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妖精の守護者  第1話










「さあ、みんな食べてみて」

ここは火星。
ラーメンの屋台に座っている人達の前に湯気の出ているどんぶりがある。
そのラーメンをすすめている人物。
テンカワ・アキト。
今年で17歳になる。
通信教育ですでに大学を出てしまった彼の選んだ道はなぜかコックだった。
その後ラーメンに魅了され、今は屋台をひいている。

「よし、食べてみよう」

そう言ってアキトの父がラーメンを食べ始める。
それを合図にアキトの母も食べ始める。
最後に少女が箸をつける。
ホシノ・ルリ。
12歳。
遺伝子組み替えによってモルモットのように育てられた彼女。
人の温もりなど知らずに育った彼女を研究者のアキトの両親が引き取ったのだ。
感情というモノも理解できなかったルリをアキトとアキトの両親が必死に面倒を見た。
特にアキトは学校を通信制にしてまでルリと居る時間を作ろうとした。
その結果少し物静かだが感情豊かな少女に育った。
皆黙々とラーメンを食べる。
そして3人同時にどんぶりを持ちズズーとスープを飲み干す。
最初に口を開いたのはルリだった。

「すごいです!アキトさん。ついに完成したんですね、テンカワラーメン」

興奮しきった調子で言うルリにアキトは顔をほころばせて言う。

「ありがとう、ルリちゃん。ルリちゃんが色々手助けしてくれたからね」

そして最後ににっこり笑うアキト。
ドキッとするルリ。
ルリはこの笑顔が好きだった。
この笑顔が見たいからアキトの側にいる。
自分にこの笑顔を向けてくれるアキトが好きだから。
頬を赤く染めながら俯くルリに暖かい視線を向けていたアキトの父が口を開く。

「アキト」

「なに?」

そう言った2人の顔は真剣そのものだった。

「うまいぞ」

「・・・ありがとう、父さん」

そして母もアキトに向かって言う。

「正直コックになるって言い出したときはどうしようかと思ったの。当然あなたは私たちのように研究者になると思っていたから。でもこんなにおいしい物を作っちゃうなんてね」

アキトは両親に似て頭の良い子だった。
わずか12歳で大学を出て、今では博士号も持っている。
だがアキトはコックになることを決めた。
元々才能豊かだったのかあらゆる料理に精通しかなりの実力までいった。
アキトはどんな料理人でも欲しがる様な舌を持っていたのだ。
だが結局ラーメンにのめり込んでしまったが。

「ありがとう母さん。もう心配かけないから」

「このラーメンがあれば屋台も忙しくなりますね。出来る限り私も手伝いますから」

そう言ったルリ。
彼女は今だモルモットのように実験に参加させられていたが、それでも暇なときはアキトと居たいがために屋台を手伝っていた。

「うん。よろしくね、ルリちゃん」

そう言って笑顔をルリに向けるアキト。
再びドキリとするルリだった。
















妖精の守護者
第1話「悲しき別れ」
BY ささばり

















ドーン。
何の前触れもなく爆発炎上する研究所。
あちこちで悲鳴が上がる。
それを呆然と屋台から見ているアキトとルリ。
テンカワラーメン完成後1ヶ月が経っていた。
アキトは主に研究所周辺で屋台を出していた。
テンカワラーメンは好評で、研究所の職員達がよく食べに来ていた。
今の客はルリだけだったが。

「父さん!母さん!」

そう言って走り出すアキト。
おたまを持ったまま。
研究所の中にはまだ父と母が居るのだ。
その後を追うルリ。
今が夜だと言うことが嘘かの様に辺りは炎に照らされて真っ赤になっている。
物凄い火柱が上がっている。
どう見ても研究所内は全滅だろう。
やっと敷地内に入ったときにアキトの前方に人影が立ちはだかった。
足を止めるアキト。
その異様な雰囲気にアキトの後ろに隠れるルリ。
炎で赤く染まったマントと編み笠をかぶった人物。

「誰だ、そこをどけ!」

そう叫ぶアキトに編み笠の男が確認するかの様に口を開く。

「テンカワアキト、ホシノルリだな」

その声にゾッとするルリ。

「それが何だ!今それどころじゃないんだ」

そう言ったアキトを見てニヤリと笑うと男は言った。

「我が名は北辰。汝らに我らの研究のモルモットになってもらう。喜ぶが良い、偉大なる我らの研究の手助けが出来るのだからな。・・・フ、フハハハハ」

男の笑いに寒気がするアキトとルリ。
すでにアキトに父と母の心配をする余裕はなくなっていた。
編み笠の男。
その男から感じる異様さがそうさせていた。

「ルリちゃん、逃げろ・・・」

後ろにいるルリにそう呟く。

「え?」

「いいから逃げろ!」

「で、でも」

「いいから行け!何かおかしい、あいつは異常すぎる!」

そう言ってルリを突き飛ばすとおたまを構えるアキト。
だがルリが行ける訳ない。
自分の大好きな人を置いて逃げるなど。

「出来ません!そんなこと出来ませんアキトさん!」

そのやりとりを見ていた男がまたニヤリと笑った。

「美しきかな。だが汝らの運命すでに我が手にあり」

そう言った男にアキトが走り出す。
必殺のおたまを振りかざして。

「ルリちゃん、逃げろー!」

そう叫びながら男に近付きおたまを振り下ろす。
ドン!
男の掌底がアキトの腹にめり込む。
ゆっくりと崩れ落ちるアキト。

「クックックッ。未熟なり、テンカワアキト」

「・・・逃げ・・・ル・ちゃん・・・」

「い、いやー!アキトさん、アキトさん!」

悲鳴を上げるルリ。
アキトに駆け寄りたいが恐怖で体が動かない。
そんなルリに目を向ける男。

「さて、次は汝の番「いたぞ!こっちだ!」」

男の声を遮るように誰かの声が聞こえた。
その声を聞きアキトを抱え上げる男。

「まあ良い。この者だけでも手に入ればな。さらばだ、ホシノルリ。・・・ジャンプ」

銃を持った数人の男達が駆けつけて来た時、そこには泣き崩れている少女しか居なかった。
















木星圏
とある研究所。

「どうだ、九十九?」

そう言ったのは真っ白な制服にストレートヘアを腰まで伸ばした男。
木連優人部隊、月臣元一郎。

「ああ。ただの秘密結社だと思っていたが・・・この規模、一体どうなっている」

そう答えたのは同じ優人部隊所属、白鳥九十九。

「なにやらボソンジャンプの研究、しかも人体実験も行われていたそうだ」

「ホントか元一郎!。・・・なんと非道な」

そう言って顔を歪めさせる九十九。
同感だという様に頷く元一郎。
ある研究所が危険な研究を非合法で行っているという情報を得た彼らは上層部より研究所の破壊と研究員達の拘束を命じられた。
だが踏み込んだ時すでにそこはもぬけの殻だった。

「しかしもぬけの殻とは・・・情報が漏れているのか?」

そう呟く九十九。
何も言わない元一郎。
そこに1人の兵士が駆け込んでくる。

「隊長、生存者を発見しました!」

「何だと!報告しろ」

そう言った九十九の横に並ぶ元一郎。

「生存者は2名。1人はテンカワ・アキト、年齢18歳。男性。そしてもう1人、NO.02と呼称されている少女。年齢7歳・・・」

急に報告を切る兵士。
訝しく思った元一郎が続きを促すと口を開く。

「テンカワアキト、火星生まれ。NO.02、地球圏ネルガル研究所によって遺伝子操作されている研究用モルモット。2人とも被験者として拉致されて来た様です」

「火星・・・地球・・・。それで、2人は今どこに?」

九十九の質問に兵が答える。
だがその顔は苦渋に満ちている。

「2人は衰弱が酷く、今が軍病院に収容されています」

「なぜそんな顔をする」

そんな兵を見て元一郎が聞く。

「男の方・・・自分は、あんなにぼろぼろにされた人間を見たことがありません」

それを聞いた九十九と元一郎は顔を見合わす。
男は軍人だ。
人の死ですら見慣れているであろう。
それがこれほど辛そうな顔をするとは。
2人はそれほどの非道をする組織を逃がしたことを悔いていた。
















テンカワアキトの意識が回復したと白鳥九十九の元に連絡が来たのは、それから3日後のことだった。





つづく







艦長(兼司令)からのお礼。

さあ、ささばりさんから連載モノを頂きました。
見ると、劇場版再構成・・・かな?

ナデシコが好きな人は、劇場版を見てショックを受ける方も多いと思います。
が、とりあえず楽天的な私はスタッフロールが流れる段階にいたって
「これで終わりかよオイ!引きまくりやん!」と呟いたのを憶えています(笑)

あれはあれで一つの物語。

そこで興味が湧くのがこの作品。
様々な意見のある劇場版をささばりさんがどうさばくのか見物です。

さて。
続きが読みたいやつぁメール出せ!お約束だ!(笑)


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