前にも言ったようにテキサスは広いです。大阪の人がなじみの薄い東北の話をしようと思っても無理なように、私も自分の住んでいたテキサス北東部以外のことは良く分かりません。よって、ここでの話は私の通っていた大学周辺地域、及び、良く遊びに行くダラス・フォートワース地区の紹介が中心になりますことをご了承ください。
■ ダラスという街 私の通っていた大学のあるコマース (Commerce)という町は人口8000人足らずの小さい町で、大学と牧場以外は何もありません。たぶんあなたの地図帳にも載っていないでしょう。電車もバスもタクシーも走っていません。この町の100キロほど西には、あのケネディ暗殺で有名なダラス(Dallas)、そしてそこからさらに西に約50キロほどいったところにフォートワース(Fortworth)があります。このダラス・フォートワース地区の人口は100万人以上。まあ規模が規模ですから、たいして驚くに当たらない数ですが、やっぱりそこは日本でイメージする都市というものとはかけ離れた物といえるでしょう。 まずここでは車がないと話になりません。大型店舗はみな郊外にあり、上の写真にある中心地、ダウンタウンは銀行やオフィスといった商業地区になっています。昼間でさえ人通りの少ないこの辺りは、ビジネスアワーを過ぎるとまさにゴーストタウンと化してしまいます。
そんなダウンタウンの夜の盛り場が、ダウンタウンの東側、ディープ・エラム地区です。ここは昼間訪れると一見やばそうな雰囲気のあるところですが、夜は人通りが増え、かえって危険度が薄れる気がします(でも決して安全ではないのだけれど)。ここはブルース、カントリー、ロックなどのライヴハウスからバー、クラブ、レストランが立ち並ぶ、ダラスで最もホットな場所です。 まずこの地区で一番大きなライヴハウスがDeep Ellum Live。私はここでKula Shaker、Luscious Jackson、Third Eye Blind、Green Day、Guitar Wolfなどのギグを観ました。その他にOffspring、The President Of USA、The Cardigansなどの割と有名どころがギグをやるところです。そしてオルタナ形のハコがTreesというライヴハウス。私はここでCharlatans、Dinosaur Jr.などのギグを体験しました。同様にGalaxy Club というところも人気を集めていてShonen Knifeなんかも5月にここでライヴをやっていきました。外にいても音が聞こえてきます。一方ブルースミュージシャンが集うのがBlue Cat Blues。様々な有名どころのブルースの職人達が連夜に渡ってライヴを行っています。テキサス・ブルースの頂点がここにあるといっても過言ではないでしょう(Deep Ellumについてもっと詳しく知りたい人は「Live in Dallas」へ)。 プロスポーツですが、まず何といってもだんとつの人気を誇っているのがアメフトのダラス・カウボーイズ、続いて野球のテキサス・レンジャース。前者はテキサス・スタジアム、後者はダラスとフォートワースの中間に位置する、ザ・ボールパーク・アーリントンを本拠地にしています。ドジャースの野茂投手がオールスターで投げたあの球場で、私の感想では世界中で最も美しい球場だと思います。私の友達はその外観を見て、まるでショッピングモールのようだといっていました。あともう一つ、NBAの弱小チーム、ダラス・マーヴェリックスもありますが、そのことを話題にする人は誰もいません。同じくテキサス州に本拠地を置くヒューストン・ロケッツやサンアントニオ・スパーズの方が人気があるようです。
■ 田舎の中の田舎 では話を私の大学周辺地区に移したいと思います。その一帯はまさに「アメリカのど田舎」という形容がぴったりなところです。テキサスというイメージ通りのカウボーイ風の人達がうろうろしていて、なおかつ言葉の訛りが激しい。超保守的な白人主体の土地柄で、音楽といえばカントリー(ブルースじゃないんだよ)、映画といえばジョン・ウェインかハリウッド、新聞といえば地元Commerce Journal。まさにテキサス以外のことは難にも知らないんじゃないかっていう人達ばかりの集まったところです。そんなところですから、たまに小さい子供なんかが私のような黄色い人間に出会うと、食い入るように見つめられてしまいます。よだれを流す子もいます。
車と保守的といえば、個人的にある修理工場に車の点検を頼みに行ったら、皆暇そうにしているのに、でかい仕事があるからと断られたり、オイル交換を理不尽に後回しにされたり、といった差別的なことはありました。でもまあ、こいつらやっぱそういった人間なんだな、と別に悲しむわけでもなかったのですが。でも友達の香港からの留学生はハイウェイでポリスに止められ、5マイル(約8キロ)オーバーで走っていたところを、顔を見た瞬間20マイル(約32キロ)オーバーだと言われたとか。そういうのは罰金の額を考えると懐にもろに響くので笑って済ませられる話ではありませんが...。 人はみな我々外国人にも穏健で親切、に一瞬見えます。よくサザン・ホスピタリティーなどといいますが、ちょっとそれとは違うようにも思えるのです。よく留学生の友達が機会あるごとにこう言います。「彼らは留学生に対してナイスなふりをしているだけだ。本当はこれっぽっちも我々のことを気にしていない。」これってまるで日本人の外国人に対する扱いかたとよく似ていると思いませんか。まあ、私の通っている大学では留学生とアメリカ人学生との交流の場なんてまったくないし、学生が留学生に自然と声をかけるなんてことは絶対ないもんなあ。我々って動物以下なのかもしれません。
■ ちょっとした楽しみ 非常にネガティブなことばかり言ってしまいましたが、でも本当はいいこともたくさんあるのです。まず物の値段が安いこと。日本、特に東京のそれの半分と考えてください。アメリカのどこの州と比べても安いようです。大学に近くの飲み屋でさんざん食って飲んで一人$10なんてこともあります。ピザ食べ放題で$4とか、中華料理も食べ放題のランチで$5とか。映画館で新作映画の上映が一本$2なんてのもあります。ライヴも有名アーティストで$15とか。
それからメキシコに接していることもあって、メキシコからの移民が多いんです。すなわちあちらの文化にも触れられるということ。特にメキシコ料理。安くておいしい物がたくさん食べられるのです。そういう人に出会えばスペイン語も覚えられるというわけです。ついでに言えば、移民が多いということは、英語に堪能でない人もたくさんいるということ。だから、ちょっとぐらい英語が変でも我々が思っているほど人は気にません。だから英語が分からないからといって引込み思案にならずにすむのです。 あとすごく暑いことは前にも言いましたが、熱帯地域と違ってここは雨が非常に少ない。だからアウトドアの好きな人には、もってこいのところです。釣り、ゴルフ、キャンプと遊びには事欠きません(まあ私のような貧乏学生にはなかなか難しいですが)。そして雨が少ないということは乾燥しているということ。日本のような湿気に悩まされることはありません。日差しはきついですが、日陰に入れば結構涼しいのです。でも芝生に潜むアリには気をつけましょう。ファイアー・アントという赤いアリで、毒を持っています。かまれる(刺される?)と人によっては腫れとかゆみが何週間も引かず、しまいには指など変形してしまう人もいます。幼児がアリにかまれて死んだ、などという話も聞きます。幸い私はわりと免疫があるようで、数日程度のかゆみで治まるのでそんなにナーヴァスにならずに済んでいたのですが。 何といっても今やアメリカ全州どこへ行っても日本人のいないところはありません。特に大学なんかは日本人留学生はたくさんいるでしょう。しかし私の大学は違いました。留学生200人のうち日本人学生は4人しかいませんでした(でもダラス近郊の大学では英語集中講座に参加している90%が日本人などというところもある)。それにこの辺は日本人はほとんど住んでいません(つまりいい企業がない、ということの裏返しでもあるのですが)。旅行でも留学でも「日本と完全に離れたい」「日本語を話したくない」という人にはなかなかいいところです(でも先に触れたようにアメリカ人に期待してはいけないけれど)。いい意味でも悪い意味でも、アメリカ南部の文化にどっぷりつかれるのがこのテキサス北東部なのです。
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Send comments to: Katsuhiro Ishizaki Last updated: 9/ 12/ 97 |