 パンテレリーア島北西、45マイル

1942年12月13日、1930
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「前衛艦より連絡!魚雷艇多数、船団に急速接近中!」

TBSに付いている水兵が伝えられた内容を照明が全て落とされて暗闇のブリッジ内、全ての人間に対して伝える。

「おいでなすったわね」

合衆国海軍大佐、戦艦「アラバマ」艦長。

アスカ・ラングレーも、もちろんその声を聞いていた。

彼女は艦長用座席から立ちあがり、既に日が暮れて闇に覆われている地中海を睨みつける。

「どうします、艦長?」

カヲルが少し心配そうに声をかける。

「前はどう?」

前方を航行している「テレメーア」のことだ。

「左に舵を切りました」

「ホントは揉み潰す・・・・って言いたいトコだけど、戦艦がこんなところでジタバタしてたら駆逐艦が動けなくなるわ・・・・そのまま前に続いて」

カヲルがホッとした様子を見せる。

「ナンバー・ワン?・・・・アタシはそんなに進むことしか知らないバカに見えて?」

「い、いいえ!」

慌てるカヲル。

アスカも本気でいびっているわけではないのですぐに解放する。
                                ペデスタル
「アタシ達は戦線を崩壊させる為に来たんじゃないのよ。礎を作り上げる為に、このクソッタレなところにいるの・・・・そこのところ、忘れないでね」

「もちろんです」

そんな会話を続けているうちに、スピーカーから報告が上がる。

《レーダー室からブリッジ!高速移動目標、捉えました・・・・ですがこりゃエライ数ですよ!今まで見たことも無いです!》

「ナンバー・ワン、どう思う?」

暗闇で相手の顔も定かではないが、とりあえず顔を向けて尋ねる。
      MAS
「イタリア魚雷艇隊、全力出撃ってトコですかね」

「駆逐隊で押さえられるかしら?」

「キツイ・・・でしょうね。隻数がかなりいますから、どうしても何隻かは網を潜り抜けるでしょうね」

「フン」

暗いのでよくわからないが、鼻を鳴らしているらしい。



「だったらお手伝いしましょう」

そう言うと彼女は座席の手すりに据えられている艦内電話を取る。

「レーダー室?・・・・高速移動目標をプロッティングして、味方にとばっちりがいかないやつに両用砲をお見舞いしてあげて」

「アイ・サー・・・照準よろしい」

それを聞いたアスカは受話器を掴んだままクスッと笑う。

「仕事が早いわね?」

「これが商売ですからね」

アスカは頷いてセレクターを切り替えて砲術長に繋げる。

「砲術長、聞いていた?・・・・好きにして頂戴」

《アイ・サー・・・行きます。オープンファイア!》

スピーカーから砲術長の掛け声が聞こえるのと同時に、右舷の両用砲群が一斉に火蓋を切る。

発射炎の照り返しで、ブリッジも明るくなる。

アスカはそのまばゆい光を目に入れないようにする。

それを見た瞬間から夜間視界、つまり夜目が効かなくなるからだ。

「さあ、我らが愛しの「シキシマ」はどこにいるのかしらね・・・・」

「この状況で出てきますかね?」

カヲルがちょっと疑問を浮かべる。

「昼間に攻撃を仕掛けた方が上空援護はあるし、なにより夜戦の混乱した状況は容易に駆逐艦の肉迫などを生みます。その危険を看過するでしょうか?」

「来るわ。必ずね」

「理由、お聞かせ願えますか?」

「理由は三つ。ひとつは戦略的理由よ」

「戦略的?」

「そ・・・・この船団がマルタに届いてしまえば、今まで輸送船団を妨害してきた意味が無くなるわ。この船団はそれほどの価値があるの」

「確かに」

「ふたつ目は戦術的理由・・・・夜戦で状況が混乱するのはいつものこと。連中は孤立無援じゃないんだから。今だってこの有様だしね・・・・覚悟さえあれば、逆にこちらを大混乱にさせられるでしょうね」

「・・・・みっつ目は?」

「・・・・聞きたい?」

「そりゃもちろん」

「個人的理由よ」

「個人的?」

「そ。非常に個人的な理由よ」

歌うように呟くアスカだった。

















 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

大日本帝国軍艦「敷島」

パンテレリーア島の西、55マイル

1942年12月13日、1930
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ある意味で、アスカの言葉は正鵠を得ていた。

シンジが操る「敷島」は彼女達の目と鼻の先にいた。

船団を追尾するような格好で航行している。

日が落ち、パンテレリーア島からイタリア海軍の魚雷艇隊が出撃するのに呼応して、彼らも船団に接近していた。

電波は一切発していない。

船団の艦船が持つレーダー、その有効走査範囲から少し離れたところを逆探知装置だけを頼りに追いかけていた。

日没後で、航空機の行動がほぼ不可能になった今でなければできない、危険な行動だと言えた。

だが、危険を避けてばかりいては好機を見過ごすことになる。

すぐ後方に続いている「ローマ」のマランツァーノ大佐も シンジの構想に賛成してくれた。

彼らは闘志に不足を感じてはいないのだ。

《電探室から艦長・・・・逆探の探知結果を元に敵船団の大まかな布陣を割り出しました・・・・今そっちに持って行かせます》

「了解・・・・で、どんな感じ?」

高声電話に尋ねるシンジ。

彼は専門家が語るナマの意見を聞きたいのだ。

《ま、基本的には輪形陣なんでしょうが・・・・魚雷艇に引っ掻き回されてますね》

「大物の位置はわかる?」

《魚雷艇が突っ込んでから、船団から少し離脱したヤツが3隻、おそらく戦艦ですね・・・・輸送船の方は・・・あたりはつけられますが、なんせ電探なんか持ってないでしょうから、詳しい位置はやはりこちらも電探を回さないとわかりませんね》

「位置的には?」

《こちらから見て、船団を挟むようにして戦艦級3隻がいます》


「了解・・・・敵から、特に戦艦らしい3隻からは目を離さないように」

《了解》

シンジは腕を組む。

しばし考えた後、再び高声電話を取る。

「艦長から射撃指揮所」

《こちら指揮所、砲術長》

ケンスケが出た。

「砲術長、逆探だけで撃てるかい?」

《他のフネは知りませんがね、本艦なら何でも出来ますよ。なんでもね》

「最初の3斉射だけ。その後は電探も使う」

《ヨーソロー》

「頼むよ。この3斉射で不意を突けなければ対等以下の戦になるからね」

《胆に銘じます》

「それと、3斉射には消焔火薬を使うように・・・・なるべく隠れたまま撃ちたいからね」

「了解」

「よろしく・・・・航海、識別灯を使って今の内容を後ろにも伝えて」

灯火管制の中、指向性が限られている為に追随用灯火として唯一点けられている敵味方識別灯の青い光のことだ。

「了解」

暗闇の中から返事が聞こえる。

実際のところ、日伊合同戦隊とはいえ、まともな編隊訓練を行なうヒマも無く、イタリア海軍に関するよろしくない噂を色々聞いていたシンジは、若干の不安と共にこの場に乗り込んでいたが、それが杞憂だとわかったのは夜間になってから。

日が落ちて、船間距離を詰めろと言うシンジの命令に、「ローマ」は苦も無く「敷島」の直後、日本海軍でもここまではやらないというところまで詰めてきた。

驚いたシンジが。そこまでやらなくていいと言ったほどである。

イタリア海軍の大型戦闘艦において、「ローマ」は特異な存在らしい。

まあ、それもこれも艦長のおかげなのだろう。

おまけに、砲撃の技量もなかなかのものであることは前任艦「レオナルド・ダ・ヴィンチ」で証明して見せた。

クルーは「ダ・ヴィンチ」の連中をそのまま引っ張ってきている。

新造艦でいささか勝手は違うだろうが、砲自体の威力、命中精度ともに「ダ・ヴィンチ」とは比較にもならない。

しかも、同級の2隻「リットリオ」と「ヴィットリオ・ヴェネト」と口径は同じだが、より高性能なものが積まれている。

そのお陰で、より初速が速くなり、有効射程も伸びた。

もっとも、より扱いも難しくなっているのだが。

クルーも「ローマ」で十分な訓練を行なっており、あさっての方向に砲弾を飛ばすことだけはない、とマランツァーノが請合った。

シンジは考える。

こちらの砲力は、42サンチ砲が8門に38サンチ砲が9門、口径の違いはあるが、しめて17門。

敵は3隻の戦艦級。

最悪の場合を想定すると、その全てが40サンチ砲艦。

門数は1隻あたり8門から9門。

これもやはり最悪を想定すると・・・・合計40サンチ砲が27門。

シンジが最悪を想定した予想、皮肉にもそれは現実と合致していた。

でも、極端に不利・・・・というわけでもないよね。

これがシンジの凄いところだろう。

いかなる状況においても怯むことなく進む。

誰にでもできることではない。

ま、今のところイニシアティブはこちらが握っているしね。

先制攻撃は全ての戦闘の要訣にして要諦。

しかも、こちらからは敵が見えるのに対して、向こうからは見えない。

発砲炎を確認しようと思っても、駆逐艦などが敵戦艦との間で魚雷艇に向けて猛烈な砲火を放っている。

今以上の好機は訪れない。

シンジは決断した。

「左砲戦。目標、敵戦艦」

その声に、一気に艦橋が慌しくなる。

《後部艦橋から艦長、応急準備よし》

被弾に備えたトウジの声だ。

《指揮所から艦長、全砲射撃準備よし》

他にも、各部署からの報告が上がる。






「よぉし・・・・それじゃ征こうか」


















 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

HMS、「ライオン」
 
パンテレリーア島の西、40マイル

1942年12月13日、1945

 
 
 
 
 
 
 
 
「船団はどうだ?はぐれた輸送船などいないだろうな?」

「ライオン」の司令部艦橋、そこに仁王立ちになっているシーフリット中将がうめく。

「今のところは、すでに船団からかなり遅れている「オハイオ」以外は大丈夫です」

「「オハイオ」はどうなんだ?」

「先ほど定時連絡が入りました。曳航に成功して、ゆっくりではありますがマルタへ近づいています」

「それは結構」

分厚い装甲板に開けられたスリットを覗く中将の視界の端、右舷方向ではいまだに砲火が煌いている。

「魚雷艇はまだ撃退できないのか?」

「は。なにせ数が多く、こちらの被害もバカになりません」

「輸送船も食われたのか?」

「いえ、今のところ魚雷を食らったのは駆逐艦だけです」

「早いうちに撃退しないと、イタ公が勘違いして水上部隊を出撃させるぞ」

「それはそれで望むところですが」

「まあな」



彼らは対魚雷艇の戦闘において戦艦は不要にして邪魔者と考え(まさにその通りである)「ライオン」「テレメーア」「アラバマ」の3隻を船団から離れさせ、距離を開いて砲戦を行なっている。

と言っても主砲は各艦ともに使用していない。

このような輻輳した状況下で主砲を撃ったら、下手をすれば味方に当たりかねない。

だから、3隻は両用砲をもっぱら敵に向けている。

3隻の戦艦は単縦陣を組んで航行している。

順はシーフリットの少将旗を掲げた「ライオン」が先頭。

2番艦が同型艦の「テレメーア」

3番艦が合衆国海軍、サウス・ダコタ級戦艦「アラバマ」

完全な多国間協調行動だが、ロイヤル・ネイヴィと合衆国海軍はこの種の訓練は無数にこなしてきている。

いまさら齟齬が出ることはあり得ない。

しかし、何が起こるかわからないのも、また事実である。

と、そんな時に装甲板のスリットから強烈な光が差し込んできた。

「なんだ!?」

夜目が失われるのを覚悟でシーフリットが覗くと、1隻の船が大爆発を起こしているところだった。

「・・・・・運がないことだ」

シーフリットは静かに言ったが、それは英国流のひねくれた物言いで、実際のところ罵っているのに等しかった。

「司令、あれは防空巡「カイロ」です」
 ハープーン
「・・・・銛の生き残りが沈んだか・・・・だが、巡洋艦の被害がこうして増えたところで、船団を届けさえすればこちらの勝ちだ」

悔し紛れだが、その反面事実でもある。

「生存者を救助させたいところだが・・・・」

「戦闘が一区切りつくまでは無理です」

「そう、だな・・・・」

今や護衛隊各艦は輸送船団を守る為というより、自分の身を守る為に戦闘を行なっている。

ちなみに、このような状況下では司令官にはあまり下すべき命令がない。

最初に戦闘開始命令を出してしまえば、あとは各艦艦長、各隊司令が判断する。

特にこのような魚雷艇相手の戦闘では尚更だ。

司令官が判断を下すのは、最終的な局面。

相手を突撃で踏み潰すか、ケツをまくって逃げる時だけだ。

だからこそ、シーフリットは一種傍観者のような気分でこの海戦に身を横たえている。

それゆえ、傍観者がいきなり舞台に上げられれば驚きもするし、思考停止のような状態になる。

今がその時だった。











最初に気がついたのは電子の目を持つレーダー室だった。

レーダーを覗きこんでいた担当下士官は、ますます混迷の度を深めていく左舷側海域を中心に、手当たり次第プロッティングを行なっていた。

と、その時、レーダーの走査範囲ギリギリのところに小さな物体が幾つか映った。

その下士官はその物体に気がつき注視していたが、レーダーのスキャナーが1回転した後に、恐ろしいほど近くまでそれが近寄っていることを見た。

経験豊富な彼はそれがなんだか即座にわかった。

彼はすぐに直属の上官に報告した。

それは誤りだった。

どんなことをしてもその情報を司令部に伝えるべきだった。

艦内放送を使ってでもなんでもいい。

しかし、そうはならなかった。

直属の上官、経験の浅い中尉は報告を確認する為にレーダーに近寄ってみた。

その時、ドイツ製の日本戦艦から放たれた大口径砲弾は、彼から隔壁を隔てたすぐ隣にいたのだった。



















 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

USS「アラバマ」

パンテレリーアの西、40マイル

1942年12月13日、1945
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


「艦首方向に爆発!水柱も見えます!!」

アスカは座席から飛びあがるとブリッジの前面、つまりガラスに顔を押しつけんばかりにしている。

そこからは、水柱に包まれ、火を噴きだしている「ライオン」と、それに続く「テレメーア」が見えた。

「また先手を取られた!!」

歯噛みをせんばかりである。

「レーダー室!発砲した敵艦は判別できるの!?」

《まったく掴めません・・・・レーダーの走査範囲の中にはそれらしいエコーはありません》

「ライオン」のレーダー担当下士官なら、敵がいるおおよその方向がわかっただろうが、彼は「ライオン」の艦橋構造物上部に命中した42サンチ砲弾によって、既にこの世の人ではなくなっていた。

「・・・・逆探だけで撃ってきたのね」

「そんな芸当、不可能ですよ!?」

カヲルが即座に否定する。

「こと砲撃に関しての技量は我々よりも彼らは上よ。間違いなくね」

「イタリア人にそんな腕、ありませんよ!」

アスカは不思議そうな顔をする。

「何を言ってるの、ナンバーワン?」

「は?」

「来たのよ。彼らが」

カヲルもバカではない。

アスカが言わんとしていることに気付く。

「ま、まさか!?」

「そのまさか・・・・我らがインペリアル・ジャパニーズ・ネイヴィの到来よ」

アスカは戯言をそこで打ち切ると、脳の回転を限界まで上げて敵の位置を予測することに努める。


敵はこちらから(電子的に)見えないところから撃っている・・・・


レーダーの他に何か判別できる要素はないのか?


アスカが考える間にも「ライオン」の周囲には水柱が立ち続け、時折閃光と共に艦の一部が吹き飛ばされている。


アスカ!考えなさい!・・・・相手はあの男、あの男なら何を考え、どう行動する?


そして、唐突に気がついた。


発砲炎!


「両舷見張り!どこかに発砲炎らしきものは見えない?」

答えはすぐさま返ってくる。

「左舷、何も見えません!」

「右舷、敵魚雷艇と護衛隊の戦闘の為区別がつきません!」

アスカにはその瞬間わかった。

推測したのではなく、”わかった”のだ。








魚雷艇と軽巡や駆逐艦が殴り合いを続けている海域、その向こうにあの男がいる、と。








「TBS!「ライオン」に連絡!『戦闘海域ヨリモサラニ南方ニ敵戦艦アリト思慮スル。「てれめーあ」ヲオ借リシタシ』・・・急いで!」

被弾している「ライオン」からの返答は、あっという間に返ってきた。

「「ライオン」より連絡!『了解。「てれめーあ」ヲ預ケ、本艦ハ敵ノ砲撃を引キツケル。貴官ノ頭上ニ幸運ノ女神ガアラン事ヲ!』・・・以上!」

「何言ってんの。アタシ自身が幸運の女神よ!」

アスカはそううそぶくと、さらなる命令を下す。

「「テレメーア」に連絡!ただちに左180度回頭、戦闘海域の西側を抜けて南側にいるものと思われる敵戦艦を痛撃する!」

「アイ・サー!」

「取り舵いっぱい!!」

アスカの声に答えるように、「アラバマ」は急速に左に回り始める。

「砲術長!榴弾はヤメ!徹甲弾を装填!!」

《アイ・サー・・・榴弾の装填を中止。徹甲弾を装填》

「アラバマ」は、敵はとりあえず小艦艇ということで主砲には榴弾を装填していた。

だが、これから戦う敵は戦艦。

榴弾では戦艦の装甲板を破れない。

「急いで!敵は待ってくれないわよ!!」

《アイ・サー》

「アラバマ」は急速に本来の姿   戦闘機械としての姿に変わっていく。































大日本帝国軍艦「敷島」

パンテレリーア島の西、55マイル

1942年12月13日、1950













《10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・弾着、今!》

暗闇の中、目を凝らすシンジだが、敵戦艦と「敷島」の間で行なわれている戦闘のおかげでよくわからなかった。

ただ、ひときわ大きい閃光が見えたような気がしたが・・・

《1番、遠・・・2番、近・・・3番、遠・・・4番、目標に命中》

砲塔1基につき1門を使った射撃で、すでに命中弾が出ている。

恐るべき技量である。

後方の「ローマ」も射撃を開始しているが、さすがにこちらはまだ命中していない。

だが、光学観測によると夾叉しているようだから、彼らが下手だということではない。

それどころか、2斉射で夾叉を出すのだから、帝国海軍の戦艦に負けず劣らずの技量だと言えよう。

《電探室から艦長!敵戦艦らしき映像のうち、後方の2隻が反転します!》

「判断もいいけど、決断も早いね・・・」

シンジはため息をつく。

できることなら、このまま暗闇の中に隠れたまま射撃を行ないたかったが、そうは問屋が卸さないようだ。

「艦長から指揮所。予定通り第3射までは先頭の映像を射撃、その後は目標を変更して反転した2隻に」

《了解・・・・どっちを狙います?》

スピーカーからケンスケのいたずらをする前の悪ガキのような声が聞こえる。

「それは任せるよ。なんたって約束通りやってくれたからね・・・・これで戦力が対等になったよ」

《ヨーソロー・・・・それじゃ、反転して後ろについてるヤツから狙います》

それを聞いたシンジも笑う。

「戦術の常道から外れてるね?」

《その”常道”ってヤツが嫌いなんですよ。ひねくれモンですからね。自分は》

「さすがは黛大佐の一番弟子。期待してるよ」

《お任せを・・・・第4射からは電探照準!各砲塔準備急げ!!》

「よし・・・・無電封止解除!電探回せ!!・・・・「ローマ」に今の状況とこれからの行動を伝達!」

《第3射・・・・てぇー!!》

閃光

衝撃

轟音

先ほどとは逆の砲門から、4つの42サンチ砲弾が飛び出していく。

「取り舵!敵艦を電探の範囲内に入れる!」

奇しくもアスカと同じような命令をするシンジ。

彼はまだ知らない。

先頭を切って突っ込んでくる戦艦に彼女が乗っていることに。

ただ、知っていたとしても状況は何も変わるまい。

彼の職業は海軍軍人であり、仕事の内容は敵を撃滅することなのだから。

「さぁーて・・・・僕達の師匠たる大英帝国海軍の力、拝ませてもらうとしようか」


































イタリア海軍戦艦「ローマ」

パンテレリーア島の西、55マイル

1942年12月13日、1950













マランツァーノ大佐は正直なところ呆れ果てていた。

「ローマ」は全力射撃を開始しており、既に夾叉弾も出している。

彼は砲術科の技量に満足を覚えると同時に、訓練を施した自分にもいささか感じるところがあったが、彼の直前を航行する日本戦艦はそんな高揚する気分を吹き飛ばしてしまう。

無理も無い。

試射の段階で命中弾を出し、その後もコンスタントに命中させているのだからたまらない。

日本海軍は射撃が巧みだと聞いてはいたが、これほどとは思っていなかったのだ。

実のところ、彼らの砲撃は日本海軍においてさえ”異常”の部類に入るものなのだが。

「艦長!「シキシマ」より連絡です!」

「なんと言ってるんだ?」

「次の射撃の後、目標を敵先頭艦から後続艦、反転してこちらに接近している2隻に切りかえるとのことです」

「よし、了解したと伝えてくれ」

「はっ!」

どうなのだろう?と彼は思った。

様々な情報を総合すると、敵はいずれも16インチ砲艦。

命中弾多数とはいえ、戦闘能力を奪うことが出来たのだろうか?

そして思い出した。

前方を航行している、あの若い艦長が率いる化物はそれよりもさらに大きい口径の砲を積んでいる。

その証拠に敵の先頭艦は反転してこない。

「よし!命中弾が出なかったのは悔しいが目標変更だ!」

《砲術長から艦長・・・・目標変更了解。どちらを狙いますか?》

「そうだな・・・「シキシマ」はセオリー通り先頭艦を狙うだろう。射弾を集中すれば弾着観測も難しくなる・・・・後続艦を狙え」

《了解・・・・次こそは当てて見せますよ》

「そうでなければ国王陛下と海軍が君に払ってきた俸給を返上してもらわねばな」
       ドゥーチェ
彼はけして”統領が”とは言わなかった。

《手厳しいですが、その通りですな》

「頼むぞ」

《了解》

「「シキシマ」、左舷に回頭します!」

「よし、そのままついていけ。遅れるなよ」

そして回頭が終了し、3基の砲塔は新たな敵へと向けられる。

《射撃諸元算出終了。旋回俯仰固定・・・・撃ちます》

「ローマ」の9門の38サンチ砲が火を吹く。

回頭と目標変更によって射撃解析値がリセットされ、最初からやり直しになるのだが・・・「ローマ」の砲術長はよほど自信があるらしい。
         サルヴォー
9門全てを使った斉発   一斉射撃を選択した。

そしてそれは「敷島」のトップ   主砲射撃指揮所に詰めているケンスケの選択と同じだった。

ほぼ同時に放たれる8発の42センチ砲弾と、9発の38センチ砲弾。

目標は・・・・・偶然にも、あるいは全能な誰かのはからいか、同じ目標、就役してさほど間がない英海軍最新鋭戦艦の1隻、「テレメーア」だった・・・・
































大日本帝国軍艦「敷島」

パンテレリーア島の西、50マイル

1942年12月13日、2013













「「ローマ」も発砲しました!」

ブリッジに後方を見つめ続ける見張員からの報告が入る。

「仕事が早いね・・・・ウチとどっこいとは・・・・」

一瞬だけやわらかな笑みを浮かべたシンジだが、すぐに表情を引き締め敵艦がいる方向に視線を向ける。

「電探室!敵との距離は?」

《22000メートル。なおも接近中》

「フン・・・・そろそろ距離を固定するかな・・・」

戦艦の防御力は一定ではない。

主な砲戦距離において主防御区画を破壊されないよう設計されている。

その距離よりも遠ければ、水平装甲が耐えられず、近ければ垂直装甲がやはりもたない。

その距離を見極めて、適切な操艦を行なうのも艦長の重要な仕事だ。

「ウチは耐えられるけど・・・・「ローマ」はどうかな・・・」

若干の不安を残すシンジ。

確かに、彼の「敷島」は42センチ砲戦艦であり、それ相応の防御が(ドイツ方式で)施されている。

対する「ローマ」は38センチ砲戦艦である。

防御力が「敷島」とはかなり違ってくる。

それに、シンジが聞いたところではイタリア艦は防御力を多少犠牲にして脚を速くしているという噂も聞いたことがある。

それが真実ならば相応の防御力すら無いかもしれない。

実際は、改「リットリオ」級の「ローマ」は装甲防御に修正が加えられており、設計者は今までのイタリア軍艦の汚名を払拭できると考えていたのだ。

代償は速力。

30ノットを超える「リットリオ」級に対し、若干落ちて29.5ノットになった。

主機関は「リットリオ」と同じ型式で装甲を厚くしたのだから、速力が落ちるのは当然なのだが、この程度のスピードダウンで抑えられたのは設計の妙だろう。

ただ、彼らの前にいる敵は40センチ砲戦艦であり、相応の防御力でも耐えられるかどうか怪しいところなのは皮肉と言えば皮肉か。




「見張!敵艦の艦種はわかるか?」

日本海軍には他国には無い存在がある。

職人的な能力を持った兵士達。

この暗闇の中で夜間監視用大型双眼鏡を覗いている夜間見張員達も、その例外ではなかった。

「2隻とも戦艦、先頭はアメ公です。おそらく「サウス・ダコタ」級」

「さすがはヤンキー・・・やる気ってことか」

「後方の戦艦は・・・・おそらく英戦艦。ですが識別表に無い型です・・・強いて言えば「キング・ジョージX世」級に似ていますが・・・違うところがかなりあります」

「新型艦?・・・・そんな余裕があったのか」

「敵先頭艦、発砲しました!」

シンジはグッと歯を食いしばる。

「こっちの弾は?」

《まもなく着弾・・・・3・・・2・・・1・・・今!》

まず、「敷島」の砲弾8発が見事なグルーピングを描いて「テレメーア」の周囲に着弾。

そのうち2発が艦首と艦尾に命中した。

その3秒後、今度は「ローマ」の砲弾9発が目標に到達。

自信を持って一斉射撃を選択しただけあって、これもイタリア海軍の平均的な砲撃技量をはるかに超えるパーセンテージを示して着弾。

8発は虚しく水柱を上げるだけだったが、1発が艦中央部に命中。

「ローマ」の命中弾は、艦橋構造物下部に飛びこみ、内部で炸裂。

艦橋やレーダー室、射撃管制室などへの電路をまとめて吹き飛ばし、「テレメーア」の指揮機能を一時喪失させた。

「敷島」の命中弾のうち、艦首に命中した1発は難なく甲板装甲を突き破り、艦内の奥深くで発火。

兵員室やその他を全壊させるとともに、爆圧によってA砲塔のターレットを歪ませてそれを旋回不能にした。

艦尾に命中した1発は、外見上最も大きな損害を「テレメーア」に与えた。

C砲塔天蓋に命中したそれは、もっとも強固に張られている砲塔天蓋の装甲を突破。










徹甲弾は砲塔に飛び込んだ時点で信管を作動させた。





























USS「アラバマ」

パンテレリーア島の西、38マイル

1942年12月13日、2013













後方から大爆音が響いてきたのは「アラバマ」が敵戦艦への第1射を放って、少ししてからだった。

「!?」

轟音と共にまばゆい光が「アラバマ」を照らす。

アスカは唇をかみ締める。

「各部損害確認!」

戦闘状態になり、全艦が1本の神経で繋がれた「アラバマ」は、その手の報告はすぐに上がってくる。

《主機、異常なし。全力発揮可能》

《A・B・C、各主砲塔損害無し。次弾装填中・・・・両舷両用砲も同じく》

《こちら応急班。水密区画に浸水無し》

《通信室。各機器正常作動》

《レーダーに損傷無し》

カヲルがそれを取りまとめた上で、アスカに最終的な報告をする。

「艦長。本艦に損害はありません」

それはそれで安堵すべきことだが、「アラバマ」でなければ原因は後ろ、ということになる。

「・・・・了解。「テレメーア」の状況は?」

「こちらからの呼びかけに応答がありません。おそらく通信機能がやられたものと・・・・」

「目に見える損害は?」

「暗いのでなんとも言えませんが、おそらく複数被弾しています・・・・後部では火災も発生しているようです」

「・・・・なんとも嬉しくなってくるわね・・・・「テレメーア」に発光信号で連絡。”離脱セヨ”」

「アイ・サー・・・・こちらが不利になりますね」

「しょうがないわ。楽な戦いをしに来たわけでもないしね」

「ですね」

「パパデモス兵曹長は見張りについてるの?」

「はい。この状況下で彼の能力を使わないのはバカですから」

「なら敵艦の艦種をわかり次第教えて」

「了解。確認します」

確認するまでも無かった。

「右舷見張から艦長。敵艦のうち、後続艦は間違いなくイタリアの「リットリオ」クラス」

「先頭艦はわからないの?」

「艦型だけ見れば、「ビスマルク」クラスです」

「艦型”だけ”?どういうこと?」

「後方の「リットリオ」クラスと比較して、サイズが妙なんです」

「妙?・・・どういうことだ!?」

カヲルも怪訝な顔になる。

「大きいんですよ!・・・・私の目と艦型表のデータが正しければ、先頭艦は「ビスマルク」クラスよりふた回りはデカイです!」

アスカとカヲルは暗闇の中にもかかわらず目を見合わせる。

そして、アスカの脳裏にはハワイでニミッツに見せられた一連の諜報資料の一節が浮かび上がってきた。







 クリーグスマリーネ
『・・・ドイツ海軍とヒットラーは海軍再建案として”Z計画”なるものを発動』

『・・・主力は56000トン級戦艦、”H”級』

『ドイツのポーランド侵攻以前に、仮称艦名”H”および仮称艦名”J”の起工がなされたことは確認済み』

『仮称艦名”J”は、激化する戦況により、資材を他へ転用されて建造は中止された模様』

『ただし、仮称艦名”H”はドイツの国威発揚の意味もあり、建造は継続していると推測される』

『当方の活発な諜報活動にもかかわらず、建造場所は不明』

『この情報は、ドイツ側の欺瞞工作であるとの認識も局内に強く持たれている』

『確認作業は現在も続行中』










「また!・・・・また引っかけられた!」

アスカが地団駄を踏まんばかりに悔しがる。

「か、艦長!?」

「わからないの?・・・目の前にいるのは「ビスマルク」クラスじゃないのよ!」

「!?」












「完成させていたのよ!”H”クラスを!」



































大日本帝国軍艦「敷島」

パンテレリーア島の西、32マイル

1942年12月13日、2015












《敵2番艦、回頭します・・・・離脱する模様》

「了解・・・・砲術長?聞いてたかい?」

《聞いてます。目標を再度変更して敵1番艦に合わせます》

「頼むよ。そうそう長居は出来ないから、手早くね」

《ヨーソロー》

「さて・・・・そろそろ敵も照準が定まってきたんじゃないかな?」

艦橋にて仁王立ちのまま指揮を取りつづけるシンジ。

「なーんか、出来すぎって感じもするなぁ」

それはそうだ。

敵戦艦3隻のうち、2隻までもが主砲を一度も轟かすことなく大きなダメージを受けているのだ。

見張り員の見立てでは、今潰した戦艦は既に喫水が上がっているという事だったから、浸水も相当な量なのだろう。

たが、その言葉を出すのはさすがにまだ早かった。

ただ1隻になったアメリカ戦艦が、狙いを後方の「ローマ」に絞って行なった射撃が立て続けに命中したからだ。




「「ローマ」、被弾しました!!」

シンジは艦橋横の張り出しまで駆けて後方を見た。

そこには前部2基の砲塔、その両方を叩き潰されのた打ち回っている「ローマ」の姿があった。

「そう簡単には勝たせてくれないか!」

思わず呟くシンジ。

「「ローマ」に連絡!”コノ海域ヨリ離脱セヨ。貴艦ノ任務ハ終了シタ”」

「了解!」

「砲術長!「ローマ」の分も放りこんでやれ!」

《了解!・・・・第5射・・・てぇー!!》

再び閃光と轟音。

「艦長!「ローマ」から返信です!”悔シキ次第ナレド、本艦既ニ戦闘力ナシ。反転シ、離脱スル・・・・貴艦ノ健闘ト、本国ヘノ無事ナル帰還ヲ祈ル。サラバ」

「・・・・・律儀な人だなぁ」

シンジは微かに笑う。

砲弾が飛び交うこの状況で。

「返信しておいて。”今マデ我ラニ与エラレタ貴官ラノ助力に謝ス。マタノ再会ヲ祈ル。サラバ」

「ローマ、転舵します!」

シンジが見ると、「ローマ」は大火災を起こしながらのたうつように回頭している。

無事にタラントまで帰り着けるか怪しいところだ。

「残ったのはそれぞれ1隻づつか・・・・」

《敵3番艦、こちらにまっすぐ突っ込んできます!》

「クソ!帆船時代じゃあるまいし!・・・・取舵いっぱい!砲術長、針路固定したら片っ端から放り込んでやれ!」

《ヨーソロー》






































USS 「アラバマ」

パンテレリーア島の西、32マイル

1942年12月13日、2015










《1番遠・・・2番近・・・3番、オン・ターゲット!》

「アラバマ」のブリッジに歓声が広がる。

今まで叩かれるだけ叩かれていたのだからムリもない。

だが、歓声は次の報告で消えてしまう。

「敵1番艦、発砲!」

味方を電光石火の早業で片付けたモンスターが彼らの「アラバマ」に牙を剥いたのだ。

「怯むんじゃないの!撃ち返しなさい!!」

アスカの声に答えるように、敵艦に指向可能な前部2基、6門の16インチ砲   40.6サンチ砲が轟音と共に火を吹く。

「敵2番艦、脱落します!・・・・敵1番艦、回頭!」

アスカには敵艦艦長、つまりシンジの思考が手に取るように読めた。

ここで距離を固定しようっての?・・・・ちょっと遠いんじゃないの?・・・・アンタのフネも16インチでしょう?

確かに、40.6サンチ砲だとすれば若干遠い。

40.6サンチ砲だとすれば。

それとも・・・・ツメの甘いバカなの?・・・・もしくは臆病者?

アスカはそこで頭を振り、考えを振り払う。

あの男に限ってそれだけは無いわね。

そして、正解が降ってくる。

「・・・・来ます!」

ストップウォッチを握っていた下士官が叫び、次の瞬間「アラバマ」は特大の水柱に囲まれ、大きく揺さぶられた。

アスカはその揺れを、椅子にしがみ付く事でやり過ごしながら、冷静に水柱を観察していた。

「!」

彼女は気付いた。

「艦長?」

呆けたようになっている彼女を見て心配になったカヲルが声をかける。

「面舵!距離を詰めるわよ!」

常態に復帰したアスカはカヲルの呼びかけに気付かずに命じる。

「艦長?・・・・敵も16インチですし、距離はこのままでよろしいのでは現に敵艦も距離を固定・・・・」

「この距離じゃアイツの装甲は破れないわよ」

「?」

「ナンバー・ワン、気付かない?水柱の大きさに」

一瞬考えた後、カヲルは顔面蒼白になる。

「まさか!?」

「おそらくね」

アスカはそれだけ言うと暗闇の中に目を向ける。

「確実に砲の口径はこっちよりもデカイわ・・・・距離がこのままなら一方的にやられるだけよ。あっちの砲術の腕前は実証済みみたいだしね」

「分が悪いですね・・・」

「こんな状況、誰も考えないわよ!」

そう言って肩を竦める。

「南北戦争じゃあるまいし、主力艦同士の一騎討ちなんて誰が考える?」

「確かに」

そう言ってカヲルも墨を塗ったような外へ目を向ける。

「ですが、退くわけにもいきませんね」

「あったり前でしょ!」

そしてブリッジの中にいる人間全員に聞こえるよう声を大きくする。





   やるか、やられるか
「Kill or Be killed・・・・アタシ達の力、見せてやろうじゃないの!」




その言葉と共にようやく射界の取れたC砲塔も加わっての砲撃が始まり、アスカの顔を発射炎で照らし出した。





























大日本帝国軍艦 「敷島」

パンテレリーア島の西、30マイル

1942年12月13日、2017











「敵1番艦、転舵!突っ込んできます!」

見張り員の報告が夜戦艦橋に響く。

「チッ!」

出来ればこのままの距離で砲戦を継続したかったシンジだが、そうも言っていられなくなった。

正直な話、敵1番艦の状況判断と決断の素早さに舌を巻いている。

道理ではわかっていても、敵に接近すると言うのはなかなか度胸が要る。

選択肢は三つ・・・・

シンジは脳細胞をフル回転させて考える。

ひとつ。こちらも転舵して、距離を固定することに努力する。

ふたつ。敵に対応してこちらも突っ込む。

みっつ。このまま針路を固定して撃ちまくる。

距離を固定したいのは山々だが、これ以上距離の固定にこだわると、砲戦がダラダラと続く恐れがある。

突撃は・・・・海軍向きの行動であるが、この場合は論外。

射撃解析値が無効になる上、垂直装甲をぶち抜かれる距離になったら、いくら42サンチ砲対応防御でも意味が無くなる。

となれば取れる選択肢はひとつ。

「砲術長!針路はこのまま変えない。早いトコ当ててくれ」

それに答えるケンスケの声は快活な物だった。

《ヨーソロー。次は当てます》

過剰とも言える自信だが、実績がその言動を裏付けしている。

《第8射、てぇー!》

「敵弾飛来!」

全門斉射と「アラバマ」の16インチ砲弾が着弾したのはほぼ同時だった。

水柱と動揺、そして衝撃と破壊音。

「被害報告!」

すぐさまシンジが各部署に報告を求める。

《射撃指揮所から艦長、1番から4番まで主砲塔異常なし》

《機関室から艦長、主機異常なし。全力発揮可能》

とりあえず、主砲と機関さえ無事ならば、「敷島」の基本的な機能は生きている事になる。

シンジも一安心する。

《後部艦橋、応急指揮から艦長》

応急班の指揮を取っているトウジの声がスピーカーから聞こえる。

「副長、被弾箇所は?」

《右舷2番高角砲と、その周辺の機銃座3つです》

「被害程度は?」

《高角砲は全損。射撃不可です・・・・砲員は全滅》

シンジは歯を食いしばる。


これは戦争、戦争なんだ・・・・今まで数知れない人間を殺してきたお前が何を迷う?


《機銃座の方でも死傷者多数。幸い火災は発生していません》

「了解。応急班は医務班に協力して負傷者の手当てを」

《了解》

「艦長」

シンジの隣に控えていた少尉が声を掛ける。

「なんだ?」

「輸送船団と既に15海里以上距離が開いています。このままでは取り逃がす事に・・・」

彼らの本来の目的は船団にこそある。

戦艦その他は添え物に過ぎない。

「わかっている。だが目の前のあいつを放り出して船団を狙うなんて出来るもんか!」

「ですが・・・・」

「だから一刻も速く奴を片付けて船団を追撃する・・・・それも不可能な場合は魚雷艇隊に任せるしかない」

「は・・・・」

「今は目の前の敵だけを見るんだ。欲を出すと足をすくわれる・・・・今できる事を精一杯やるしかないだろう?」

「はい!」

「良く目に刻みつけておいたほうがいい。戦艦同士の一騎討ちなんて、そうそう見られるもんじゃない」

シンジはそう言うと何の衒いもない笑いを浮かべる。






「ここが地中海で、戦っているのが日本人で、乗っているフネがドイツ製ともなれば尚更だ!」

































USS 「アラバマ」

パンテレリーア島の西、28マイル

1942年12月13日、2021









「砲術!いい腕よ!・・・・敵に負けてないわ!」

ここのところ地中海方面の連合国海軍を恐慌に陥れていた謎の戦艦にはじめて傷を負わせたのだ。

上機嫌も頷ける。

「次はもっといいところに当てなさい!」

《アイ・サー・・・・現在装填中》

「フフン・・・・いいとこいけるかもね」

「船団はこの海域から遠ざかりつつあります・・・・とりあえず、本来の目的には成功しかけてますかね」

「最後まで気を抜いちゃダメよ」

「判ってます。”船団は無事でしたが、「アラバマ」は沈みました”じゃあ本国に帰れませんからね」

8発の42サンチ砲弾が降り注いできたのはそんな瞬間だった。

夜目にも白い水柱と、先ほどとは比べ物にならない衝撃。

そして轟音。
アスカは衝撃を受け止めきれずに床に倒れ伏した。

「艦長!」

カヲルが助け起こそうとするが、アスカはそれを制止する。

「まず被害報告!」







ケンスケが絶大な自信を持って送りこんだ8発。

そのうち目に見える命中弾は1発だけだった。

42サンチ徹甲弾は構造物と一体化された煙突基部に命中。

本来ならば艦の奥深くに侵入してから発火するはずのそれは、信管の調整が誤っており、艦内の煙路、その中途で過早爆発を起こした。

機能が正常だったならば、その砲弾はボイラーを破壊し、「アラバマ」の心臓に致命的なダメージを与える筈だった。

しかし、幸運だったとはいえ、損害はけして軽くはない。

爆発で煙路が塞がり、ボイラーの内圧が急速に上昇したのだった。

この影響で「アラバマ」の備えるボイラーの内、半数が緊急停止した。

これだけでも戦闘中の艦にとっては大ダメージなのだが、これで終わりではなかった。

至近弾になった他の7発。

そのうちの1発が、実質的にこの海戦を終了させる事になった。










「艦中央部に被弾!被害調査中!」

アスカが立ちあがり、打ち付けた腰をさする。

「さっきのは訂正ね。まだまだ敵の方が上手だわ。

「砲撃訓練を増やす必要がありますね」

「まったくだわ。これじゃあまるで大人と子供よ・・・・=v

「艦長!」

操舵下士官が悲鳴に近い声を上げる。

「どうしたの?」

「舵効きがえらく悪くなりました!速力も落ちてます!」

「どういうこと?・・・被弾は艦の中央よ?」

「わかりません・・・・爆発で操舵の油圧系統がやられたかも」

「左舷・右舷・艦底の3系統が一気に切られるなんてあり得ないわ」

《ダメコン班からブリッジ。被害報告》

「やられたのはどこ?」

《煙突が吹き飛ばされました。そしてその残骸が煙路を塞いでいます》

「God dam!」

《その影響で2・4・6番ボイラーが緊急停止しました》

「半分で済んだのはラッキーかしらね」

《それだけじゃありません。機関室の報告によると、着弾とほぼ同じに左舷軸の回転が異常に上昇したそうです》

「?・・・・どういうこと?」

《軸が急に回転を上げるなんて、理由は負荷が無くなったとしか考えられません》

「負荷が無くなる?・・・・って、まさかスクリューが・・・・=v

《おそらくは・・・ん?ちょっと待ってください》

スピーカー越しに、ダメコン班長が誰かの報告を受けているのがわかる。

《艦長、やはりそうです。左舷の軸室と舵機室にでかい破孔。かなり浸水しているそうです》

「魚雷の流れ弾?・・・・ったくなんてツイてないのよ!」

歯軋りしながら悔しがるアスカだが、傍らで顎に手を当て考え込むカヲルを見つける。

「ナンバー・ワン、どうしたの?」

「そうか・・・・これが水中弾か・・・」

「ナンバー・ワン?」

「艦長、これは魚雷ではなく、あの戦艦の砲撃によるものです」

「なんですって!?・・・・被害は水面下よ?・・・・砲弾がどうやって水面下に当たるのよ??」

「どこかの論文で見た事があるんですが、水中弾効果という現象があるそうです」

「それは?」

「水面に着弾した砲弾は、そのまま沈むのがほとんどですが、波の影響その他で、まれに水中を魚雷のように進む砲弾もある、と」

アスカにとってそんな話は初耳だった。

合衆国海軍士官のほとんどはそうだろう。





だが、日本海軍は違った。

ワシントン海軍軍縮条約の発効により、船穀が完成した段階で破棄が決定された戦艦があった。

「土佐」

海軍はこれをただ破棄するだけでなく、砲爆撃実験の標的としていた。

なにせ上甲板から下は、紛れも無く八八艦隊計画の主力艦である。

40サンチ防御が施された標的など滅多にお目にかかれない。

「土佐」はあらゆる砲爆撃に良く耐え、貴重なデータを海軍にもたらした。

その中に水中弾効果がある。

いみじくもカヲルが述べたとおり、潮流や海流、それに砲弾の水面への射入角、弾速、弾重量など、様々な要素が複雑に絡み合い、水中を突進する砲弾があることが証明された。

戦艦隊による一大決戦を夢見ていた海軍にとり、それは福音になった。

彼らは大和級の九一式被帽付き徹甲弾に代表される、水中弾効果を発揮”しやすい”砲弾の開発に努めた。

しかし、そんな彼らの砲弾とて、常にこの効果が発生するわけではなく、普通の砲弾よりは可能性が高い、というに過ぎない。

ましてや「敷島」の42サンチ徹甲弾はドイツ製。

そのような小細工は施されていない。

ゆえに、これはまったくの偶然だった。

水中弾効果を発揮した1発は、「アラバマ」の艦尾、その水面下で爆発。

猛烈な爆圧で4基のスクリューの内1基をもぎ取り、もう1基を歪めてしまった。

そして舵にも爆圧は襲い掛かり、左舷側の舵板を根元からねじ曲げたのだった。













「なんてこと・・・・」

「敵艦、転舵しました!離れていきます!・・・・船団の方向へ向かいます!」

「艦長、追撃は無理です」

「わかってるわ・・・・片足をもがれたようなものだものね」

「このままでは船団が・・・・」

「射程にいる限り、撃ち続けなさい・・・・それくらいしかできないわ」

復仇を誓ってここへやって来た筈だった。

それがどうだろう。

再びあいまみえてから、終始翻弄されどおしだった。

兵の質、艦の性能、敵に比べて大きく劣っているということはない。

これはアタシの能力が及ばなかったと言う事なのかしら・・・



それは一面の真実であり、真実ではないとも言える。

この戦いに参加したもの全員が、数限りない過誤を犯している。

アスカもそうであり、シンジにしたところでそれは同様だ。

シンジと「敷島」が過誤をより多く修正できたのは事実。

そうでなければアスカとシンジの立場は逆だっただろう。

だが、それだけではない。

時の勢いと言ってしまえばそれまでだが、人智を越えたものを感じさせるのも確かだ。

運などと言えば、シンジは顔をしかめるだろうが。






























大日本帝国軍艦 「敷島」

パンテレリーア島の西、22マイル

1942年12月13日、2025












《敵戦艦、依然追撃してきません・・・・現在の距離17海里》

「どこをやったのかな・・・・」

今「敷島」は段階的に速力を上げ、輸送船団を追いかけている。

「アラバマ」と殴り合っている間に船団は20マイルほども先へ進んでしまったのだ。

イタリアの魚雷艇隊は、必死の防戦を試みる護衛隊に阻まれて効果的な襲撃が行なえないでいるらしい。

「ま、いいや・・・早いところ追いついて沈めるだけ沈めないと、後が厄介になる。

おそらく英海軍は、水上戦力や航空戦力の激減を補完するべく、マルタ近海に潜水艦を何隻か張りつけているだろう。

そんな連中に発見されて魚雷を見舞われるのは御免被りたい。

だが、彼ほどの軍人であっても、ミスはする。



「敷島」の周囲   と言っても、「敷島」や「アラバマ」の砲撃に比べればばらつきが目立つが   に立った9本の水柱がその証明だった。



「どこからの砲撃だ!」

《電探室から艦長、船団の後方に独航艦アリ。距離から見ておそらく砲撃はそこからです》

「クソ!一番最初に砲撃した戦艦か!」

シンジの言う通り、最後の盾となるべく攻撃を掛けてきたのはシーフリット中将座乗の「ライオン」だった。

大口径砲弾をまともに受けて、上甲板はひどい有様だし、速度も12〜3ノットと言うところだろうが、戦意に不足は無い様だ。

シンジは僅かな時間の間に考えた。

彼我の状況、時間、距離、目の前の戦艦を屠るまでにかかるであろう時間と損害。

そして、後ろには深手を負ったとはいえ主砲戦能力は生きているアメリカ戦艦がいる。

2秒の思考の後、シンジは決断した。

彼は高声令達器を手に取ると、艦内全てに声が伝わるようにした。



《達する。こちら艦長・・・・本艦はこれよりこの場から避退する》

艦橋内の人間、その全員が驚いて彼を見る。

一見したならば、目の前にいる戦艦は瀕死、「敷島」ならば手も無く捻れる、と思える。

しかし、シンジはそうは考えなかった。

《我々は勢いを逃した。もし目の前の敵戦艦に手間を取らされれば、無用の時間と被害を食らいこむことになる。そして我々の後方には船足を鈍くしながらも追いすがってくる敵戦艦がいる》

シンジはそこまで言うと大きく息を吸い込んだ。

《我々の地中海における任務は終了した!以後の任務は、これ以上の損害を出さずに本土まで回航する事である・・・・本土までは遥か遠い。皆の力を合わせて欲しい。以上》

シンジは言い終えて令達器を置く。

「面舵15度」

「おーもかーじ」

25ノットの速力で進む「敷島」は小気味良く右旋回を始める。

「第1戦闘速力」

「ぜんしんぜんそーく」

「電探、発振やめ。逆探のみに切り替え」

《電探室、電探発振停止》

「クソ・・・ここまで来て獲物を取り逃がすとは・・・・」

主目標に一撃も加えられなかった事が悔やまれる。

「通信室、ベルリンに向けて発信」

《よろしい》

「本文・・・・”ワレ、戦闘ヲ終了ス。敵ニ与エタル損害、戦艦級3隻。小破カラ中破程度トワレル。輸送船団、取リ逃ガシタリ。面目ナシ”以上」

《・・・・了解、発信します》

「続いて第5航空艦隊司令部に発信・・・・”敵ノ妨害ニヨリ、輸送船ニ打撃ヲ与エル事叶ワズ。最後ノ一撃、オ任セシタイ”・・・以上」

シンジがそう告げたとき、足下からの震動が強まった。

12基のディーゼルエンジンが唸りをあげ、7万トン近い艦を30ノットで突進させるのだ。

だが、これも自侭に、というわけにもいかない。

「艦橋から機関室、機関長は?」

《こちら機関室》

機関長の野太い声が聞こえてきた。

「残燃料と航程を計算して、いつまでこの速力が続けられるか計算してくれ」

《了解・・・・本土までですか?・・・でしたらそんなには・・・》

「それは航海士に伝えておく。最悪でもシンガポールまで保てばいい・・・・航路も航海士に伝えておく」

《了解です・・・いよいよ日本ですか》

「ああ。僕らの本来の戦場だ」

《機関室了解》

シンジは会話を終えると、艦長用座席に深々と腰掛ける。

まだ戦闘海域とはいえ、もはや「敷島」に追いつける艦艇はない。

戦艦群はどれもこれもスクラップ5分前だろうし、軽快艦艇はまだ魚雷艇との戦闘に忙殺されている。

その魚雷艇も、そろそろ引き揚げるだろう。

「艦長、針路は?・・・・」

舵を握る下士官が尋ねる。

現在の針路は110度。

このままでは英国が地中海に持つ最大の根拠地、アレキサンドリアに突っ込んでしまう。

ま、それまでには時間があるが。

「マルタ島をかわすまでは現針路。それからはまた伝える」

「ヨーソロー」

《艦長、第5航空艦隊司令部から入電です》

「早いなぁ・・・なんだって?」

《読み上げます・・・・”貴信了解。アトハ任サレタイ・・・・更ニ、べるりんノ命ニヨリ、貴艦ノ任務ガ終了シタコトヲ告ゲル。太平洋マデノ無事ナル航海ヲ祈ル》

「敷島」の売買契約に記載されていた”いくつかの任務”が、今終わったのだ。

シンジは座席の背もたれに深々と体を預け、目を瞑った。

《艦長、追伸です》

「?

《艦長個人宛にです》

「構わない。読み上げてくれ」

《はっ・・・・本文、”マタ会オウ”》

「・・・・・発信者は?」

《独逸地中海方面担当空軍、第5航空艦隊司令長官です》

シンジはそれを聞いてクスリと笑う。

《返信しますか?》

「いや、いいよ。また会ったときに言うさ」

《了解です・・・・・艦長!》

今まではどちらかというと眠たげだった通信室からの声が一気に緊張したものになる。

「どうした!」

《敵艦から入電です!》

「敵艦から?・・・・読み上げて」

《はっ!》



《発、USS「Alabama」》

《宛、HMIJS「Shikishima」》


《本文・・・・・・『We will win by all means the last!





シンジは黙ってそれを聞いていたが、やがて堪えきれなくなったように大笑いし始めた。

「あっはっはっはははは!!」

そこへ、応急作業も一段落したトウジが艦橋に上がってきて目を丸くした。

「ど、どないしたんや、艦長!?」

「いや、今僕達が叩いたアメリカ戦艦から電文が届いてね」

「なんや、変なことでも言ってきたか?」

「いやいや・・・・相当な負けず嫌いだよ、僕らの敵は!」

「???」

「We will win by all means the last」

「????」

ちなみにトウジは英語は得意でない。

兵学校でも勉強させられたのだが、身に付いていない。

「最後には絶対我々が勝つ・・・・だってさ」

「はぁ・・・・確かに負けず嫌いやのー」

「さて、気の利いた返信でもしてやろうか」

「まーた艦長の悪い癖が・・・・」

「いいじゃなないの。これが終わったら無電封止するから」

「へえへえ」

「通信室から艦長、例の敵艦に返信」

《通信室よし》










「本文・・・・・We happend to good at fighting!









































USS 「アラバマ」

シシリー島の西、120マイル

1942年12月14日、0700














今、アラバマはジブラルタルを目指し、航行している。

本当ならばマルタにでも入港して、応急修理を済ませてから帰投すべきなのだが、帰路にまた魚雷艇に襲われたら洒落にもならない。

幸い、浸水は食い止められており、傾斜もさほどではない。

砲戦能力に影響はなく、何時でも戦闘態勢に入れる。

とはいえ、速力は15ノットまでしか上がらない。

心配したシーフリット中将が、護衛に4隻の駆逐艦を付けてくれた。

ちなみに「ライオン」とテレメーアはマルタに向かった。

2隻は応急修理を施さねば沈没の危険すらあるのだ。

「艦長」

艦長室にカヲルが顔を出した。

他に誰もいないことを確認する。

「何?」

不機嫌そのもののアスカ。

カヲルは肩をすくめて報告する。

「船団主力がマルタに入港したよ」

アスカはそれを聞いて少しだけ、寄せた眉を緩める。

「残ってるのは?」

「例の「オハイオ」だけ」

「護衛隊の損害は酷いモンだけど、なんとか初期の目的は達成できそうね」

「大型艦は全て中破以上。「テレメーア」は大破・・・・」

「その2隻は?どうしてるの?」

「「オハイオ」に随伴するようなカタチでマルタに向かってるよ」

流石にそのような状況では”護衛している”とはお世辞にも言えない。

「・・・・あとは「オハイオ」の燃料類さえ届けば、マルタはあと2ヶ月頑張れるわね」

「我々にとって何物にも代え難い時間が稼げるからね」

「逆に言えば、「オハイオ」がもし沈んだら・・・・整備は完璧でも航空機は飛べない。なによりマルタの民間人に必要とされてる灯油類も補給できなくなる」

「「オハイオ」次第、か・・・」

「こんなところで西を目指して航行するってのは気が引けるわね」

「仕方ないさ。本艦が加わっても足手まといになるだけだしね」

ただでさえ図体がでかく、小回りの利かない戦艦。

それに今の「アラバマ」は半身不随状態だ。

まともに戦闘が出来るとは思えない。

「でも良かったよ」

「なにが?」

「あれ以来、艦長の機嫌は最悪だからね!・・・・報告に上がった若い連中など、言うべきか待つべきか逡巡してたくらいだから」

「・・・・頭に来るのはわかるでしょう?」

「そりゃあまあ。電文を見たときは頭に血が昇ったし」

アスカは制服の胸ポケット、そこからキレイに折り畳まれた電文を取り出し、広げる。

「・・・・今読んでもムカムカするわね・・・・現象面で見る限り、まさにその通りだとわかっているから尚更よ」

「『We happend to good at fighting!』・・・・からかってるのかな?」

「たぶん本気で言ってるんだと思うけどね・・・・それにしても『僕らはたまたま戦うのが得意だから!』とは言ってくれるわ!」

「立場無いね」

「まったくよ・・・・上層部になんて言い訳しようか迷ってるところよ」

その時、通路をバタバタと駆けてくる足音が聞こえ、その勢いそのままで艦長室のドアがノックされる。

「どうぞ」

その勢いを削ぐように、アスカは柔らかく告げる。

「失礼します!」

入ってきたのは通信士だった。










彼の表情は、何か恐ろしい物を見たような蒼白だった。








































アメリカ籍大型タンカー、「オハイオ」

マルタ島の西、35マイル

1942年12月14日、0630














今、「オハイオ」は前後をオーシャンタグに、左右を護衛のコルベットに抱えられて前に進んでいた。

もはや彼女自力では前に進むことすら出来ないからだ。

少し離れたところには戦艦2隻が心配そうに付き添っている。

もっとも、その戦艦達も人の心配を出来る状況ではなかったのだが。

「船長、曳航速力5ノット、張力20トンです」

戦闘海域突入以来一睡もせず、ブリッジから離れようとしないメイスン船長に甲板長が報告する。

彼は赤い目をこすりながら尋ねる。

「これが限界か?」

「はい。これ以上速力を上げたら、曳航索が保ちません」

「まったく・・・・ドイツ人の攻撃範囲内で5ノットしか出ないとは・・・・」

「エンジンの方は乗員での修理は不可能だそうです」

「ああ、聞いたよ。なんでも動かすにはシリンダーを載せ変えなきゃならんらしい」

「造船所でも大仕事ですね」

「だから機関室から人は引き上げさせているところだ・・・・空襲があった場合、機関室じゃ逃げ切れんからな」

「もうここはマルタの空軍が支援してくれるのでは?」

確かに、ここらならばいかに脚が短い   航続距離が短いとはいえ、スピットファイアでも支援できる距離だ。

「前回の輸送船団がコケたあおりさ。マルタのRAFは実質的に活動不可能・・・・燃料も、修理部品も、何もかもが無いそうだ」

「それはまた・・・楽しくなってきますね」

「ああ、楽しくてしょうがないさ!」

セリフと気持ちが正反対だというのは、顔面に刻み込まれた深い疲労の色を見ればわかる。

「ここまま行けばマルタ入港は何時だ?」

「現速力が継続するとして・・・・だいたい14時くらいでしょうか?」

「7時間強か・・・・ドイツ野郎が見逃すはずもないか」

「では?」

「ああ、最後にもう1回来るぞ・・・・ボートはすぐに降ろせるようになっているだろうな?」

「問題ありません。手すきの乗員はボートの近くで待機するよう伝えてあります」

「良い判断だ」

「船長!コルベットから発光信号!」

ブリッジの端で周囲を睨み付けていた見張り員が叫ぶ。

「信号手!」

「今行きます!」

信号手は報告が上がった舷側にすっ飛んでいき、明滅する光の信号を読みとる。

「敵機飛来!警戒ヲ要ス!!」

「チィ!・・・休ませてもくれねぇか!!」

「引き続きコルベットから信号!・・・乗員ハ本艦ニ避難サレタシ!」

ここまでか・・・

メイスン船長は深い溜息を漏らすと、スピーカーに繋がるマイクを取り上げた。

《船長から全乗員に告げる。総員退船・・・・両舷のコルベットに移乗せよ。繰り返す。総員退船・・・》

何度かそれを繰り返し、マイクを置き、外を眺める。

そこにはコルベットに乗り込むべく悪戦苦闘している乗員達が居た。

「甲板長、俺達も行くぞ」

船長はそう言って椅子から立ち上がる。

それを聞いて甲板長は安心したのか胸を撫で下ろしている。

「なんだよ?」

船長が怪訝そうに尋ねる。

「いやぁ・・・・船長が『船と共に』なんて言わないでくれて助かりますよ」

「あほう」

船長は笑いながら答える。

「オレ達は軍人じゃねぇんだ。もちろんフネを失うのは身を切られるより辛いがな」

「それは私達だって同じですよ」

「ムリもない。さ、行くぞ」


























「第2小隊と第3小隊は戦艦をやれ。第1小隊はあのデカブツを頂く」

《第2小隊了解》《第3了解》

「出てきませんねぇ」

9機のDo−219を率いるベルンハルト少佐の機体。

参謀役でもある副操縦士がぼやく。

「いいじゃねぇか。爆撃日和ってやつだ」

「戦闘機隊の連中、手持ちぶさたですよ」

副操縦士が窓から周囲を眺める。

そこには爆撃機よりも遥かに数の多い戦闘機ががっちりとガードしていた。

その数36機。

航空艦隊司令部は、何があってもこの襲撃を成功させるべく、予定よりも多い戦闘機を送り込んだのだ。

とはいえ、周囲に迎撃機は1機も見あたらない。

それほどまでにマルタは追いつめられているのだろう。

「第2小隊、第3小隊離れます」

3機づつで編成されたそれらの小隊が翼を翻し、それぞれの目標に向かっていく。

「じゃあ俺達も行くか」















3機の双発爆撃機の動きは奇妙な物だった。

爆撃に備えて針路を固定しなければならないはずなのに、それに執着していない。

加えて、3機程度で爆撃を行うには高度が高い。

お陰で護衛艦艇は効果的な対空火網を形成できないでいる。

もっとも、数が少なすぎて目の大きい網にならざるを得ないだろうが。

駆逐艦の見張所などは、既に爆撃機の投下口が開いているのを怪訝に感じていたが、どうすることもできない。

そうこうするうちに、爆撃機からなにかが投下された。

「オハイオ」からの距離はちょうど15qだった。










































HMS、「ライオン」
 
マルタ島の西、20マイル

1942年12月14日、0630
















満身創痍の「ライオン」と「テレメーア」はのたうつようにマルタ島を目指していた。

誰もが危険海域に留まることに不安を覚えていたが   その中には司令官たるシーフリット中将も含まれる   マルタ島で修理をしなければ回航もままならないと言われてはどうしようもなかった。

「敵機の高度は?」

「ライオン」の露天艦橋   「ライオン」にはそんな物まである   に移動したシーフリット中将は、上空を見上げながら尋ねた。

「レーダーによれば約5000mです」

「ドイツ人・・・・何を考えている?」



爆撃には2種類ある。

ひとつは急降下爆撃で、対空砲火に機体をさらすことになるが、命中率は最も高い。

インド洋遠征時の日本海軍など、80%から90%という呆れるほどの高率を叩き出している。

だが、欠点もある。

前述したものの他に、急降下による猛烈な重力加速度に機体が耐えなければならないため、極端に大きい爆弾は装備できないのだ。

どの国もおおよそ250s程度を使用している。

そして、250sでは戦艦の装甲は破れないのだ。

そこで出てくるのがもう一つの爆撃法、水平爆撃だ。

これはその名の通り、高めの高度から水平飛行状態で爆弾を投下するもので、その形態ゆえに大型爆弾も使用できる。

欠点はもちろんある。

まったくの推測爆撃のため、命中率が恐ろしく低いのだ。

かの日本海軍でさえ、水平爆撃に関してはそれほどではない。

そのため、水平爆撃は機数を多くし、1発でも当たることを祈るしかないのだ。

停泊中の艦船、陸上目標ならまだしも、航行中の艦船を水平爆撃で狙うのは至難の技と言って良い。



「機体はドルニエのようですから・・・・急降下爆撃はできないのでは」

「ならば長靴野郎・・・・失敬、スツーカでも持ってくればよいではないか?・・・・今の我々の状態ならスツーカでも防ぎきれん」

「はあ・・・」



シーフリットの言うように、急降下爆撃ならば確実な命中が期待できるが、水平爆撃ならば身重な「ライオン」でもかわせる。

それも1隻に対し、機数が3機では。



「敵機、爆弾投下!」

大型双眼鏡で空を睨んでいた見張員が叫ぶ。

「?」

シーフリットは疑問符を浮かべた。

ムリもない。

敵機は「ライオン」からまだ遠く離れている。

嫌がらせに来ただけなのか?

シーフリットのその思いは、次の報告で裏切られることになる。




「ば、爆弾がこっちに向かってきます!!」











フリッツX。

無線誘導式飛行爆弾。

ドイツ空軍省が戦局打開のために製作した秘密兵器。

炸薬、320s徹甲弾。









つまり、史上初の空対艦誘導弾の実戦標的として、「ライオン」と他の2隻は選ばれたのだ。



































USS 「アラバマ」

シシリー島の西、120マイル

1942年12月14日、0700












通信士が伝えた内容は、アスカの顔色を失わせるのに充分なものだった。

「シーフリット中将は?」

「はっ、負傷なされましたが、別状はないとのことです」

「不幸中の幸いね・・・」

そう言うとアスカは思わず立ち上がっていた自分に少し恥じ入り、いくらか落ち着いて見せてから椅子に座り直した。

「ありがとう、また何か通信が入ったら伝えて」

「はっ!」

通信士が下がった後、艦長室には重苦しい空気が充満した。

「カヲル・・・・どう思う?」

「なにが」

「負け、かしらね」

「・・・・・目的の大部分は果たせたと思うよ」

「費用対効果が悪すぎるけどね!」

「・・・・「オハイオ」は沈没、「テレメーア」が爆沈、「ライオン」がスクラップ1歩手前・・・・」



「オハイオ」は2発、「テレメーア」は3発のフリッツXが命中した。

「ライオン」には1発が艦後部に命中し、第3砲塔をもぎ取ったが、なんとか沈没は免れていた。



「わかったわよ」

アスカが中を睨んで呟く。

「?」

「あの見事なまでの逃げっぷりが」

「「シキシマ」かい?」

「ええ・・・・こんな切り札があるからこそ、船団に執着しないで逃げたのよ」

「戦略的には勝利。戦術的には屈辱的大敗ってとこかな」

「・・・・やめてよ。自分のバカさ加減を呪いたくなるから」

「なに、今回も向こうの方が少しばかりツイていただけさ」

「でも・・・・・」

「?」

「どうするのかしらね」

「なにが?」




アスカは立ち上がり、壁に貼られている地中海全域を表す海図に歩み寄る。










「連中、どうやって日本に戻るつもりなの?・・・・ジブラルタルを通るにも、前みたいにはいかない・・・・損害覚悟で突っ切るのかしら??」








































大日本帝国軍艦 「敷島」

ポートサイド北西、45マイル

1942年12月19日、1400














「さて、ここまでは上手く来れたね」

艦長室でご満悦のシンジ。

ちなみに彼の人柄を反映してか、艦長室からは華美な装飾は取り払われている。



マルタを大きくかわし、そのまま西進してロードス島の北側を回り込んできたのだから見つかるはずもない。

ここまでは。

「なあ、シンジ・・・・ホントに通るんか?」

艦長室を訪れているトウジがいささか心配そうに尋ねる。

「心配性だなぁ・・・・どっちにしろ、僕らにはもうここしか道はないんだから」

「まあそりゃそうやけどなぁ・・・・」

「シンジ、見つからないわけないんだから、敵に攻撃されるぞ?」

トウジと一緒になって来ているケンスケが言う。

「覚悟の上だよ」

「・・・・だろうな」

「だろうなってオイ・・・オマエまで」

「しょーがないさ。大体シンジはこうと決めたら頑固だからな」

「・・・・違いない」

「ここを抜けてしまえばあとはどうにでもなる。英海軍は東洋艦隊を増強してるわけじゃないし、大西洋を南下するよりは危険は少ないと思うよ」

「最大にして最後の山場か」

「そういうこと」

「速力はどんなや?」

「場所によるけど、8ノットくらいかな・・・・出しても12ノットだね・・・・航海士とも話し合ったけど、それ以上出したらぶつけるね」

「おーコワ」

「敵が右往左往してる間に行けるとこまで行く。それしかないよ」

「まあ確かなぁ・・・・それじゃ俺は砲の点検整備に付き合ってくる」

「ケンスケ」

シンジは退室しようとしたケンスケを呼び止める。

「ん?」

「主砲も出番があるから、整備頼むよ」

「任せとけって」

そう言い残してケンスケは立ち去った。

「さて、ワイも応急班の訓練でも見てくるかのう」

「応急班の腕で被害極限が決まるからね。鍛えてやってよ」

「ケンスケじゃないが・・・・任せいや」

「うん、僕が出る幕じゃないからね。任せるよ」

「なあシンジ・・・」

「うん?」

「ワイら、本土に戻るんやなぁ・・・・」

「もちろん」

「戻ってもこの戦争・・・・」

”勝てるやろか?”と続けたかったトウジだが、これからする話題にしては不吉すぎると判断して言葉を濁す。

「いや、なんでもあらへん・・・・んじゃな」

そう言い残してトウジは退室した。

もちろんシンジは彼の言外の意に気付いている。




トウジ・・・・この戦争、勝てるわけないんだよ。





























大日本帝国軍艦「敷島」が、全ての準備を終えて行動を開始したのはその日の夕刻。











目標は日本本土。











その航程の第1歩として、彼らはレセップスが開通させた長大な運河、スエズに足を踏み入れたのだった。






















彼らが夢見るは故郷の大地。







緑溢れ、清水がせせらぐ弧状列島。









しかし、その故郷も戦火にさらされる運命にあることを、この時点では誰も気付いていない。









戦火に巻き込まれるのは故郷だけではない。









彼らとて、ただ帰るわけではない。
























戦うために、戻るのだから。

















第3部・・・・あるの?(笑)

あ・と・が・き

みなさんこんにちは。

P−31です。

今度こそ本当に最終幕をお届けします。

尻切れトンボ?

何とでも言って下さい(笑)

第3部があるのかどうかは今のところ私にもわかりません(爆)

見たいなんていう人もあんまりいないだろーし。

ま、気が向いたら。

それでは。

 

 

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