ところどころミヤマシキビの群落を見ながら、尾根を西に向かって快適に進んでゆくと、一旦小さなコブを越える。
辺りにはアセビ、ヒメシャラ、モミ、マツなどが心地よい尾根道は、やがて左手が植林、右手は雑木林になり、落葉した木々の間からは寒々とした北方の山なみが見え隠れしている。
鷹羽ケ森は「高場ガ森」とも記され、かつては藩のお留め山だったといわれる。一帯にはモミやトガ、ヒノキといった針広混生林が広がっていたようだが、寛政7年(1795年)頃の文献によると、勝賀瀬の村人が払い下げられたそれらの木々を伐採して生計に充てたとあり、今は2次林や植林が主だが、この尾根を歩いていると多少はその頃の自然も残っていそうに思える。

さて、そうして尾根の道標からおよそ15分、前方が開けてくると足元に石製の小さな祠を認めて鷹羽ケ森の山頂に着く。


鷹羽ケ森山頂。中央奥に石鎚山系のやまなみが覗く。

鷹羽ケ森の山頂はそれほど広くはないが1パーティーがくつろぐには充分である。
山頂のほぼ中央に2等三角点の標石があり、鷹羽ケ森神社の小さな祠の傍には朽ちた雨量測候施設の残骸がある。


鷹羽ケ森神社の祠。

山頂からは南の一角と北方向に開けており、特に北の展望は素晴らしい。
目の前の小式ケ台を越して北に筒上山、手箱山から平家平までお馴染みの連山が広がり、稲叢山の特徴ある岩塊や、その手前には陣ケ森のなだらかな尾根筋も見えている。
11月も下旬になると北の山はもう雪化粧をしており、筒上山や手箱山は白く光っている。
想像したとおり北から吹いてくる風も冷たく、食事の前に用意した防寒着を羽織った。


山頂から北方向の展望。僅かに残った紅葉の向こうにやまなみが広がる。中央奥の筒上山、手箱山はうっすらと冠雪している。

今朝方、高い山に雪を呼んだ積雲が低く漂う空のもとで昼食にとりかかる。
先に山頂に着いていた女性たちはもうすでに傍らで食事を摂っていた。
ようやく沸いたお湯で入れた熱いみそ汁やコーヒーが、この上なく嬉しい季節になったものである。

ところで、食後にのんびりしていたら5人組のパーティが登ってこられた。
ザックには「山と野原の会」のワッペンが着いていた。産屋谷に向かう途中に聞いた声の主はこの方たちだったのである。


冠山、平家平の稜線

さて、賑やかな山頂を後にして、私は帰途には尾根伝いのルートを下ることにした。
山と野原の会の方々にそのルートの大まかな案内を受けてから、「お先に」と頭を下げた。

尾根伝いの道へは、山頂から10mほど往路を引き返し、右手(南側)に急下降する。
こんな所を下るのかと思うような急斜面を直下降する。
とても道とは呼べないような斜面だが地籍測量のおかげだろう刈り払われているのでヤブは無い。

急下降後はなだらかになり、右手に植林、左手に照葉樹林の中、尾根を下って行くと、国土調査用の赤杭やテープがある。


尾根伝いの登山道を下る。

山頂から10分ほど下り、標高780mあたりから道はアップダウンして、国土調査用に刈り払われた一帯に出る。
ここで右下に確かな踏み跡の山道を認める。
間もなく鞍部にある分岐に立つ。ここには何かの目印であろうか焼酎の空き瓶が木にぶら下げられている。
往路に産屋谷へ向かう途中で尾根に向かうあやしげな踏み跡を見つけたのは、この分岐に出る道だったのかもしれない。
ともかく、ここは地図の点線通りに真っ直ぐに標高760mほどのピークへと向かう。

山頂から20分ほどで、小さなピークに立つ。これは地図に表記のある「775.9mの三角点」から北東に位置するコブである。
ここからは地図の点線を逸れて、尾根なりになだらかに進み、大きな数本のマツが立つ辺りから次第に登ると3分ほどで三角点に辿り着く。
(1/25000の地形図にある歩道の点線は不明瞭なためここでは明確な尾根道を辿っています、ご注意ください!)

775.9mの四等三角点一帯は刈り払われており、ここからは仁淀川の下流方向(南東)に展望が少し開けている。
振り返ると後方には鷹羽ケ森山頂がわずかに覗いている。


775.9mのピーク。真新しい三角点の標石がある。

さて、三角点からは東に向けて尾根を下る。
道はアセビやヒメシャラの目立つ林を急下降している。
左手には林の向こうに先ほどまで居た鷹羽ケ森の山頂が見えている。

三角点から10分ほど下って、標高約660mの地点で右手に立ち枯れた数本のマツが見えてくるが、このマツのそばにある岩の上に向かって踏み跡に沿い尾根道を外れると、南東方向の展望を望むことができる。
眼下に大きく蛇行する仁淀川が、右手には錦山が、その向こうに清滝山から石土の森の尾根筋が、そして太平洋が広がっている。


尾根伝いの登山道から南方向の展望。蛇行する仁淀川の向こうに太平洋の水平線がかすんでいる

再び尾根道に戻って下って行くと、岩場の上で道が途切れたかのように思われるが、ここは岩の右側を巻いて下る。
この辺りに点在する岩場はなかなかの雰囲気があり、岩場に根を張るマツなども変わった姿をしていて面白い。


岩場が点在する尾根道。

やがて立派な道に出て、軽い登り返しからなだらかに行くと薄暗い植林へと入って行き、ゴツゴツした岩場から正面に見覚えのある巨岩が見えてくると、左下に往路で出会った道標が見えてくる。
この「尾根道との分岐」からは、行きに辿った登山道を下り、5分もあれば「弘瀬コースと北谷コースとの合流点」に出る。
ここまで鷹羽ケ森山頂から1時間ほどだが、途中で道草を食うのが得意な私はいつの間にか山頂で後発だった女性たちに追いつかれてしまっていた。
ここから後は往路を引き返す方が時間的にも無難なのだが、敢えて私は弘瀬地区の登山口に下りることにして尾根の分岐は東へ真っ直ぐに弘瀬登山口をめざした。
そして、今日は登山口から一緒だった女性たちも私同様に弘瀬登山口をめざすという。

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