五位ケ森  2001年3月10日

国道55号線を西から安芸市内に入ると、阪神タイガースのキャンプ地で有名な市営野球場を過ぎて間もなく、「畑山(はたやま)」への標識に従いハンドルを左に切る。安芸川を遡り北に向かうと、ラクダのコブのような五位ケ森が正面遠くに見える。車道はいくつもの分岐に出会うが、「畑山温泉」への案内板にしたがい、安芸川の支流「畑山川」沿いに北へと車を走らせる。
今回の同行者「杉村さん」とは、およそ半年ぶりの山行きである。私も彼も雑談や余談(よく言えば雑学?)や余計な行動(よく言えば趣味?)が殊のほか好きで、土佐弁?で言うなれば「ヨーダイ仲間」である(「ヨーダイ」はもともとは容態からきたもので、気弱な言動や余計な言動などを指して言うのが普通だが、この場合は「本質から逸れた言動」を指している)。だから世間話から民俗学にいたるまで、道中で退屈することはない。おかげで道路工事による通行制限の待ち合わせも何ら苦にならない。あれやこれやの話題がますます盛り上がる頃、登山口である昭和橋に到着した。
昭和橋は、畑山温泉「憩いの家」を過ぎて間もなくの右手にあり、車道左脇には「五位ケ森登山口」の看板がある。
付近に駐車場は無いので、通行車両を妨げないよう配慮して駐車するか、畑山温泉などに声をかけて駐車させてもらうと良い。(畑山温泉には前日にでも連絡を入れておくと良いでしょう)


登山口の昭和橋は画面右下にある。ここから五位ケ森の手前のコブが見えてる。赤い矢印は登山道の目印ともなる農作業小屋。

この日は暖かい朝だった。一昨日、寒の戻りで雪が降ったとは思えないほどの陽気で、それならと用心のため持参しておいたアイゼンを置いて行くことにしたのだが、、、。

ユズの幼木が植わる畑の脇から、昭和橋を渡ると、足下には畑山川の清らかな流れが岸辺で満開のウメの花を映して流れている。
橋を渡ると左手に曲がり、舗装された道の左脇にそびえるイチョウ(乳イチョウ)のすぐ上手で右への小道に入る。(曲がるとすぐの左手には階段の上に祠が見える)
そのまま道なりに上方にあるユズの段々畑をめざす。安芸市は県下屈指の良質なユズ玉の生産地だけあって、よく手入れされたユズの木を見ながら登って行くと、右手に作業小屋があり、そのすぐ左上には小さな水場がある。植林された段畑に湧き出る水を石垣で導いてくれており、地元の人の心遣いで傍らにはコップも用意されている。
ここから、暗い植林の中を辛抱の登り坂が始まる。


耕作放棄された棚田にびっしりと植えられた植林、かつて丁寧に積まれた石垣の間を登って行く。

登山口(昭和橋)から10分ほどで、右手に石段、その上には鳥居が見える。鳥居を右手にやり過ごし、真っ直ぐに登って行く。
なお、鳥居の奥には最近建て替えられた祠があり、右奥にはちょっと変わった丸い石の載った碑がある。

鳥居からはおよそ4分ほどで、植林の中で最初の分岐にさしかかる。ここは左へと、赤いテープを目印に進む。

植林の中はまるで展望がなく、足元だけ見つめての登り坂は延々と続き、早くも着込んだ服に汗がにじみ始める。
堪らなくなり小休止して上着を取ってから、再び歩き始める。

昭和橋から歩き始めて30分、植林の切れ間から申し訳程度の見晴らしにホッと一息つく。
日陰の登山道には残雪がちらほらあらわれだした。


植林の切れ間から唯一の展望(南方面)。

この辺りから時々雑木林と出会うものの、ほとんどはヒノキの植林で相変わらずの坂道が続く。
しかし、これがスギの植林でないことは、最近「花粉症」を発症していた同行の杉村さんには幸いである。もっとも、彼曰く「ショック療法」とは相成らなかったわけだが。

登山口から35分、右手に水田跡の石垣と出会い尾根を伝う。
相変わらずふくらはぎの伸びる植林の坂道が続くので、あれだけ「ヨーダイ」好きの私たちですら次第に口数が減ってくる。五位ケ森の標高は1200mにも満たないのだが、登山口からの標高差は900m近くもある。山を語る時、標高だけではないことを思い知らされる。



ごくたまに明るい雑木林に出会う。足元には残雪が目立ち始める。

標高600mを越えると登山道に残雪が目立ち始め、アイゼンを置いてきたことを悔やむ登り坂が続く。

登山口から約1時間20分、2度の休憩を経て、ようやく「東五位木馬道通り」の広い横道に出る。
足元に朽ちた木の看板があり、雪を払うと「休憩所、東五位木馬道通り、山頂まで1940m」とかろうじて読みとれる。ここで看板の案内通りに休憩をとり、はずんだ息を整える。


かつて木馬(きんま)にて木材を搬出していたであろう「東五位木馬道通り」で、立ったまま小休止する。

さて、充分に休憩を取ると、木馬道を後に、再び植林の中を登って行く。
登山道は尾根の左へと巻いて、やや緩やかに延びている。標高と共に残雪も多くなり、登山道にはイノシシやタヌキの足跡が、まるで私たちを導くかのように続いている。


雪にくっきりとタヌキの足跡。

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