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[ 第1話 ]

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2063年:再会
 
     「えーっと、確かここを右だったような?」
 
 はたちよつつじ
年の頃ならまだ二十歳そこそこだろう。一人の娘さんが四辻のまんなかでどちらに行こうか決めあぐねている。
 
まだ春先だというのに、Tシャツに短めのキュロットという軽いいでたちだ。
 
「こんなのあっても役に立たないしなぁ。」
 
こんなのとは、彼女が手にしている地図のことだろう。確かに今の大地には目印になるようなものはあまりない。
 
「・・・もう4年かぁ・・・」
 
地図がいくらかはましに役に立っていた頃のことを想い出しているのだろうか。
 
ちょっと上のほうを見ながら、しばし黙り込む。
 
「ん!」
 
意を決したように歩き出す。方向は右。
  がれき
道の両側では、かつて住居があったことを思わせる瓦礫たちが草に埋もれようとしている。
 
電柱や街灯には、まるであたりまえのようにツタがからまっている。
 
道自身もコンクリートのような素材がひび割れて、おせじにも歩きやすいとはいえまい。
 
だが、そんな道を彼女は、もう2時間も歩いている。
 
歩く・歩く・歩く
 
たとえ200時間かかってもかまわないような歩きっぷりだ。
 
とはいえ、そんな彼女でも歩けないところはある。
 
川だ。
 
「ありゃ?」
 
向こう岸まで10mほどの、明らかに新しい川だ。なにしろ川底に道路が見える。
 
ひとしきり悩む彼女。
 
「う〜〜〜ん」
 
さっきの右折が間違いということだってあるのだから、むりをして渡る必要もあるまい。
 
ところが、彼女は渡るつもりらしい。
 
向こう岸の一点を見つめている。
 とら
どうやら、確かな目印を捉えたようだ。
 すべ
ならば渡る術を探さねばならない。泳ぐにはまだ水は冷たい。
 
右を見る。 − 何もない。
 
左を見る。 − 何もない。  いや、川面に何かある。
 
コンクリート壁のあたまが水面に出ている。 あれならジャンプの足場にできそうだ。
 
彼女も気がついたようで、川岸までかけていく。
 
足場で中継すれば向こう岸まで届くと判断。
 
3歩さがって、ダッシュ! 水との境界でジャンプ!
 
ゆるやかな弧を描く。
 
足場に着地、勢いをころさず2歩ステップしてもう一度!
 
・・・
 
彼女の不運は、小さめとはいえ旅行鞄を持っていたことか。
 
バシャッ
 
1メートル足りない。 浅瀬で水深10cmとはいえ、クツはずぶ濡れである。
 
「う〜」
  うな
言唸ってから、文字通り重い足どりで岸まであがる。
 
スニーカーとソックスを脱いで、鞄から出したタオルで足を拭く。
 
鞄からはもう一つ。包みをとくとパンプスだ。
 
でも、すぐにはこうとしない。 自分の服装とパンプスを見くらべている。
 
なるほど、キュロットにパンプスは合わない。
 
しかし、女心より、早く到着することを優先したようだ。
 
パンプスを履いて、濡れたものはタオルにくるんで鞄の中へ。
 
「よっと」
 
立ち上がってまた歩き始める。
 
そのまま1時間。
 
さっき見つけた目印はもう過ぎいる。
 
結構まともな家がめだってきた。
 
幾人かともすれ違った。
 
記憶にある風景が多くなってきたのだろう。少し早足になる。
 
「あっ」
 
!走り出す。
 
これは目的地を見つけたのに違いない。
 
途中いくつかの曲り角も、もうためらわない。
 
到着まで2分。はやいはやい。
  ととの
門をくぐって、玄関の前でストップ。息を調える
 
そして、
 
「ごめんくださーい!」
 
ちょっと間。
 
「はーい」
 
男の人の声だ。
  えんがわ
玄関横の縁側にひとりの男性が現れる。
 つむぎぶしょうひげ
三十過ぎくらい。 紬を着ている。 無精髭が少し。
 
その人の声は驚きに満ちていた。
 
「ア、アルファ」
 
「お久しぶり」
 
『ふふっ、この人が目を丸くするところなんて初めて見た。』
    
 

 
     −あとがき−
お気づきかとも思いますが、アルファの目的地は初瀬野教授の家です。このころはまだカフェ・アルファはありません。
また、アルファなら久しぶりに再会したオーナーには飛びつきそうな気もするけど、この頃はまだそれほどでもなく、オーナーよりも教授のほうになついてました(笑)。
    
 

目次 第2話

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