3.アドバイザーの価値観

 

 「パティシペイターシップ」はひとつの価値観である。それを提唱するということは、筆者がどういう生き方に価値をおくかという問題であり、同時にそれを支える理論的根拠は何かということになる。当然、筆者の考え方に異論がある方がおられよう。
 たとえば、公開セミナーの中で、「グループの中に波風を立てないことはいけないことですか」と尋ねた人がいる。仮に「ハイか、イイエ」どちらかだけで答えるとしたら、あなたはどう答えられるだろうか。
 GWTの基本的な考え方は、「ハイ(波風の立つことをよしとする)」と答える側に立っている。一人ひとりの人間がそれぞれ違うということに価値を認め、ものの見方、考え方、欲求、能力など、さまざまな面で違いをもった人が一つの目的を達成するために協力することを「異質の協力」とよぶのだと考えている。だから、考えが違っていたから臆さず言いあい、一緒に結論を練り上げることがよいことだ、その過程で波風が立つのは当然、ということになる。
 しかし、言いたいことを押さえ、他の人にうまく調子を合わせてグループの中に溶け込み、和気あいあい、みんなと仲良くやっていくことこそが大事なことだ、それが大人というものだ、と考える人も多い。こういう考え方をする人は、ふりかえりのときも、厳しい指摘をすることを避け、あいまいなことしか言わない。
 つまり、グループをみんな仲良しの護衛船団的共同体にしたいのか、自立した人間の機能的統合体にしたいのか、ということである。アドバイザーがどちらの立場に立つかによって、GWTのすすめ方が違ってくる。
 このように、GWTを実施するにあたっては、対人関係のもち方やグループや組織のあり方について、アドバイザーがどのような理論をバックにもち、どのような価値観をもっているかということが重大な意味をもつのである。
 なお、「和を以て貴しとなす」の”和”の本来の意味は”羅漢の和”であり、羅漢とは悟りを開いて自立した人をさしている。

(著者の許諾を得て「新グループ・トレーニング」より抜粋)