さて、白髪山だけで下山するなら山頂の南西にある白髪池に遊ぶのも楽しいだろうが、今日はカヤハゲまで足を伸ばす予定なので、山頂からは逆に北東へと尾根を辿る。
ダケカンバやリョウブ、ノリウツギやモミの林の中を、白髪分岐に向けて一筋の登山道が延びている。


尾根道を白髪分岐に向かう。

ブッシュもなければ急坂もない快適な道を10分あまりで、苔生した岩場にウラジロモミが映えるガレ場を経て、最初のコルに至る。
溝状のコルを越えて更に行くと白髪分岐までの山稜で最低の鞍部を過ぎて登り坂になり、登山道の右脇に小さな岩場が現れる。
岩場の片隅からは南東方向の眺望が良い。
ここが白髪分岐までのちょうど中間あたりなので、石立山などを眺めながらひと息つくと良い。山麓を渡って吹き上げてくる風は心地よく、市街地で夏の猛暑にうだる人々を思えば、ささやかだけどこういう優越感も山の楽しみのひとつなのである。

 
四国の高山によく似合うメタカラコウと訪花昆虫を受け入れるシコクフウロの花。

白髪分岐が近づくと、尾根道には夏の山を彩る花たちが可憐な姿を競い合っている。
すっと茎を伸ばして、なのにうつむき加減で可憐なメタカラコウ、目立たないけれど存在感のあるホソバシュロソウ。
春の新芽も夏の花着きも大胆なバイケイソウや、白花を咲かせ始めたヒヨドリバナ、無数の棘の恐ろしげなシコクアザミなど、夏の登山道はとても賑やかである。
そして、びっしりと茂るクマザサから恥ずかしげに顔を出したシコクフウロは、その小さな花をちゃんと見つけて訪花する虫たちも慌ただしく、高山の短い夏を刻んでいる。


ススキやササの踏み分け道を行くと、前方に白髪分岐の道標が見えてきた。

さて、ドウダンツツジなどの樹林帯を緩やかに登ると、やがてススキやササに覆われた白髪分岐に出る。
足もとにはシコクフウロが群生し、立派な道標も立っている。
白髪分岐はT字路になっていて、東に稜線を歩けば石立別れを経て剣山に至る。
帰路にはそちらに向かう道を辿って白髪別れの避難小屋手前から林道西熊別府線に下るが、ここはひとまず「三嶺へ」の指導標に従って北に向かう。

分岐から数歩で「境第72号」の標柱がある小ピークに立つと、今歩いてきた白髪山からの尾根道が一望になる。ここから西に振り返る白髪山は樹林帯が目立ち、登山口から見上げる一面のササ山とはひと味違った趣がある。


正面に見えるカヤハゲに向かい、深い鞍部へと下る。

ところで、ここから北に見えるカヤハゲに向かうには深い鞍部が待っている。
見下ろして少し躊躇したが、思えばまだお昼にもほど遠く、歩き足らないことこの上ない。
目の前に咲くノリウツギの白い花を眺めながら、急斜面を滑るように下り始めた。
と、とたんにツツジの灌木林を覆うササの踏み分け道で夏の野草たちが次々と目に飛び込んできた。

  
カヤハゲへの縦走路に咲く、ナンゴククガイソウとイブキトラノオ。

夏の夜空に咲く大輪の花火、シシウド。虎の尾のように穂をかかげたナンゴククガイソウの群生。風に揺れるイブキトラノオや、ツリガネニンジン。そして引っ込み思案なハガクレツリフネソウ。
ここでもまたしゃがみ込んでは、花たちとレンズで語る、長い時間を過ごしてしまった。

 
クマザサに隠れて咲くハガクレツリフネやツリガネニンジン。

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