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オレ達が、漁船を改造した高速船だろうと思っていたこの船は、実はMHD推進の実験船ヤマト4 だと金谷さんが言っていた。 いつの間に4号機ができたのかと聞いたら、3号から実用段階に入 り、潜水タイプとしては初めての4号機の運用試験が自衛隊に委託されたのだそうだ。 実験船だ からトラブルがつきものと言うことか。 ちなみにMHDとは永野護が考案したモーターヘッドドライブの略称である。 『違います!』 「!!」 いきなり響いた声に振り返ると、ココネが立っている。 ??? またしても状況が把握できなかったオレだが、今度はすぐに理解した。 オレは気絶しているのだ。 いやまて、夢を見ているのだから眠っていると言った方がいいか。 実際オレはよくココネの夢を見ていたが、こんなハッキリそれとわかる彼女は今日が初めてだ。 「や、やぁ」 さっきほどではないが、ちょっと怒ったような顔をしているから様子うかがいの声で言う。 と、彼女はオレの発言を訂正する。 『MHDは”Magneto Hydro Dynamics”の略です。』 「あ、あぁ知ってるよ。」 実際さっきのは冗談のつもりで言っただけだ。 誰にともなくだが。 怒られるのがその程度で済んでホッとしていると、 彼女もそれはわかっていたのだろう、相好を崩してオレの横に座る。 『ちゃんとできたじゃないですか。』 船倉での立ち回りのことだ。 「まぁ、状況の打開にはなったかな。」 実際にはなんの役にも立てなかったから、苦笑しながら答える。 『やろうとするココロが大切なんですよ。』 なぐさめなのか、それが真実なのか。 彼女が言うからには真実なのだろう。 そのあと暫くは気楽なおしゃべりを楽しんだが、今の状況が話題になったときだ。 「目が覚めたら全身骨折で全治半年とか。」 『怪我の具合はわかりませんけど、今のところみなさん生きてますよ。』 「じゃぁ、実はこの船、海底に沈んでたりしてね。」 『大丈夫みたいですよ。 今は浮上して海面を航行中です。』 「ならいいんだけど。」 待てよ、なんか変だぞ。 彼女がオレの願望が生み出した夢の中の人物なら、なぜオレの知らないことを知ってるんだ? その疑問を持ったとたん辺りが真っ暗になった。 いや、オレの目が覚めたのだ。 目の前に時計がある。 オレの腕時計だ。 10:06 オレのは24時間制だから午前だ。 いつ寝転がったか憶えちゃいないが10時のチャイムを聞いた憶えはないから、 今度は現実世界も少し時間が経っているようだ。 身体を起こしてみると左上腕に痛みがある。 たぶんこれで目が覚めたんだろう。 我慢すれば動かせるから骨は折れていないようだ。 床に転がったマグライトの光で多少は部屋の様子がわかる。 部屋の反対側で誰か動いている。 『みんな無事かー?』 たぶん金谷さんだろう。 それに応えて返事ともうめきともとれる声がそこかしこからあがる。 オレも「何とかね」と言ったつもりだが、果たして口がちゃんと動いてくれたかどうか。 数分後、一応全員起き上がることはできたが、打撲や捻挫で歩くのがやっとの者もいた。 血を流している者がいないのが不思議なくらいだ。 相談の結果、何も聞こえなくなったインターフォンに見切りをつけて、指揮所まで直接行くことにした。 メンバーは軽傷の金谷さん、風さん、天野さんと興味本位のオレ。 他に、カルアさんもマグライトを持っていたので、すぐ近くにあるという生活物資の倉庫で医療品を物 色することにした。ロメオさんも同行するそうだ。 怪我のひどそうなHAY!さんやタカヒロ・Iさんらは会議室に待機となった。 ドアを開けると通路も非常灯しかついていないが目も慣れてきていた。 薄闇の中でじゃあな、と手で合図して分かれ、とりあえずオレたちは上の階へ。 指揮所まではそれほどかからなかったが、ドアが開かない。 内側からロックされているのか。 ドアに耳を側だててみても中の様子はわからないようだった。 少し戻ったところに中を覗けるところがあるそうで、最後尾だったオレにマグライトが渡される。 そして金谷さんに言われたとおり通路を左に折れたとき、いきなり人と出くわす。 あの、船倉で隣にいたヤツだ。 「なんだ、おどかすなよ。 今までどこに行って、...」 立ち止まってしまったオレに、天野さんが『どしたの?』とか聞いてくる。 だがオレはそれに答える代わりに両手を頭の高さまで上げた。 目の前に銃口があるんだ、そうするしかあるまい? ≪つづく≫ |