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オレたちは狐につままれたような顔のまま、会議室のような部屋に案内された。 途中、知り合いらしいのが、説明を求めていたが、特務一尉は笑って『すぐわかる』とだけ答えて いたが、その人のことを金谷さんはマンデリンさんと呼んでいた。 あれが彼か。 会議室で最初にした話は、そのすぐわかる話だった。 もっともそれ以外の話だったらタコ殴りにされていただろうが。 『まず、みなさんには、ここ一週間ほどのネット上での活動が、真面目な話、シャレになってなかっ たことを認識していただきます。 そのために今回のような芝居をうったんです。』 みな今ひとつ信用していない感じだ。 『これまでにも目を付けられたネットワーカーたちは大勢いるんです。 ただ、今までは国内に潜伏 している工作員が無作為に行動していて手が出せなかったんですが、今回は本国に送るらしく、 そのターゲットを探していたときにあの掲示板が引っ掛かったんです。 あの掲示板のサーバー、 hi−hoの親会社(パナソニック)には工作員が結構いましてね、その大部分を既にマークできて いたため、今回の件は事前に対処できたんです。』 具体的に言われると結構恐い話だった。 事の発端の天野さんが青い顔をしている。 つまり、昔からニュースにあった拉致事件は本当のことだったということか。 で、今度はオレ達が 狙われて、金谷さん達に救われたと。 いやまて、拉致されたことにはかわりないんじゃないか? それを口にしてみる。 『はい。 申し訳ありませんが、みなさんは拉致されてもらわなければならなかったんです。』 『どういうこと?』 『三日前、みなさんを連行するためと思われる高速船が国境に停泊していましたが、現在ロストし ています。 我々はこれをなんとしても拿捕するため、内部にこちらの要員を潜り込ませることを計 画しました。』 『僕たちの代わりにってこと?』 『そうです。 工作員には偽の情報を流してありますので、我々がみなさんを保護するのと同じぐら いに、連中が我々の用意したみなさんの偽物を拉致しています。』 いつぞやは逃げ切られたが、今回はトロイの木馬作戦を使おうということか。 そのためには報道 にオレ達が拉致されたと報じてもらわねばならないわけだ。 『もうひとつあります。 一般市民が危険にさらされたとなれば、こういった活動に対する大義名分 ができるんです。 そのためには、みなさんになるべく安全に、なるべくリアルな証言をしてもらわ ないといけないんですよ。』 なるほど、オレ達も駒のひとつということらしいが、まぁ、救われたことには違いないようだ。 ミッションが終わるまでここにいなければならなかったが、みなも一応の納得はしたようである。 『みんなと知り合いってことで、僕が今回のミッションの担当になったんですよ。』 と、今日初めて笑顔を見せて金谷さんが言うと、少し場が和む。 そのあとはネット談義に花が咲いた。 金谷さんも今後の予定とか、この船のこととか、話せる範囲で話してくれた。 オレはまだ自己紹介されていなかったが、誰が誰かはおおよその見当が付いている。 肌身離さずポケステ持ってるのがタカヒロ・Iさんだろう。 そしてあの話題に皇帝と呼ばれていたのがカルアさんにちがいあるまい。 ばくさんと飛行機談義をしているのがあの人とあの人だな。 それと、あの人にあの人。 オレを含めて11人か。 いや待て、船倉で隣にいた、あの小声の男がいない。 トイレか? 金谷さんの知り合いのようだったから誰なのか聞いてみると、彼も知らないという。 まぁ、金谷さんはコミケに出てるから、知らない人に知られているということもあるだろう。 そんなことを考えたていたとき、いきなり天井のライトが消えた。 会話がとぎれる。 非常灯がドアをぼんやり赤く染める頃、誰かが口を開く。 『どしたの?』 『大丈夫この船?』 この船が実験船と聞いていたオレたちに、それまでとは別の不安が浮かんでくる。 金谷さんが壁のインターフォンを探していると、風さんと思しき人影が小型のマグライトを点ける。 普段から持ち歩いてるのか? 『××(本名)です、何がありました?』 指揮所につないだらしいが、返事がない。 代わりに何か怒号のようなものがオレたちにまで聞こえる。 事態は思った以上に深刻なんじゃないのか? みんなが少しざわつきだしたとき、それが証明された。 何か大きな音が聞こえたかと思うと、船体が大きく揺れる。 オレ達は部屋の壁にイヤってほどぶつけられたうえに、テーブルが降ってきた。 ≪つづく≫ |