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戦略とは?























「もっとも経済的に、そしてもっとも迅速に、敵を倒す技術」



サミュエル・エリオット・モリソン
(戦史研究家)




























The Theater


In case of Europe


第2部第4幕「チャンネルダッシュ」
























帝国軍艦「敷島」

英仏海峡北側入口

1942年10月12日、2000










「逆探に反応!・・・・航空機の電探のようです!」

「右舷30度!陸地が見えます!」

シンジ率いる「敷島」は英仏海峡に差し掛かろうとしていた。

「さて・・・・ここまではこっそりと来れたね・・・・」

「この先はこうはいかんでしょうな・・・・」

暗闇の中の艦橋で、シンジとトウジは身じろぎもせずに報告を受ける。

「そうだね・・・・各部署の配置は?」

「出港してから戦闘部署をかけてます・・・・気は抜いとりません」

「うん・・・・たぶんイギリスさんも躍起になってかかってくるだろうからね・・・・覚悟しておいた方がいいよ」

「無論です」

「上空の航空機、旋回を始めました!見つかったようです!」

電探室からの伝令が続く。

「やれやれ・・・・もう見つかったか・・・・とりあえずこの場だけでも追っ払おう・・・・対空戦闘準備!」

「せんとーう!」

航海士が復唱する。

《こちら高射長・・・・全高角砲射撃準備よし!》

「了解・・・・撃ち方はじめ!」

シンジが号令をかける。

誰も気が付かなかったが、これが「敷島」が放つ最初の砲弾だった。

その事実に気が付かないほど、艦内は有機的に動いている。

良い兆候と言っていいだろう。

そして、一呼吸おいて右舷側の高角砲が一斉に火を吹く。

98式10p連装高角砲   長10サンチ砲20基の集中射撃だ。

あの「綾瀬」を上回る砲力である。

そのすべてがドイツ製らしく、電探制御の射撃指揮装置からデータを受け取っている。

暗闇の中を探っていた夜間偵察機は、簡単にあさっての方向へ追いやられてしまう。

だが、これでここにいるのが”敵”だというのがわかっただろう・・・・

「しっかし、凄いでんなあ・・・・副砲の替わりに高角砲ぎょうさん積んだのは正解だったかもしれまへんな・・・・」

「副砲なんて使う機会もあまりないからね・・・・」

「でんな・・・・駆逐艦や軽巡程度だったら、高角砲で十分いけまっせ」

「でも・・・・今はここを切り抜けることだね・・・・」

「そうでんな・・・・」



























英国海軍省

ロンドン、ホワイトホール

1942年10月12日、2030













「大型艦が英仏海峡を南下中?・・・・なんかの間違いじゃないのか?」

海軍省詰めの当直士官が怪訝そうな声を出す。

日中にはドイツ人にコケにされたのだ。

それもこちらの隙を突いて。

「艦隊の方には問い合わせたのか?」

無線についている下士官にたずねる。

「はい・・・・艦隊の方は該当するフネは無いそうで・・・・・どうした!!」

下士官はいきなりヘッドホンを押さえるとマイクをひっつかんで叫ぶ。

「なんだ!?」

「偵察機が攻撃を受けました・・・・幸い攻撃圏外に逃げられたようですが・・・・」

「くそったれのクラウト(ドイツ兵の蔑称)どもめ!・・・・またこっちの隙を突きやがった!」

「どうしますか?」

「くっ!・・・・俺は上に報告を入れてくる・・・・お前はこっちで動かせるフネ・・・・大型艦を探しておけ!」

「わかりました!」












「それで?・・・・・またドイツ人がやくたいもない事を企んでる、ということかね?」

当直士官は海軍省の最上階、この建物を統べる人物の所へ来ていた。

かなりの老齢の第一海軍卿がゆっくりと話している。

「はい・・・・型式等は一切わかっていませんが、大型戦闘艦であるのは間違いないそうです」

「まったく・・・・首相になんと説明したもんか・・・・それで、こちらの対応は?」

「現在、迎撃可能な艦船を物色しています」

「本国艦隊からは・・・・間に合わんな・・・・」

「はい・・・・スカパを出てブリテン島を回り込まなければなりませんから」

と、その時部屋のドアがノックされる。

「入れ」

「失礼します!」

入ってきたのは当直士官が後を任せた下士官だった。

「おう、どうだった?」

「はい、本国艦隊からは時間と距離の関係で無理ですが・・・・H部隊からなら引き抜けます」

「何が来れる?」

「はい・・・・「バーラム」と「ロイヤル・オーク」です」

「・・・・・・・・どっちも旧式艦か・・・・」

第一海軍卿が誰にともなくつぶやく。

「いかがしましょう?」

「仕方あるまい、旧式とはいえ我々のカードはそれしかないんだ・・・・迎撃させろ」

「了解です」

「H部隊の空母は使えんのか?」

「はあ・・・「イラストリアス」と「ヴィクトリアス」がいるはずですが・・・・」

「迎撃戦に参加させろ・・・・私からの命令だと言ってな」

「わかりました」

「頼むぞ・・・・私はこれから首相官邸に行って事の次第を報告してくる」



彼らは自分たちが相対しているモノがなんなのかわかっていなかった。



わかっていれば、旧式戦艦2隻のみの迎撃など決してしなかっただろう・・・・























USS、「アラバマ」

英領ジブラルタル

1942年10月12日、2100















「艦長、起きてますか?」

「ええ、まだ寝てないわよ」

カヲルがこんな時間に自分に用がある。

ベッドに制服のまま転がっていたアスカは一抹の不安を感じながら上体を起こす。

「すみません、艦長。おやすみのところ」

「いいのよ・・・・そんなところに突っ立ってないで入りなさい」

「失礼します」

カヲルが後ろ手でドアを閉めると”ふう”と一息つく。

「どうしたの?・・・・こんな時間に」

「いやね・・・・気になる情報が飛び込んできたもんだから」

二人でいる間は敬語は使わない。

かく言う二人はアナポリスの同期なのだ。

「なによ?」

「ドイツの大型艦がまたしても海峡突破を試みてるみたいなんだ」

「えぇ!?・・・・今日の昼間に突破したばかりじゃない!」

「うん・・・・そうなんだけど・・・・気になることが一つだけ・・・・」

「?」

「どうやらそのフネ、ハンブルグから出てきたらしいんだ」

「ハンブルグ・・・・・・・・・・・・まさか!!」

「・・・・その可能性、無いワケじゃないと思う」

「でも・・・・アンタも言ってたじゃない・・・・「ティルピッツ」はノルウェー、「シャルンホルスト」級2隻は昼間に海峡を突破したばかり・・・・重巡も同じ様なもの・・・・」

「うん・・・・だから、可能性としては「シャルンホルスト」か「グナイゼナウ」を買い込んだって線が一番濃いね」

「あれ?・・・・でも「シャルンホルスト」はヴェルヘルムスハーフェンに・・・・「グナイゼナウ」と「プリンツ・オイゲン」はブルンス・ビュッテルに入港したんじゃないの?」

「そこら辺もわからないんだ・・・・どれが真実で、どれが欺瞞なのか、さっぱりなんだ」

「・・・・・・・・・ったくもう!!・・・・・なんでこんな時にアタシ達は遅刻の貨物船なんかを待ってなきゃいけないわけ!?」

「しょうがないよ・・・・今の状況では水上艦1隻よりもマルタ島の方が大事だからね」

「・・・・ぶうー・・・・」アスカは口をとがらせる。

「ま、我らがロイヤル・ネイヴィーも今度はただで通さないだろうしね」

「獲物を横取りされたみたいで気分悪い」

実に率直な感想。

「そんな子供みたいな・・・・」

「うるさいわねえ!」

なんとなくアスカは悔しかったのだ。

恋人を他の女に取られたような気がして。

「・・・・ふん・・・・まあいいわ・・・・それで、我らが御中将の第21任務部隊は?」

「えーと・・・・」かたわらのバインダーをめくるカヲル。

「・・・・フリータウンへ入港したって電文が来てるよ」

「まったく・・・・いつも戦場から遠く離れてますこと!」

苦々しげに吐き捨てるアスカ。

「頼むからそういうことは僕の前だけにしてくれよ・・・・・」






























HMS、「バーラム」

英仏海峡中央部

1942年10月12日、2300















「クイーン・エリザベス」級戦艦の4番艦であるその戦艦は英仏海峡を21ノットのスピードで駆けていた。

本来ならもう少し出るのだが、後続している「ロイヤル・オーク」に合わせているためにこれ以上出せないのだ。

「バーラム」「ロイヤル・オーク」共にジュットランド海戦を経験している古強者である。

純粋に砲力だけを考えるならば、2隻合わせて38.1p砲16門。

なかなかに強力である。

「艦長!レーダーに反応です!・・・・左舷25度、距離12マイル!・・・・単艦でこちらに突っ走ってくるフネがいます!速力32ノット!」

「どうやら間に合ったようだな・・・・しかしここで仕留めんと外洋に出られたらあの速力には追いつけんな・・・・速度差が10ノット以上あるぞ・・・」

「艦長!・・・・左砲戦、準備完了です!」

《通信室から艦長!・・・・「ロイヤル・オーク」から入電!『本艦準備完了、貴艦ノ射撃ヲ待ツ』》

「さて・・・・敵サンの正体はわからんが・・・・このスピードから見て、顔なじみの「アドミラル・ヒッパー」級だろうが・・・・どう思う?航海長?」

「そうですね・・・・「シャルンホルスト」級は昼間にここを突破したばかりですから、この短時間で、もう一度というのは考えにくいですね・・・・「ビスマルク」級(と言っても最早「ティルピッツ」しかいませんがね!)は公称28ノットと言われてますが、30は出るでしょう・・・・しかし、32ノットも出るかと言われれば・・・・」

「ということは、残る大型艦は重巡しかないわけだ」

「ということになりますね」

「・・・・それならば、いくら旧式とはいえこちらは戦艦2隻だ・・・・ふむ・・・・正直ドイツ人の考えがわからんな・・・・」

「連中の考えることなど永遠にわかりたくもありませんがね」

「ちがいない」

《通信室から艦長!・・・・後方の空母部隊から入電!『攻撃隊第1波出撃シタ、編成ハ”そーどふぃっしゅ”雷撃機10機、照明弾投下用ノしーふぁいあ2機』です!》

「ふん・・・・来るまでに敵さんが浮いていればいいがな・・・・」

彼らは自分たちが戦おうとしている相手がどんなものかわからなかった。

15インチ砲戦艦がどうあがいても・・・・

その証拠が向こうからやってくる・・・・

「まもなく距離33000mになります」

《水平線に閃光!!》

その報告は不要だった。

ブリッジからでもその光は明瞭に見て取れた。

それはまぎれもなく・・・・

「発砲炎!?」

「まさか!この距離で!?」

「戦艦・・・・なのか!?」

「ええい!くそっ!!・・・・撃て!撃ち返せ!!」

彼らが右往左往している間にも砲弾は飛ぶ・・・・




























帝国軍艦「敷島」

英仏海峡中央部

1942年10月12日、2330












《着弾まで1分30秒!!》

「敵艦発砲しました!」

やはりその報告は不要だった。

「おーう・・・・敵サンも撃っとるワ」

無数の発砲炎が水平線上に並ぶ。

「何隻ぐらい?」

「んーと・・・・2隻ぐらいですかのー」

「戦艦を2隻ばっかり持ってきてどうするつもりなのかなあ・・・?」

「止められる思うたんでないですか?」

「・・・ふん・・・・艦長が言うのは手前味噌かもしれないけどね・・・・このフネを沈めるなら、英国海軍の総力を挙げなきゃ無理だろうね」

「でしょうな・・・」

《着弾まで10秒!・・・・9・・・・8・・・・7・・・・6・・・・5・・・・4・・・・3・・・・2・・・・だんちゃーく、今!」

さすがにこの暗闇では水柱は見えない。

だが・・・・

《電探によれば、弾着は目標を夾叉(きょうさ)した模様!》

「よし・・・・幸先がいいね・・・・指揮所、全力射撃だ」

《了解!》スピーカーからはケンスケの威勢のいい声が聞こえる。

初弾の4発(各砲塔2門の内、1門で射撃をしたのだ)で夾叉をだした「敷島」は、今度は8門すべてを使用した斉射にうつる。

《敵弾、来ます!!》

その報告と共に「敷島」の周囲にも水柱が上がる。

だが、それは「敷島」の弾着とは違い、かなり離れたところに落ちた。

一番近い弾でも1000mは離れている。

「かあー・・・・ヘタクソでんなあー」

「このまま永遠にヘタクソであることを願うよ」

そして、敵の砲撃に負けじとケンスケも叫ぶ。

《第2射、てぇー!!》

闇の中に突き出された砲口から飛び出す黒い物体。

閃光。

轟音。

衝撃。

それを肌で感じたシンジはふと思う。

戦艦という乗り物は男の破壊衝動のすべてを含んでいる、と。

42cm砲弾をかなたへ撃ち飛ばした砲塔内部ではすでに次弾の装填作業が行われている。

《第2射、射撃終了・・・・第3射装填急げ》

「敵艦隊発砲!」

確かに暗闇の向こうにいくつかの焔が立っているのが見える。

「電探室・・・・現在の距離は?」

シンジが高声電話を取り上げてたずねる。

《現在の距離28000・・・・急速に狭まりつつあります!》

「了解・・・・ふむ、ちょっとマズいかな?」

「そうでんな・・・・近距離になったらいくら口径が小さいゆうても戦艦ですからなあ・・・・」

「・・・・ここで変針したら射撃解析値が全部パーになるしね・・・・それに僕らはどっちにしろここを突っ切らなきゃならないんだから」

「回れ右をするわけにはいきまへんしな!」

「その通り。ま、極論すればあの2隻は沈める必要はないんだ・・・・速力差がかなりあるから振り切れるだろうしね」

「敵サンもただで通してくれるわけもないですか」

「名にしおうロイヤル・ネイヴィーだからね」

《第2射、だんちゃーく・・・・今!!》

すると、暗闇の水平線上に発射の閃光とは違う光が走った。

《第2射、少なくとも1発命中の模様!》

どうやら先頭艦に命中したらしい。

火災が起きている。

《電探室から艦長!敵1番艦の速力落ちます!》

「機関室でも吹き飛ばしたかな?」

《敵2番艦は1番艦に近寄ります!》

「ありゃりゃ・・・・水線下に大穴でも開けたんとちゃいますか?」

「かもしれないね・・・・とりあえずこの場は切り抜けたようだね・・・・」

そう言うとシンジは高声電話を取り上げてケンスケに話しかける。

「艦長から射撃指揮所・・・・砲術長、射撃中止だ」

《冗談でしょう!?・・・・艦長!もう少しで沈められるんですよ!?》

シンジとトウジは『やっぱりな』という表情になる。

「砲術長、僕らの目的はあの2隻を沈めることじゃない・・・・それでなくてもこの先本艦に対する補給は燃料はともかく弾薬はどうなるかわからないんだ・・・・こんなところで無駄弾を使ってる余裕はない」

《了解・・・・射撃中止します》

「ふう・・・ケンスケも困ったもんだ・・・」

「砲戦が始まると人が変わりますからのう」

「違いない」

「ところで艦長・・・・」

「ん?」

「我が軍令部への報告はどないするんですか?・・・・我々が動き出したって事を言っとかんでええんですか?」

「・・・・・副長」

「なんでっか?」

「あのイギリス艦、このフネをどこの国の所属だと思ってるかな?」

「そりゃドイツ艦だと思って疑ってないでしょうな・・・・なんせこのフネは「ビスマルク」にうりふたつですからな」

「だったらしばらくはそう思わせとこうよ」

「へ?・・・・いや、ワシは軍令部への報告を・・・・」

「暗号、解読されてるよ・・・・」

「!!」

「だから軍令部に報告するのは・・・・そうだね・・・・地中海に入ってからにしよう」

「了解」

《電探室から艦長、敵艦隊追ってきませ・・・・艦長!!》

「どうした!」

《対空電探に反応!200度の方向からこっちに向ってきます!》

「チッ・・・・対空戦闘準備!!・・・・副長、どう思う?・・・・この真夜中に本気で航空攻撃を仕掛ける気かな?」

「本気・・・・でしょうな、連中はタラントでも似たような事やっとります」

イギリス地中海艦隊が行ったタラント湾夜間急襲のことだ。

「あの時は錨泊中の艦船群、こっちは32ノットで突っ走ってるんだよ?」

「ジョンブルは一度決めたら絶対にやり通すって話でっせ」

「・・・・・・まあそれはいいや・・・・副長、イギリスの艦載機の足の長さは?」

「欧州の飛行機はどれも短いですワ・・・・作戦半径は我々の艦載機の半分以下でしょう」

「・・・・それなら空母が近くにいるね」

「ちゅーても100マイル単位でっせ・・・・見つかりっこありまへん」

「こんな時に水偵を積んでれば、送り狼させられるのにね・・・・」

「そりゃ艦長、贅沢ってもんです」

「だね・・・・」

《敵編隊、まもなく射程内に入ります!》

「射程に入り次第、射撃開始・・・・高射長、よろしく頼むよ」

《了解!・・・・本艦の対空装備は10機20機の敵機ぐらいじゃあ音を上げません》

「ふふ・・・・頼もしいね」

シンジが微笑んでいると、艦橋の中にいきなり光りがさしてくる。

「敵機、照明弾投下!」

《敵編隊二つに分かれました!・・・・両舷から突っ込んできます!機数はそれぞれ5!!》

《てぇー!!》

最後の高射長の声と共に全高角砲は火を吹く。

違う視点から眺めると、まるで火山が噴火しているような情景だった。

距離が狭まるにつれ、40ミリ機関砲や25ミリ機銃もそれに加わる。

この濃密な弾幕を破るにはよほどの集中攻撃が必要なのだが、イギリス機動部隊が送り込んできたのは10機程度。

しかも前時代的な複葉機が10機だ。

海軍航空隊が一時期空軍に編入されていた悪影響がモロに現れている。

イギリスは空母先進国でありながら、搭載機の開発に失敗したのだ。

その証拠は、火を噴きながら落下するソードフィッシュ雷撃機を見ればわかる(「敷島」は対空力を極限まで強化された戦艦だ、というのも一因だが)。

《電探室から艦長!・・・全機撃墜です!》

その報告がなされた後も、射撃は・・・特に指揮装置を持たない25ミリが打ち続けている。

「打ち方止め!・・・射撃中止だ!」

シンジが声を嗄らさんばかりにして叫ぶ。

無駄弾は1発でも少ない方がいい。

「さて・・・・見つからない内にさっさと逃げよう」

























英国海軍省

ロンドン、ホワイトホール

1942年10月13日、0000















「・・・・・・・・で?」

「はっ・・・・ドイツ艦は海峡を突破、H部隊の攻撃隊も全機未帰還でして・・・・その後の行方は判明しておりません」

第一海軍卿は、敵艦撃沈という報を期待して帰宅せず自分の執務室で待っていたのだが、現実は彼の思いを裏切った。

「まったく・・・・それでこちらの損害は?」

「・・・・「バーラム」が水線下に大穴を開けられて中破です。「ロイヤル・オーク」は無傷ですが「バーラム」の支援に忙殺されています」

「・・・・どちらにせよ「ロイヤル・オーク」では追いつけまい・・・・」

「その通りです・・・・・航空機の方は今も言いました通り、全滅です」

「・・・・まったく・・・・首相閣下はカンカンだよ・・・・『日中の海峡突破だけでもワシは国民に吊し上げられとるんだ!これ以上ワシの首を絞める気か!』とな・・・・」

「・・・・・・」

「それで、そのフネの行き先は判明しておるのかね?」

「「ヴィクトリアス」のシーファイアが最後に送った報告では針路は190度。ブレストへ一直線です」

「ふむ・・・・空軍に爆撃を頼んでおくか・・・・それともう一つ」

「はっ」

「敵の艦種、出来れば艦名まで調べろ・・・・わからんでは済まされんぞ」

「はっ・・・・情報部に当たってみます」

「それに・・・・本国艦隊からフネを引き抜くぞ」

「えっ!?・・・・ですがそれは!」

「「ティルピッツ」はフィヨルドに引っ込んだまま出てこん・・・・それに引き抜くと言ってもほんの数隻だ」

「はあ・・・・」

「我が海軍の期待、「ライオン」の方はどうなっている?」

「建造を急がせておりますので、あと2ヶ月弱にはなんとか・・・・」

「遅すぎる・・・・1ヶ月で目鼻をつけさせろ」

「それは無茶です!現在でもヴィッカースでは24時間のフル操業なのですよ!?」

「不可能を可能にしなければ、このいくさは勝てんよ」

「ですが!」

「これ以上の議論は無用だ・・・・これは第一海軍卿としての正式な命令だ」

「・・・・・・・・わかりました」

「まあその前に空軍がカタをつけてくれれば問題ないんだが・・・・海軍軍人としてはシャクに触るしな」

「・・・・またドイツの大型艦がブレストに進出したとなると、厄介ですね」

「・・・・ブレストだったらまだ楽な方さ・・・・私が怖れているのは地中海さ」

「地中海ですか!?・・・・ジブラルタルを突破する、と?」

「ただでさえマルタ島への補給には苦労しとるんだ・・・・そこに大型艦が加わってみろ、悪夢だ」

「しかし・・・・地中海艦隊もいますし・・・・」

「地中海艦隊は首相命令で大型艦を決定的な水域に送り込めない・・・・ドイツ空軍の攻撃を恐れてな・・・・まあドイツ艦が地中海入りしたらそんな事は言っていられないだろうがね」

「・・・・では、本国艦隊から引き抜いた艦艇は・・・・」

「地中海に行かせるつもりだ・・・・もとからあそこからは増援要請が来ていたしな・・・・ふう・・・・杞憂に終わってくれればいいんだが・・・」

第一海軍卿は深いため息と共につぶやく。

「心配ないとは思いますが、地中海は入り口は一つです・・・・入ったら出てこれませんよ」

彼は忘れていた。

地中海には東側にも出口がある、ということに。

だが彼を責めることは出来ない。

ドイツの大型艦がいまだイギリスの制圧下にあるスエズを通るなど誰も考えないからだ。

戦争は、”思い込み”と”勘違い”によって織り成される。

そして勝者の称号は、それらを多く修正できた者の頭上に与えられる・・・・













第5幕へ・・・

あ・と・が・き

みなさんこんにちは。

P−31です。

大変遅れましたが、第4幕をお届けします。

海峡突破を軽く切り抜けてしまいましたね。

こんなんでいいのかなあ?(笑)

さて、いよいよ次は地中海です。

マルタへの輸送船団『ハープーン』とアスカの前に立ちふさがるドイツ空軍やイタリア海軍。

そして、「敷島」。



第5幕「ステージクラフト(演出手腕)」




お楽しみに。





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