= 眠り急ぐ奴らの街 =
第4回

まぁいい、このあと書き込みしなくなったのがヤツだったんだろう。
もっとも、それを確認できるかは少し怪しいかも知れないが。

そんな不安を吹っ切るようにオレは無理矢理目をつぶった。
そのとたん、オレはココネに蹴り飛ばされていた。

どげん!

オレはいったい何が起こったのか把握できずにいた。
そもそも”あのココネ”が人を足蹴にするなんてことがあっていいのか?
いや、ない!
と、思っていたが、腰に手を当てて仁王立ちのココネを見上げると、
そんなこともあるかも知れないと思えてしまう。
いつもの彼女には似つかわしくない、とても怒った表情をしているからだ。

しかしまだ眠ったわけでもないのに、やけにクッキリとしている。
怒ったとこもいいなぁ、と、不謹慎なことを考えてしまうくらいに。

そんなオレを見透かしたのか、ココネが顔を近づけて、怒りを押し殺した声で言う。
『××(本名)さん?』
「は、はい。」
こっちからも顔を近づけたいという衝動を抱きながらも、やっとでそれだけ答えられた。
それほど怒りのオーラは強烈だった。
そして一度、息を吸ったかと思うと、怒ったときのおふくろに負けないくらいの大声で言う。
『あなたは! お仲間さんをおとしいれて何とも思わないんですか!?』

思いもよらない音量につぶった目を、恐る恐る開けると、ココネの顔はまだそこにあった。
「いや、その、」
『どーなんです?』

否定の答えを返すことは、少なくともオレには間違いなく絶対にできなかった。

そのあと 30分ほど、正座でココネの説教を聞かされた。
延々とココネの声が聞けるのは嬉しかったが、まったく頭が上がらなかった。

さらにそのあと 30分ほど、この状況を打開するよう説得された。
体力的な限界を理由に渋っていたが、
『大丈夫、あなたならできますよ。』
なんて優しく言われると、なんの根拠もないのに、ついその気になってしまう。

オレがようやく重い腰を上げて、なんとなく 「ありがとう」 と礼を言うと、
『がんばってくださいね。』
なんて言って、ほっぺに軽くキスをしてくれた。
驚いて見かえす彼女の顔が急速にぼやけていく。

ハッと目を開けると、サモハンがまだドアのところにいた。
どうやら現実世界の時間は、ほとんど経っていないらしい。
天野さんが自分が本物だから自分を連れて行けとまくしたてている。
さすがに店長ともなると人物が違うなぁ、と感心しながらエモノを探す。

やがて、『おまえの順番もすぐにまわってくるさ』と軍服が天野さんを押し戻し、
軍服、衛兵、サモハン、もう一人の衛兵の順で通路を歩き出す。

狙いは最後尾の衛兵が持つ自動小銃らしきものだ。
最高の勇気をもらっていたオレに、ためらいはなかった。
まるで高校生にでも戻ったような機敏さで突進する。

!!

ついさっきまで抵抗のそぶりもなかったせいか、あるいはオレの体重のせいか、
衛兵は、オレの手にウージーを残して通路の壁にめり込んだ。

「フリーズ!」
先頭の軍服に銃口を向けて叫ぶ。
英語が通じるかわからなかったが、奴らの言葉はオレだって知らない。

通路にいた全員がオレの方を向いた。
もう一人の衛兵はちょうどサモハンの影になってオレを狙えない。
動く者はなくなった。

そのまま 30秒ほど。
次はどうすればいいのか、必死で考えていると軍服が言う。
『次はどうすればいいのかな?』
思わずトリガーを引いてしまおうかと思った。
『まず、武装解除だよ。』
ドアの中から助言される。 目線が動かせないので誰かはわからない。
軍事に詳しいのは誰だったか思い出しながら助言に従う。
「じゃぁ、武器をこちらに渡してもらおうか?」
日本語のわかるはずの軍服に言う。

だが、軍服が何かたくらんでる顔で自分の拳銃をゆっくり抜きかけたとき、
『その必要はないよ。』
奥の曲がり角から、男が一人現れる。
きっと、このタイミングが来るまで角で待っていたのだろう。
御苦労なことだ、と皮肉に思っていると、
『金谷さん!』
サモハンに抱えられた男が驚きの声で言う。

これにはオレも驚いた。
男の口ぶりからすると、今、現れた男はHolmes金谷さんじゃないのか?
ドアから顔を出した連中にも知り合いがいたようで、やはりそうらしい。

その金谷さんが、軍服やサモハンをたしなめる。
『その人を降ろせ、一曹。 水島さん(軍服)も悪のりしすぎです。』
そんな会話の中で金谷さんは特務一尉と呼ばれていた。

するとこいつら自衛隊なのか?
力が抜けてウージーを降ろすときにトリガーを引いてしまうが、弾は出なかった。

ちょっと待て、オレたちゃいったい何の陰謀に巻き込まれたんだ!?

≪つづく≫