宇野主日記、その他
宇野主水日記
尼崎資料館所蔵「石山本願寺日記、下巻」上松寅三、清文堂より
493頁
一 鷺森日記 旧題天正日記 天正十 正月己來
（表紙見返）
取次衆事
上様□ 宮内卿法印…以下略
私之取次…以下略
惟五左 市川宗左衛門…以下略
池田紀伊守 森島入道…以下略
494頁
天正十載
正月五日 平井越後去歳暮御禮に安土へ罷越。今
日罷歸了。…以下略
497頁
…ココまで略
五□□五日 徳川、穴山安土へ為御禮被罷上訖。
十八日於安土惣見寺、幸若大夫久世舞まひ申候。
其次ニ、丹波猿樂梅若大夫御能仕候。
幸若ハ一段舞御感にて金十枚當座ニ被下之。梅
若大夫御能わろく候て、御機嫌ハあしく御座候
つれども、これにも金十枚被下之。
徳川殿一段御崇敬、無比類次第也。於安土御相
伴、飯ヲ被下。御雑餉五之膳ケツコウ近會無之
事共也。
廿一日 城介殿も甲州より御歸城。今日徳川召供
アリテ、京都へ御入洛云々。五日洛中見物に
て、堺□□見物徳川殿可有御越云々。堺ノ茶湯
者共ニ被仰付、徳川殿事いかようにも振舞馳走
498頁
可仕云々。友感法印ハ兼日ニ下津アリテ、徳川
殿まかなひ方ノ儀被申付云々。
廿九日 徳川堺見物トシテ入津。穴山同前。其晩
ハ、宮内法印にておほつきの振舞アリ。これよ
り八木駿河守を宮法へ被遣。御門跡様より三種
五荷、鯛三十枚、大鱧百、饅頭大折二合、北御方
様より盃臺一、おさへの物五、ならひ一被遣之。
即宮法一段祝着之由にて、彼振舞ノ座敷へ被出
了。
六月一日 朝、宗久にて茶湯朝會。晝、宗牛にて同
斷。晩ハ宮内法印にて茶湯。其後幸若ニ舞ヲま
はせ候様酒宴有之。徳川殿に、案内者トシテ城
介殿よりハ杉原殿。上様よりハお竹ヲそへられ
訖。彼両人も座敷へ被出云々。堺南北ノ寺庵ノ
寄宿。
二日朝徳川殿上洛。火急ニ上洛之儀候、上様安
土より廿九日ニ御京上之由アリテ、それにつき
不□と上洛由候也。これは信長御生害ヲ知
テ、計畧ヲ云テ上洛也。
一、三七郎殿阿州三好山城守養子トシテ御渡海ア
リ。廿九日住吉ニ御一宿アリ。軍勢堺ニ家陣ヲ
トルベキ由在之。南北以外迷惑仕候ヘバ、宮内
法印ヨリ被申分テ、陣取無之。
二日朝食、泉州岸和田城蜂屋兵庫助振舞被申云
々。被御渡海ノ船百艘、紀州五擢中より、馳走申
也。
三七郎殿へ為御使平井越後ヲ被遣也。但罷歸也。
御太刀、馬代鳥目五千疋、御道服一、御帷五、岸和
田迄平越罷上分也。但時宜難計云々。三七郎殿
ノ取次岡本太郎右衛門ト云。
三日今朝阿州へ御出船アルベシト云々。然處、
二日之朝信長生害ニ付而、岸和田城より摂州表
へ陣替之條、平越御音信を不相屈。四日早朝平
越歸寺。
三日五時分、京都之儀、堺より申來。追々方々よ
499頁
り注進有之。其趣者、二日早天より、信長ノ宿
所本能寺へ、惟任日向守取懸、信長ヲ討果了。
城介殿ハ、二條ノ下御所へトリコモラレ候ヲ
惟日人数押寄相戦、城介殿ヲモ討果云々。
村井春長軒ハ城介殿御陣所へ懸入、二條ノ御所
へ御供申、同前ニトリコモリ無比類討死也。
信長馬廻衆歴々於二條御所討死也。菅屋玖右衛
門、福住平左衛門、野々村三十郎、下石彦右衛
門此外数人。
信長公ノ御ソバニテ果候衆ハ、森お蘭、針阿彌
此両人其外少々。
當分信長公ノ御ソバニハ、しかじか人無之故、
討死ノ沙汰も無之。於安土ヲイ腹キリタル人一
人アリ。又京都ニテ井ノコ兵介其日腹キル。
如此アリテ、惟任日向守達存分訖。其節、三七
郎殿、惟住五郎左大坂ニ在城アリテ、七兵衛殿
ヲ於大坂生害サセ了。
其後播州より羽柴摂州有岡城入城アリテ、ソレ
ヨリ三七郎殿一味ニ、山崎表へ打上り、日向方
ノ衆、十三日ニ山崎ニテ及一戦。日向守キリマ
ケ、敗軍シテ一万計討死。日向守ハ山科ニテ一
揆ノ手へ討捕之。
〔私云〕紙かはる
御両所御中なをりの事、任 叡慮之旨、六月廿七
日御和平也。女房奉書ナサルル也。
八月十六日 勅使庭勧御下向。廿二日ニ御能アリ。
北御方より被仰付也。
…以下略
校訂者（長田富作）の「…校訂を卒へて」より
宇野主水日記は、古来鷺森日記、貝塚御座所日記、同雑記の名を以て
伝えられたる者を一括して斯く命名したので、顕如上人の起居注であり、
当時の風聞書であって天正史料としては結構至極な者である。
本書は龍谷大学所蔵の美写本を底本としたが、猶両三不審の点はある。
・雑餉：ざっしょう、もてなしの酒や食べ物のこと。
・友感法印ハ兼日：友閑法印か、この日より前に堺に下って用意していたのであろうか。
・馳走：五擢中より馳走とある所から、本来の意味の、走り回って用意したであろうか。
・五搦：紀伊国北西部（現在の和歌山市及び海南市の一部）「雑賀荘」「十ヶ郷」
「中郷（中川郷）」「南郷（三上郷）」「宮郷（社家郷）」の五地域。
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