工石山  2003年1月13日

*2003年3月2日加筆訂正

近頃の私達は温泉に凝っている。
今日はどこの湯に浸かろうかと考えて、真っ先に頭に浮かんだのが土佐山村の「オーベルジュ土佐山」だった。
そこで気持ちいい汗をかいてからと考えて向かった先が県民の森「工石山」だったのである。

工石山は高知市の北にあり、市内から手頃な距離にある1000m峰として昔から親しまれてきた山である。
昭和42年には国内最初の自然休養林の指定を受け、春のアケボノツツジやシャクナゲ、秋の紅葉など、四季を問わずに登られている。
一帯は工石山陣ケ森県立自然公園であり、山腹には「工石山青少年の家」があって様々なイベントやハイキングの拠点となっている。
高知県には工石山という山が大豊町と本山町の境にもあり、そちらは奥工石とか立川工石と呼び、こちらは前工石とか土佐山工石と呼んで区別している。

高知市から県道16号線(高知本山線)を北上し、赤良木トンネルの手前からふるさと林道工石線に乗り入れて西に緩やかに登り、左手に森林科学館を過ぎると右手に折り返す車道が現れる。ここが工石山登山口である。入り口には案内板があり、「登山道入口通路」と書かれた標が立てられている。
ふるさと林道の路肩にあるマイカー4〜5台分の駐車スペースに車を止めて、早速歩くことにする。


大規模林道脇の登山口から未舗装の車道を登って行く。

登山口からは少しの間、未舗装の車道を歩く。
右下に青少年の家や森林科学館を見下ろして、足慣らしをしながらのんびりと砂利道を登って行くと、トイレや野営場(キャンプサイト)の施設を過ぎて間もなく、車道はクサリ止めに出会い、左手に山道が見える。入り口には「登山道入口」と書かれた道標があり、傍にはたくさんの杖が用意されている。
ここから車道と別れて、よく整備された登山道を登って行く。


車道からいよいよ山道に入る。

ミツマタの蕾を眺めながら土止めに丸太で設えられた階段を上って行くと所々に積雪があらわれる。正月寒波の名残が登山道のあちらこちらに残っている。
薄暗いスギの植林を抜けると、めざす工石山と東隣りの三辻山とのちょうど中間にある赤良木越えの峠に、かつてのドロマイト採石場跡が見えている。
その奥には三辻山の山頂そばに建てられたパラボラアンテナも見える。

登山道沿いの木々にはたくさんの樹名板が下げられており、春から秋ならネイチャーゲームを辿りながら登るのも楽しいことだろう。
また木々にはいくつかの巣箱も掛けられている。私たちがそうであるように、鳥たちにとってもこの山は憩いの場所なのである。


雪の残る登山道を登って行く。右奥には赤良木峠にあるドロマイト採掘場跡が見えている。

登山道はよく整備されており危険な箇所や迷いそうな所はまるで無いが、登るにつれて雪が多くなり、踏み固められてテカテカと光る積雪の上を滑らないように注意しながら登って行くと、登山口から20分ほどで南回りと北回りとの分岐になる。
分岐の近くには杖塚と呼ばれる広場があり、ベンチが用意されている。傍らには水場
(*1)もあるので夏なら冷たい清水で喉を潤し小休止するのも良い。
北回りで山頂に向かう場合はここが最後の水場になり、南回りの場合も「サイの河原」まで水場は無く、乾期のサイの河原は心許ないので水筒の補給はここで済ませておく方がよい。
なお、広場の中央には自然休養林指定第1号を記念した「工石山県民の森」の記念碑が立っており、他にも高知営林局100周年記念のタイムカプセルや、数々の植樹記念の標柱などがある。
ここまでは特にハイキングの用意をしていない人も案外手軽に登って来ており、シーズンには家族連れやアベックで驚くほど賑やかなことがある。

(*1)「杖塚」の水場と、「サイの河原」の水は、ともに工石山の水として土佐の水40選にあげられている。


雪に覆われた杖塚。記念碑やベンチなどがある。

さて、杖塚の清水で水筒を満たすと、私達は南回りのコースで山頂を目指すことにして、一旦分岐に引き返し、そのままなだらかに西に向かった。
杖塚で一緒になった年輩のパーティーは北回りで山頂に向かったようである。
なお、杖塚から山頂までは北回りが1.9Km、南回りが2.8kmで、南回りが1kmほど距離は長いが見所が適所にあり退屈はしないであろう。

杖塚からは三辻山のアンテナを左後方に、下方には青少年の家を見下ろしながら山腹をトラバースして行くと、対岸には樫山峠のカヤ原が見えている。


南回りの登山道をトラバースする。対岸には樫山峠のカヤトが見えている。

南回りの登山道は「サイの河原」まで、ほぼ横へ横へと尾根と谷を繰り返しながら進んで行く。
春ならトサノミツバツツジやオンツツジ、アケボノツツジなどが咲く登山道は、所々に展望の良い箇所があり、南は太平洋まで望むことができる。
やがてマツの枝のアーチをくぐりながら坂道を登ると左手に岩場があり、ここからも南の展望を望むことができる。
間伐後まもないスギの植林を抜け、照葉樹の目立つ林を過ぎると「ヒノキびょうぶ岩(桧屏風岩)」に着く。
岩場(珪岩)に張りついたまま白骨化したヒノキが厳粛な雰囲気を醸し出す「ヒノキびょうぶ岩」で、足元に注意しながら岩場に立つと南に雄大な太平洋を眺めながらひと息つくことができる。そばにはトイレもある。
また、ここから西の山腹には特徴ある岩場がそそり立って見えるが、これは「妙体岩(妙体石ともいう)」で、かつて土佐藩主山内一豊が土佐に入国する際に舟入の目標として無事に入国を果たしたという伝説の岩である(*2)
岩のもとには権現様(妙体聖権現)が祀られており、参道の石段は山内公が献上したものと伝えられている。
権現様(妙体聖権現)のご神体は妙体岩自体であり、雨乞いなど信仰の対象となっている。

(*2)一説には、山内公が参勤交代の折、浦戸沖で難破した時に妙体岩が光り輝き船の位置を知らせてくれたので祠を建立したとも言われる。

 
ヒノキびょうぶ岩の白骨林と、山肌に見える妙体岩。

さて、ヒノキびょうぶ岩を後にすると、がぜん風景の良い林になる。
ブナや大きなモミ、ツガ、所々にヒノキの風衝木を見ながら、木橋を渡り石段を登って、屏風岩から5分あまりで前方に四阿(あずまや)風の休憩所が見えてきて「サイの河原(賽ノ河原)」に出る。登山道の脇には水源の森休憩所や立派なトイレもある。

サイの河原はサンショウウオ(ブチサンショウウオ
(*3))も住むという清冽な流れで、高知市の水瓶「鏡川」の源流でもある。
この日のサイの河原は一面が氷結し、わずかに細い筋が氷の下を流れるのみで寂しい雰囲気に包まれていたが、新緑の頃には心洗われる風景に出会える。

(*3)ブチサンショウウオ=全長8〜13cm、普段は倒木や落葉の下などにいて、夜間に活動しているため見かけることは稀だが、繁殖期の2月下旬から5月頃には可能性があります。ただし、見つけてもそっとしておいてください。


四阿(あずまや)の立つサイの河原。

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