加茂山  2001年4月22日

この歳になると、里山という言葉に強い郷愁を感じてしまう。
それは幼い頃に駆け巡った田んぼの畦道やその頃には澄みきっていた小谷、ゲンゴロウと遊んだ池や涼しい風の吹いていた峠など、誰もが持っている懐かしい景色に忘れていたものを思い出させられるからかも知れない。
そんな何処にでもあった日本の原風景が消えつつあると最近は全国で里山保全の感心が高まっている。
しかし、案外そんな里山がまだまだ高知県にはたくさん残されており、それは私が高知県に住んでいて良かったと思うことのひとつでもある。
伊野町の街裏にある加茂山もそんな里山のひとつである。

加茂山は平成7年頃から「加茂山に親しむ会」が中心になって整備が進められ、様々な植樹のほか展望台やベンチなどの施設が設置され、毎年4月第1日曜日は「加茂山の日」として麓の小学校をはじめとした集団登山が行われている。
この加茂山が一般に有名になったのは地元新聞にカラー記事で大きく紹介されてからで、それはこの山行きの2日後のことだった。

加茂山のハイキングコースは主要なコースが3ルートあり、どれもよく整備されているが、今回は槇(まき)地区にある槇橋のそばの登山口から第2展望所を経て加茂山山頂へ向かうことにする。
加茂山は仁淀川の支流、早稲川(さいながわ)と谷口川との分水嶺であり、槇橋は東の早稲川にある。
したがって、国道33号線をJR伊野駅付近で北に逸れ、トンネルを抜けてからは早稲川(さいながわ)に沿って少し北上すれば、JR伊野駅付近から約20分で槇橋にさしかかる。

私たちは、槇橋を渡り民家の方に声をかけて空き地に駐車させていただき登山口に向かった。
登山口は槇橋の手前西側の山手にある。入り口には「加茂山登山口」の看板があるのでひと目で分かる。


槇橋の手前にある「槇橋登山口」からスタート。「加茂山登山口」や「加茂山ハイキングコース」などと書かれた看板がある。

登山口からは小さな谷川に沿っての登りである。
鉄製の手すりも設置されていて住民の加茂山に対する思い入れが早くも伝わってくる。

登山口から5分足らずで道は小谷を離れ、雑木林の縁を上方に向かう。
道の脇ではハナイカダ
(*)の木が花時を迎え、小さな葉っぱのイカダにかわいい花がのっている。
(*)ハナイカダについては鶴松森の項も参考にしてください、秋の果実の写真があります。

 
「いつか来た道」というフレーズぴったりの里道を登って行く、道は鉄塔巡視路もかねておりよく整備されている。右はハナイカダの花。

新緑の里山をのんびり脇見しながら歩いてゆくと、今度は左手にコウゾの花も見つけた。
土佐和紙の里として市井に名高い伊野町でなくとも昔はよく見かけたコウゾやミツマタだが、最近では田舎でもあまり見かけなくなった。


登山口からほんの15分ほどだが、すでに静かな谷間(たにあい)の雰囲気になる。

少しずつ高度を稼ぎながら登って行くと竹林の手前で道は右に折り返し、そこにはベンチも用意されている。
目の前の竹やぶで声がするのを見やると地元の方がふたりでタケノコ堀りに精を出していた。見るとあちこちから茶色いタケノコがニョキニョキ顔を出している。
最近モウソウチクなど竹の浸食被害が問題になるが、ここの竹林は手入れされていてそんな心配はないようだ。
帰途に畑の傾畔でゼンマイなどの山菜採りも見かけたが、山菜が採れるということは草刈りなどの手入れがされていることの証でもあり、里山保全のよき見本ともいえるだろう。

さて、登山道を道なりに登ってゆくと今度は左に折り返し、桜の木のもとで再び右に折り返すと第2展望所への分岐にさしかかる。
分岐には第2展望所への看板や、四国電力の送電鉄塔44番への指標がある。ここまで登山口から約25分。
ここはそのまままっすぐに行っても山頂だが、そちらの道は帰途に辿ることにして、ここでは看板通りに分岐を左に折り返して「第2展望所」に向かう。


春の穏やかな陽射しの中を行く。

道の山手ではミツバアケビが紫色の花を咲かせ、雌しべの先端は春の太陽に輝いて訪花昆虫を待ち受けている。
第2展望所への道はやがて送電線の下をくぐり、再び出会う看板も案内に従い尾根に出ると、「加茂山第2展望所、さつき広場」に着く。
ここまで登山口からゆっくり歩いて約35分ほど。


加茂山第2展望所。広場にはベンチも用意されており、サツキやサクラなどが植樹されている。

展望所と名付けられているだけあって、この広場からの眺めは良い。
もちろん方角は限られるが、南眼下に伊野の街を俯瞰すると、美しい仁淀川の流れを中心とした展望が広がる。
きっと地元の人々はここに来ては「おらが街」を見下ろし、愛するふるさとを再認識していることだろう。


加茂山第2展望所から伊野の街を見下ろす。中央は仁淀川、右手に国道33号線仁淀川大橋が見えている。この橋の下で見られる「水中鯉のぼり(仁淀川紙のこいのぼり流し)」はユニークなイベントとして知られる。


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