観る世界 Faile 2 「バージョンアップの功罪」

長いことテレビの脚本を書いてきたので、わたしはさまざまな体験をしてきましたが、そんな中でも、わたしはわりに長寿番組を書いてきました。しかしほとんどの場合、スタート時点の企画のまま最後まで完結できたことは少なかったと思います。もちろん視聴率が上がらなくて、打ち切りなどという悲劇的な目にあったことはあまりありません。それでも、ある期間過ぎていくと、大体、スポンサーとか放送局から、番組の人気を維持するために、ちょっと趣向を変えて、所謂バージョンアップをしますという申し入れがあります。つまりマンネリになることを避けて、番組を延命させるための処置なのです。それともう一つは、スポンサーがある商品の販売期間が過ぎた場合などは、次の商戦にはまた次の新製品を送り出さなくてはなりませんから、そのためにも人気番組を、更に派手に作り変えていこうということになるわけなのです。それは番組に人気があるということの証拠なのですが、もし視聴者の反応が芳しくないとしたら、延命どころか、さっさと打ち切りの運命に晒されてしまいます。

だからといって、局からそういった申し入れが行われた時に、制作会社も、原作者も、脚本化たちも、まったく拒否することはできません。

しかしこのバージョンアップというものが曲者なのです。あまり喜んでばかりはいられません。とにかく前作よりも魅力的に変えていかなくてはならないのですから、プロデューサー、脚本家は、大変な責任を負わされることになってしまいます。

新人作家などは、番組が延長になるということは、生活がかかっているので、ほっとするかもしれませんが、チーフライターやベテランライターは、とてもそうも言っていられません。バージョンアップした番組が、宣伝どおり魅力的になって、パワーアップして、更に人気を上積みできた場合は、大変少ないからなのです。経験上それを知っているだけ気が重くなってしまいます。

わたしが現役の真っ只中にあった頃のことです。

プロデゥサーから、そろそろバージョンアップすることになりましたという知らせがあって、箇条書きになった改定案を渡された時、はじめは何とかその新しいバージョンで原稿を執筆してみるのですが、だんだん書きながら疑問を感じるようになった経験が何度かあります。

よく番組は生き物だということが言われますが、書けば書くほど、設定についても、キャラクターについても、どうもこれまでの形のほうが面白いのです。

ロボットなどのグッズに関しては、玩具メーカーの商戦ということもあって、いい、悪いなどといったことは言ってはいられませんでしたが、その他のわたしたちがかかわる部分についてお話すると、やはりすべてが無理に前のものと比べて、強力にしているので、より自然な形でドラマが進行しなくなっているのです。どうも乗りに乗って話を書くという気分にならなくなってしまったのです。行動を起こすのに、いちいち理屈が必要になってしまったわけです。そんな状態で、視聴者が満足するわけはありません。大抵の場合は、それから次第に番組に対する熱気は薄れていって、番組事態のパワーはしぼんでいってしまって、終了という結末になってしまうわけです。

実は何年か前に、ある人気番組の、バージョンアップされたものについての取材を、受けたことがありました。ムック本を出すためのものでしたので、原作者の漫画家、永井豪さんと、メインライターのわたしが中心に取材されたわけでしたが、その時、前作との比較について質問を受けましたが、記者も結局前述の問題について問いかけてきたものです。

わたしはかなりはっきりと、当時感じたことについて話したのですが、編集者からは、「実は原作者の永井さんも、同じようなことを言っていました」という話を聞きました。

スポンサーの要望を受けた放送局から、バージョンアップしてくれという指示があった原作者と、プロデゥサーから指示を受けた脚本家は、ものづくりをする者として、バージョンアップされた番組について、同じ感想を持っていることを知りました。

やはり永井豪さんとわたしは、その番組が原点のもののほうが面白かったということで、一致したのでありました。

前のものは、素人の少年が、止むを得ない事情によってロボットに乗り込み、敵と戦うというものでしたから、その友達でちょっと無鉄砲な仲間が、はじめはかっこいい少年が悔しくて、少年の活動に邪魔をしたりするのですが、やがて少年の戦いの意味を知って、彼と連帯して協力していくようになり、その戦いの中で、友情を深めながら、市民の生活を守ろうとする正義感を発揮して行きましたが、バージョンアップされたものでは、ヒーローが戦うプロフェッショナルな人物に変わってしまったのと、その基地も近代的になってしまって、親しみ難いものになってしまいました。こうなると敵と戦っても、勝つのが当たり前ということになってしまって、アマチュアが試行錯誤しながら、必死で市民を守り、町を守るというこれまでの趣とは、かなり違ったものになってしまいます。やっぱり単なる町の若者が、苦労しながらロボットを操作しながら、敵と戦うほうが視聴者の気持ちも乗りやすかったし、ハラハラ、ドキドキもしたはずです。

前作を超えるパワーアップをするという掛け声は、大変威勢がよくて、聞こえはいいのですが、果たしてその中身はどうでしょうか。どうしても制作者側と視聴者との間は乖離してしまう場合が多くなってしまいます。わたしは今でも、バージョンアップの掛け声には、騙されないことを視聴者に訴えておきたいと持っています。

実作者の体験として、今回の話を前作との比較検討する手がかりにして頂けたらと思っているところです☆