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「螺旋のはてに〜思い出にかわるまで〜」


前編












「今日も暑いわね。」

暑い、本当に・・・・。

「でも、もう時期で涼しくなるわね。」

彼女はそう言いながらテラスにほしてある洗濯ものをとりこんでいた。
夕方の陽射しは、部屋のなかをオレンジ色に染めてゆく。
彼女のかげだけが陽射しの中で動いていた。



一年中が夏だった、あの頃が懐かしい。
毎日がただただ暑くて、涼しいなんてことは知りもしなかった。涼しさを知ってしまうと、夏と言うものはやっかいなものだ。

僕は暑さは好きだった。したたる汗、それすら自分が生きているのだと感じとることができる。

昼間が暑いぶん、夕方からじゃっかん、涼しさがます。
夜はそれほどでもないが、地上を照らす太陽が姿を消すぶん、過しやすいかもしれなかった。


オレンジから白く、うすやみへと変化していく。
光から闇の世界へ・・・・。
その変化は瞬きをすようにはやい。

白・・・・・。

肌をかすかな夜風がひやしていく。しっとりと・・・。
色あせていく僕の記憶。
レイ。かつて僕が綾波と呼んだ少女。

レイ、君のことも色あせてしまいそうだよ。
今、僕のとなりにいるのは、君じゃなくて・・・・・。


アスカ


幸せそうに微笑むアスカ。
アスカは人類補完計画後、以前の記憶を失っていた。

EVAのことも、ネルフのことも、そして、ミサトさんのことも・・・。なにもかもだった。

何かのショックで記憶を失ったのか、それとも、自我を保つためにみずからつらい記憶と封印してしまったのか・・。

それすらわからなかった。原因不明の記憶喪失。
リツコさんですら、アスカの記憶喪失の原因をつきとめることができなかった。
原因がわからなければ、記憶をよみがえらせる方法を考えるのは不可能。

「ごめんなさい、シンジくん。」

僕に謝ったリツコさん。
あのリツコさんが僕に謝罪した。科学という物理的な力。それをもってすら、不可能なこと。

めったに謝らないリツコさん。
いつも自信にあふれたあの人が・・・・。
医学の限界。
その壁にうなだれたリツコさん。

「リツコさんが謝ることじゃないですよ。」

僕は2年前、リツコさんにそう言うので精一杯だった。
リツコさんは別に悪くなかったのに・・・・・。
自分のことで精一杯だった2年前。


レイがどこへ消えてしまったのか。


それもいまだに不明なことだった。
今も、ミサトさんやリツコさんたちは、懸命になってレイを探してくれている。
僕もその手伝いをしたかった。でも、まだ、なんにも力のない子供の僕。

16歳

それがいまの僕とアスカの年齢。
大人に近づきつつあるけれど、まだ、子供。
どうすることもできず、なによりもアスカをほおってはおけなかった。

真っ白なアスカの記憶。

アスカが覚えていたことは、なぜか、僕とレイの名前だった。

まだ、僕らが14歳だったころ、僕は記憶をなくしたアスカの見舞いにはじめていったとき。

真っ白で無機質な病室。
レイの部屋のような殺風景なところだった。
その寂しげな部屋でアスカは1人、おびえるようにベッドに腰かけていた。うずくまった姿勢で。

僕が病室にはいるやいなや、アスカはものすごい勢いで僕にしがみついてきた。


「シンジー。ここはいやあああああ。」


部屋にはミサトさんとマヤさんがいた。でも、2人のことを覚えていなかったアスカ。

ミサトさんとマヤさんがどんなにアスカを落ち着かせようとしても、アスカは2人におびえるだけだった。

僕はおもわず、アスカを抱きしめた。
アスカのからだは細くて、僕なんかが力をいれたら折れてしまいそうで、僕は力をゆるめてアスカが安心するように、背中をなでた。



「アスカ、帰ろう。僕らの家に・・・。」


僕がアスカの名前を呼ぶと、アスカの興奮はおさまった。


「うん、帰ろう。シンジ。」


素直なアスカ。プライドの高かったアスカからは想像できなかったことだった。
でも、これが本来のアスカなのかもしれない。じゃあ、本来のぼくって・・・。
考えてもしかたのないこと。
素直になったけれど、プライドの高さはそのままにアスカは僕の傍にかえってきた。




それから2年がたった。



アスカの記憶はいっこうに戻ることはなかった。ただ、レイのことは覚えている。
ミサトさんのことは思い出しつつあった。
リツコさんはいい傾向だといっていた。アスカが自分から思い出そうといているからだ。


アスカもレイがいないことを心配していた。


レイ


どこにいるんだ?
君は、僕に言ったね。

「あなたは死なないわ。わたしが守るもの。」

その言葉のとおり、僕は今もこうして生きている。
今年で16歳になった。
レイが消える前、僕は確かにきいたんだ。


どんなことがあっても、わたしは必ず帰ってくるから・・・・。と。


レイは「帰るから」と言ったんだ。僕らのもとに・・・・。
だから、僕はアスカと帰りをまっているんだよ。レイ。
君の帰りを・・・・・・。

どうしてあの時引き止めなかったのか。
いつも後悔だけが背中につきまとう。

君が帰ってくれば、アスカの記憶がよみがえるかもしれないと、リツコさんが言っていた。

「かもしれない」
ゼロに近い確率。でも、けっしてマイナスではない。マイナスでない限りは、1%、いや、0.1%も100%へとかえることができる。


望み。希望。奇跡。

すがりつくような想い。

そんなものに僕は頼らない。疲れきって誰かに頼りたくなってしまうことがある。
でも、アスカのやすらかな寝顔を横にしてしまうと、そんなものはふき飛んでしまう。

僕1人がつらいわけではない。
同じ記憶をもつミサトさん、リツコさん、マヤさん、ネルフに関連した人たちみんながつらいのだ。


大人達は僕ら、子供を争う道具に使ったことを、子供にすがるしかなかったことを今でも悔やんでいた。

レイがただの人間でないと知っても、大人にしたらレイも僕とアスカ同様に、子供・・・・なのだ。

そして、今はいないカヲルくんさえも。
たとえ、カヲルくんが使徒だったとしても、大人達に利用された子供でしかないもかもしれない。


だから

だから、大人達は子供にかした重みを償うかのようにレイの捜索をしている。

アスカ・・・・。
アスカは、レイのことをいつもファーストと呼んでいた。

「わたし、ファーストのこと名前で呼んだことがなかった。だからね、シンジ。
わたし、ファーストに会ったら、‘レイ‘って呼ぶの。呼びたいの!
レイもわたしのことアスカって呼んでくれると嬉しい。」

最近、アスカとレイについて話すことが多くなった。
僕にとってレイは、母性・・・・。のように感じられる。母さんのクローンみたいなもの。

でも、その体に宿った魂は母さんではなくレイ自身の心。
だから、母性を感じても異性として見てしまう。レイを。



僕とアスカは、今も国家機関によって守られていた。



人類補完計画。



いまだに、一般人にはあきらかにされていない。でも、僕たちパイロットは、そのときEVAとともに死亡したことになっている。

それは、EVAの科学力を他に悪用されないため。もう1つは、僕とアスカの身をやはり、守るために・・・・。

その実態を把握していなとはいえ、一般人にしてみたら僕らパイロットは、ネルフの一員。

そして、EVAを操縦していた・・・・・。

家族を失った人たちにしたら、恨みをかっていてもおかしくはない。現に、ネルフはすぐさま解体された。

しかし、ネルフに所属していた人たちは、新しく組織された機関、ノアで働いていた。

ネルフにいた人たちは、各分野のエキスパートが多くいた。殺すにはおしい人材、というわけだ。


ノア

言葉のままそのままに、「ノアの箱船」からなずけられた組織。
でも、僕とアスカは、EVAがなかったら単なる子供。
アスカは頭もよくノアで役に立つ人材と最初考えられたが、記憶をなくした病人と判断された。

アスカは学んだことは忘れてはいなかった。

僕は今、いろいろ勉強しているけど・・・・。アスカに教えてもらってばかりいる。

ノアに守られる子供達。
トウジやケンスケのように、ノアで働く親をもつ子供達もノアに守られている。

ノアは組織であると同時に、一つのコロニーだった。
国家機関所属の安全区域。
それがノアだった。そして、人々が一見平和に生活している。
コロニーと一般の人は言う。
ほかにも、コロニーは地球上にあるらしい。でもノアは、そのなかで特別だった。
人口とはいえ、太陽、空、月がある。自然も。

創られた楽園

他のコロニーは、外界に比べれば安全。でも、国家機関が守護しているわけではなかった。

自治とでもいえばいいのか。
ノアはコロニーの中心地。
そのほかのノアは、統治する組織によって環境がさまざまらしい。
ひどいところは、治安がみだれたまま。
はっきりいって、他のコロニーは無法地帯だった。
そんなところへ僕とアスカが住んでいようものなら、すぐさま僕らの正体はあばかれてどうなるかわからない。

ミサトさんよ冬月おじさんが、今の僕たちの保護者だった。
ノアにいれば、とりあえず安全。

でも、僕は時々、この安全区域からでたくなることがある。

なぜだろう・・・・。

ここにいあれば、安全なのに・・。
アスカが安全に生きていける場所。だから、僕もここにいるのかもしれない。

ノアの外はどうなっているのだろうか?

ミサトさんやリツコさんに聞いても教えてはくれなかった。
マヤさんは、どうしてもといって聞かない僕に押されて、一度だけ外の世界をみせてくれた。


映像という形で。

そのすべてが真実でないのは確かだろう。僕に隠していることはまだまだあるだろう。

でも、その映像は悲惨なものだった。

緑なき焦土。

まさしく、カオス、混乱という言葉があてはまった。
空は青ではなく灰色。
大地は、黒くなにかでおおわれている。
かつては、街であっただろう建物らしい残骸。

それが僕らが世界におよぼした代償。
心に石が投げ込まれた感覚に陥りそうになった。外の世界を知らないままでいたら、
僕は自分の犯したことの大きさを一生しらないでいたかもしれない。

「アスカちゃんにもみせる?シンジくん。」

マヤさんが心配そうに僕に聞いてきた。
マヤさんたち大人は、この現実をうけとめつつ日々働いていたのか・・・・。

「いえ、今は・・・・。アスカが記憶を取り戻したときにお願いします。マヤさん。」


僕は力なく答えた。
これが僕が15歳をむかえたときに知ったことだっった・・・・・・。
生き残った人間は、存在するコロニーにいるとマヤさんが説明していたが、それも本当かどうか怪しい。

すべては謎。
きっと、ノアの上層部しか知らないことだろう。
たまたま、その上層部に所属する人たちが、僕らの保護者というだけ。
だから、こうやって知ることができたのかもしれない。

無力な子供。

それを実感した。思い知らされた。
結局は何も変わってはいなかった。


レイ


どこにいるの?

あの焦土と化したどこかにいるの?

赤い瞳をした少女。
白い肌の少女。

もう、それすら色あせていくよ・・・・。
今はもう遠い記憶。


たった一度の君の笑顔。


その奥に寂しさをかんじたのは気のせいだったのか。
僕を見つめ、何を言いかけたのか。
今はたずねようにも、それすらできない僕。


僕にはこうして帰る場所が、待っていてくれる人たちがまだいる。
君にも周りにいたのに、君はそれに気ずかずに、いや、気ずかないふりをしていたのか・・・・。

僕を必要としてくれるアスカもいる。

でも、綾波は・・・・。


どこに帰ってくるの?

誰を必要としているの?


僕が、アスカが・・・。みんながこれほどまでに君をほっしっているのに。

ただ、螺旋のごとく。
みなの想いだけが・・・・・。からまわりして・・・・。

どこまで流れていくのか。


いつかは、想い出にかわるまで。



その時、僕らは出会うだろう。










つづく















「螺旋のはてに〜想い出にかわるまで〜」

いかがでしたか?
この話は、「螺旋」という言葉から思いついた設定です。
人の想いは、どこまでもとめどなく、あふれていくというのが言いたかったのですが・・・。

うまく表現できていたら良いのですが・・・。なんだか、人類補完計画後の世界設定ばかりが目についた感じになってしまいました。

後、いろんな想いがあっても、人の心は空回りすることも多いことも表現できていたらなあっと思います。

今回は、ぜんぜん、甘くないような・・・・。
まあ、甘くしようとして書いたssではないので。
やっぱりシリアスなのかな・・・。この話も(^^;;

感想くださると嬉しいです。
ではでは、またね。

By setu












艦長より百万の感謝を込めて(笑)





せつさんから投稿していただきました!

ありがとうございますう!!

感激のあまり持病の腰痛が・・・・(←ジジ臭い・・・・しかもなんのイミがある!?)

それにしましても、なんと言いますか・・・・

なんかこう・・・・胸のあたりに染みいりますね。

私が書く愚作は心理描写なんか皆無なもんで、なおさらジーンときました(笑)

記憶を失った(無くした、よりもこっちの方がしっくりくる様な気がします)アスカ。

それを支えるシンジ。

消えてしまったレイ。

そして混沌が広がる世界。

・・・・・・

巧みだあ・・・・(笑)

ぢつわこの作品、チャットでせつさんが「SS書くけどどこに投稿しようかなあ」と言った時にすぐさま、

「ウチにちょーだい」

といって強引に頂いたものです(笑)

ホントーにありがとうございました!

さあ!アナタの感じたところを心のおもむくままに書いて、メールでせつさんに出すのだ!

せつさんのメールアドはこちら!









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