白皇山  2003年11月

ヤッコソウという変わった寄生植物がある。
シイの木に寄生する植物で、その姿が「奴さん」に似ているところから牧野富太郎博士が「奴草」と命名した、日本特産の植物である。
そのヤッコソウが咲く11月にシイの木の保護林がある白皇山の「佐田山シイ天然保護林」に出かけた。

道路事情の改善で近頃高知県西部が随分近くなったとはいえ、早朝に南国市を出ても、足摺スカイラインにある白皇山の登山口に着いたのは午後をだいぶん回ってからだった。
スカイラインの駐車場に車を止めると、カメラを携えて登山口に向かう。
今日は幸い天気が良さそうなのでひと安心する。以前の夏、この山に来たときは雷雨に見舞われ、途中下山した苦い思い出があるだけに、今日こそは頂が踏めそうでわくわくしてくる。


鳥居や案内板が立つ白皇山への登山口。

白皇山の登山口は足摺スカイラインの道沿いにあり、入り口には各種案内板や石鎚神社の大きくて立派な鳥居が立っている。
白皇山石鎚神社創立100周年記念に建立されたその立派な鳥居をくぐって林の中に入るとなだらかにトラバースする。や、たちまち登山道の左手にロープが張られたヤッコソウの自生地が現れる。見頃を少し過ぎたようだが、それでもかわいい奴さんがあちらこちらで落ち葉の腐葉土から顔を覗かせている。ちょっと黒ずんだものも多いけれど、たった今とんがり帽子を脱いだばかりのものや、蜜を一杯ためたものもある。さっそくカメラを構えてシャッターを何度も押す。あまりの愛嬌ある姿にしばらく粘っていたが、帰りにもまた出会えるとようやく気づくと、やっと腰を上げて歩き始めた。

 
スダジイに寄生するヤッコソウの自生地(左)と顔を覗かせたヤッコソウ(右)。

山中に炭窯跡を見ながら照葉樹の林をなだらかに行く。
さすが南西部の林だけあって大きなタブの木などが目立つ。よくみると晩秋だけに、ドングリの木にクリタケも生えている。
山界標石を過ぎると道の脇に並べられた人工的な石組みに沿って先に向かう。登山道に並べられたこの石たちは、石鎚神社のものか、あるいはかつて山中にあった白皇寺への参道を示すものであろう。


照葉樹の林をなだらかに行く。

まもなく小さな溝(湿地)を横切ると左手にヒノキやスギの植林を、右手にシイやカシの照葉樹林を見ながらよく踏まれた道を辿る。
再び山界標石を通過し、順路と書かれた指導標から緩やかに登り始めると、ここにもヤッコソウの群落が現れた。
ここでもやはり数枚の写真を撮ってから先に向かう。


遊歩道の脇にもヤッコソウの自生地がある。

イスノキやカゴノキなどの樹名板を見ながら緩やかに登ると、すぐになだらかになり、登山道は石垣の上を通る。竹林に覆われて少し薄暗い山中にに白いサザンカの花がそっと咲いている。登山道はまもなく横道に出会うとT字路である。ここで三叉路を左に折れると山頂だが、ひとまず右にとって、もう一ケ所だけヤッコソウの群生地へ寄り道することにした。
足もとに冬イチゴの赤く熟れた実を見下ろしながら、植林と竹林の境にある石垣の道を南に歩けば、辺りはシイ林になりヤッコソウの群生地に至る。この辺りがスダジイの純林ともいえる保護林(佐田山林木遺伝資源保存林)で、アラカシなどとともに暖温帯を象徴する照葉樹林が清々しい所である。そこで足もとのヤッコソウをほったらかしてそんな林を眺めていたら、突然、彼女が「甘い!」とつぶやいた。「ヤッコソウの蜜は甘いよ」というので、試しに舐めてみたらほんとうに甘かった。なるほど、この蜜を吸いに蜂や小鳥が訪れるというはずである。

それにしても眺めれば眺めるほど変わった植物である。ヤッコソウは完全寄生の植物なので花と種子以外は必要が無く、世界一巨大な花「ラフレシア」と同じ仲間なのだという。方やちっちゃなヤッコソウだが精一杯アピールするような姿は何とも愛らしい。
ところで、奇妙な形の寄生植物といえば、この時期この山には「ツチトリモチ」もたくさん出現する。ツチトリモチはハイノキ属の仲間(*1)に寄生する植物で、真っ赤な坊主頭は落ち葉の中によく目立つ。ちょっと見るとヤマモモが落ちているようだが、よく見るとグロテスクでもある。卑猥にも子供達は「赤チン○」と呼ぶらしいが、今ここでそんな別称を漏らそうものなら彼女の大ひんしゅくを買うのは間違いない。

(*1)クロバイ、シロバイ、ミミズバイなどの樹木

 
左は甘い蜜を溜めたヤッコソウ。そばには脱ぎ捨てたばかりのトンガリ帽子がある。右は土中から顔を出したツチトリモチ。