行者山  2001年4月7日

心地よい疲れとはこういう事を言うのだろうか、久しぶりに宝物を見つけたような気分にさせてくれた、そんな山歩きだった。

驚くほど巨大な岩塊上から望む那賀川沿いの展望、稜線の中ほどから続く見渡す限りの自然林、樹間から望む三嶺山系の山々、頂上で対峙する石立山の眺望や、あるいは数々の伝説や歴史に彩られた四ツ足堂(よつあしどう)。
しかし、そこに至るには、目もくらむヤセ尾根の登りや日和田から四ツ足峠に至るまでの複雑な登山道や崩壊地などを克服しなければならず、それだけに山頂に立った時の到達感はひとしおでもあった。

*今回ご紹介するコースについて、特に、日和田から四ツ足峠までは、紹介する道を忠実に辿っていただければ迷うことはないと思われるが、それでも崩壊個所など危険を伴う個所が幾つか有り、今後も大雨の後など崩壊により登山道が寸断される恐れも多々あると思われるので、若干歩行時間は長くなるが別府側から四つ足峠を目指すルートが無難かも知れません。念のため、あらかじめ申し添えておきます。
*行者山へのバリエーションルート(別ルート)として、徳島県側の千本谷にも登山コースがあります。しかし、私は千本谷コースを歩いたことがありませんので、ご存知の方は是非教えてください。なお私同様千本谷コースを歩いたことのない方も、千本谷コースの登山口については文末の備考に簡単な紹介を記してありますので、是非挑戦されてレポートをくだされば幸いです。
(千本谷コースについての記述2001年11月9日加筆)。

さて、2週間振りの杉村さんと、国道195号線(土佐中街道)で物部村と木頭村の境にある四ツ足峠トンネルをめざす。別府狭温泉を過ぎて間もなく渡る橋は「行者橋」と呼ばれ、これから向かう行者山は、この橋下を流れる谷の源流に位置する。
国道の脇を流れる物部川源流域を眺めながら、かつて2人が傾倒していたアメゴ釣りの話題で盛り上がると、四ツ足トンネルを抜け、あっという間に徳島県木頭村日和田にある石立山登山口に着いていた。
これから向かう行者山への一歩は石立山の登山口から始まる。なお、今回は上の登山口への道路が工事中のため、下の登山口から歩くことになる。下の登山口は国道脇にある「石立山登山口」と書かれた看板の対岸にあり、駐車はその看板の先にある僅か乗用車2台程度のスペースを利用する(登山口の詳細については石立山のページもご覧ください)


徳島県日和田、国道195号線沿いの下の登山口(画面手前の擁壁側)。石立山登山口の看板は左手の路肩側にある。ちなみに、四ツ足峠トンネルは画面奥に位置している。

ところで、実は私はこの日の「目的地候補」を行者山意外に、この界隈に2箇所用意してあった。
天気予報を疑うわけではないが2転3転した予報の後だけに、最終目的地は当日の朝に決めようと、雨が降ったら「A山」または「B山」、そして晴れなら「行者山」だった。しかし、「行者山」はヤブこぎを覚悟していたので、つい最近ザックと靴を新調したばかりの杉村さんには気の毒だと思っていたが、意外や二つ返事でOKがでた。普段不摂生な2人、この際、行者山でたっぷりと修行をしようということになったのである。
なお、四ツ足峠までのルートについては、高知県別府側からのそれが一般的であるが、すでに各種文献で紹介されていたので、今回は日和田から四ツ足堂を目指した次第である。

新調したザックとおろしたての登山靴が光っている杉村さんを前にして、登山口より第一歩を踏み出す。足馴らしにしては少し遠い山なのでゆっくりと歩き出す。

国道を離れ、スギの植林を抜け、手入れされたユズ畑の縁を通り舗装道に出ると、すぐ上が「上の登山口」である。ここまで約5分。
上の登山口からは道ばたのスミレを見下ろしながら数歩、石立山登山道を逸れて、左へと延びる道に踏み入れる。広い登山道は植林の中を緩やかに登っている。

間もなく右手に分岐が2ケ所あるが、これはこの上の祠に登っていく道である(こんもりとした林の中、鳥居の奥にある神社は日和田地区の氏神様である)。ここは分岐に惑わされず真っ直ぐに登って行き、朽ちた丸木橋を巻いて進んで行く。


登山道の上手にある氏神様。

上の登山口から10分足らず、またも出会う分岐では赤いテープ通りに右へと登って行く。
尾根を巻いて進んでゆくと、左側はすさまじい傾斜で谷に切れ込んでいる。


キシツツジやヤブツバキの花が咲く登山道。左手は鋭く切れ落ちている。

登山道はスギの植林の中を進み、両側にはやや背の高いスズタケがはびこっている。

上の登山口から15分足らず、登山道は早くも前途多難を予想させるようなツエ(崩え=崩壊箇所)に突き当たる。
寸断された登山道の行く手には、朽ちた木の橋だけが空中に浮かんでいる。
ここでは崩壊箇所のすぐ上手を巻いて前方に出ることも可能だが、この先にもザレ場が有り、あまりお薦めはできない。ここは崩壊箇所の少し手前で引き返し気味に登る道を選び、頭上にある登山道へとエスケープする。そこには立派な登山道がのびている。
なお、どちらのルートを辿っても、ツエからおよそ5分後、植林の中の枯れ谷で2本の道は合流する。
枯れ谷の合流点では足元をよく見ると黒いホースが延びている方向、つまり右手へと登って行く(小さな赤いテープも山手側に下げられているが、少し分かりづらいかも知れない)。
なお、ここで真っ直ぐに行っても、登山道は結局この先の沢で再び合流するのだが、ここも直進する道には崩壊個所があるので注意を要する。

上の登山口から約25分、登山道で水量豊かな沢と出会う。少し早い休憩だが、ここでひと息入れる。沢にはテングチョウも休憩に訪れていた。ちなみに水を補給する必要が有れば、この先にも水場はあるが、晴天の続いたときなどは大事をとってここで補給しておいた方が良いだろう。


登山道で出会う沢。貴重な水場でもある。


沢にはテングチョウ(テングチョウ科、一科一種)も羽根を休めに訪れていた。

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