復活の世界 Faile(18)[星になった宇宙皇子」

今回は15年にわたる長編小説が完結した、時のお話をしたいと思います。

とにかく15年も連続して出版されつづけていたのですから、驚異的なことでしたが、流石にその間に、時代が激変して、政治、経済、文化もびっくりするほど変っていきました。人の感性も、価値観も変ってしまいましたし、ライフスタイルも大幅に変っていきました。さまざまなことが変化していく時代ですから、小説を出版する環境もすっかり変わっていってしまいました。

映像の世界が大変疲弊して、放送界が萎んだ時期に、私は小説の世界へ転進を図ったのですが、それまで夢の世界のように思っていた活字の世界へも、時代の激変が押し寄せてきていたことを知りました。しかしそれでも、転進して数年間はよかったと思いました。

「ああ、小説の世界へ来てよかった」と思いました。

しかし時代の激変は、その夢の天地にまで勢いづいて押し寄せ始めていたのでした。超ベストセラーとなった歴史小説「宇宙皇子」(うつのみこ)は、飛鳥時代から始まって、藤原京、長岡京、平安京と都が変っていくのを追いながら、物語の舞台も、畿内から東北へと進んでいきましたが、主人公である宇宙皇子と、その片腕である各務(かがみ)と更に四人の仲間は、ついに東北に勢力を張っている蝦夷を支援するために、活動の拠点を十和田湖付近に移していったのです 。

彼らは虐げられている蝦夷と力を合わせて、坂上田村麻呂の率いる朝廷軍と大決戦を行いますが、力及ばず十和田湖の大噴火と共に各務と共に天上へ去って行くのです。

大河小説が完結に近い時代になると、時代の空気も変り、読者の気分も変っていきましたが、本当に長い間、多くの読者に支えられていました。作家のファンクラブに会員が一万人弱も集まるという、異常な興奮ぶりはちょっと想像しにくいことかもしれませんね。

15年、50巻・・・最後の2巻は合本なので実数は48巻でしたが、とにかく膨大な作品が完結しました。恐らくこれから後、もうあのような大河小説は現れないでしょうし、出版社も出そうとはしないでしょう。まさに空前絶後の小説だったのでした。

とにかく初出から完結まで、原稿の執筆とサイン会などのイベント、ツアーなどというスケジュールに追われて、ほとんど寝る時間もありませんでした。食事の時間も惜しいと思ったほどで、お腹を満たすと早々に書斎へ引っ込んでしまいましたし、時には書斎へ握り飯を運んで貰って書いていました。まさに夢のような生活を味わっていたといっていいでしょう。

そんな状態でしたから、すべて書き終わった時は、しばらく拍子抜けをしたように、ぼやっとしてしまいました。  そんな最中に、娘から贈り物がありました。

それが今回の話である、「宇宙皇子という名が、星の名として登録された」という知らせだったのです。上の図は宇宙図ですが、この一角に「宇宙皇子」という星が存在しているというのです。

アメリカにある事務局へ申請して、「utunomiko」という星が決まり、登録されたというのでした。

嬉しい贈り物でした。

長いこと若い読者と共に生きつづけてきた宇宙皇子は、わたしの思い通りに天上で星となって輝き始めたのだと思いました。二枚の写真はその証明書と、登録書です。

おそらくこんな小説は、そう沢山あるはずはないはずです。

小説の主人公と共に熱くなってくれた多くの読者たちを 、今は宇宙のかなたから見守ってくれていることでしょう。

それを思うと、作者としては、何か満たされたような気持ちになってきます。

もう小説が完結してから10年以上もたったので、こんなお知らせをしたことを知っていらっしゃる方も少ないことでしょう。宇宙皇子は時代を駆け抜けて、あっと言う間に、天上へ去っていってしまったのでした。

小説と共に育った読者たちも、もう下は二十代後半から、上は五十代半ばにはなっていらっしゃると思いますが、最近になって中学生から、「宇宙皇子を図書館で読んでから、全巻読みたくなったのですが本がないので、何とかして下さい」という手紙を頂きました。しかし現在の出版界の環境では困難が多くて、とても実現は無理なようですね。しかしいつかきっと、そんな読者の思いが叶えられる機会が訪れるかもしれないという希望を持っていたいと思います。

そんな時を夢見ながら、夜は空を見上げては、きらきらときらめく星座を見つめている昨今です。あなたも是非、夜空を見上げて(宇宙皇子)に、あの日の思いを呼びかけてみませんか☆



この原稿は、旧HPへ載せたものに加筆、訂正したものです

星座登録の写真
天体図の写真