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「再会 後半部分変更バージョン」を読む
「ダブルキャスト」ショートストーリー
再会
作者・主人公
美月と大学の校舎から飛び降りた日から早半年。
あの日から美月の性格は変わり、彼女の本来の性格「志穂」ではなくもう一つの人格、
姉の美月の性格が表に出るようになった。
森崎先生曰く美月、いや志穂はもう元の人格に戻ることは期待できないと言ってはいるが
だからといって僕に彼女を諦める勇気はわいてはこなかった。
ここ半年間精神病院に通うのが日課になってしまった。
特別に用が無い限り毎日足を運んでいる。
「出ていけ」とか「顔を見せるな」とか毎回罵声を浴びせられる、
ものを投げつけれれるのもしばしば、今はいくらか慣れてきたが。
森崎先生には本当に感謝している、本来、俺に対しあれほどに敵意を発している相手と面会などさせはしない。
部員のみんなももう志穂の見舞いに来ようとはしない。
僕も映研をやめてしまい、二村ともたまに食堂で会う程度になった。
みんなが僕から離れていくのも分かるような気もする、
志穂のことを考え思い続けてこの半年、端から見れば僕も病人みたいなものだったかもしれない。
今日も部長が志穂の元への差し入れを用意し僕に手渡してくれた。
「部員みんなの気持ち」とは言っていたが部長の独断で用意した物だというのは明らかだった。
バスを降りて歩いて数分の所に南西総合病院はある。
普段はバイクで通うのだが三日前からバスで通っている。
二月、突然降り出した大雪でとてもバイクで来る気になれない。
サクサク、雪を踏みしめる音を聞きながら僕はバス停から病院に向かって歩いていた。
足が重い、思うように前に進まない、それはこの大雪のせいだけではないだろう。
僕は疲れていた、今日志穂に会ってもいつもと変わらないだろう、
俺だけに向けられていた彼女の優しい眼差しは今日も見られないかもしれない。
いつまで続くか分からないこの面会の日々、終わりがないように感じられる今このときに僕は疲れを感じていた。
もうやめようとどれくらい思ったか、今志穂のことを諦めても誰も責めはしない、
彼女のことを諦め他の娘とつき合った方がどれほど楽なものだろうか。
楠木さんにこの前告白された。
同情かと聞くと彼女は泣きながら否定した。
前から僕に好意を寄せてくれていたらしい、僕は彼女に謝った、彼女の好意に対し失礼な態度をとったことを。
しかし僕は彼女の好意を受けなかった、受ける気にならなかった。
降り続ける雪のため視界が全くと言っていいほど見ることができない。
今の僕の心境と似た光景、しかし僕は諦めきれなかった。
目の前が見えない今この場所も道をたどっていけば必ず病院につく。
僕も志穂に会いに行き続ければいつか目的地に到着するのではないだろうか、そう思わずにいられなかった。
病院に到着、いつものように志穂のいる病室へと向かった。
森崎先生も一緒だ。
「志穂・・・・。」
病室、鉄格子がつけられている窓際に志穂、いや人格は美月、は立っていた。
いつもと感じが違う、いつもなら僕の顔を見た瞬間怒鳴りつけてくるのに。
「また来たの・・・・・・・・・・・あなたも懲りない人ね。」
何か優しさを感じる彼女の一言、その表情からは美月を感じられなかった。
美月はベットの横に座り、僕も彼女の近くの椅子に腰をかける。
二人とも何も話さない、僕たちは互いの目を見つめ合いただただ沈黙するだけだった。
美月は僕を観察するかのように僕の目を見続けている、
僕も同じ気持ちで彼女の目を彼女の心を観察するかのように美月を見つめた。
「先生、この人と少し屋上に行ってもいいかしら?」
美月は先生に話しかけた、僕も彼女の言うことに同意し先生に頼んだ。
美月がなぜ屋上に行こうとしているか分からないが、初めて彼女が僕といることを望んだのだ、
僕は美月の言うことについていこうと思った。
僕たちを屋上に連れていき、ドア越しとはいえ身を引いた先生の行動は勇気のあるものだと思った。
もし美月が僕に何か大けがをさせたりでもしたらその責任は先生にかかってしまうのだ。
「少し寒いわね・・・・・・・でもいつも部屋に閉じこもって・・・・・・たいくつしてたの。」
美月はそう言いながら雪が降り続ける屋上を歩いていた。
「私ね、昨日あなたのことを考えていたの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あなた変な人ね、毎日毎日私、いや志穂のとこに見舞いに来て。」
美月は顔を僕に近づける。
「あなたは私のことは見ていないわ、あなたの頭にはいつも志穂ばかり・・・・・・・・・
私、美月はあなたにとって邪魔者でしょ、あなたは私がいなくなることを望んでいるわ・・・・・・・・・・・・・・・・・
でもね、それって美月としての人格の消滅を意味する・・・・・・・・・私が死ぬことなのよ。」
彼女の言葉を聞いて僕は初めてそのことに気づいた、
確かに僕がしてきたことは美月にとっては殺そうとしていることと同じだ。
「私は消えるつもりはないわ、誰が消えるものですか、誰も私のことは見てくれない、
あなたも私のことは見てくれなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・誰もが志穂のことばかり・・・・・・・・・・。」
美月は泣きながら僕の胸に顔を埋めた。
「おかしいでしょ・・・・・私・・・私・・・・・志穂のため志穂のためのつもりだったのに・・・・・・・・・・・・・
いつの間にかあの娘に嫉妬していた・・・・・・・・・なぜあの娘ばかりなの・・・・・・・
なぜだれも私のことを見てくれないのよ・・・・・・・・・・私、いつの間にかあなたのことを病室で待ち続けていた、
何度も私にひどい事されているのにあなたは私の元に来た・・・・・・・・・
志穂のためだと分かっていたけど・・・・・・・私。」
泣き続ける彼女を僕は抱き寄せた。
「志穂に戻らなくていい。」
美月は驚いたような顔で僕の顔を見上げた。
僕自身信じられない事を口にしたと思う。
「君が志穂に戻りたくないのなら戻らなくていい、僕これからも君の元に来るから毎日来るから・・・・・・・・・・・・。」
僕は志穂に戻らなくてもかまわないと思い始めていた。
別に元の人格に戻らなくても美月は志穂で志穂は美月だと思ったからだ。
もし戻らないのなら美月を愛し続けよう、志穂も許してくれる。
そう思ったとき、美月は涙を流しながら静かにほほえんだ。
「ありがとう・・・・・・・・・・・・・でもやっぱりあなたの目には志穂しか映っていないわ・・・・・・・・・・・・・
私、もうあなたにも志穂にも迷惑かけられない・・・・・・・・・・・・・・・・
ありがとう一瞬でも私のことを思ってくて・・・・・・・・・・・
今までごめんなさい・・・・・・。」
美月は僕にキスをすると再び黙り込んだ。
その後僕は美月いや志穂のことを抱き、声を殺しながら泣いた。
志穂が戻ってきたのだ。
初めは美月なのか志穂なのか区別できなかった。しかし感じが、言葉に表せないが志穂と実感できる感じがあった。
「ごめんね、ごめんね・・・・・・・・・」
彼女は僕に抱きつきながら何度も謝まった。
雪が降り続ける屋上で僕たちはふるえながら抱き合った。
あれから一週間、志穂はまだ病院にいる。
実を言うと今日が退院日だ。
あの時の一部始終を聞いていた森崎先生の判断で決定した。
あの時美月は志穂の深層意識の奥で眠りについた、保証はどこにもないが実感はできる。
一瞬志穂とは見分けができないほどあの時の美月の性格は穏和になっていた、
もし彼女が悪い男に騙されなかったら志穂同様魅力的な女性として幸せにくらしていたかもしれない。
美月も志穂の人格の一つだ、死んだ美月が志穂にとりついたとは思えない、
自分の姉の死を見たとはいえ志穂がなぜ美月の人格を受け継いだのかはいまだに謎だ。
志穂が無意識のうちの姉の無念を気持ちを誰かに打ち明けようとしたのだろうか。
生前美月が志穂にしてきたことは志穂のことを思っていた事と裏腹に志穂のことを美月は嫉妬していた。
同じ姉妹であるにも関わらず自分と違い男に言い寄られる志穂のことを。
時たま志穂の中にいた美月は本物の美月だったのではないかと思うときがある、美月は無念が晴れたのではないだろうか。
そのように思える。
病院に到着、雪はまだ大分残っているものの空は晴れはじめ雲の隙間からは太陽が顔を覗かせていた。
「おおーい、こっちこっち。」
病院の玄関で志穂が荷物を置いて僕に手を振っている。
「志穂、なんでもう玄関に・・・・・・・・・・病室で待ってればいいのに」
もう退院届けも済ませているらしい。
「だって、待ちきれなかったんだもん。」
志穂は彼女の荷物を持った僕の腕に自分の腕を絡ませた。
半年間通い続けた病院も今日でお別れ。僕たち二人は歩き始めた。
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