石立山  1999年8月14日

石立山は四国一きつい山といわれ、標高差もさることながら延々と続く急登に加え、山頂からの眺めも絶景とは言い難く、登山者の多い近傍の剣山系と比べれば孤高の荘厳さを誇っている。険阻な岩山登山では過去に不幸な事故も起きており(残念なことに、この後2000年10月、滑落事故がおきてしまった)、安易な登山はすすめられないが、石立山植物群落保護林である石灰岩で覆われた山肌に生きる珍しい多くの植物や、また山頂の西にある捨身嶽(しゃしがだけ/舎心とも捨身滝とも)の絶壁からの眺めはまさしく雄大絶後である。
この山へのルートは一般には高知県側の別府(べふ)からと、徳島県日和田(ひわだ)からの2ルートが有名であり、今回私たちは2台のマイカーを使用して日和田から登り別府に降りることにした。

幾度かご紹介した山と無線仲間の伊藤君と浜田さん、そして私の3人は、夏の早朝に高知県物部村に入った。物部川の支流「槇山川」沿いの国道195号線は、夏でもひんやりと涼しい。しばらく走ると別府峡温泉が左手に見えてきて、高知県屈指の紅葉の名所「別府峡」に向かう「林道西熊別府線(峰越林道)」に乗り入れる。ほどなく、石立山登山の拠点である茶屋の駐車場に着いた。ここでマイカーを1台乗り捨て、3人が乗った車は林道を引き返し、徳島県境の「四ツ足トンネル」に向かう。トンネルを抜けるとすぐ左に折り返して少し行くと行き止まりになる。乗用車ならかろうじて3台程度駐車できるだろう広場の山手に登山道がある。
なお、トンネルから国道をそのまま東に200mほど行くと一般的な石立山登山口の道標があり、路肩に若干の駐車スペースがある。ここから歩いても上の広場までは5分程度である。

朝露の残った道をゆっくりと登り始めてから、登山道は民家脇を通り植林の中に吸い込まれてゆく。ここから尾根の近くまでは薄暗い植林の登りである。
歩き始めて15分ほどで小谷を横切る。ここが唯一の水場である。この後しばらく登山道はこの谷沿いに登ることになるが、ここより上手では谷に降りるのに少し苦労するので、水が不安ならここで充分な補給をしておきたい。
さて、ここから尾根まではジグザグの急登が延々と続くことになる。焦らずゆっくりと登ることをお奨めする。どうせ尾根に出るまで展望は開けないし、夏の陽差しを遮ってくれる植林はこれ幸いとマイペースで登ると良いだろう。

足元に去年のサワグルミの実をいくつか見つけながら、登山口から1時間あまり、ようやく明るくなった植生を登り切り、2度の小休止を経て尾根に出た。

尾根
 登山口から1時間あまりで石立山東尾根に出る。看板通り左(西)に進めば山頂。右手に小高い岩場の好展望所がある。

尾根には木の道標があり、近くの高台からの眺めは小休止に格好の場所である。ここからは、東には那賀川に沿い木頭村の山なみが逆光にかすみ、東にはこれから辿る尾根筋が確認できる。
また、南には行者山の向こうに赤城尾山が目立って、その左には安芸郡の山が続いている。

南の山々
 手前、行者山。向こうに赤城尾山。

ようやく開けた展望に元気を得て尾根を行くと、右手(北方)には樹間から次郎笈(じろうぎゅう)も見えてきた。

次郎笈と新九郎山
 新九郎山と次郎笈。

尾根に出て石灰岩をよじ登りはじめて、ようやく石立山らしい登山が満喫できる。
険しい山で夏の山行きは不向きに思われがちだが、ヒメヤブランなど山野草にはたくさん出会える。石灰岩の亀裂でけなげに咲く草花はたとえ見慣れた花でも美しい。足もとにも、樹間にも、たっぷりと山を満喫できるひとときである。

石灰岩の尾根
 尾根は石灰岩の岩場で、もろく滑りやすい。

 
 石灰岩の岩場で満開のマルバマンネングサと、ヤマホトトギス。