五在所山 2000年8月12日
巷ではお盆の帰省ラッシュがピークになる頃、高知の城下では「よさこい鳴子踊り」がクライマックスを迎える同時期、世俗を離れて山に向かおうとする人たちも多く、私たちも、実は山小屋泊で笹ケ峰(本川村)をベースに縦走の計画を立てていた。
しかし、数日前に発生した台風の迷走で山小屋の夜は断念せざるを得なくなり、あきらめきれない私たちは、近郊の手頃な日帰り登山に変更したのである。
こうして、これから紹介する五在所山に私たちの白羽の矢があたった。
登頂時間も1時間程度と短時間で、標高も千メートルに満たない山を、決して軽んじていた訳ではないが、少なからず、本命が外れたからという思いで向かった事は大いに失礼なことだったと今更ながら思う。歩いてきた今、その思いはなおさらである。
よく整備された登山道やいくつもの大木、山頂からのパノラマや、何よりこの山を愛し守り続ける里人たち。この山もまた、愛すべき高知県の貴重な山のひとつなのだと私は思う。
五在所山に向かうきっかけとなった、山と渓谷社の「高知県の山」と、あ〜ぴょんさんのHPに、心から敬意を表したい。
五在所山登山口への入り口にある越知町鎌井田地区(右手)には、仁淀川に架かる沈下橋がある。
友人"浜田さん"宅で久しぶりの同行である"杉村さん"と合流し、その後、登山口への入り口である越知町片岡を目指す。
この日は紙の町「伊野町(いのちょう)」で仁淀川橋のたもとから国道194号線に乗り入れ、出来地から左折して、県道18号線(伊野仁淀線)に入り仁淀川の本流を蛇行しながら遡上した。
かつて明治村だった一帯をしばらく行くと、2番目の沈下橋の見える辺りが鎌井田(かまいだ)地区で、ここから仁淀川の支流である宮谷川を遡る狭い道へとハンドルを切る。
町道鎌井田桑藪線の入り口。五在所山登山口まで9KMの案内がある。
町道鎌井田桑藪線を行くと、ところどころに指標もあり、不安無く登山口の桑藪(くわやぶ)集落に辿り着くことが出来る。
急傾斜の山肌に民家がまとまってある桑藪の集落に着くとすぐにちょっとした広場があり、そこには五在所山の案内図もあり「五在所山まで1時間30分」の記入もある。通常はここに駐車し、広場の傍らを登ってゆくのだが、この日は地元の人の薦めで、更に少しだけ車道を進み、2番目の左カーブの少し上方に駐車した。
ここからだと、車道を行き詰めてから登山道に合流し、帰路はすぐ傍に下りてくることになる。しかし、車道は狭く、普通車以上なら先の広場に駐車することをおすすめします。
なお、車道の行き止まりは広場になっているが、車の回転場ともなっており、駐車禁止の立て札がある。山でのゴミはちゃんと持ち帰る登山者も、駐車は辺り構わず遠慮無しという人を見かけますが、くれぐれも慎みたいものです。(この辺り、どこに駐車してもせいぜい山頂まで標高差400mほどの道のりですから。)
車道終点から歩き始める。この後、民家の脇ですぐに折り返し、直登が続く。
さて、この三人での山行きは「どこの山以来だったっけ?」と、大事な思い出を振り返りながら歩き始める。2分ほどで車道終点に着き、目の前の歩道を右に登ると、最初の民家の前ですぐに左に折り返す。すぐに、案内図のある広場から登ってきた道と合流し、山肌を登ればほどなく、昭和34年10月建立の立派な石の鳥居に出会う。両脇には昭和18年に奉献された狛犬がある。
立派な石の鳥居と狛犬に出会う。狛犬の右側は口を閉じ、左側は開いている、これはご存知「あうん」の象徴である。
*「あうん(阿吽)」とは口を開き声を発する「あ」から口を閉じる「うん」までを表し、従って全ての物事の始めと終わりを表し、「阿吽」をもって物事の完結とする仏教の教えからなる。そこで、寺社の二王や狛犬は一方が口を開き、他方は口を閉じた形なのです。
鳥居をくぐると正面にはかつての参道である石段が急勾配で上に向かっているが、ここはよく整備された道を進む。
雑木林が心地よい中を行けば、登山道の左手やや下方に祠が見えてくる。登山道から少しそれて祠へと行けば、祠の脇には金昆羅大権現(こんぴらだいごんげん)の木札も見える。先の石段はこの祠へと真っ直ぐ登ってくるのだが、今では荒れ果て使われた形跡もない。ここまで、車道終点からほんの10分ほど
登山道(参道)脇に聳えるカヤの大木を見上げる。
登山道に引き返し延々登ってゆくのだが、辺りの植林はそれほど気にならなくて、それよりマツやカヤ、カエデやカシの大木が一歩一歩を楽しませてくれる。
車道終点から約25分程度で道は緩やかな登りになる。
この辺りも、おそらくは所有地の境界として、あるいは参道の守護木として残されたであろう幾多の巨木が、私たちの目を楽しませてくれる。その木々の枝振りなどに感嘆しながらあっという間に分岐に着く。標高は約840m。ここまで車道終点から約35分。
ここで最初の休憩にザックを降ろす。持参したお茶を一口、そして、浜田さんの奥さんが持たせてくれたミカンを頬張る。高知のハウスミカンはこの時期にしてその甘さたるや絶品である。