グループワークトレーニング（ＧＷＴ）実施の留意点

生涯学習講座におけるＧＷＴ実施の留意点

１．生涯学習講座（短期分散型研修）の特徴分析
（１）根本的特徴
（２）現実的特徴

２．生涯学習講座（短期分散型研修）における実施の留意点

（１）計画段階の留意点
（２）準備段階の留意点

（３）講座の運営段階の留意点

（４）当日のＧＷＴ実施段階の留意点

１．生涯学習講座（短期分散型研修）の特徴分析

　過去に指導した生涯学習講座の経験を基に、生涯学習講座の特徴を分析すると生涯学習講座の持つ根本的特徴と、現実の生涯学習講座が抱える現実的特徴の２種類が考えられる。

（１）根本的特徴

　（参加者）
　○　参加者の年齢、性別、学歴、経歴、経験等がバラバラである。

　○　参加者の講座内容の理解度に大きなばらつきがある。

　○　参加者が講座に参加する動機にばらつきがある。（ｱﾝｹｰﾄより）

　○　参加者が講座に期待するものにばらつきがある。（ｱﾝｹｰﾄより）

　○　開始時点では、参加者同士のリレーションが出来ていないことが多い。

　○　開始時点では、参加者同士の名前も知らないことが多い。

　（時間的制限）

　○　開始時間、終了時間が決められており、時間内に終わらせなければ

ならない。

　○　決められた短い期間内で一定の目に見える成果が求められることが

多い。

　○　講座終了後のアフターケアーが難しい。（出来ない）

（２）現実的特徴

　（取消し・欠席・遅刻・早退）
　○　申込みをしても無断でキャンセルをする者がいる。

　○　当日になるまで正確な参加人数が確定できない。

　○　初日欠席で、２日目以降に初参加となるケースがある。

　○　参加者の仕事等の関係で絶対に遅刻、早退、欠席することがある。

　○　事前に出欠席の確認をとっておいても、予定外の欠席者が出る場合

が多い。

　○　遅刻するケースが非常に多い

　○　遅刻した場合でも断ることが難しい（出来ない）

　（参加者）

　○　何回も関係する講座に出ているマニア的な、常連と言われる参加者

がいる。

　○　講座自体に参加することを、趣味としている参加者がいる。

　○　ネタ探しが目的で、実技は積極的だが講義には消極的な参加者がいる。

　○　講師より年齢や経験があるということで、知ったかぶりをする者がいる。

　○　全体的には積極的であるが、中には受動的で消極的な参加者もいる。

　○　主催者から人数そろえで、半強制的に参加させらているケースがある。

　○　強制力が無いため、つまらないと講座途中でも来なくなる参加者もいる。

２．生涯学習講座（短期分散型研修）におけるＧＷＴ実施の留意点

　この様に、現実の生涯学習の現場には前記のような特徴があり、これらの特徴に対する対策または防衛策を事前に準備しておくことが、「生涯学習講座（短期分散型）」においてグループワークトレーニングを振興させるカギとなるであろう。以下今回の研究発表のまとめとして、現時点で我々の考える「生涯学習講座（短期分散型）におけるグループワークトレーニング実施の留意点」を紹介したい。

（１）計画段階の留意点

★全体計画を立てる場合、研修目標を欲張らない。
　例えば、１日１コマ２時間、全体で５回の講座の場合、講座の指導目標を「コミュニケーション能力の向上」ならそれひとつに絞って、その目標達成のためのトレーニングを色々な角度から５回実施する方法と、「協力」「コニュニケーション」など毎回ちがう目標で行う方法と大きく分けると２つの進め方が考えられる。どちらが良いかは、アドバイザーの意図にもよるが現時点で我々の場合は、１講座１目標で行うほうが研修効果の積み上げが出来て効果的であると感じる。

　

★時間配分には充分余裕を持った詳細な指導案を立てる。

　例えば１日１コマ２時間の場合、指導案を考える時点では実質１００分位のトレーニング時間と仮定して計画したほうが良い。というのは、２時間の中には主催者からの事務連絡や会場の片付けの時間が含まれたり、予定外の遅刻者がいて予定の開始時間に始められないなどのケースがままあるからである。（ちなみに墨田区のケースでは、遅刻者等のため実質トレーニング（ＤＯ）に入れたのは平均講義開始予定時間の５～１０分後であった。）指導案を２時間に設定すると、この様な事が有った場合トレーニング時間を削るか時間延長にするしかない（基本的には時間延長はすべきでない）。　現時点で我々が計画する目安として、７時から９時までの講習時間の場合、８時までにＤＯの段階を終わるように指導案を制作している。

　

★１日１種類の財を基本として、ふりかえりの時間を充分に取るようにする。

　例えば１日１コマ２時間の場合、トレーニングの種類は１種類を基本として最高でもウォーミングアップの財を入れても２種類までとする。１種類の場合は、ＤＯが３０分～４５分、ＬＯＯＫが４５分～６０分を目安に指導案を作成すると良い。また、２種類の場合は初めに行うトレーニングを次のトレーニングのウォーミングアップ的なものと考えて、短時間１０分程度で行うケースもあるが、必ずＬＯＯＫの段階は入れる必要がある。

　

★ふりかえりシートを活用し、必ず個人記入のふりかえりの時間を設定する。

　短時間で有効なふりかえりを行うために、ふりかえりシートを活用している。講習初期の段階ではふりかえりシートの設問は、いろいろな観点のふりかえりができるように「漠然とした」設問を行っている。そして、いきなり集団でふりかえりを行うのではなく必ず個人記入のふりかえりの時間を確保することで自分自身で気付くことを啓発するようにしている。またこれは、つぎの段階のグループでのふりかえり（わかちあい）の時に発言の基礎にも成るため必ず確保したほうが良い。

　

★ＴＨＩＮＫの段階をどの様に行うかは、講座の目的にあわせて行う。

　以前我々はＧＷＴを実施する場合、ＤＯ－ＬＯＯＫ－ＴＨＩＮＫの段階を確実に行うことが必要であると言う観点から、毎回ＴＨＩＮＫの段階を行っていた。しかし、経験を積むうちに、ひとつの財に対して必ず日常化（ＴＨＩＮＫの段階）を実施しなくても良いのではと現在は考えている。その理由としては、たとえば講座全体をとおして「コミュニケーション」について学ぶ講座を計画した場合、講座を通じて最後に１回入れれば日常化の意味を持つのではと考えるからである。だが、別な観点から考えると日常化をするというスキルはある程度熟練が必要であり、毎回日常化をする事でスキルの向上が図られ、本当に意味のある日常化ができるのではということもある。また我々の場合、ＴＨＩＮＫのどのように行うかであるが、「対人関係のスキルの習得」を目標とする場合は小講義、その他の場合は日常化シートを使った「気づきの日常化」をするようにしている。

（２）準備段階の留意点

★出来るだけ直接主催者と打合せをして講座設定の意図を明確に聞いておく。
　講座の主催者が、何を求めて依頼をしてきたのかを明確に確認しなければならない。最近は電話だけで打合せを済ませるケースもあるが、出来るだけ会場の下見も兼ねて先方にでかけて、直接担当者と面談をして話を聞いたほうが良い。その際、担当者が不慣れで「とにかくすべてお願いします」というケースもあるが、その場合も、全体の流れや指導方針を予め説明をして、講座のイメージを担当者に理解してもらう必要がある。

　

★遅刻・早退・欠席の対応を主催者と充分に確認し、参加者に徹底してもらう。

　基本的には遅刻・早退・欠席は無いように主催者にお願いすることが必要である。そしてその過程で大切なのが遅刻・早退・欠席があると、トレーニングが妨害され時間厳守で出席している人達に迷惑がかかるだけでなく、トレーニング効果も低下してしまうということを主催者に理解してもらうことである。その上で遅刻・早退・欠席の対応について主催者と意思統一し、講座の参加者に事前に徹底してもらう方が良い。現段階の経験から考えると、遅刻の場合１０分以上遅刻をする場合は、当日の参加をお断りするぐらいの厳しい姿勢の方が良いように思う。また、欠席の場合は、主催者にフォローを依頼して、欠席時の講座内容等を電話等で伝えてもらうと良いであろう。

　

★会場の下見をして、机の配置の指示や備品の種類の確認を行っておく。

　講座の初日にトレーニングの導入が上手く行えると、２日目以降のトレーニングの進行がスムーズにいくものである。そのためにも、直接講座に使用する会場の下見をして会場の雰囲気等を確認するとともに、参加者が座る机の配置、黒板の配置、またトレーニングに必要な道具をおく机配置等を主催者に指示しておくほうが良い。また、トレーニングに使用する備品類はトレーナーが極力用意して持参する方が良いが、会場で用意してもらう場合は、打合せ時に備品リストを作成し、種類の指定がある場合（例えば、裏写りしない水性マジック等）は見本品を持参して、種類の確認をしておいたほうが当日あわてなくてすむ。　なお、黒板については、参加者から見づらいホワイトボード式の物は極力避け、どうしてもそれしかない場合は、極太のホワイトボード用マジックを用意するか、マジックの先を斜めにカットしておくように指示する。

　

★名札は名刺大以上の大きさの物を用意してもらう。

　トレーニングの導入をスムーズにする小道具として名札がある。最近の傾向として、小型の名札に体裁良くワープロ等で印字した物を多く見るが、こんな名札では少し離れた位置から名前を読むのは困難である。名札は名前を他のメンバーに判るように付けるのだから、名刺大以上の大きさの物に太めの黒マジック等で記入し、離れた位置からでも認識出来る物を用意してもらうようにする。なお、現段階の経験からいうと、参加者が名札をつける位置も、腰の位置に付けたり、羽織った上着の下に付けるケースが多く参加者に対しても名札の意味を説明して、いつでも他のメンバーから見える位置に付けるようにアドバイスを行うと良い。

（３）講座の運営段階の留意点

　★初日に簡単なアンケートを取るようにする。
　講座に参加する人の経験や知識がばらばらであるように、参加する動機や講座に求める物も様々である。そこで、講座初日に簡単なアンケートを行い、少しでも参加者のバックボーンを理解し考慮に入れて２日目以降のトレーニング計画をたてる必要がある。なおアンケートは、記述式のものより選択式のもので、各質問事項ごとにその他の選択肢を設け、積極的に記入したい人にはその欄に記入してもらうと良い。

　

　★１グループ６名～７名の班編成でトレーニングを行う。

　講座中の班編成は６名～７名を基本にして行う方が良い。これはグループダイナミックスの観点からこの位の人数が小グループとして活性化しやすいという理由と、ふりかえりの際、参加者ひとりひとりの発言時間を少しでも多く確保したいという理由からである。また突然の欠席が有った場合でも、最低５名なら班編成のやり直しをしなくても対応することが可能であると考える。人数が少ない講座の場合は、９名までの場合は１班編成を基本とし、財によって２班成にして、１０名以上の場合に常時２班編成にするようにしている。

　

　★班編成は第２回目の講座のときに行う。

　班編成は講座の事前に行うケースもあるが、講座自体のキャンセル者がいる場合が多いので、講座初日は仮の班編成を行って第２回目の時に正規の班編成を行うのが良い。初日に全日程に関する出席予定を直接本人に確認し、欠席のため班の人数が最悪５名を割らないような班編成を行うほうがよい。また、初日の仮の班編成は正規の班編成のベースにするが、初日のメンバー状況を充分観察しておき、常連の存在や同じ職場やサークルに所属する参加者の存在にを充分考慮して班編成をした方が良い。なお、なるべく多くの人と交流を持たせようと毎回班のメンバーをかえる方法もあるが、短期間分散型の講座の場合、班のメンバーの交流をより深くすることに重点をおき基本的には入替えを行わないほうが良いように思う。

　

★講座の期間中はニックネームを使用する。

　参加者同志のコミュニケーションを促進する方策のひとつとして、講座の期間中お互いにニックネームで呼び合う方法がある。これは、日常の生活を講座のなかに持ち込まないためにも有効である。この方法の場合、名札も用紙と色マジック等を用意して本人に製作してもらうのも有効である。ニックネームの名称、名札の作り方等にその参加者の個性がでて、その人を他のメンバーが理解するのにも役立つのである。ただし、講師自身ははニックネームをつけない方が良い。

　

★講座の雰囲気を盛り上げるため、ＢＧＭやコーヒーを用意する。

　講座全体を自由で明るい雰囲気で運営するため、講座の始めからＧＢＭ（出来れば歌の入っていない落ちついた感じのクラッシック等）を微かに聞こえる程度かけておくとよい。そして、個人のふりかえりの時も耳ざわりの無い程度に、小さな音量でＢＧＭを流すのも効果的である。また、飲み物についてはＤＯの段階以外は自由に飲んで良いようにしている。飲み物についても、講義前にその会場で豆を引きコーヒーを入れると、良い香りが会場にあふれ講座全体の雰囲気作りに有効である。

　

★講座の始めと終わりに全員握手を行い、トレーニングの士気をたかめる。

　講座を始めるとき、「今日もみんなでがんばりましょう。」という気持ちで全員と「よろしく」と握手をするセクションを入れると和気あいあいに講座を始めることが出来る。また、おわりには、「良い気づきをありがとうございました。」という気持ちで全員と「ありがとうございました」と握手をするセクションを入れると和気あいあいに講座を終わることが出来る。

（４）当日のＧＷＴ実施段階の留意点

　
★メンバー全員が出来るだけ均等に、意見の発表が出来るように指導する。

　グループでのふりかえりを行うと、必ずと言っていいほどひとりで長く話したがる人がいる。こういう人がいると、短時間に全員の意見を聞くことが出来なるばかりか、すごく良い気づきを見逃してしまう原因にもなる。したがって、必ず事前にメンバー全員が出来るだけ均等に意見が発表できるように指導し、実際のグループでのふりかえりの際も、そういう人がいたら一言声をかける必要がある。また、ふりかえりの前に「１人２分づつで６人で１２分間の時間を設定します。できるだけ全員が均等に発言できるように進めてください。」とことばかけをすることも有効である。

　

★初心者を対象にしたふりえりは、具体的事例を上げてやり方を丁寧に説明する。

　ふりかえりの説明をする場合、具体的事例を上げてやり方を出来るだけ丁寧に説明する事が重要である。特に初心者を対象とした場合は、ふりかえりの事例を２～３個それも出来るだけ具体的に、そして参加者にあった事例を紹介する方がより効果的である。また、ふりかえりシートを使った場合でも、「ひとりひとり記入した内容を紹介してから自由に話してください」とやり方を説明する必要がある。

　

★理論紹介の補足説明として、その日の講座終了後プリントを用意して渡す。

　ＴＨＩＮＫ段階で理論紹介をする場合、補足説明としてプリントを用意すると良い。なお、プリントを先に配付すると理論説明をしっかり聞かない人もでるので、プリント配付は講座終了後に行う。

　

★実習が予想以上に早く終わってしまったケースの対応も考えておく。

　実際にＧＷＴを行うと実習が偶然苦労しないで予想以上に早く終わってしまうことがある。トレーニング時間に余裕がある場合は、別の課題の実習を行うことも考えられるが、短時間の場合その対応を事前に充分検討しておくほうが実際問題、効果的である。

　

★実習が予定時間内に終わらないケースの対応も考えておく。

　前の場合と逆で、実習が予定時内で終わらないケースもある。どちらかというとこの場合の方が多いが終わらない場合どの段階で打ち切るのかも検討しておいたほうが良い。特に参加者は、課題を終わらなかった事にこだわる傾向があるので、フオローの方法も事前に検討したほうが良い。以前、終わらないことで自己嫌悪におちいったケースもあった。現在我々の場合は、財そのものを工夫することで時間内に終わる確率を高くしている。

　

★ＤＯの段階の進行中遅刻者が来た場合の対応を考えておく。

　現実の問題点でも取り上げたが、ＤＯの段階に入って遅刻者がある場合がある。原則論としては、事前に１０分以上の遅刻は見学にしてもらうように徹底してもらえれば良いのだが、実際問題としては折角急いで来たのに参加させないわけにはいかない面もある。といって、中途半端に参加させると、定時に来た人達の学習の妨げになる場合もあり判断に困るケースがある。方法のひとつとして、観察者をさせる場合もあるがＧＷＴの経験者でないと何を観察していいのか判らす、結局意味のない見学になってしまうケースが多い。したがって、現実の対応としては、事前に財によってどの段階までなら途中参加させるのか、または、残念ながら見学させるのかをあらかじめ想定しておくと、対応がわりと適切に行えるようである。また、途中参加させると決めた場合は、アドバイサーが躊躇せず、グループの話を中断して、「これから入ります」と区切りをつけて参加させてほうが良いようである。グループに入れるタイミングを図っていると、遅れた人がますますきまづくなり、グループの一部のメンバーも気に掛けるようになり、結果的に良くない場合が多い。

　