三ツ森山 2001年9月29日
三ツ森山は古くから知られた山だった。というのも、山頂の西側には高知県大川村小麦畦(こむぎうね)から愛媛県別子山村に抜ける重要な道があったからで、かつて道上には大川村で3ケ所しかなかった道番所もおかれ沢山の人や物資が行き来をしていたとの記録がある。また、別子街道とも呼ばれたこの道は別子銅山華やかし頃には銅山に燃料の木炭を運ぶ交易路としても重要な役割を果たしており、手元の古い地図を広げると県境の三ツ森峠からすぐ南側には「三ツ森」という「字(あざ)」も見てとれる。ここは中宿ともいわれたようで炭の売買が行われていたという。
三ツ森山は今でこそ奥まった静かな山だが、往時にはたくさんの人馬で賑わったというその道を辿り、三ツ森山の頂を目指そうというのが今回の私たちの山行きである。
そこで、数年前にこの山に登ったことのある伊藤君を道案内に秋の一日を楽しむことにしたのだが、実はうっかりしたことに私は最近届いた「とあるメイル」の事をすっかり忘失してしまっていて「思惑違い」の山行きとなってしまった。「とあるメイル」とは、最近三ツ森峠を旅した埼玉県の方からいただいたメイルで、内容は以下のとおりだった。
『平家平近くの三ツ森峠は、愛媛の別子山村側から峠を越えて林道が作られていて、小麦畝までもう少しです。以前はとても静かな山道だったのに残念です。(以下略)』
そうとは知らずに(正しくは、そうと知っていながら忘れてしまったまま)、私は三ツ森山に向かったのだった。
三ツ森山への登山口は大川村の小麦畦集落にある。
県道17号線(本川大杉線)で大川村井野川から「平家平、三ツ森山」への立派な標識に従い右折して、名瀑「銚子滝(*)」を右手に林道を行くと志遊美谷(しゆみだに)を渡って右手に登山口が見つかる。(次の谷「小麦畝谷」を渡ってしまうと行き過ぎなので注意!、小麦畝谷の手前はかつての平家平への登山口として知られている)
なお、車は路肩に駐車することになるが、道路脇の作業小屋や平家平登山口付近などに若干台数駐車可能である。
(*)銚子滝は、三ツ森山登山口より東に約2Km手前、大川村大平地区を流れる吉野川の支流「大平川」にあり、名勝地として大川村指定文化財に登録されている。この滝はその滝口が「お銚子」の口に似ているため「銚子滝」と名付けられたという。
車道脇にある三ツ森山登山口、右下に木製の道標がある。この登山口を見過ごしても、70mほど先に小屋(左手=路肩側)があり、そこから登れば良い。
こちらは道路脇に小屋のある登山口。すぐ上の植林で2つの登山道は合流する。
登山口から良く整備された道が続く。植林を抜けると道の脇には茶の木が並んでいる。足元には大粒のクリのイガが落ちている。何となく人の臭いがするのはこの辺りに有った幾つかの民家の残り香であろう、山手へと脇道に逸れると今は廃屋となった藁葺き屋根がある(*)。登山道を進んでゆくと登山口から10分あまり、竹林の中でそんな廃屋のひとつに出くわす。傾いた屋根にはササが降り積もり、こうして人の手になったものも自然に帰ってゆくのであろう。
今は植林と竹林に侵食された屋敷跡を過ぎ、登山口からおよそ20分で竹林を抜けて雑木林に踏み込む。
(*)藁葺き屋根の民家は帰路に確認、往路は少々分かりづらい。付近には地図記号のお堂のほかに、竃土神社や大地主神社などもある。
登山道を行く。ここはまだ小麦畝の集落界隈である。
登山道に青いドングリを見ながら更に5分で道はヒノキの植林帯に入り、再び雑木林へと変わる。
この辺りから足元には小粒の芝栗(シバグリ/山栗)が目立ち始める。足元の栗の実が気になってしようがないが、クリ拾いは帰途にして先を急ぐ。
植林の中で咲くツルニンジンの花は、秋の実時同様によく目立つ。
登山口から約30分標高差200mを稼いで広い横道に出る。
簡単な小休止の後はこの快適な道を迷う恐れもなくなだらかに上方へと向かう。
木漏れ日の中、大きなアセビやヤマザクラなどの樹間からは青い空がのぞいている。
かつて別子街道と呼ばれた広い登山道をなだらかにゆく。
途中、右下に降りる作業道は無視し、真っ直ぐに進んでゆくと林の中で小さな流れと出会う。ここは登山道で出会う最初の水場だが、万一ここが涸れていても心配はいらない、この先で豊富な水場が待ってくれている。
さて、水場を過ぎると3分ほど(登山口からは50分あまり)で登山道は林道の終点広場に飛び出す。
この林道が先のメイルで触れていた「別子山村側から三ツ森峠を越えて延びてきた林道」である。ここからはかつての道に上書きされた住友林業の林道を延々峠まで歩くことになる。
予想に反しての林道歩きではあるが、おかげで鬱そうとしたヤブも無く、終点から5分あまりも歩いて行くとめざす三ツ森山をはじめ大座礼山など気持ちの良い展望が広がる。
最近つけられた住友林業の林道を行く。右奥には大座礼山(おおざれやま)が見えている。