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「ダブルキャスト」ロングストーリー
−After GoodEnd03−(上)
作者・あきら
――――――――――――――プロローグ:GoodEnd03――――――――――――――
「わっ!!」
何者かに押し倒されたようだ。なんて失礼な野郎だ、と思いつつ後ろを見みると、そこにいたのは美月
―いいや、志穂― がいた。
「なぁーに始めてのデートだからってキンチョーしてんだよ。
部長の遙さんに、命の恩人だからって言われたからデートしてあげようと思ったのに。」
そう、彼女は記憶を失ってしまったのだ。あのときの屋上から飛び落ちるというショック療法は、最後のカケだった。
その結果、美月の人格と志穂の人格が一つになったような人格が生まれ、記憶を失ってしまった、
過去のつらい記憶も、映研のみんなのことも、そして僕との思い出も全部・・・・・・。
「なぁーに、暗い顔してんだよ。そんなにボクとデートすんのがやなわけ?」
「いや! そんなことないよ!」
「ムキになるとこがますます怪しい!!」
「・・・・・・。」
「まっいいや、なに見よっか?」
すっかり忘れていた。そういえば映画館に来ていたんだった、そうあのときと同じように・・・。
「なんかこれ見てみたいなぁ。」
と、いいながら志穂が指さしたのはあのとき見たのと同じ『季節を抱きしめて』だった。
「ねぇ、あれからなんか思い出した。」
「ううん、ぜんぜんダメ。」
――――――――――――――――第1章:記憶――――――――――――――――
「あー、おもしろかった。これからどこ行こっか?」
「うーん・・・。」
志穂の記憶が戻りそうな場所って・・・・・・、そうだラーメン屋だ!
「そうだ! おいしいラーメン屋知ってるんだ。」
そのラーメン屋へ行ってみると、なんとつぶれていた。
その経緯を近所で評判の噂好きおばさんに聞いてみるとどうやら夜逃げをしたらしい、原因はおやじの麻雀での、
人間関係のこじれ、莫大な借金、そのために手を出した競馬によるかなり莫大な借金etc、らしい。
あぁ、これで記憶を取り戻すためのヒントの一つは絶たれてしまった・・・。
「どうしよう、どこ行こうか?」
「そうだなぁ、ハンバーガー食べたいな。」
「よし、そうしようか。」
おなかも空いてきたので、一番近くにあるハンバーガー店に行くことにした。
店に行く途中二人が初めて会った噴水を通りがかったので、志穂に聞いてみたがやっぱりなにも思い出さなかった。
そして、もうちょっとでハンバーガー店に着こうしたときに、志穂がいかにも悪そうな人々にぶつかってしまった。
「おいおいネーチャンよぅ! あんたのせいでうちのコーハイの肩ぁはずれちまったじゃねーかよ、
ニューインリョーしめて五十万円払ってもらおうか!?」
その三秒後、いかにも悪そうな人々は、志穂−いいや、美月?−の蹴りによって全員悶絶していた。
志穂―いいや、美月?―は、僕以外の男にさわると蹴りを無意識のうちに入れてしまう、という変な癖が有るのだ。
「あっ! いっけなぁーい、またやっちゃった。」
「志穂! 警察来たらいろんな意味でやばいから、早く逃げよう!!」
僕は志穂の手をつかみ全力ダッシュで自分のアパートまで逃げ帰った。
―――――――――――――――第2章:意識の中で――――――――――――――
「はぁ、はぁ、はぁ、いつもゴメンね。ボクのせいで・・・。」
「いいや、いつも動いていない分の運動をしてると思えばどうってことないよ。」
「でも、不思議だよなぁー。キミにならさわっても全然ヘーキなのに。」
「まっ! いいんじゃない。もし、そうじゃなかったら毎日毎日、何十回も蹴られることになっちゃうしね。」
「そっかぁ、じゃぁそういうことにしといてやるか。」
志穂の前ではとぼけてみたが、実は数日前に森崎先生にこのことを聞いてみておいた。
森崎先生曰く、志穂の中にある記憶の中で最も強く残っていた記憶――僕のことが好き――が、
蹴りを入れるという美月の深層意識に働きかけるために、僕には拒絶反応をださない、ということらしい。
けど、それ以外にも何かあるような感じがしてならない。ひょっとしたら、それが記憶を取り戻す糸口なのか? うーーん?
「なぁーに、がらにもなく考え込んでんだよ。」
「・・・・・・。」
「さては、エッチなことでも考えてたんじゃないの?」
「・・・。さあ、とっと部屋に入った入った!」
「ウソだよ、ジョーダンだよ! だからそんなに怒んなって。」
「怒ってないって!」
―――――――――――――――第3章:一年後・・・―――――――――――――――
そして、一年後・・・・・・
今年もまた夏がやってきた。
去年の夏の終わりに、おじたちが海外旅行から帰ってきたのをきっかけに引っ越しをしたので、ここでは始めての夏だ。
引っ越しの理由はもちろん志穂と一緒に暮らしたいからだ。
”トントントントン”と志穂が台所で包丁で野菜を切る音がする。いまだに彼女の記憶は戻っていない。
”プルプルプルー、プルプルプルー”
「今、手が放せないんだ。お願い電話にでて。」
「あぁ、わかった。」
最近では、所帯じみてきたというか何というか、電話などはまず最初に志穂が取るようになった。
「もしもし、あっ部長。何ですか?」
「今度の映画の主演女優のことなんだけど、志穂ちゃんに頼んでくれた?」
「あっ!」
「やっぱり聞いてなかったのね。電話して正解だったわぁ。早速、今聞いてちょうだい。」
「わかりました。後でこっちからかけ直します。それじゃぁ。」
”ピッ”
「遙さん、何だって?」
「今度の映画の主演女優のことについて、ちょっとね。そのことでさぁ、志穂に頼みが有るんだけど・・・。」
「なぁーに?」
「記憶がなくなる前に、僕達が作った映画の主演女優やってたって話を、前に話しただろ?」
「うん。その映画も去年見たよ。」
「そこでさあ、今度のやつも主演女優やってくんない?」
「そんなにボクの天才的才能が必要なの?」
「・・・・・・はい。」
「しょうがないなぁー。キミの顔をつぶさないためにも引き受けてやるか!」
この後、志穂の出演料として大量の服を買わされたことは誰も知らない。
――――――――――――――――第4章:台本――――――――――――――――
翌日、今回の映画の台本が手渡された。今年も二村と一緒に渡された台本を速攻で読んだ。
題名は、<Double Cast>。
「二村、これって・・・。」
「キミと志穂ちゃんのノンフィクションラブストーリーだね。」
「・・・・・・。」
「これは僕の予想だけど、志穂ちゃんの記憶を戻すために、部長がわざわざ夜なべをして台本かいたんじゃないかなぁ?
結構よくできてるし、それに最後のシーンなんか、かなりいいよね。青春真っ盛りって感じで。」
「そっか、そうだよな。」
「そっ、だからそんなに恥ずかしがんなって。明後日からの撮影がんばろうな。」
二村と別れ家に帰る途中、買い物を終えて家に帰ろうとしている志穂を反対側の歩道で見かけた。
こっちから呼ぼうとしたけど、向こうも気がついたみたいだ。
「おーい! こっちこっち!」
「わかった今行くよ。」
「はやく! はやく!!」
信号が青になり反対側の歩道に渡り志穂と合流した。もちろん荷物を持たされた・・・・・・、重い。
どうりで志穂がたくさん汗をかいているわけだ。家に着いた頃には、もう僕も汗だくだった。
――――――――――――――第5章:薄れ行く意識――――――――――――――
「シーン11、カット2! よぉーーい、スタート!! クランクインでーす。よろしくお願いします!」
二村の声と供に撮影が開始された。
志穂:「はぁ、はぁ、はぁ、もー!! 何で一人で黙って帰っちゃうんだよ。」
僕:「麗しのナイトにでも送ってもらったら?」
志穂:「あぁー。おまえ、やいてんのかぁ?」
僕:「そんなんじゃねーよ!」 空き缶を蹴る。”カラン、カラン”
「カーーーット!!!」
部長の声が響き渡った。どうやら一発オッケーをもらえたようだ。
「「あんなんでよかったんですか?」」
僕と志穂は、二人同時に部長に話しかけた。
「あらあら、二人で息が合うなんて、仲がよろしいこと。」
「「そんなんじゃないです!!」」
「うふふ。また息が合った!」
「「・・・・・・。」」
「さぁ、今日は後3シーンくらい取りたいから、さっさと次のやつ撮るよ!」
その後も撮影は順調に進み、例のごとく撮影終了後は飲み会となった。
しかし、どうやら夏風邪をひいてしまったらしく具合が悪い・・・。
先輩達にそのことを話してみたら、めずらしく帰ることを許してくれた。
志穂も帰るというので、みんなから冷やかしを受けつつ二人で帰った。
「体の具合大丈夫?」
「・・・・・・だめっぽっい。特にぃ鼻とぉ頭にぃきてるねぇ。」
「はい、ティッシュと言いたいところだけど・・・、ごめん、持ってないんだ。」
「・・・コンビニにぃ、よってぇぇティッシュをぉぉ買ってえぇぇぇ・・・・・
”バタン!!”
「ねえ! 大丈夫!? おーい!!」
”ピィーポーパーポーピィーポーパーポー”
ああ・・・、志穂の声が・・・・・・、救急車の音が・・・・・・。
――――――――――――――――第6章:志穂――――――――――――――――
「あっ!!! 気がついた!?」
・・・・・・、いったいここはどこなのだろう? なぜ、志穂はそんなに心配そうな顔をしているのだろうか?
「えっ、ひょとしたら倒れたこと覚えてないの?」
倒れた? あっ! そういえば!! あのときかぁ・・・。ということは、
「ひょっとしてここ、病院?」
「そう。まったく一時はどーなるかと思ったよ・・・。
もう・・・、キミがいないとボクは・・・、ボクは・・・・・・・・・。 ひっく、ひっく。」
「・・・・・・志穂。」
「ボクは・・・、ひっく、ボクはにはキミしか頼れる人がいないんだから。
キミにもしものことがあったらどーするんだよ!」
「ゴメン・・・、心配かけちゃって。もう大丈夫だから、そんなに泣くなって。」
「泣いてなんか・・・泣いてなんかいないよ・・・・・・、グスッ。」
志穂は僕の胸のなかで泣き疲れたのかそのまま寝てしまった。
退院してから看護婦さんから聞いた話によると僕は丸一日眠ってたそうだ。
しかもその間中、志穂は撮影の疲れがあったにもかかわらず、ずっと僕のことを看病してくれてたらしい。
だから僕が目を覚ましたことで、今までのいろんな事が、一気に涙となってあふれ出てきたのだろう。
やはり、自分の記憶が一年たっても戻らないことに不安をいだいていたに違いない。
このことをきっかけに僕は、志穂のことをいままで以上にもっと深く考えるようになった。
それが僕のためにもなるのだから・・・。
――――――――――――――第7章:とかれた呪縛――――――――――――――
退院して三日たってから僕は撮影に復帰した。いない間に僕のでない場面は全部撮り終えたらしい。
全部と言っても量自体はあまりなんだけどね。それよりもちょっと気になる話がある。
なんでも、志穂の口調が男言葉じゃなくなったらしい。ようは、女言葉になったってことなんだけど・・・? うーん?
「撮影始めるって部長が言ってるから早く行こっ!」
「う・・・うん。」
「どうしたの? 私の顔になんかついてる?」
「・・・、い、いいや。」
「ねえ、どうしたの? 早く行かないと部長に怒られちゃうよ?」
「ああ、ゴメン。さあ、行こうか。」
・・・・・・、やっぱりおかしい。志穂は記憶をなくす前から男言葉だったのに。
今だって自分のことを「ボク」じゃなくて「私」って言ったし・・・。
いろいろ考えつつ歩いて行こうとしたとき、ふと二村の方を見ると、なんと志穂が自ら二村の肩をたたいていた!
ということは、男にさわったら蹴りを入れてしまう癖がなくなったのか? ・・・!!
僕は急いで志穂の方に走り寄ってそのことを聞いてみた。
「ねえ、ひょとしたら男にさわったら蹴りを入れてしまう癖直った?」
「えっ! そうかなぁ?」
「きっとそうだよ。だってさっき二村の肩をたたいていただろう?」
「あっ、そういえば。それじゃあ、もう一回二村さんにさわってみよっか。」
僕はかたずを飲んで見守った。
志穂の手が二村の肩をさわったその瞬間、なんだか時間がゆっくり進んだような感じがした。
そう! なんと志穂は蹴りを二村に入れなかったのだ!!
「「やったーーーーーー!!!」」
二人の歓喜の声が辺り一面に広がった。
「おい! そこの二人喜ぶのもいいけど撮影始めるよ!!」
「「ハーイ、部長!」」
その日はもう一日中うれしさでいっぱいだった。志穂が女言葉になったことも忘れて・・・。
つづく
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