白髪山〜カヤハゲ 2002年7月28日
三嶺を見に行こうか、ということで白髪山経由東熊山(カヤハゲ)に登ることにした。
三嶺に登ろうかと言わないところが相変わらず軟弱な私たちである。
物部村大栃から上韮生川を延々遡り、三嶺光石登山口を横目に林道西熊別府線(峰越林道)を登って行くと、峠の手前で目的の白髪山登山口が見えてくる。
ここまで標識も賑やかで迷うところもない。
林道脇の登山口にはひと目で分かる大きな看板があり、マイカーはそこから右手に下った広場に駐車する。
派手な看板がある白髪山登山口。
広い駐車場もシーズンには車が溢れるほどだが、今日は閑散としている。たぶん、真夏の日差しを遮るものが何も無いササ原は敬遠されたのであろう。三嶺登山口の賑わいとは雲泥の差がある。
もちろん三嶺には遠く及ばないにしても、ハイキング程度の山とはいえ白髪山にもそれなりの魅力があるのだが。などと半ば負け惜しみに近いようなことを呟きながら登山口から山道に入った。
登山道の両脇にびっしりとササの壁を見ながら、丸太で設えられた土止めの階段を登ってゆく。
確か10年も前にはこんな階段はなかったのだが、と愚痴りながら、階段に歩幅が合わなくて苦労する。
森林浴を楽しみながらヒノキやハウチワカエデなどを見上げていたらうっかりつまずきそうになって慌てた。
土止めの丸太階段を登る。
尾根に取り付くと道なりに左へ登ってゆく。
辺りには堂々としたモミが多い。
突然、目の前にヒカゲモドキが飛来した。ステンドグラスのように煌びやかなアサギマダラも飛んでいる。珍しいクロヒカゲやヒョウモンチョウやヒオドシチョウも飛んできた。
その都度、ファインダーを覗いたままでそろりそろりと足音を忍ばせ、近づいては幾度となくシャッターを切る。
登山道で見かけた蝶たち。左からクロヒカゲ、ウラギンヒョウモン、ヒオドシチョウ。
今日の目的地は遠くてもカヤハゲまでと決めているので、急ぐ山旅でもない。
これが三嶺までなら急ぎ足で過ぎなければならないが、蝶を追いかけたり可憐な花にしゃがみ込んだりと、今日は一日こんな調子なのである。
ウラジロモミの天然林や、大正末期に植林されたヒノキの人工林を登って行くと、登山口から30分あまりで林を出る。
左下には「白髪山の好展望台」である「みやびの丘」を見下ろしながら一面ササのスロープを登ってゆく。
林を抜けるとササ原を登る。
かつてこのササ原の登山道で、初めてブロッケン現象に出会った時のことが思い出される。
あの時は秋の夕暮れどきだった。
西に傾いた太陽が谷から立ちこめるガスに単独行の私の姿を投影して幻想的な虹色のリングをかけた。
少し離れて見知らぬ登山者も歩いていたが、どうしてか私にだけリングがかかった。
その時、離れて歩いていた数人の登山者から羨望のため息が洩れたのを、今もしっかり覚えている。白髪山が私にとって忘れられない山のひとつになったきっかけだった。
しかし、なぜかあれ以来ブロッケンには出会えない。どうやら最近の私はよほど「素行が悪い」のらしい。
さて、容赦なく降り注ぐ陽射しに押さえつけられるようにしながらササ原をよじ登ると、15分ほどの辛抱で稜線に出た。
ここには高知県中部森林管理署が設置した指導標が立っている。稜線の分岐は左へと、ひとまず白髪山の頂に向かう。
分岐からはすぐに広々とした白髪山山頂に着く。
白髪山山頂。中央に三等三角点の標石が見える。
白髪山の頂はミヤマクマザサなどに覆われてなだらかで女性的な山容である。
山頂には三等三角点の標石や山名板が立っているが、よく登られている山にしては山名板の少ないのが嬉しい。たまにハリネズミのような山頂標識に出会っていたたまれなくなることがあるが、ここはすっきりしていてかえって新鮮な感じを受ける。
北の岩場から天狗塚や牛の背を眺める。
白髪山山頂からの展望は良いが、ここは山頂の北にある岩場からの眺望が特に素晴らしい。
岩場のテラスに立つと、北に三嶺山塊の見事な展望が迫り、今日これから歩く予定のカヤハゲも見えている。
三嶺から西熊山への稜線がたおやかに天と地を分かち、剣山系の西の雄「天狗塚」へと流れている。
眼下には西熊渓谷の自然林を見下ろし、四季を通していつまでも見飽きない風景が広がっている。
白髪山山頂からの眺め。左奥に三嶺、その手前のこんもりとしたササ原が今日の最終目的地カヤハゲ。右手前は白髪分岐。