伊予富士 2002年8月22日
伊予富士、その名のごとく西条市の加茂川沿いや川来須(かわぐるす)から眺めればさながら富士に称えられる名山も、近づくほどに特徴は薄れ、桑瀬峠側から見ると縦走路に立ちはだかる険しい屏風のようにさえ見えてくる。
かつて伊予富士の頂はメインの縦走路から外れていて、おおかたは山頂の南にトラバースされていた。
それが最近は伊予富士の頂だけをめざして登る人の方が多く、東の桑瀬峠と西の東黒森側とからよく登られている。
桑瀬峠からのコースは自然林有り、ササ原有り、展望や急登有りと伊予富士登山のメインコースで各種ガイドブックにも頻繁に紹介されているのでここでは山頂直下の水場から東黒森別れに出て、敢えて言うならこの山が秀麗に見えるコースを辿ることにする。
登山口は旧寒風山トンネル南口の駐車場から村道瓶ケ森線を西に10kmほどの所にあり、小さな谷川に向かって右手に「伊予富士登山口」と記された立派な道標が立っているのでそれとすぐにわかる。村道の脇には駐車スペースも少なからずある。
山頂直下の登山口から歩き始める。左の谷川は稜線の縦走路の貴重な水場でもある。
登山口から木製の階段を登るとすぐに山頂の南を走るトラバース道に出て、ここは左に向かって谷を渡渉する。
山頂で美味しいコーヒーを楽しむために谷川の水を水筒に詰め、モミやブナ、ミズナラなどの点在するササ原を辿って東黒森別れに向かう。
後方頭上に伊予富士の頂が見えており、歩くたびに目標から遠ざかってゆくので不思議な気分になるが、急がば回れである。
ちなみにこの登山口からササの急斜面の中を直登するコースもあるが「ツメ」を誤るととんでもないことになる。そのためか最近ではほとんど使われていない。
ササのスロープをなだらかに横切る。正面奥には東黒森が見えている。
ほぼ同じ勾配で緩やかに坂道を登ってゆくと山に秋の訪れは早く、もうススキの穂がなびき、足元にはアキノキリンソウが咲いている。
そうかと思えばハナニガナの繊細な黄花がそよそよと揺れていたりもする。
ササ原を横切る登山道からは南に雄大な景色が広がり、南西遙かには鳥形山や不入山など、お馴染みの土佐の山々がいくつも見えている。
登山口から20分ほどで稜線の縦走路に出会うと、ここが東黒森別れのコルである。
ここでは愛媛県側の展望が開けて西には西黒森や瓶ケ森が聳え、北には西条市街が想像以上に近くに見えてくる。
ここから左に向かうと東黒森の山頂だが、そちらは帰途に立ち寄ることにして、ここは右へと縦走路を東に向かう。
めざす伊予富士を正面に南北に太平洋と瀬戸内海を望みながらササ原の縦走路を行くと、四国は「島国」なんだとつくづく思う。
稜線のところどころにノリウツギの白い花を眺めながら、足元にはシロバナニガナの咲く中を快適に歩いてゆく。
稜線の縦走路を東に向かう。右端に見えるピークがめざす伊予富士の山頂。
仁淀川河口から太平洋へと、南方向の雄大な景観を眺めながら、稜線の小さなコブをいくつか南にトラバースしては次第に高度を上げてゆき、東黒森別れから30分ほどで伊予富士の山頂に着く。
思ったよりも狭い頂には3等三角点の標石や山名板があり、山頂の東は鋭く切れ落ちて、そこには急な坂道が上がって来ているのが分かる。
桑瀬峠から登ってきたならこの急な坂を這い上がって来なければならないのである。
伊予富士山頂。中央奥に石鎚山、右には瓶ケ森や西黒森、左手前には東黒森や自念子ノ頭が見える。