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「戦争は他の手段をもってする政治の延長なり」



(クラウゼヴィッツ)




























The Theater


In case of Europe


第2部第3幕「軍艦」
























USS、「アラバマ」

大ブリテン島北西、ヘブリティーズ諸島沖合

1942年9月16日、1300










アスカと「アラバマ」は予定通りに輸送船団と別れると、濃霧の中を単艦でスカパ・フローに向かっていた。

「艦長からレーダー室、レーダーに反応は?」

《こちらレーダー室。反応のハの字もありません》

「了解!・・・・ったく・・どこうろついてんのかしら?」

「アラバマ」のブリッジでアスカがイライラしている。

「ホントにおかしいですねえ・・・・暗号では3日前にポーツマスを出港したらしいんですが・・・・」

カヲルの歯切れも悪い。

出迎えに来るはずの英海軍の戦艦「アンソン」が見つからないのだ。

濃霧の中、頼りになるのがレーダーしかないという問題もあるが。

「副長、考えられる可能性は?」

「うーん・・・・まさかとは思いますが・・・・」

「なによ?」

「実戦訓練の一環として、レーダーを切って逆探だけで本艦を追尾してるとか・・・・」

「・・・・・・・・あり得るわね・・・・」

「どうします?・・・・連中の軍令部経由で連絡を取りますか?」

「誰がそんなまだるっこしいことすると思う?・・・・・アンタなら大体どこらへんで追尾する?」

「??・・・・そうですねえ・・・・やはり真後ろでレーダー到達範囲ギリギリってトコでしょうか?」

「ふん・・・・アタシもそう思うわ・・・・」

そういうといきなりアスカは声を張り上げる。

「砲術!・・C砲塔射撃準備!」

「か、艦長!?」さすがにカヲルが慌てる。

「180度方向、適当なところに撃ちなさい!」

《アイ・サー、射撃準備・・・C砲塔遠隔管制、徹甲弾装填》

射撃指揮所からの返答が返ってくる。

「艦長、マズいですよ!」

「なんで?・・・アタシ達は回航にあわせて訓練をするだけよ?」

アスカがニヤリと笑う。

「それはそうですが・・・・」

「なら、何の問題もないわよね?」

《射撃指揮所から艦長・・・・C砲塔射撃準備よし・・・・撃ちます》

スピーカーから砲術長の声が聞こえると同時に後方から轟音が響く。

後部の3連装砲塔が射撃したのだ。

放物線を描いて飛翔する3発の40.6p徹甲弾。

《弾着まであと・・・・15秒・・・・》

カヲルはブリッジの片隅で頭を抱えている。

「この霧じゃあ、肉眼では観測出来ないわねえ・・・・」

たしかに、「アラバマ」の周囲は乳白色の霧にすっぽり覆われている。

《弾着5秒前・・・・3・・・・2・・・・弾着、今!》

水柱が見えることもなければ、被弾する敵艦が見えるわけでもない。

「・・・・・・いないのかしら?・・・・」

アスカのつぶやきを聞いて胸をなで下ろすカヲル。

《逆探に反応です!方位190度、距離約10マイルに大型艦!》

それを聞いてアスカは大きく微笑む。

「機関半速・・・・あちらさんの姿を拝みましょう」

これでカヲルの胃袋にはまた穴が開くことになる。

























ドイツ海軍司令部(OKM)

ドイツ第三帝国、ベルリン

1942年9月10日









シンジはベルリンの中心にある海軍司令部に来ていた。

自分たちが乗るフネの詳細な説明を受けに来たのだ。

「ようこそドイツへ」

広い部屋に通されたシンジは老年の士官にそう出迎えられ、椅子を勧められる。

「私が海軍司令官、レーダーだ」

シンジはそれに対しあらためて立ち上がり敬礼する。

「大日本帝国海軍から派遣されました・・・・碇シンジです」

「話はヴァルター・・・・いや、クリューゲル大佐から聞いておるよ・・・・」

「それで、早速で申し訳ないのですが、これからのスケジュールを伺いたいのですが」

ソファーにかけ直し、大事なことを尋ねる。

「うむ・・・・君に乗ってもらうことになるフネはハンブルグで最終艤装が進められている・・・・あと3日もすれば海に乗り出せるそうだ」

「・・・・・・・・」

「そして、契約の条件にもなっているのだが、就役後はいくつかの作戦に参加してもらいたい」

「はい、聞いています」

「そうか・・・・それなら話は早い・・・・場所は地中海だ」

「地中海・・・・それは・・・・」

「そこまで行くのが難儀だ、と言いたいのだろう?」

「あ、いや、そんなことは・・・・」

「いいさ、事実だからな・・・・我々の艦艇も向こうに行くのは今となっては至難の業だ・・・・イギリスの本国艦隊がにらみを利かせているお陰でな」

「・・・・・・・・・・」

「そこで、だ・・・・我々は「ティルピッツ」をノルウェーのフィヨルドに配置して連中の本国艦隊の戦力の半数を引きつけている」

「・・・・・・・・・」

「その隙をついてチリアックスが率いているブレスト戦隊をドイツ本土近海に呼び戻す計画を立てている」

「フランスからドイツまで・・・・・・・・・航路は?」

シンジがそう聞くとレーダーは凄みのある笑いを浮かべる。

「英仏海峡の白昼突破だ」

「!」

「我々はこれを”ツェルベラス作戦”と命名した・・・・」

「・・・・そうか・・・・もしその作戦が成功すれば、私の乗るフネに同日夜間に同じルートで突破しろというんですね?」

「その通りだ・・・・敵もまさか同じ日に今度は逆コースで突破を試みるとは思うまい」

確かに今のドイツ海軍の現況から考えてこれ以外に外洋へ進出する方法は考えられなかった。

「今のところ計画の発動は来月11日を予定している・・・・君はそれまでにフネを動かせる状態にしてくれ」

「わかりました」

「こんな状況ゆえ、訓練もままならないだろうが・・・・頼む」

「気にしないで下さい・・・・俸給分の働きはして見せます」

「そうだ・・・・ひとつ気になっていたのだが・・・・」

「何でしょう?」

「艦名は決めているのかね?」

「はい、そちらから艦種だけお聞きしたときに名前だけはと思って」

「どんなものだね?」

シンジはそれを聞くとイタズラっぽい笑みを浮かべる。

「今はまだヒミツです・・・・フネに軍艦旗を掲げて正式な日本軍艦になったらお教えしますよ」

「わかった、楽しみに待っておるよ」

























USS、「アラバマ」

大ブリテン島北部、スカパ・フロー泊地

1942年9月19日、0900










「なによ、大英帝国海軍のお膝元だってーのに艦艇の数が少ないわねえ・・・・」

係船ブイに係留した「アラバマ」のブリッジから泊地を眺めるアスカが呟く。

たしかに、ここから見えるのは大物は、戦艦では「アンソン」「ネルソン」それにR級が何隻かいるだけだ。

空母はさらに少ない。

正規空母は「アークロイヤル」と「フューリアス」しかいない。

あとは護衛空母が何隻かいるだけだ。

それ以下の艦艇も少ない。

「フィヨルドに引っ込んだままの「ティルピッツ」対策ですよ」

ブリッジに上がってきたカヲルが疑問に答える。

「「ティルピッツ」に?」

「ええ・・・・新型戦艦や大型空母(といってもイギリスさんの空母は小さいですが)のほとんどはそっちに張り付きらしいですよ」

「ふん・・・・出てこない戦艦に怯えてるの?」

「PQ17船団の二の舞が怖いんでしょう・・・・あの時、「ティルピッツ」は結局出てきませんでしたが、船団は大損害を受けました」

この6月にアイスランドを出港した援ソ船団のことだ。

34隻で構成された船団は戦艦「ティルピッツ」装甲艦「アドミラル・シェーア」重巡「アドミラル・ヒッパー」が出撃したとの報に船団を分散させてしまった。

連絡の悪さから、護衛も船団から離れてしまった。

結局、ドイツ側は大型艦は出撃させなかった。

だが、結局PQ17船団は航空攻撃とUボートの攻撃を受けて34隻中、21隻を失った。

今なお当時、PQ17を構成していた商船の乗員などは英国海軍を憎悪しているらしい。

”敵が来ると尻尾を巻いて逃げるロイヤル・ネイヴィー”と・・・・

連合国はこの事態を重く見て、従来英国海軍に任せていた援ソ船団の護衛にアメリカ海軍も参加する事になったのだ。

山を越えたとはいえ、予断を許さない太平洋から貴重すぎる正規空母を引き抜いたのもその為だ。

「でも・・・・ブレストには「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」がまだ健在なんでしょ?・・・・大丈夫なの?こんなので」

「どういうつもりかはわかりませんがね・・・・ま、ブレストの巡洋戦艦もさっぱり動いてないらしいですしね」

「ふん・・・・・」

そんな暢気な会話をしていると、見張所からの報告が聞こえてきた。

「陸上より発光信号!『貴艦ノ当地到着ヲ祝ス。艦長、副長ハ打チ合ワセヲ行ウノデ陸上ノ司令部マデ出頭サレタシ』です!」

「了解!・・・・さて、行きましょうか」

「アイ・サー・・・・手空きの航海科でランチの用意だ!」
























イッチェラントホテル

ドイツ第三帝国、ベルリン

1942年9月14日








シンジ達三人はベルリンでも五指に数えられるホテルに投宿していた。

もちろん長居するつもりはさらさらないが。

「シンジー、お客さんだってよー」

部屋に入ってきたケンスケがシンジに声を掛ける。

「お客?・・・・誰だろう?・・・・・」

シンジがそれに応じて階下のロビーまで出向くと、一人の女性が待っていた。

「伯爵夫人!」

そこにいたのは普段着に身を固めたキョウコだった。

「大佐、ご機嫌麗しゅう」

キョウコは少し硬い表情になってわざとらしくスカートの両端を持ち上げて一礼する。

「あ?・・・・・えーと・・・・あ!」

やっと気が付いたようだ。

「すみませんキョウコさん」

「そうですよ?・・・・私は”伯爵夫人”と呼ばれるのはあまり好きではないんですからね?」

「すみません・・・・」

「気にしないで下さいな・・・・ちょっとした茶目っ気ですわ」

キョウコは微笑みながらいう。

「こんなところで立ち話もなんですわね・・・・落ち着いてお話をしません?」

「そうですね」

そして二人はホテルを出て少し歩いたところにあるカフェテリアに入る。

ホテルのラウンジにしなかったのは、トウジとケンスケに見られてまた余計なことを言われるのが嫌だったからだ。

「今日はなんのご用ですか?」

「いやだ、別にご用なんて訳じゃないですわ」

「?」

「シンジさんとお話ししたかったから、ではダメかしら?」

「え!?・・・・いや、その・・・」

かなり慌てているシンジ。

敵にも名を轟かせている海軍大佐、碇シンジだが・・・・女性相手にはいささか分が悪いようだ。

「ふふふ・・・・冗談ですわ・・・・シンジさんがこれからどちらへいらっしゃるのかと思って、ね」

「あ、そうですか・・・・僕は明日にでもハンブルグに向かいます」

「明日!・・・・随分急な話ですのね・・・・しかもハンブルグ・・・・遠いわ」

「仕方ありません・・・僕らはハンブルグに用があるのですから」

「そうですわね・・・・・」

「これは私からの忠告ですが・・・・」

「?」

「ベルリンよりも西側に引っ越されたほうがよろしいと思います」

「・・・・シンジさん・・・・」

「ドイツも・・・・そして日本もこの戦争を失うのは目に見えています・・・・このベルリンも敵の軍靴に踏まれるやもしれません・・・・」

「・・・・・・・」

「どんなカタチで戦争が終わっても・・・・キョウコさんとまた会いたいですからね・・・・」

ベルリンはどちらかというとポーランド(今は併合されているが)の国境に近い。

そのポーランドの向こうにあるのは・・・・赤い大地だ。

ドイツ国防軍は300個師団で対ソ戦を開始したが・・・・ここに来て旗色が悪くなっている・・・・

モスクワ前面で赤軍の反撃を受けて撃退されたのがその好例だ。

陸軍は矛先をスターリングラードに変えつつあるが・・・・それが成功するかどうかは誰にもわからない。

もし、すべてが失敗に終わった場合、赤軍・・・・ソヴィエト軍はベルリンにもなだれ込むだろう。

ちなみにソヴィエト陸軍は部隊の統制が効かないので有名な軍隊だ。

そうなったら・・・・・・・・

「わかりましたわ・・・・もっと西へ行くことにします・・・・」

「すみません・・・・ナマイキ言って・・・・」

「いいんですのよ・・・・・・・・ちょうどベルリンを離れようと思っていたところですし・・・」

「そうですか・・・・」

「でも・・・・シンジさんと娘が戦うようなことにならなければいいのですけど・・・・」

「はあ?」

「風の噂ですけどね・・・・娘がアメリカの海軍に入ったと聞いたんです・・・・」

シンジの頭の中で一つのパズルが組み上がった。

『そうか・・・・あの時ブリッジにいた女性はキョウコさんの・・・・』

だが、それを口にはしない。

「ではシンジさん、武運をお祈りしていますわ・・・・そしてまた会えることを・・・・」

「ありがとうございます・・・・戦争が終わったら、また来ます」

それを聞いてキョウコは優しく微笑む。

「必ず、ですわよ?」

「はい」























USS、「アラバマ」

ジブラルタル海峡

1942年9月25日、2200










月明かりの中、「アラバマ」は地中海の入口、ジブラルタル海峡にさしかかろうとしていた。

英国海軍からの要請で、マルタ島への輸送船団護衛に協力することになったのだ。

もちろん、本国の海軍省からの命令も届いている。

マルタ島は、北アフリカへの補給の危険性を取り除きたいドイツとそうはさせられないイギリスとの間で激戦が続いている。

だが、イギリスの努力もうまくいっていない。

マルタ島は飢餓状態にあると言っても過言ではない。

「艦長、ジブラルタルのポートコントロールからです・・・『入港ヲ許可スル。7番岸壁ニ着桟セヨ』です」

「んじゃあ入港しましょう・・・・前進微速・・・取舵」

「アイ・サー・・・前進微速、取舵15度」

「アラバマ」はゆっくりと頭を左へ回していく。

「へーえ・・・・結構集まってるわねえ・・・・」

ジブラルタルの港内に集結した輸送船群と護衛艦艇のことだ。

「ま、無理もないですね・・・・この船団がマルタに届かなかったら状況はますますヤバくなるらしいですからね」

「ふん・・・・『ハープーン船団』ねえ・・・・旗艦は?」

「えーっと・・・・」

バインダーの書類束をめくるカヲル。

「どうやらアレみたいね・・・・」

ブリッジに飛び込んでくる信号灯の光。

少し離れたところにいる大型艦からのようだ。

「「マラヤ」・・・・英海軍の「マラヤ」ですね」

「「クィーン・エリザベス」級の?・・・・また骨董品持ち出してきたわねえ・・・・」

「まあ、一応25ノット出るし、主砲は38.1p砲だからね」

「なんて言ってきてる?」

「『輸送船ノ集結ニマダ時間ガカカル見込ミ。貴艦ハソノママ待機サレタシ  はーぷーん船団指揮官』です」

「じゃあそれまでゆっくりしましょう」

「そうですね」

























ブローム・ウント・フォス造船所

ドイツ第三帝国、ハンブルグ

1942年9月15日、1200











艦艇だけでなく航空機製作も行っているドイツでも有数の工業系企業、ブローム・ウント・フォス社。

飛行艇のBV222などもここで作られた。

それだけではない。

新生ドイツ海軍が、そしてナチスドイツが誇る大型戦闘艦、「ビスマルク」もここで建造された。

しかし、シンジ達が訪れたここには・・・・

「シンジぃ・・・・どこにもそれらしいフネはおらんのう・・・・」

「艤装岸壁にも、船台にも、乾ドックにもなーんにもないや・・・・」

「・・・・おっかしいなあ・・・・確かにここで建造してるって話だったんだけど・・・・」

シンジ達三人は造船所に入ったはいいが、途方に暮れていた。

そんな三人に造船所の職員が近づいてくる。

「日本海軍の方達ですか?」

「ええ、そうです」シンジが答える。

「私はここの工場長です」

「日本海軍の碇と申します」

「ははあ・・・あなたが艦長サンですか」

「ええ・・・・そのつもりだったんですが・・・・フネが・・・・」

「はっはっは!・・・・あなた方も気が付かないとなると、欺瞞工作は成功だったようですな!」

「?・・・・といいますと?」

「見ていただいた方がいいでしょう、こちらです」

工場長は三人を何もない船台に案内する。

「この船台はダミー、何も作れない船台なんですよ」

「えぇ!?」

「モノはこの下ですよ」

工場長は大きく笑いながら足の下を指す。

「下!?」三人はそれぞれの足元をのぞき込む。

「あそこが入口です」

そう言って工場長が指したのは何の変哲もない小屋。

「はあ・・・・」

そして小屋の中にあったリフトに乗って地下へ降りる。

かなり深いところまで降りてリフトは止まる。

「さあ、どうぞ・・・・その目で確かめてください」

「こ、これは・・・・・・・」

「な、なんやこりゃ・・・・」

「スゴい・・・・・」

驚きを隠せない三人。

無理もない。

目の前に広がる地下空間には・・・・フネがあった・・・・しかも戦艦が・・・・

「よお!来たな!」

「クリューゲル大佐!」

制服に工事用のヘルメットをかぶるクリューゲルが近い付いてくる。

「どうだ?ドイツの建艦技術の粋を集めたフネだ!」

クリューゲルが自慢げに言うだけのことはあった。

シンジは一目見ただけでこれが帝国海軍の誇る「大和」級よりも大きいことがわかった。

「クリューゲル大佐・・・・このフネの詳しい要目は?」

「まあ、それは中に入って説明するさ」

そう言ってクリューゲルは三人を案内して艦内に入り、艦橋へ上がる。

中に入って気が付いたが、日本人がそこら中にいた。

乗員はすべて日本人というのは本当らしい。

「これが「フリードリヒ」だ・・・・」

「「フリードリヒ」?」

「・・・・・・・・「フリードリヒ・デア・グロッセ」・・・・このフネの予定艦名だった」

そう言ってクリューゲルは少し顔を歪める。

「ビスマルク」級をも上回る巨大戦艦を外国に譲らねばならないのだ・・・・断腸の思いなのだろう。

しかしクリューゲルはシンジ達にいらぬ気を使わせる前に表情を切り替える。

「さあ、コイツの要目を説明しよう」

海図台に置かれた青図を持ってくる。

「全長277.8m、最大幅37.2m、喫水10.2m・・・・排水量は・・・・予定だが、基準で68000トンだ」

「ろくまんはっせん!?」シンジが驚き、それをあとの二人に通訳する。

「・・・・「大和」や「武蔵」より4000トンはでかいで・・・・・」

「その通り・・・・完成すれば、世界最大の戦艦になる」

「・・・・・・」

開いた口がふさがらないとはこのことだろう。

「機関出力は186000馬力・・・・・速力は30ノットだ・・・・速力は予定だがな」

「・・・・・・・・・」

もはや比較するべきものが無いためシンジ達も黙って聞くしかない。

「航続力は19ノットで19200マイルの予定だ」

これも脚の短い日本艦艇しか知らないシンジ達には驚きだ。

ちなみに「大和」級でさえ、16ノットで7200マイルしかない。

「そして兵装だが・・・・・・・・」

クリューゲルはそこで一端言葉を切ると、にやりと笑う。

「主砲は42p砲連装4基、8門」

これはさすがに「大和」級の46p砲には及ばない。

だがトータルバランスで考えるならどちらが優れているかは一目瞭然だ。

「で、その他の兵装なんだが・・・・日本側からの要望で副砲は搭載していない」

「副砲が無い!?」

「まあ、その替わりに高角砲をわんさか積んでくれという要望でな・・・・日本から運んできた砲を片舷20基・・・・しめて40基積んでいる」

シンジは頭がフラフラするような気がした。

『高角砲40基!?・・・・「秋月」級の何隻分だろう?』

ちなみに10隻分である。

「んで機関砲、機銃の類は多数搭載している」

細かな数字を言わないのは、さすがのクリューゲルもそれらは数が多すぎて把握し切れていないからだ。

「そして魚雷発射管」

「魚雷ぃ!?」

戦艦に魚雷を積むなどという話はあまり聞いたことがない。

「ああ、このフネには当初から発射管を搭載する予定だったんだ・・・・それで日本に問い合わせたらそのままやってくれってことだったんだ。律儀に発射管も送って寄越したしな」

「じゃあ発射管も日本製ですか」

「ああ、えーと・・・・何pだったかな・・・・?」

「61p」

「そうそう!・・・その化け物みたいな魚雷を積んでる」

「ふうー・・・・概要はわかりました・・・・いつから動けるようになりますか?」

「いつでもいけるぞ?」

「はい!?」

「いけることはいけるんだが・・・・今海に乗り出したらどうなると思う?」

「・・・・爆撃機が飛んできて一巻の終わり、ですか・・・・」

「ああ、その通りだ」

「では、『ツェルベラス作戦』の発動までここにいろ、と?」

「訓練なんかは水に浮いていないというだけで、ここでも充分なことは出来る」

「でも・・・・ぶっつけ本番ってワケですか」

「すまんな・・・・だが他に道がない」


























ドイツ軍艦「シャルンホルスト」

ブレスト軍港、フランス

1942年10月11日、2200









チリアックス中将率いるブレスト戦隊が、今まさに出港せんとしていた。

主力は巡洋戦艦「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」それに重巡「プリンツ・オイゲン」

陣形は単縦陣。

「さて・・・・うまくいってくれればいいんだが・・・・」

「シャルンホルスト」の艦橋で、艦長であるホフマン大佐のつぶやきは誰にも聞こえる事はなかった。

今、戦隊でこの後の行動を知っているのはチリアックス中将を除けば、自分と戦隊航海長のギースラー大佐だけだ。

あとは各艦の艦長にも知らされていない。

「艦長」

すこし小太りの男が話しかける。

「おお、ギースラー、どうした?」

「いや、あの噂聞いてますか?」

「噂?」

「ウチらが白昼海峡を突破したあとに別の艦が夜間に同じルートを今度は逆に突破するという・・・・」

「ああ・・・それか・・・・」

「艦長なにかご存じなので?」

ホフマンは周りを見て自分たちの会話を聞いている者がいないことを確認する。

「ギースラー、この場で話すことは他言無用だぞ?」

「はい、もちろんです」

「我々のあとに「フリードリヒ」が突破を試みる」

「「フリードリヒ」って!・・・・H級ですか!」

「ああ・・・・だが、海に浮かんだらもはや「フリードリヒ・デア・グロッセ」という名で呼ばれることはないだろうな」

「??」

「売却されたんだよ」

「!!!!・・・・冗談でしょう!?」

「本当さ・・・・士官学校の同期が売却先との連絡役をやってるんだ」

「信じられませんな・・・・ドイツ最強・・・・いや、世界最強の戦艦をイタ公ごときにくれてやるなんて・・・・」

「ちょっと違うな」ホフマンは微笑する。

「は?」

「日本人さ・・・・ヤツらが買ったんだよ」

「・・・・・・どうも、複雑ですな・・・・」

「ああ、私の気分も複雑だよ・・・・」

二人がそんな会話をしていると、スピーカーががなりはじめる。

《全ブレスト戦隊の戦士諸君に告げる》

チリアックス中将の訓辞だ。

《総統閣下は我が戦隊を他海域における新たな任務に召喚された。それは英仏海峡を東に進み祖国ドイツの本土海域に到達せよというものである!》

「・・・・さて、いくさですな・・・・」

「ああ、我々には幸運がそれこそ山ほど必要になるだろうよ」

《各員の健闘を期待する!以上!》



























ブローム・ウント・フォス造船所

ドイツ第三帝国、ハンブルグ

1942年10月12日、1800











「全作業員退避完了!」

「天井解放準備よし!!」

「船台解放!」

このフネが海に浮かぶ瞬間が刻一刻と近づいてくる。

「艦内の状況は?」

純白の制服を身にまとったシンジがトウジに問い掛ける。

「機関は船体がドックから出てから回すそうです・・・・それ以外は準備完了です」

「今回はスピードが命だからね」

「わかっとります」

「うん・・・・でも驚いたよね・・・・まさか地下から徐々に水を入れてフネを持ち上げようっていうんだから」

「何考えてこんなドック作ったんでっしゃろなあ?」

「クリューゲル大佐に聞いたら、このドックは前の戦争にドイツが負けてからすぐに工事が始まったらしいよ」

「へえー・・・・そのころから先を読んでた人がいたんですかのー」

「まあ、ホントのところはわからないけどね」

「艦長!・・ドック側から合図です・・・・注水してもよろしいか、と聞いとります!」

艦橋にはシンジ達以外にも多数の士官、下士官、兵が詰めている。

「いつでもよろしい、と返答して」

「了解」

「いよいよでんなあ」

「うん」

船体の周囲の海水口から勢いよく水が飛び込んでくる。

そして、しばらくたって船の喫水と水位が同じになると、わずかな振動がある。

「ドック側から信号!・・・『船台カラノ離脱ヲ確認』です!」

「了解!」

そして、段々水位が上昇し、船体もそれに連れて上へ上へと上がっていく・・・・

「そろそろ、かな?」

「でんな」

「よし!・・・・信号手、ドック側に信号!『天井解放セヨ』」

「了解!」

艦橋の張り出しで水兵が忙しげに手旗を振る。

そして、わずかなタイムラグのあと、マストのてっぺんに接触しそうになっていた天井が二つに割れて左右に開いていく。

「密かに船を建造するんやったら、この方法がええでんな」

「そうだね・・・・でも、見つかったらお終いだけどね」

「まあ、そりゃそうでんな」

そうこうしている内に、船体すべてが地上に(海と同水位に)あらわれる。

《機関長から艦長・・・・機関始動します》

スピーカーから機関長の声が響く。

シンジは高声電話を取り上げて了解したことを伝える。

艦橋から周囲を見渡すと、造船所はわずかな光もない。

騒々しくしてイギリスの偵察機やスパイに感ずかれるのを防ぐためだ。

とはいえ、真っ暗闇の中で所定の作業を完遂するドイツ人にも驚かされる。

その真っ暗闇の中で、信号灯が瞬く。

「艦長!ドイツ海軍クリューゲル大佐からです!『ぶれすと戦隊ノ海峡突破ハオオムネ成功シツツアリ』」

「了解・・・・」

「続きがあります!『最後ニ貴艦ノ名ヲウカガイタシ』です」

「了解・・・・返信を頼む・・・『我ガ名ハ「敷島」・・・・今マデ我ラニ与エラレタル貴官ノ助力ヲ謝ス、サラバ』だ・・・・」

そして少し経ってまた向こう側の信号灯が光る。

「さらに返信!『貴官ラノ武運ヲ祈ル、イズレう゛ぁるはらデ再会ヲ』です」

「艦長・・・・「う゛ぁるはら」って?」

「うーん・・・・日本的に言えばそうだな・・・・いずれ靖国でってとこかな?」

「ふん・・・・んなとこに行くつもりはないが・・・・気持ちは受け取るで」

「・・・・・・・・」

《機関長から艦長・・・・機関の暖気終了、いつでも行けます》

「ドック側から信号!『どっくノ水門開放シタ、出港可能ナリ』です!」

「了解!・・・・じゃあ行こうか・・・・針路そのまま、前進最微速!ドックを出るまでは注意してね」

「よーそろー」















こうして主演男優は「敷島」という名の大道具を手にした・・・・




向かうところは、ドイツ艦隊に海峡を突破されて頭に来ている英海軍がひしめく英仏海峡である。







第4幕へ・・・

あ・と・が・き

みなさんこんにちは。

P−31です。

第3幕をお届けします。

いやー・・・今回もドンパチ皆無でしたね。

しょうがないですね(お?開き直ったな?(笑))

そ・の・か・わ・り(笑)

第4幕はドンドンパチパチっす(爆)

ご期待下さい。

それでは・・・・第4幕、「チャンネルダッシュ」でお会いしましょう。










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